相続廃除が認められる条件や具体例・注意点などご紹介

公開日:2023年8月29日

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親子間であってもトラブルで関係が悪化しているケースは珍しくなく、自分の財産を相続させたくないと考える人もいるでしょう。

そのような場合に取れる手段が「相続廃除」ですが認められるには条件があります。

この記事では、相続廃除の条件や注意点について分かりやすく解説するので、相続の参考にしてください。

相続廃除とは

相続廃除とは、被相続人の意志で相続人から相続権をはく奪することを言います。

「暴力を受けている」「高額な借金を背負わされた」などの理由で「この人には相続させたくない」という場合に有効な手段です。相続廃除することで、相続人は相続人としての権利を失うため「相続したい」となっても相続できません。

特定の相続人に相続させない方法としては、他の相続人に全財産を譲ると遺言する方法もあるでしょう。

例えば、子供AとBがいて子供Bには相続させたくないから子供Aに全財産を譲ると遺言したとします。この場合であっても、子供Bには「遺留分」と呼ばれる最低限の遺産を受け取る権利があるため、一定の相続が発生してしまうのです。

一方、相続廃除であれば遺留分が発生しません。そのため、子供Aのみにすべての遺産を相続させられるのです。

相続廃除は、生前に被相続人が家庭裁判所に申請する「生前廃除」と、遺言に残す「遺言廃除」があります。遺言廃除の場合は、死後に遺言執行人が家庭裁判所に申し立てることになります。

ただし、相続廃除は誰でも・どんな理由でも廃除できるわけではありません。好きや嫌いと言った感情的な理由では相続廃除は認められません。

廃除の対象となる人や認められる理由には条件があり、家庭裁判所に認めてもらうことでようやく廃除できるのです。

相続廃除の条件・認められるケース

相続廃除の条件・認められるケースのイメージ

相続廃除の条件や認められるケースについてみていきましょう。

法律での条件

相続廃除の条件は、民法892条によって次のように定められています。

  • 推定相続人が、被相続人に対して虐待をしたとき
  • 推定相続人が、被相続人に重大な侮辱を加えたとき
  • 推定相続人にその他の著しい非行があったとき

相続廃除は、被相続人から一方的に相続権を廃除してしまえる重要な手続きでもあるので、廃除する理由も相応なものが必要です。身体的・精神的な苦痛や名誉や感情を害する行為、また、虐待や侮辱に類するような非行の場合で認められます。

ただし、上記に該当する行為であっても必ずしも認められるわけではありません。

具体的に認められるケース

相続廃除が認められる具体的なケースとしては、次のような事例があります。

  • 精神的苦痛や暴力が加えられた
  • 多額の借金の肩代わりをさせられた
  • 日常的に暴言を吐くなど侮辱されていた
  • 財産を勝手に処分していた
  • 重大な犯罪を犯し音信不通になっている
  • (相続人が配偶者の場合)長年に渡り不貞行為を繰り返している

上記のような相続権や遺留分を剥奪されてもやむを得ない客観的に判断できる行為の場合は、相続廃除が認められる可能性があります。

ただし、程度や頻度・理由などについても考慮され、必ずしも認められるわけではありません。

例えば、「暴力で大怪我を負った」「脅迫による精神的な苦痛を受けた」というように死の恐怖を感じるほどのものや日常的に繰り返されていたという場合は認められる可能性が高くなります。

反対に、被相続人にも原因があるようなケースでは認められない可能性が高くなるのです。

相続廃除ができる対象

相続廃除をできる人と廃除の対象となる人は次の通りです。

  • 廃除申し立てできる人:被相続人本人のみ
  • 相続廃除の対象:遺留分を有する人

相続廃除の申し立てができるのは、被相続人のみです。例えば、親からの相続に対して、相続人である子(兄Aと弟B)のうち兄Aが弟Bの相続廃除を申し立てることはできません。

弟Bを相続廃除するには、被相続人である親が相続廃除を申し立てる必要があるのです。

また、相続廃除できる対象者は「遺留分を有する人」となります。遺留分を有する人は、次の通りです。

  • 配偶者(夫・妻)
  • 直系卑属(子供・孫)
  • 直系尊属(父母・祖父母)

兄弟姉妹は遺留分がないので、相続廃除の対象とはなりません。兄弟姉妹の場合は、そもそも遺留分がないので遺産を相続させたくない場合は、遺言でその旨を残せば遺産が渡ることはないのです。

遺留分のある相続人に相続廃除するまでではないけど多く相続させたくないという場合は、遺留分の範囲で相続させる旨を遺言に残すとよいでしょう。

「遺留分」と「相続順位」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

相続廃除の注意点

相続廃除の注意点としては、次のようなことが挙げられます。

  • 代襲相続の対象になる
  • 廃除が認められることは難しい
  • 廃除が認められたら戸籍の届出が必要
  • 相続廃除は取り下げることが可能
  • 相続欠格との違い

代襲相続の対象になる

相続廃除しても代襲相続は発生します。

代襲相続とは、相続人の死亡などで本来受け取る遺産を受け取れない場合、その子供や孫が本人に代わって相続することです。

例えば、子供Aを相続廃除した場合、子供Aに子供(被相続人の孫)がいた場合、孫が代襲相続することになります。本来、子供Aには一切遺産を渡したくないはずなのに、孫に遺産が渡ることで間接的に子供Aにも遺産の恩恵が渡ってしまう可能性があるのです。

ただし、子供Aには相続させたくなくても孫には相続させたい、という場合は問題ないでしょう。

反対に、子供Aに一切相続させたくない・孫からも虐待をうけており孫にも相続させたくないといった場合は、孫も相続廃除する必要があります。

廃除が認められることは難しい

相続廃除が認められるかは、家庭裁判所の審査により決まります。

しかし、相続廃除が認められるケースは司法統計上2割ほどと多くありません。このように相続廃除の申し立てをしたとしても認められる可能性は低い点には注意が必要です。

時間や手間を掛けて相続廃除を申し立てても認められないとなると、精神的なダメージも大きくなるでしょう。

また、相続廃除を申し立てたとしても、廃除対象者から「やっていない」と言われると認めてもらうことがより困難になります。申し立てする場合は、裁判所に認めてもらいやすくするよう事前に証拠を集めておくようにしましょう。

申し立てが通るか不安がある人や手続きが難しい人は、一度弁護士に相談することをおすすめします。

廃除が認められたら戸籍の届出が必要

相続廃除が認められると、戸籍に相続権を失った旨が記載されることになります。

戸籍に相続廃除が記載されることで、数年経過して相続が発生しても相続廃除の事実が第三者からも分かり、間違って相続させることを防げるのです。

ただし、家庭裁判所から相続廃除が認められると自動的に戸籍に記載されるわけではない点には注意しましょう。戸籍に記載するための手続きを自治体の役場にする必要があり、その期限は相続廃除の確定から10日以内と決められています。

相続廃除が決まったら速やかに戸籍の手続きをするようにしましょう。

相続廃除は取り下げることが可能

相続廃除は、一度決めた場合でも後から取り消すことが可能です。

廃除を申し立てた時点では関係性が悪くても、数年経過することで相手の態度が改まり和解できる場合もあるでしょう。その場合は、被相続人が相続廃除の取り消しを裁判所に申し立てることで廃除を取り消せます。

また、取り消しは生前に裁判所への申立る以外に、遺言に残して死後に手続きしてもらうことでの取り消しも有効です。

相続欠格との違い

相続権を剥奪する制度には「相続欠格」と呼ばれるものもあります。

相続廃除と相続欠格は、相続権が無くなる点は同じですが、大きく異なるので違いを理解しておくようにしましょう。相続欠格とは、欠格事由に該当する場合に自動的に相続権を失うことです。

相続欠格に該当する事由としては、次に様なことが挙げられます。

  • 被相続人や他の相続人を殺害、または殺害しようとし刑をうけた
  • 相続人が殺害されたことを知っていたのに黙っていた
  • 被相続人を騙したり脅迫して遺言書を書かせたり変更させた人
  • 被相続人を騙したり脅迫して遺言書の変更を妨げた人
  • 遺言書を偽装したり勝手に書き換えた人

このように、相続で自分が有利になるように不正や犯罪を犯した人は、その事実があることで自動的に相続権を失います。一方、相続廃除は被相続人の意思で廃除を行うものです。

相続欠格が自動的であるのに対し、相続廃除は被相続人の意思で行われるという点が異なります。なお、相続欠格の場合も、「遺留分がない」「代襲相続は認められる」という点は、相続廃除と同様です。

まとめ

相続廃除の基本や注意点についてお伝えしました。

相続廃除は、被相続人の意思で相続人から相続権を剝奪できる制度です。しかし、どんな理由でも相続廃除できるわけではなく、暴力や侮辱・非行などの程度・頻度・理由などによって認められるかが異なります。

また、相続廃除した場合でも代襲相続は発生するので、代襲相続まで考慮した相続廃除が必要です。相続廃除を検討している場合、なかなか認められにくいことも意識し別の方法も検討しておくことが大切です。

相続廃除の手続きや他の方法などは、一度弁護士に相談して進めていくと自分の納得できる相続ができるようになるでしょう。

著者紹介

逆瀬川勇造(ライター)

金融機関・不動産会社での勤務経験を経て2018年よりライターとして独立。2020年に合同会社7pockets設立。前職時代には不動産取引の経験から、相続関連の課題にも数多く直面し、それらの経験から得た知識など分かりやすく解説。【資格】宅建士/AFP/FP2級技能士/相続管理士

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本記事の内容は、記事執筆日(2023年8月29日)時点の法令・制度等をもとに作成しております。最新の法令等につきましては、専門家へご確認をお願いいたします。万が一記事により損害が発生することがあっても、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。

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