知らなかった借金の相続放棄は可能?あとから発覚したときでも受理される条件

公開日:2024年4月16日

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相続放棄の期限は原則、自身に相続が発生したと知ってから3か月以内ですが、期限を過ぎてから知らなかった借金が発覚したら、相続放棄したいと思うでしょう。結論、一定の要件を満たす場合に限り期限を超えても相続放棄を認められる可能性があります。本記事では、知らなかった借金を相続放棄できる条件や期限の考え方について詳しく解説します。

存在を知らなかった借金の相続放棄はできる?

存在を知らなかった借金は、一定の条件を満たせば相続放棄できます。

そもそも、相続放棄とは被相続人が遺したすべての遺産を相続する権利を失効させることです。つまり、借金やローンなどのマイナスの財産だけでなく、不動産や預貯金などのプラスの財産も相続できなくなります

本来、相続放棄は自身に相続が発生した事実を知ってから3か月以内に手続きしなければなりません。この期間を相続放棄の熟慮期間と呼びます。熟慮期間中であれば、ほとんどのケースで問題なく相続放棄の手続きが可能です。

しかし、3か月経ってから借金の請求書や取り立てがあり、借金を相続してしまったと知るケースも現実にあります。相続放棄の期限を知っている悪質な貸金業者だと、わざと被相続人が死亡してから3か月経つのを待って取り立てを開始するケースもあるようです。

このような特別な事情があるときに限って、相続放棄の期限が「借金がある事実を知ったときから3か月以内」と認められる可能性があります。

次の章で、どのような条件を満たしていれば知らなかった借金を相続放棄できるのかを解説します。

「相続放棄の期間」「相続放棄」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

借金の存在を知らなかった場合、相続放棄が受理される条件

借金の存在を知らないまま一般的な相続放棄の期間が過ぎてしまった場合でも、以下の3つの条件を満たしていれば相続放棄が受理される可能性があります。

  • 遺産がまったく存在しないと信じていたことに相当な理由がある
  • 財産調査が著しく困難な事情があった
  • 借金がないことを信じたことに相当な理由がある

ただし、相続放棄が受理されるかどうかは個別に家庭裁判所が判断します。そのため、上記の条件に当てはまるからといって必ずしも相続放棄が認められるとは限らない点に注意してください。

それでは、3つの条件について詳しく確認しましょう。

遺産がまったく存在しないと信じていたことに相当な理由がある

被相続人の遺産がまったくないと相続人が信じていたことに相当な理由がある場合、やむを得ない特別な事情であると判断される場合があります。借金だけでなく、プラスの財産とマイナスの遺産の一切の遺産がないと信じていたときに限られます。

相続する遺産がないと思っている以上、相続も相続放棄もできません。相続開始を知った日から3か月以上経ってから借金が発覚したときに、初めて相続すべきか相続放棄をするかを検討することとなるでしょう。

遺産がまったく存在しないと信じていたことに相当な理由がある場合、以下の期間であれば相続放棄できる可能性があります。

  • 遺産があると知ったときから3か月以内
  • 遺産があると通常知るべきときから3か月以内

相当な理由があったかどうかは、以下のような事情を踏まえて家庭裁判所が判断します。

  • 持ち家の自宅がなかった
  • 預貯金がなかった
  • 借金の請求書や督促状の形跡がなかった

遺産の一部の存在を認識していた場合、この条件に当てはまりません。つまり、不動産や預貯金などの借金以外の遺産を認識していると、特別な事情はなかったとみなされる可能性があります。

財産調査が著しく困難な事情があった

財産調査が著しく困難な事情があって借金の存在がわからなかった場合にも、特別な事情があったとして相続放棄ができる可能性があります。

具体的には、以下のような事情から相続財産の調査が難しかったかどうかが判断されます。

  • 被相続人の生活歴
  • 被相続人と相続人の交流状況

たとえば、相続権の移動や代襲相続が発生したことで、面識のない親族の相続人となるケースは珍しくありません。このようなケースだと、相続財産の調査は困難だといえます。

相続財産の調査が期限までに終わらない場合、家庭裁判所に対して相続放棄の熟慮期間の伸長の手続きを行い、期限を伸ばすことを認めてもらいましょう。

ちなみに、相続人は、借金やローンなどのマイナスの財産について信用情報機関で照会することが可能です。

債権者照会先
銀行や信用金庫など全国銀行協会の全国銀行個人信用情報センター
クレジット会社・消費者金融など信用情報機関
貸金業・保証会社など日本信用情報機関

ただし、個人や信用情報機関に加盟していないところからの借金だと、開示請求をしても債務を見つけられません。被相続人の自宅を入念に調査し、契約書や請求書などの書類を探す必要があります。

「借金の相続」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

借金がないことを信じたことに相当な理由がある

被相続人に遺産があることを認識していたものの、「借金はない」と信じていたことにやむを得ない理由があるとき、以下の期間であれば相続放棄ができるとされています。

  • 遺産があると知ったときから3か月以内
  • 遺産があると通常知るべきときから3か月以内

相当な理由があるかどうかは、以下のような事情を踏まえて家庭裁判所が判断します。

  • 被相続人と生前に交流があったか
  • 被相続人が借金をするような生活をしていることを知っていたか
  • 被相続人の自宅に請求書や督促状が届いていなかったか

たとえば、生前にまったく連絡を取っていなかったり、手がかりとなる請求書や督促状が届いてなかったりすると、相続人は借金の存在を知る術がありません。借金の存在を知らないままだと、相続放棄をすべきかどうかの検討もしなくても当然だと考えられます。

過去には遺産の一部を認識して相続を承認していたときであっても、特別な事情があったと判断されて相続放棄が認められた事例もありました。「借金がないと信じていたとしてもやむを得ない」として、相続放棄を認めてもらえる可能性があります。

「相続放棄が認められない事例」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

被相続人の死後3か月を迎えてから相続放棄したいときの注意点

被相続人の死後3か月を迎えてから相続放棄したいときの注意点のイメージ

被相続人の死亡から3か月を迎えてから相続放棄する行為は、原則的に例外であることを忘れてはいけません。あらかじめ、以下の4つのポイントに注意しましょう。

  • 裁判所へ事情を説明する必要がある
  • 「借金がないと信じた」だけでは特別な事情として認められない
  • 法定単純承認していると相続放棄ができない
  • 手続きをしないまま期限を迎えると相続放棄できない場合がある

順番に解説します。

裁判所へ事情を説明する必要がある

そもそも近親者であれば被相続人が亡くなった時点で自身に相続が発生した事実を知れるため、原則、被相続人が亡くなってから3か月後が相続放棄の期限です。そのため、死亡から3か月が過ぎている時点で、相続放棄が認められにくい状況であることは否定できません。

そのため、裁判所に対して「なぜ相続放棄の手続きが遅れたのか」を詳しく説明し、納得してもらう必要があります。

わかりやすく説明するためには、通常の相続放棄の手続き時には必要のない事情説明書を申述書と一緒に提出しましょう。申述書とは別に、「相続放棄の実情」「相続放棄の理由」などのタイトルをつけ、相続放棄に至った理由や3か月以内に手続きできなかった経緯を詳しく記載します。

相続放棄の手続きは1度に限られており、認められなかった場合における提出のしなおしはできません。借金という理由があったとしても、死後から3か月以上経過したあとの相続放棄は例外的な手続きのため、認めてもらうハードルは高いと理解しておきましょう。

「借金がないと信じた」だけでは特別な事情として認められない

借金がないと信じていたというだけでは、相続放棄が認められる可能性は低いと考えておきましょう。借金や相続財産がないと信じていたことに対する納得できる理由がなければなりません。

借金を抱えるような生活をしていると知らなかった関係性であった事実や、被相続人の自宅から請求書や督促状が一切見つからなかった経緯を説明する必要があります。

法定単純承認していたら相続放棄ができない

法定単純承認をしていると、相続放棄ができない場合があるため注意しましょう。

法定単純承認とは、相続財産の全部または一部を処分したときに、相続人が相続を承認したものとみなされる制度です。相続財産の全部または一部を処分するとは、以下のような行為を指します。

  • 銀行口座からお金を引き出して使った
  • 不動産を売却・贈与した
  • 相続財産のなかから被相続人の債務を返した

このような行為があった場合、原則相続放棄は認められません。ただし、法定単純承認とみなされたあとに借金が見つかった場合、例外として相続放棄できる可能性があります。

手続きをしないまま期限を迎えると相続放棄できない場合がある

相続放棄や限定承認の手続きをしないまま、相続放棄の期限を迎えると相続放棄できない場合があるため注意しましょう。なぜなら、何も手続きをしなかった場合は単純承認したとみなされるからです。つまり、相続放棄が認められなくなる可能性が高まります。

ただし、被相続人に遺産がまったくないと信じていた場合や、期限を迎えてから知らなかった債権者からの取り立てに遭う場合もあるでしょう。このような特別な事情があれば、相続放棄の手続きが認められる可能性があります。

知らなかった借金を相続放棄したい場合はまずは専門家に相談

自身に相続が発生したと知ってから3か月が経過したあとに、知らなかった借金が出てきたときは専門家に相談しましょう。原則的な期限が切れている場合、借金という理由があったとしても相続放棄ができない可能性が高まります。

しかし、法律に詳しい専門家であれば、相続放棄を認めてもらうための手続きのコツを知っています。過去の事例を用いて、家庭裁判所へどのように経緯を伝えるべきかアドバイスをしてくれるでしょう。

相続放棄に関して頼りになる専門家は、主に弁護士や司法書士です。弁護士と司法書士には、依頼できる業務の範囲に違いがあります。

弁護士であれば、申述書の作成や必要書類の収集はもちろん、照会書の返送まで一連の依頼が可能です。万が一、裁判に発展した場合にも代理人の依頼ができます。

一方、司法書士は申述書の作成や必要書類の収集までしかお願いできません。照会書の代理返送や代理人として裁判に出てもらうことは弁護士の独占業務だからです。

それぞれに相続放棄の手続きを依頼した場合、費用の目安は以下の通りです。

弁護士相談料:5000円/30分〜1時間
相続放棄手続き:5〜10万円
司法書士相談料:5000円/1時間
相続放棄手続き:3〜5万円

知らなかった借金が発覚した際は、弁護士や司法書士に相談してスピーディーな解決を目指しましょう。

「相続放棄の最適な相談先」や「相続に関する弁護士への相談」、「相続に関する司法書士への相談」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

知らなかった借金でも相続放棄できる可能性がある

被相続人が亡くなってから3か月が経ってから知らなかった借金が発覚した場合でも、相続放棄できる場合があります。ただし、本来の期限が過ぎているため、申述書と一緒に事情説明書を提出し、家庭裁判所に納得してもらわなければなりません。

このように、期限が過ぎてからの相続放棄の手続きは複雑です。自己判断で進めると相続放棄ができず、借金を返していく必要が出てくる場合もあります。

相続放棄を検討しているのであれば、積極的に弁護士や司法書士に相談することをおすすめします。相続放棄が難しいと考えられる場合でも、専門的な法律知識を使って相続放棄のできる可能性を高めてくれます。

あくまでも借金が発覚してから3か月以内には手続きを完了させなければならないため、借金が出てきたら早めに弁護士や司法書士に相談しましょう。

著者紹介

安持まい(ライター)

執筆から校正、編集を行うライター・ディレクター。IT関連企業での営業職を経て2018年にライターとして独立。以来、相続・法律・会計・キャリア・ビジネス・IT関連の記事を中心に1000記事以上を執筆。

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本記事の内容は、記事執筆日(2024年4月16日)時点の法令・制度等をもとに作成しております。最新の法令等につきましては、専門家へご確認をお願いいたします。万が一記事により損害が発生することがあっても、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。

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