「遺言書の書き方ってどうすればよいのだろう」「遺言書は書いておいたほうがいいの?」と疑問に思っていませんか。遺言書を書けば、誰にどの財産を相続させたいかを指定でき、自分の意思を尊重してもらいやすくなります。しかし、遺言書には三つの種類があり、それぞれ書き方や作成手順が異なります。書き方を間違えると遺言書が無効となることもあるため、慎重に作成しなければなりません。今回の記事では種類ごとに遺言書の作成手順を説明したうえで、遺言書の書き方や記載例を紹介します。家族に自分の意思が伝わる遺言書を作成しましょう。
遺言書とは

遺言書とは、自分の死後に持っている財産をどのように処分してほしいかを指定するための書面です。たとえば、「妻に家と預金のすべてを相続させる」「世界の子どものために500万円寄付する」などと、誰にどの財産をどの割合で相続させたいか指定します。相続させる人を指定できる一方で、相続させないことを指定することも可能です。
つまり、遺言書は自分が渡したい財産を渡したい人に譲るための文書です。
遺言書がないと、自分の死後に相続人全員で財産をどのように分けるか話し合いをしなければなりません。自分の意思を家族や親戚に伝えるためにも、遺言書を作っておくことをおすすめします。
遺言書を書いておくメリット
遺言書を書いておくメリットは、大きく3つあります。
- 相続税申告で困らない
- 相続争い(争続)の回避
- 法定相続人でない人も遺産相続対象に
遺言書を書く一番のメリットは、相続人同士で争わずに財産を相続できることです。
遺言書がなければ相続人全員で遺産分割協議を行い、全員が納得しなければなりません。どれだけ仲の良い家族や親族であっても、お金が絡むと人が変わったように争うといった話はよく耳にします。
遺言書があれば「故人の意思だから」と納得してもらいやすく、遺産分割協議なしでスムーズに相続してもらいやすいでしょう。そのため、相続税申告もスムーズに進めることが可能です。また、遺言書がなければ法定相続人だけで遺産分割することになりますが、遺言書なら法定相続人以外の孫や内縁の妻へ相続させたり、団体へ寄付することも指定できます。
法定相続人以外へ財産を渡したいのであれば、遺言書を残すことは必須と言えるでしょう。
遺言書・遺書・エンディングノートの違い
遺言書とは、民法に定められた方式に従って作成された文書のことです。
遺書やエンディングノートと違って、法的効力を持ちます。民法に定められた方法で作成されていない遺言書は、遺言書としての効力を発揮しません。ちなみに、遺書とは生前の意思を家族や親族、友人などに伝えるための手紙のことです。内容は相続に関するものに限らず、感謝の気持ちや葬儀・墓の希望などを伝え、書き方にルールはありません。
また、エンディングノートとは、いままでの人生を振り返ったり、終末に向けて意思をまとめたノートです。遺言書や遺書には死後に関しての内容を記しますが、エンディングノートには「死ぬまでにやりたいこと」「介護や医療についての考え」など生前についての意思も含まれます。書き方にルールはありませんが法的効力もなく、かならず実現するとは限りません。
遺言書は大きく分けて3種類

遺言書には、大きく分けて以下の三つの種類があります。
- 自筆証書遺言
- 公正証書遺言
- 秘密証書遺言
いずれの種類であっても、民法に定められた方式に従って作成しなければ法的効力を発揮しません。確実に自分の意思を相続人に伝えるためにもそれぞれのメリット・デメリットを知ったうえで、最適な遺言書を作成しましょう。
自筆証書遺言
自筆証書遺言とは、遺言者が本文を自書にて作成する遺言書のことです。紙とペンを使って相続の内訳を記載し、最後に日付・署名・捺印をします。かならず自筆で書かなければならず、ワープロ機能を使ったり代筆を頼んだりすることはできません。
自筆証書遺言のメリットは、気軽さです。紙とペンさえあれば自宅でも病院でも遺言書を作成できます。また、ほかの種類だと作成自体に費用がかかりますが、自筆証書遺言は作成費用がかかりません。一方、自筆証書遺言書のデメリットは確実性の低さです。決められたルールに従っていなければ遺言書として認められません。自宅保管による紛失や隠蔽・破棄などのリスクもあり、意思を実現してもらえるかどうか不確かです。
また、自筆証書遺言を残すと、遺言者が亡くなったあとに家庭裁判所で検認を受けなければならず、遺言書の内容が法的に認められるかどうかを判断してもらう必要があります。ただし、法務局に預ける遺言書保管制度を利用すれば検認は不要です。3900円の費用がかかりますが、紛失・隠蔽・廃棄のリスクもなくなります。
自筆証書遺言が無効とされるケースは、以下のとおりです。
- 自筆でない(ワープロ作成や代筆は無効)
- 署名・捺印・作成日付けがない
- 訂正方法が間違っている
- 内容が不明瞭である
- 二人以上の共同で書かれている
- 遺言能力が不十分でない人が作成した
正しく作成することに自信のある人は、手軽な自筆証書遺言を選びましょう。
公正証書遺言
公正証書遺言とは、公証人立ち会いのもと作成される遺言書のことです。遺言者は遺言書に記したい内容を公証人に口頭で伝え、筆記してもらって作成します。このように作成された公正証書遺言は、公正証書として残されます。
公正証書遺言のメリットは、法律の専門家である公証人と一緒に作成するため確実性が高いことです。作成した公正証書遺言は公証人役場で保管されるため、紛失の心配もありません。また、遺言者が亡くなったあとの検認手続きも不要です。一方、公正証書遺言は作成のための準備や一定の費用がかかります。事前に遺言書の原案を考え、公正役場で公証人と作成しなければなりません。「遺言書を作成しよう」と思い立ってから作成できるまでに3週間程度かかります。
また、公正証書遺言の作成の手数料は最低でも5000円かかり、財産の価額に応じて金額が変わります。このように公正証書遺言の作成には手間と時間、費用が発生することから、気軽に書き換えることができません。
しかし、以下のようなケースに当てはまらない限り有効となるため、確実性の高い遺言書を作れます。
- 遺言能力がない遺言者が作成した
- 公証人への口授を欠いた
- 二人の証人が不適格だった
- 遺言者の真意と異なる内容だった
内容を公証人へ正しく伝え、適格者である証人を選べば無効とされることはほとんどありません。特定の人や団体へ財産を「譲りたい」「譲りたくない」という強い意思があるのなら、公正証書遺言を選びましょう。
秘密証書遺言
秘密証書遺言とは、遺言者以外には内容を秘密にしつつも公証人や証人に存在の証明をしてもらえる遺言書のことです。
自分で作成した遺言書を封して二人の証人と一緒に公正役場に持って行き、公証人に遺言書を作成した事実を証明してもらいます。自筆の署名と押印があれば、手書きでもワープロでも好きな方法で作成することが可能です。公証役場に遺言書作成の記録が残るため、遺言者が亡くなったあとに「見つけてもらえないかもしれない」といった心配がありません。
また、公正証書遺言のように内容を自分以外の人に見せることがないため、遺言の内容を知られたくない場合に利用しやすいです。さらに、自筆証書遺言と違って自筆で書く必要はなく、遺言書と封筒の署名・捺印が本人の意思であることを証明します。そのため、ほかの人に代筆をお願いしたり、ワープロで作成したりすることも可能です。
一方、内容は遺言者本人しか把握できないため、内容に不備があると無効となる恐れもあります。存在を証明してもらうために、証人二人の立ち会いや公証役場へ出向かなければならず、手間や時間がかかrます。また、秘密証書遺言の作成のために1万1000円の手数料が必要であることもデメリットです。さらに、作成の記録は公証役場に残るものの保管は自分でしなければならず、遺言者が亡くなったあと家庭裁判所での検認の手続きをしなければなりません。
以下のようなケースでは、無効となってしまうため注意しましょう。
- 遺言書に自筆の署名と捺印がない
- 遺言書を入れた封筒に遺言書と同じ印鑑による捺印がない
- 内容が不明瞭である
- 二人の証人が不適格だった
一見、自筆証書遺言と公正証書遺言の良いところどりのように感じる秘密証書遺言ですが、デメリットも少なくありません。秘密証書遺言を作成するなら弁護士に代理で作成してもらい、保管や後見人まで依頼すると確実性が上がります。
遺言書の効力

遺言書の主な効力は、誰に何を相続させるかの指定です。ほかにも遺言書に記載しておくことで認められることがあります。遺言書の効力が認められる内容は、以下の5つです。
- 誰に何を相続させる(渡す)かの指定
- 特定の人間の相続権利剥奪
- 隠し子の認知
- 遺言執行者をの指定
- 保険金の受取人の変更
遺言書を作成するまえに詳細を確認しましょう。
- 誰に何を相続させる(渡す)かの指定
法定相続分にかかわらず、残した財産をどのように分配するかを遺言者が自由に決められます。たとえば、妻1人、子ども3人いた場合の法定相続分の割合は以下の通りです。
- 妻:1/2
- 子ども①:1/2×1/3=1/6
- 子ども②:1/2×1/3=1/6
- 子ども③:1/2×1/3=1/6
しかし、「妻には家や土地と預金の半分を与える」「孫にも均等に分け与える」と指定することが可能です。この場合、以下のような内容を遺言書に記載します。
- 妻:土地・家屋のすべて。預金の1/2。
- 子ども①:預金の1/10
- 子ども②:預金の1/10
- 子ども③:預金の1/10
- 孫①:預金の1/10
- 孫②:預金の1/10
親族に限らず、友人・知人、団体などにも指定できます。
(遺言による相続分の指定)第九百二条
被相続人は、前二条の規定にかかわらず、遺言で、共同相続人の相続分を定め、又はこれを定めることを第三者に委託することができる。
2 被相続人が、共同相続人中の一人若しくは数人の相続分のみを定め、又はこれを第三者に定めさせたときは、他の共同相続人の相続分は、前二条の規定により定める。
※引用:民法第902条|民法(明治二十九年法律第八十九号)
特定の人間の相続権利剥奪
法定相続人となる人に財産を相続させたくない場合、その人物から相続権利を剥奪できます。ただし、相続人から排除するには、以下のようなケースに当てはまる場合に限られます。
- 遺言者に対して虐待があった
- 遺言者に対して重大な屈辱を与えた
- そのほか、著しい非行があった
たとえば、暴力をされたり金品を盗まれたりした過去があった場合に当てはまります。
(相続人の欠格事由)条
次に掲げる者は、相続人となることができない。
一 故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者
二 被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者。ただし、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは、この限りでない。
三 詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者
四 詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者
五 相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者
※引用:民法第891条|民法(明治二十九年法律第八十九号)
しかし、遺言書で特定の人間の相続権利剥奪を指定したとしても、かならず相続権利剥奪がなされるとは限りません。遺言者が亡くなったあと、家庭裁判所にて相続人の排除が相当であると認められる必要があります。
(遺言による推定相続人の廃除)第八百九十三条
被相続人が遺言で推定相続人を廃除する意思を表示したときは、遺言執行者は、その遺言が効力を生じた後、遅滞なく、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求しなければならない。この場合において、その推定相続人の廃除は、被相続人の死亡の時にさかのぼってその効力を生ずる。
※引用:民法第893条|民法(明治二十九年法律第八十九号)
どうしても相続権利を剥奪したい人物がいるのであれば、生前に家庭裁判所で相続人の排除の手続きを済ませましょう。
隠し子の認知
遺言書で婚姻関係にない人との間にできた隠し子を認知することが可能です。これを遺言認知と言います。胎内にいる子であっても認知は可能です。何らかの事情で生前に認知できなかった場合でも財産を相続させるために遺言書を使って認知することが認められています。
認知の方式)第七百八十一条
認知は、戸籍法の定めるところにより届け出ることによってする。
2 認知は、遺言によっても、することができる。
(成年の子の認知)第七百八十二条
成年の子は、その承諾がなければ、これを認知することができない。
(胎児又は死亡した子の認知)第七百八十三条
父は、胎内に在る子でも、認知することができる。この場合においては、母の承諾を得なければならない。
※引用:民法第781条・782条|民法(明治二十九年法律第八十九号)
認知によって、法定相続人や法定相続分が変動するため、トラブルを未然に防ぐ遺言書となるよう注意しましょう。
- 遺言執行者をの指定
遺言書では遺言執行者を指定できます。遺言執行者とは、遺言書の内容を実現するために各手続きを行う人のことです。
(遺言執行者の指定)第千六条
遺言者は、遺言で、一人又は数人の遺言執行者を指定し、又はその指定を第三者に委託することができる。
2 遺言執行者の指定の委託を受けた者は、遅滞なく、その指定をして、これを相続人に通知しなければならない。
3 遺言執行者の指定の委託を受けた者がその委託を辞そうとするときは、遅滞なくその旨を相続人に通知しなければならない。
※引用:民法第1006条|民法(明治二十九年法律第八十九号)
遺言執行者は、具体的に以下のようなことを行います。
- 遺言執行者就任について相続人へ通知
- 相続財産の調査
- 財産目録の作成
- 相続人の確定
- 預金口座の解約
- 土地や建物の相続登記
- 株式や自動車などの名義変更
事前に遺言執行者を遺言書で指定することで相続手続きをスムーズに実行できます。遺言執行者は成人で破産者以外であれば誰でも指名できますが、弁護士や司法書士など相続の知識を十分に持っている人を選びましょう。
保険金の受取人の変更
生命保険金の受取人を遺言書で変更できます。しかし、新たな受取人は保険約款で定められた範囲内で選ばなければ無効となります。一般的に配偶者や血縁関係のある人に限られるため注意しましょう。
(遺言による保険金受取人の変更)第四十四条
保険金受取人の変更は、遺言によっても、することができる。
2 遺言による保険金受取人の変更は、その遺言が効力を生じた後、保険契約者の相続人がその旨を保険者に通知しなければ、これをもって保険者に対抗することができない。
※引用:保険法第44条|保険法(平成二十年法律第五十六号)
なかには親族でない第三者を受取人に指定できる保険商品も存在します。内縁の妻や慈善団体などを指定したい場合は、保険会社に確認するようにしましょう。
遺留分という言葉も知っておくべき
遺言書の確実性を高めるためには、遺留分の概念を知っておくべきです。
遺留分とは、法定相続人が最低限相続できる財産の取り分です。亡くなった方の配偶者や子どもには財産を相続する権利を持っています。いくら遺言書であっても「長男に全財産を相続させる」と指定しても、配偶者やほかの子どもは遺留分の相続を主張できます。
このように、遺留分は遺言書の内容よりも強い権利です。そのため、遺言書においても最低限遺留分に配慮した取り分となるよう考慮すべきです。遺留分を配慮することで相続人同士の争いやトラブルを回避できます。
遺言書の作成手順と注意点

遺言書の作成手順を知っておくと、正しく遺言書を作成できます。せっかく作成した遺言書が無効とならないための注意点もあわせて確認しましょう。
自筆証書遺言
自筆証書遺言書は、紙・ペン・ハンコがあればどこでも作成できます。気軽に作成できますが細かなルールを守らなければ無効となってしまうため、作成方法と注意点をしっかり確認しましょう。
作成方法
自筆証書遺言の作成方法は、以下のとおりです。
- 遺言者本人の自筆で遺言を書く
- 作成した日付を自筆で記載する
- 自筆で署名する
- 捺印する
- 遺言書が数枚にわたる場合は割印をする
- 訂正や追加がある場合は書き直すか、二重線を引いて訂正印を押印し、余白部分に「本遺言書の○字削除、○字追加」と自筆で残す
- 自分で保管する
注意点
- 必ず本人の自筆で作成する
- 日付は「令和○年○月吉日」など曖昧な表現をしない
- どの財産を誰に相続・遺贈するか明確にする
- 封筒に入れて封印し、改ざんのリスクを避ける
- 財産が複数ある場合、財産目録を作成して財産の特定をする(ワープロでの作成可能)
公正証書遺言
公正証書遺言は思い立ってすぐに作成できないため、あらかじめ作成方法を確認しておきましょう。
作成方法
公正証書遺言の作成方法は、以下のとおりです。
- 遺言の内容を大まかに決めて原案を作成しておく
- 公証役場に原案を伝え、内容を検討する
- 印鑑証明書や戸籍謄本などの必要書類を公証役場へ届ける
- 作成時の立ち会い証人を二人決める
- 遺言書を作成する日時を遺言者・証人ニ名・公証人で調整する
- 公正証書遺言を公証役場で作成する
- 遺言者・証人ニ名・公証人が署名・捺印をする
注意点
- 証人は、未成年者・相続予定者・受遺者・配偶者・直系血族以外から選出する
- 公証人が作成した遺言内容が遺言者の意思に沿っているか署名・捺印前に確認する
秘密証書遺言
秘密証書遺言は自分一人で作成するため、不備によって無効になりやすく注意が必要です。あらかじめ作成方法を確認しておきましょう。
作成方法
秘密証書遺言の作成方法は、以下のとおりです。
- 手書きもしくはパソコン、代筆で遺言の内容を書く
- 遺言者の自筆の署名と捺印をする
- 封筒に入れて封をする
- 遺言書に使った印鑑と同じ印鑑で封に押印する
- 作成した遺言書を証人二人と公正役場へ持参する
- 公証人が遺言書提出の日付と遺言者の申述を封紙に記入する
- 遺言者・証人二人が封紙に署名と捺印をする
- 自分で保管する
注意点
- 遺言書にはかならず自筆の署名をする
- 遺言書と封に使用する印鑑は同じものを使う
- どの財産を誰に相続・遺贈するか明確にする
- 財産が複数ある場合、財産目録を作成して財産の特定をする
- 証人は、未成年者・相続予定者・受遺者・配偶者・直系血族以外から選出する
- 紛失や相続人に見つけてもらえないといった事態を避けるため対策をする
遺言書の書き方と記入例

公正証書遺言であれば書き方を気にせず内容を公証人に伝えるだけで作成できますが、自筆証書遺言や秘密証書遺言を選んだ人は書き方を知っていなければ作成が難しいでしょう。
ケースごとに遺言書の書き方で気をつけるべきことが異なります。それぞれ確認しましょう。
配偶者にすべて相続させたい場合(子供がいない場合)
子どものいない人が亡くなった場合、配偶者と亡くなった人の両親が法定相続人となります。そのため、すべての財産を配偶者に相続させたいなら、遺言書に書き残さなければなりません。
遺言者は配偶者に全ての財産を相続させる旨と、配偶者への感謝の気持ちや死後も配偶者と仲良くしてほしい思いを両親宛に明記しておくと相続トラブルのリスクを軽減できます。
配偶者にすべて相続させたい場合(子供がいる場合)
子どものいる人が亡くなった場合、配偶者と子どもが法定相続人となります。しかし、子どもが未成年の場合や不動産・土地の財産が遺産のほとんどを占める場合に配偶者にすべて相続させたいと考えるかもしれません。
未成年者が相続人となったときは代理人を立てて遺産分割協議をしなければなりませんが、遺言書に配偶者へすべて相続させる旨を明記すれば回避できます。
親に財産を分け与えたい場合
子どもがいると親は法定相続人ではないため、財産を遺したいなら遺言書に残さなければなりません。法定相続人以外へ財産を遺したい場合、「相続」ではなく「遺贈する」と記しましょう。
子ども同士で相続内容に差をつける場合
子ども同士で相続内容に差をつける場合、遺言書に渡したい財産を明確に記しておかなければ均等に分割されてしまいます。たとえば、「長男には同居して介護をしてくれたからお礼の意味を込めて多く渡したい」ということは珍しくありません。
ほかの子どもには最低限の遺留分を渡したり、なぜ差をつけているのか理由を書いたりして、相続争いを防ぎましょう。
長男に事業を継がせる場合
法人事業を長男に継がせる場合、株式を相続するよう指定しましょう。一方、個人事業を継がせる場合は事業に必要な財産を遺言書で細かく指定しなければなりません。
なぜなら、法人事業であれば株式の保有率で意思決定権が決まりますが、個人事業はプライベートと事業の財産の線引きがはっきりしていないためです。たとえば、店舗経営しているのであれば店舗の土地・不動産はもちろん、事業に必要な車や預金口座を指定する必要があります。また、事業を引き継がなかったほかの子どもは「少ししか財産を分けてもらえなかった」と落ち込む可能性があります。事業を継ぐことの苦労を労いつつ、プライベートな財産は近東に分けるようにするなどの配慮が必要です。
相続人がいなくて財産を世話人に渡したい場合
世話人に財産を渡したい場合は、遺言書に「遺贈する」と明記しましょう。配偶者や血縁関係者がいないような人には法定相続人がいません。遺言書がなければ遺した財産は国庫へ帰属するため、かならず遺言書を残しましょう。
特定の団体に寄付したい場合
特定の団体に寄付したい場合、遺言書を残しておくことで財産を渡すことが可能です。この場合、「相続」「寄付」といった言葉を使わずに「遺贈する」と明記しましょう。
法定相続人がいる場合にも団体への寄付は可能です。しかし、法定相続人には最低限の遺留分を渡したり寄付先の団体への思いを書き残したりする配慮を忘れないようにしましょう。
相続人ではない孫に財産を渡したい場合
孫や娘婿などは法定相続人ではないため、財産を残したい場合は遺言書で指定しましょう。この場合、「相続」ではなく「遺贈」と記します。
法定相続人が納得するよう理由を書いておくと、相続争いを回避しやすいです。
内縁の妻・夫に財産を渡したい場合
内縁の妻や夫は法定相続人にならないため、財産を渡したいなら遺言書に記す必要があります。法定相続人ではないため、「遺贈」と記さなければなりません。
子どもがいる場合、内縁の妻や夫と子どもの仲が悪くなる可能性があります。法定相続人の遺留分に配慮し、なぜ内縁の妻や夫に財産を渡したいのかを書いておくことをおすすめします。
元配偶者との子どもに財産を渡したい(渡したくない)場合
元配偶者との子どもには相続する権利があるため、遺言書を残さなくても後妻の子どもと均等に相続することになります。元配偶者との子どもとの関係は人それぞれで、「渡したい」「渡したくない」という思いもそれぞれです。
しかし、まったく渡したくないからと言って、一切の財産を相続させないと遺言書に残す事は危険です。最低限遺留分は相続する権利を持っているため、相続争いに発展しかねません。渡したくない場合でも遺留分に配慮した遺言書を作成しましょう。
再婚者の連れ子に財産を渡したい場合
再婚者の連れ子は養子縁組をしていれば実子と同じ割合で財産を相続できます。しかし、養子縁組していないのであれば遺言書に「遺贈する」と記さなければなりません。
隠し子を認知して財産を渡したい場合
隠し子を認知して財産を渡した場合、遺言認知をして相続させられます。「遺言者は、〇〇を認知する」と遺言し、名前・生年月日・住所を記すことで認知が可能です。
法定相続人にとっては驚きと妬みの感情が生まれるかもしれません。慎重に相続させる財産の配分を決めましょう。また、認知の手続きが必要となるため、遺言執行者を指名する方が効率よく実行してもらえます。
介護を必要とする家族を遺してしまう場合
介護が必要な家族を遺してしまう場合、負担付遺贈を活用しましょう。負担付遺贈とは、「財産を渡す代わりに妻の面倒を負担してください」と条件付きで渡すことです。子どもや老人ホームなどに負担付遺贈できます。
財産を渡す代わりに、具体的にどのようなことをしてほしいのかを遺言書に記す必要があります。法定相続人がいる場合は生前に話し合いの場を設け、納得してもらうと意思を尊重してもらいやすいです。
ペットを遺してしまう場合
ペットを遺してしまう場合、負担付遺贈を活用しましょう。負担遺贈とは、「財産を渡す代わりにペットの世話を負担してください」と条件付きで財産を渡すことです。
財産を渡す代わりに、具体的にどのようなことをしてほしいのかを遺言書に記す必要があります。最後にどのような供養をしてほしいのかまで指定が可能です。
遺言書の記入例
自筆証書遺言や秘密証書遺言を作成する際は、以下の記入例を参考にしてください。
遺言書
遺言一太郎は、本遺言書により以下のとおり遺言する。
第一条 遺言者は、遺言者の有する下記の土地を妻遺言花子に相続させる。
所在 東京都東京区東京町一丁目
地番 1番1
地目 宅地
地積 130平方メートル
第二条 遺言者は、遺言者の有する下記の建物を妻遺言花子に相続させる。
所在 東京都東京区東京町一丁目
地番 1番1
種類 居宅
構造 木造瓦葺2階建
床面積 1階30平方メートル、2階23平方メートル
第三条 遺言者は、遺言者の有する下記の財産を妻遺言花子・長男遺言一郎・次男遺言二郎に均等に相続させる。
(1)○○銀行 東京支店(口座番号0123123)
(2)○○信用金庫 東京支店(口座番号0123123)
第四条 遺言者は、遺言執行者に次の者を指定する。
東京都東京区東京三丁目3-3
弁護士 弁護 太郎
令和○年○月○日
東京都東京区東京町一丁目1番1
遺言者 遺言一太郎 ㊞
おわりに

遺言書の書き方のポイントは、曖昧な表現をせずに「誰に」「どの財産を」「どの割合で」相続・遺贈させるかを明確にすることです。自分で作成する自筆証書遺言や秘密証書遺言には細かなルールを守らなければ無効となる可能性があるため、慎重に作成しましょう。
遺言内容を実行してもらいたいのであれば、公正証書遺言の作成や弁護士の代理作成がおすすめです。それぞれのメリット・デメリットをよく考慮し、自分に合う種類の遺言書を作成しましょう。