生前に相続放棄ってできるの?相続放棄の可否や生前にやっておくべきことなど解説

公開日:2023年10月27日

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被相続人の財産が借金しかないことが明らかな場合など、被相続人の生前中に相続放棄を検討する人もいるでしょう。

結論からいうと、相続放棄は被相続人の生前ではできません。ただし、被相続人の生前中であってもできる対策はあるものです。

この記事では、相続放棄を生前中にできない理由や生前にできる対策について、分かりやすく解説します。

相続放棄は被相続人の生前にはできない

相続放棄とは、被相続人の財産を一切相続しないことを言います。相続財産が借金しかなく借金を背負いたくない場合などで、選択される方法です。

相続放棄は被相続人の死後に、相続人が手続きする方法です。とはいえ、被相続人が高齢で借金しかなく今後相続財産がプラスになる見込みもないといった場合、生前のうちから相続放棄を検討する人もいるでしょう。

相続人と被相続人の仲が悪く、被相続人から相続放棄させたいというケースも珍しくありません。しかし、被相続人の生前中は相続放棄をすることはできません。

相続放棄できる期限は、「相続開始があったことを知った日から3か月」です。その期間に家庭裁判所に申請して相続放棄をすることになります。

つまり、亡くなって初めて手続きを開始できるものであり、生前中に家庭裁判所に申請しても認められることはないのです。

仮に、相続放棄の旨を被相続人と約束したり、念書として残しておいたとしても法的な効力は認められません。このような場合であっても、相続放棄手続きが可能な期間に申請しなければ相続放棄とは認められないのです。

相続放棄について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

被相続人が生前に相続放棄をさせたい場合

ここでは、被相続人側から相続放棄を検討するケースについて解説します。

子供との関係性が悪いなどを理由に、親が生前中に特定の子供の相続放棄を検討するケースもあるでしょう。

生前中に相続放棄は出来ませんが、次のような方法を相続放棄の代わりとすることが可能です。

  • 推定相続人の廃除請求
  • 遺言書の作成

推定相続人の廃除請求

相続人の廃除請求とは、被相続人の意志で相続人の相続権を剥奪する方法です。被相続人が生前中に家庭裁判所に手続きすることで相続廃除が可能です。

相続廃除した場合、廃除された相続人は相続財産を相続できません。また、相続廃除は遺留分も発生しないため一切相続できなくなるのです。

ただし、相続廃除は被相続人の意志でできるとはいえ、すべてのケースで認められるわけではありません。

相続廃除が認められるケースは次の3つと法律によって定められています。

  • 推定相続人が、被相続人に対して虐待をしたとき
  • 推定相続人が、被相続人に重大な侮辱を加えたとき
  • 推定相続人にその他の著しい非行があったとき

被相続人から日常的に暴力や侮辱を受けているなど、身体的・精神的な苦痛を受けている場合に認められます。しかし、認められるには頻度や程度も考慮されるため、該当するケースでも認められない可能性も高い点には注意しましょう。

ちなみに、相続権を廃除する方法には「相続欠格」もあります。相続欠格とは、被相続人の殺害や脅迫により遺言を書かせるなど、相続で自分が有利になるように不正や犯罪を犯した場合に自動的に相続権を失うことです。

相続廃除が手続きが必要なのに対し、相続欠落は自動的に相続権が剥奪されるという違いがあります。

相続廃除について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

遺言書の作成

被相続人の意志を反映するのに遺言書は有効です。

特定の人に相続させ、特定の人には相続させない旨を遺言書に残すことで、相続させたくない人に相続させないことができます。ただし、遺言書による相続では遺留分が優先されます。

配偶者・親・子どもに相続させたくない場合でも、それぞれ遺留分があり遺留分の範囲内の相続が可能です。相続させたくない人が遺留分を持っている場合は、1円も相続させないということができない点には注意しましょう。

また、遺言書は内容に不備があるなどでは、相続人から無効を主張される可能性もあります。遺言書を作成する場合は、遺留分を考慮し内容に不備が無いよう作成することが大切です。

遺言書の書き方について、詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。

相続人が生前に相続放棄をしたい場合

ここからは、相続人側から相続放棄を希望するケースを解説します。

親が借金しかない、親と関係性が悪く相続したくないといったケースで被相続人が生前中でも相続人から相続放棄を検討することもあるでしょう。被相続人の生前中に、相続人ができる相続放棄に変わる方法としては、「遺留分の放棄」があります。

遺留分の放棄

遺留分とは、相続人の生活を守るために一定の財産を受け取る権利のことを言います。

兄弟姉妹以外の法定相続人には遺留分が認められており、遺留分を侵害する相続があった場合侵害された分を請求することが可能です。

相続放棄は生前にできませんが、遺留分の放棄は生前中でも手続きできます。遺留分を放棄することで、相続に一切関わらないという意思表示になるでしょう。

また、相続財産が一定割合を下回っても良いと承認したことにもなるので、他の相続人との関係が悪いなどで相続トラブルを避けるために選択するケースもあります。

遺留分の放棄について、詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。

遺留分放棄をしても後から相続放棄が必要な場合が多い

遺留分の放棄は、あくまで遺留分のみを放棄することで相続放棄とは異なります。

遺留分を放棄しても相続人としての権利があるため、遺言書が無ければ相続することになるのです。被相続人の相続財産が借金のみという場合でも、改めて相続放棄の手続きをしなければ借金を背負う必要がある点には注意しましょう。

被相続人が生前のうちにできること

相続放棄のイメージ

相続対策せずに相続が発生すると、相続人に迷惑が掛かってしまうケースも珍しくありません。

ここでは、相続人に迷惑をかけないために被相続人が生前中にできる対策について、次の3つを解説します。

  • 債務整理
  • 生命保険に加入
  • 生前贈与

債務整理

債務整理とは、債権者と交渉するなどして借金の返済計画を立て直し返済の負担を減らす方法です。

債務整理には次の3つの種類があります。

  • 任意整理
  • 個人再生
  • 自己破産

任意整理

任意整理とは、裁判所を通さずに債権者と交渉して借金の返済計画を立て直す方法です。

具体的には、話し合いで利息をカットし、元本のみを3~5年で返済することになります。裁判所を通さないため、比較的柔軟な対応がとりやすく、利息が無くなることで返済の負担も大きく軽減できる方法です。ただし、業者と直接交渉が必要になる方法なので、基本的には弁護士に相談して手続きしてもらうことをおすすめします。

また、軽減できるのは基本的に利息のみで、元本の返済は必要です。元本の返済だけになっても返済が厳しいという場合は、別の方法を検討する必要があるでしょう。

個人再生

個人再生とは、裁判所に認めてもらい借金を大幅に減らす方法です。

借金の額によりますが、5分の1から10分の1まで減らすことができ、返済の負担を大きく軽減できるというメリットがあります。ただし、個人再生は利用できる条件が厳しく手続きが複雑です。

申請しても認められないケースも多い点には、注意しましょう。

自己破産

自己破産とは、裁判所に借金の返済が不可能なことを認めてもらい借金を免除してもらう方法です。自己破産することで、それ以後借金を返済する必要はありません。ただし、自己破産では家などの財産が没収される点には注意が必要です。

家や車といった財産を残したいという場合は、自己破産以外を選択する必要があります。

生命保険に加入

生命保険に加入し、受取人を相続人にしておくことで保険金を残すことが可能です。

死亡保険金は、受取人の固有の財産と見なされるため相続放棄しても受け取ることができます。ただし、受取人を被相続人にしていると、相続財産に含まれてしまうため相続放棄をすると相続できなくなるので注意しましょう。

また、相続放棄した人が死亡保険金を受け取る場合、受取人に相続税が課税される点にも注意が必要です。

生前贈与

借金とプラスの財産がある場合、生前贈与を選択するのも有効です。プラスの財産を生前贈与しておくことで、相続人が相続放棄しても生前贈与した財産が没収されることはありません。

ただし、生前贈与は仕方によっては贈与税の対象となります。また、被相続人の死亡直前3年以内の生前贈与は相続税の対象となる点にも注意しましょう。

生前贈与について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

相続放棄をする流れ

ここでは、相続放棄をする流れについて解説します。

相続放棄は、「相続が発生したことを知った日から3か月以内」に家庭裁判所で手続きする必要があります。期間が短いので、期限を超えないように早めに手続きを進めていくことが大切です。

相続放棄をする場合は、「自分で手続きする」「専門家に依頼する」のどちらかから選ぶことになります。

自分で手続きする場合の大まかな手続きの流れは、次の通りです。

  1. 必要書類の準備
  2. 申請する家庭裁判所を調べる
  3. 申述書の作成
  4. 家庭裁判所への申し立て
  5. 家庭裁判所から照会状が届く
  6. 照会状への回答・返送
  7. 相続放棄申述受理通知書が届く

必要書類を集めて申述書を作成して申し立てることで相続放棄の手続きができます。ただし、申し立ててお終いではなく家庭裁判所からの照会状へ返信することで手続きが完了する点には注意しましょう。

相続放棄が認められれば、家庭裁判所から相続放棄受理通知書が届きます。受理通知書は債権者への相続放棄の証明などに必要になってくるので、大切に保管しておくようにしましょう。

相続放棄の手続きは、必要書類の収集だけでも時間や手間がかかります。照会状への回答も、自分の判断で回答しなければならない点も不安があるものです。

準備や手続きに時間がかかってしまうと、3か月という期限を超えてしまう恐れもあるでしょう。

専門家に依頼すれば、書類の収集から代行してもらえるため、スムーズな相続放棄が可能です。相続放棄を検討している場合は、無料相談などを活用して専門家にアドバイスをもらったうえで自分で手続きするかを検討するとよいでしょう。

相続放棄の手続きについて、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

生前に相続対策したいなら早めの対策が重要

相続放棄は生前に手続きできません。

生前中の相続放棄を検討している場合は、「相続廃除」や「遺言」「遺留分の放棄」が放棄以外の選択肢となります。また、借金が多いなど相続時に相続人に迷惑をかける懸念があるなら、事前に債務整理などの対策をとっておくことも大切です。

生前中の対策や相続放棄について検討しているなら、一度専門家に相談してみることをおすすめします。

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本記事の内容は、記事執筆日(2023年10月27日)時点の法令・制度等をもとに作成しております。最新の法令等につきましては、専門家へご確認をお願いいたします。万が一記事により損害が発生することがあっても、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。

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