相続放棄後に未支給年金は受け取っていいの?受け取り方や注意点

公開日:2024年3月28日

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被相続人が年金を受け取っていると、死亡後に未支給年金が発生することがあります。とはいえ、相続放棄を検討している・すでに手続きしている状態だと、未支給年金をどう扱えばいいのか悩むものです。この記事では、相続放棄と未支給年金・遺族年金について、受け取れるかどうかや手続き・注意点について解説します。

相続放棄した場合でも未支給年金・遺族年金を受け取ることができる

相続放棄とは、相続財産の一切を放棄することをいいます。相続財産に多額の借金があるなどの場合で選択されるケースが一般的です。

相続放棄することで、マイナスの財産を相続することはなくなります。しかし、同時にプラスの財産も放棄することになるため、未支給年金や遺族年金が受け取れないのではと不安に感じている方もいるでしょう。

結論を言えば、相続放棄しても未支給年金・遺族年金は受け取れます。

未支給年金とは

未支給年金とは、被相続人死亡時にまだ支給されていない年金のことです。

厚生年金や国民年金といった公的年金は、前月分と前々月分の2か月分を偶数月の15日に支払われます。たとえば、2月と3月分の年金はまとめて4月15日に支給されるのです。

年金は死亡した月の分まで受け取れる仕組みのため、タイミングによって未支給が発生します。仮に、5月に亡くなった場合、最後に年金を受け取るのは4月15日になり、内訳は2月分と3月分です。

この場合、4月分と5月分が未支給年金になります。公的年金の未支給分は、遺族が請求することで受け取ることが可能です。ただし、請求は以下の条件を満たした人に限られます。

  • 3親等以内の親族
  • 故人と生計を同じくしていた人

被相続人が死亡した時点で生計を同じくしていた3親等以内の親族が請求できます。また、請求できる順番は以下のように定められています。

<受け取れる人の順位>

  • 1位:配偶者
  • 2位:子
  • 3位:父母
  • 4位:
  • 5位:祖父母
  • 6位:兄弟姉妹
  • 7位:その他の3親等以内の親族

同順位の人であれば、代表者が請求することができますが、個別にそれぞれ請求できるわけではないので注意しましょう。未支給年金の請求手続きについては、後ほど詳しく解説するので参考にしてください。

未支給年金は受取人の固有財産

相続放棄するとプラスの財産も受け取れないことから、未支給年金も請求できないのではと考える人もいるでしょう。

また、これから相続放棄する場合も、遺産に手を付けると相続放棄できなくなる恐れがある事から、未支給年金の対応に困る場合もあります。

しかし、未支給年金は受取人の固有財産とされ、相続財産とは別の財産として扱われるので相続放棄しても受け取ることが可能です。これから相続放棄する場合でも、未支給年金を受け取ったからと言って、相続放棄できなくなることはありません。

未支給年金は、故人の代理としてではなく、遺族が固有の権利に基づいて遺族自身の名義で請求できる財産です。相続放棄で受け取れない財産は、相続財産が対象となります。

したがって、相続財産に含まれない未支給年金であれば、相続放棄しても受け取れるのです。

遺族年金も受け取れる

遺族年金も受取人の固有財産であることから相続放棄しても受け取ることが可能です。

遺族年金とは、国民年金や厚生年金の被保険者が亡くなったときに、その人に生計を支えられていた遺族が受け取れる年金のことをいいます。遺族年金は、遺族自身が固有の権利で受給する財産です。

未支給年金同様相続財産に含まれないため、相続放棄していても受け取ることができ、受け取ったとしても相続放棄手続きに影響はありません。

相続放棄について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

未支給年金の請求手続き方法と必要書類

ここでは、未支給年金を受け取る手続きと必要書類について解説していきます。

受け取るための手続き方法

未支給年金を受け取るための手続き方法は、下記の通りです。

  • 必要書類の準備
  • 年金事務所や年金相談センターへ提出

未支給年金を受け取る場合、被相続人の死亡届と未支給年金の請求を同時に行うのが一般的です。必要書類を揃えて、最寄りの年金事務所や年金相談センターに提出しましょう。

また、遺族年金を受け取る場合も、必要書類を年金事務所に提出することで受給できます。

必要書類

被相続人の死亡届と未支給年金の請求に必要な書類は、下記の通りです。

<死亡届>

  • 受給権者死亡届
  • 故人の年金証書
  • 故人の住民票除票や死亡診断書など死亡が確認できる書類

<未支給年金の請求>

  • 未支給年金・未支給給付金請求書
  • 故人の年金証書
  • 戸籍謄本など故人と請求者の間柄が分かる書類
  • 故人の住民票除票
  • 請求者の世帯全員の住民票
  • 受取金融機関の通帳

死亡届や未支給年金の請求書などは、日本年金機構の公式サイトからダウンロードできます。また、故人との間柄などによって必要な書類が異なる場合もあるので、事前に確認するようにしましょう。

未支給年金についての注意点・気をつける事

未支給年金がある場合の注意点として、下記のようなことが挙げられます。

  • 未支給年金の請求期限は5年間
  • 未支給年金は所得税の対象になる
  • 年金の不正受給に注意
  • 故人の口座に振り込まれると引き出せない
  • 企業年金や個人年金は受け取ると相続放棄できない

未支給年金の請求期限は5年間

未支給年金の請求には時効があり、時効が成立すると請求できません。

未支給年金の時効は、被相続人の年金支払い日の翌月初日から5年間です。この期限内に請求できるように、早めに手続きするようにしましょう。

未支給年金は所得税の対象になる

未支給年金は相続財産ではないので、相続放棄しても受け取れます。相続放棄しない場合でも、未支給年金が相続税の対象となることはありません。

しかし、受取人の所得税の対象となる点には注意が必要です。未支給年金を受け取ると、受取人の一時所得として所得税の対象となります。

一時所得は、50万円以下であれば課税されませんが、50万円を超えると確定申告して納税が必要です。

未支給年金だけで50万円超えない場合でも、生命保険など他の一時所得と合算して50万円を超えれば確定申告しなければならないので注意しましょう。

年金の不正受給に注意

年金を受給している人が亡くなった場合、死亡届を提出して年金の受給をストップする必要があります。死亡届けが遅れてしまい年金を多くもらいすぎると返還が求められ、応じなければ不正受給として罰則が科せられる恐れがあります。

年金の死亡届は、被相続人の死亡から10日または14日以内に手続きが必要です。ただし、マイナンバーを登録済みであれば、手続きは不要です。

故人の口座に振り込まれると引き出せない

未支給年金の振込先を故人の口座に指定してしまうと、引き出せなくなるので注意が必要です。

金融機関に死亡を届け出た場合、故人の口座は凍結されます。凍結後に振込があっても、金融機関が引き出しに応じてくれない可能性が高いでしょう。

凍結済みの口座から引き出すには、他の相続人や他の相続人がいない場合は相続財産清算人に手続きしてもらう必要があります。

企業年金や個人年金は相続税の対象

年金には、公的年金以外にも企業が退職金を年金形式で支給する企業年金やiDeCoや保険契約などの個人年金なども種類があります。

公的年金は相続財産には含まれませんが、企業年金や個人年金はみなし財産として相続税の対象となります。ただし、相続放棄しても未支給分は受け取れる可能性があります。

契約内容によって取り扱いが異なるため、事前に専門家に相談することをおすすめします。

相続放棄で受け取れる財産・受け取れない財産

相続放棄で受け取れる財産・受け取れない財産のイメージ

相続放棄するとすべての財産を放棄しなけれなならないと考えている方は多いでしょう。しかし、未支給年金が相続放棄しても受け取れるように、一部の財産は相続放棄しても受け取ることが可能です。

ここでは、相続放棄で受け取れる可能性がある財産と受け取れない財産について解説します。

相続放棄しても受け取れる可能性がある財産

相続放棄しても受け取れる可能性がある財産には、下記のようなものがあります。

  • 未支給年金
  • 遺族年金・死亡一時金
  • 香典
  • 健康保険から支払われる葬祭費
  • 祭祀財産

香典や葬祭費は喪主が受け取るお金であることから相続財産には含まれません。仏壇や仏具・お墓と言った祭祀財産も、相続財産とは別の財産とされているため祭祀継承者であれば相続放棄後でも受け取ることが可能です。

また、下記のお金については契約内容などによって取り扱いが異なるので、注意が必要です。

  • 死亡保険金
  • 死亡退職金
  • 高額医療の還付金

死亡保険金や死亡退職金は、受取人が誰かなどにより異なります。受取人が指定されている、遺族に支払われる性質のお金と言った場合は、受取人固有の財産となりますが、被相続人が受取人の場合は相続財産に含まれます。

相続放棄を検討する場合、受け取ってはいけないお金を受け取って使ってしまうと単純相続したとみなされ相続放棄ができない可能性があります。

もし受け取ってしまっても使わずに自分の財産と分けて管理しておけば相続放棄も可能なので、受け取ってもいいか判断に迷う場合は使わずに管理したうえで早めに専門家に相談するようにしましょう。

相続放棄したら受け取れない財産

相続放棄すると受け取れない財産には下記のようなものがあります。

  • 被相続人が所有する現預金や有価証券・不動産などの財産
  • 被相続人に還付される税金や年金・保険金など
  • 被相続人が受取人になっている保険金など
  • 被相続人の未払い給与
  • 被相続人のアパートやマンションの敷金
  • 被相続人の負債や未払い金

上記のように被相続人名義の財産は相続放棄後に受け取ることはできません。また、相続放棄前にこれらの財産に手を付けてしまうと、単純承認とみなされ相続放棄ができなくなる恐れがあるので注意しましょう。

負債や未払い金は、受け取れるお金ではありませんが注意が必要です。死亡直前の入院費や借りていた賃貸の賃料・公共料金の未払い分など、良かれと思って支払ってしまうと単純承認とみなされる恐れがあります。

ただし、遺産ではなく自分のお金で支払う分には相続放棄は可能です。

相続放棄を検討している場合、財産の受取には慎重な対応が必要になります。早い段階で専門家に相談して、適切なアドバイスをもらいながら相続放棄の手続きを進めていくことをおすすめします。

相続放棄を検討しているなら財産の受取は慎重に

未支給年金や遺族年金は、相続放棄していても受け取れます。また、受け取ることが相続放棄手続きに影響することはありません。

他にも、香典や祭祀財産など相続放棄しても受け取れる財産は多くあります。ただし、受け取ってはいけない財産に手を付けてしまうと、相続放棄できない・相続放棄が取り消されるといった恐れがあるので、安易に財産を使用するのはおすすめできません。

相続放棄を検討している場合、まずは専門家に相談し、相続放棄が適切かどうかも含めてアドバイスをもらいながら相続財産を取り扱うようにしましょう。

著者紹介

逆瀬川勇造(ライター)

金融機関・不動産会社での勤務経験を経て2018年よりライターとして独立。2020年に合同会社7pockets設立。前職時代には不動産取引の経験から、相続関連の課題にも数多く直面し、それらの経験から得た知識など分かりやすく解説。【資格】宅建士/AFP/FP2級技能士/相続管理士

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本記事の内容は、記事執筆日(2024年3月28日)時点の法令・制度等をもとに作成しております。最新の法令等につきましては、専門家へご確認をお願いいたします。万が一記事により損害が発生することがあっても、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。

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