不動産相続のトラブル・揉め事9選|よくあるケースと解決策

公開日:2024年4月19日

不動産相続でよくあるトラブル・揉め事9選|よくあるケースと解決策_サムネイル

家族の仲がよくても、不動産を含む相続においてはトラブルに発展するケースが多数あります。この記事では、不動産の相続がトラブルに発展しやすい理由や、トラブルになりやすいケース例とその解決策について詳しく解説します。不動産相続で家族の仲が悪くならないよう、最善の対処法を理解しておきましょう。

不動産の相続は揉め事・トラブルになりやすい

相続財産のなかに実家や土地などの不動産が含まれているとき、相続人同士で揉めるトラブルに発展するケースが少なくありません。

なぜなら、金銭のように不動産を物理的に相続分で分割することができないからです。また、誰かが管理しなければ近隣住民に迷惑がかかってしまうことも原因として挙げられます。

実際に、相続プラスにおける独自のアンケート結果を見ると、不動産が相続トラブルの種になったケースは少なくないと推測できます。

Q:相続を受けた際に、トラブルになったことをお答えください。

回答内容回答者数
1位:田舎の土地7人
1位:遺言書7人
1位:介護7人
4位:生命保険の受け取り6人
5位:空き家5人

このように、相続人同士のトラブルの原因が田舎の土地や空き家だったケースは上位に入ります。

Q:これから先、相続したくない財産は何ですか。

回答内容回答者数
1位:住んでいない空き家43人
2位:田舎の土地26人
3位:自宅(住居と土地)23人
4位:現金と預貯金19人
5位:有価証券9人

参考:不動産は相続トラブルの元…アンケートで露呈した相続したくない遺産|相続プラス

これから発生する相続において、相続したくない財産のトップ3が不動産です。

ただし、一方で不動産を相続したい人が複数人いる場合や、不動産を相続する人と相続しない人で不公平感が起きる場合など、実際に起きているトラブルの内容はさまざまです。

次の章では不動産相続でトラブルになりやすいケース例と解決策について具体的にご紹介します。

不動産相続でトラブルになりやすいケース例とその解決策

不動産相続でトラブルになりやすいケース例は、以下の通りです。

  • 相続人の1人が独占しようとする
  • 不動産の相続を主張する人が代償金を支払えない
  • 相続したい人がいない
  • 不動産の活用方法で意見が合わない
  • 不動産の評価方法で揉める
  • 空き家を管理する人がいない
  • 名義変更(相続登記)をしないままでいる
  • 共有名義で相続が複雑化している
  • 不動産価値に対する相続税が支払えない

9つのトラブル内容とその解決策について詳しく確認しましょう。

相続人の1人が独占しようとする

相続人のうち1人が不動産を独占しようとすることで、トラブルに発展するケースがあります。

たとえば、以下のような主張をする相続人がいます。

  • 家は長男が継ぐものだから1人で相続したい
  • 介護のために同居してきた家だから相続してこのまま住み続けたい
  • 母(被相続人の配偶者)の面倒を見るために同居したいから相続したい

しかし、ほかにも相続人がいる場合、平等に相続をする権利があります。ほかにも同じ不動産を相続したいと主張する相続人がいると揉めてしまうでしょう。

トラブル発生時の解決策

まずは、遺産分割協議にて「子どもは全員同等の相続分が法律で決められている」と主張し、冷静に話し合いをしましょう。1人の相続人が不動産を引き継ぐ代わりに、預貯金や有価証券などを他の相続人で分割して納得できる場合もあります。

しかし、どうしても主張がぶつかり合ってしまうのであれば、家庭裁判所で遺産分割調停の申し立てを行いましょう。調停委員が仲裁役として間に入り、第三者目線で冷静な話し合いを促してくれます。

話がまとまらなければ、遺産分割審判となり、裁判官が遺産分割方法を決めます。この場合、相続分に従って分割方法が指定されて平等な遺産分割が叶うでしょう。

不動産の相続を主張する人が代償金を支払えない

なかには、複数の相続人がいた場合にも「この人が不動産を引き継ぐことが妥当だ」と考えられるケースがあります。以下のような場合だと、納得して1人の相続人が不動産を相続することを認めてくれるでしょう。

  • 親と同居していた相続人がこれからも住み続けるために相続したい
  • 親の家業を引き継いだ相続人が事業継続のために相続したい

しかし、1人の相続人が不動産を取得する際、平等な遺産分割のために代償金の支払いを求められる場合があります。

たとえば、6000万円の価値のある不動産を長男が相続するとき、他の相続人には法定相続分に値する代償を求められるかもしれません。仮に、長男・次男・三男の3人が法定相続人だった場合、それぞれの法定相続分は3分の1です。

もちろん、同等の預貯金や有価証券などの相続財産を分割できれば問題ありません。また、「長男が不動産を引き継ぐ代償をしてほしい」と次男と三男が要求しなければ、代償を支払わずに済みます。

しかし、他に財産が残されない場合、次男と三男は長男に2000万円相当の代償を請求できる権利を持っています。代償金が支払えなければ、他の相続人は不公平に感じてしまい、トラブルを招く原因になりかねません。

トラブル発生時の解決策

代償金を支払えない場合、一括でなく分割払いを検討しましょう。

それでも難しい場合は、他の相続人の妥協も必要です。「法定相続分の2000万円は支払えないが、1000万円ずつは支払う」などと柔軟な対応に答えてもらえればトラブルは解決します。「長男が長年親の介護をしてくれていた」「長男が家業を絶やさず残してくれた」などの恩義を感じていれば、応えてもらえる可能性があります。

もし、代償金が支払えないのであれば、不動産を売却して金銭で相続分通りに分け合うことも検討しましょう。

相続したい人がいない

相続財産に含まれる不動産について、相続したい人が誰もいないケースもあるでしょう。たとえば、以下のような不動産は引き継ぐことを敬遠されやすいです。

  • 管理が大変な山林
  • 昔農業を行っていた農地・畑
  • 田舎にある古民家

とくに、相続人が遠方に住んでいた場合、不動産は不要だと感じるでしょう。どの相続人も相続したがらなければ、遺産分割協議が進みません。ただし、遺産分割協議がまとまらない間にも、管理費や固定資産税は発生し続けます。

トラブル発生時の解決策

相続したい人がいない場合、不動産業者に相談して売却や土地活用のアドバイスをもらいましょう。自分たちでは思いつかない解決策を提案してくれるかもしれません。

しかし、なかには買い手のつかない不動産もあるでしょう。各自治体や近隣にある企業に譲り受けてくれないか相談することも手段の1つです。

それでも解決しない場合は、令和6年4月から始まる相続土地国庫帰属制度を活用しましょう。相続土地国庫帰属制度とは、相続した土地を国に返せる制度です。

ただし、どのような土地でも国に帰せるわけではありません。手続きには費用もかかるため、ほかの相続人とよく話し合って決めましょう。

「相続土地国庫帰属制度」「相続土地国庫帰属制度の手続き」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

不動産の活用方法で意見が合わない

不動産の活用方法で意見が合わず、トラブルに発展するケースは珍しくありません。よくあるパターンとしては、不動産を残したい人と売却したい人とで対立してしまうケースです。

たしかに、売却をすると売却金を法定相続分で分割できるため、公平に分割できます。しかし、以下のように不動産を残したいと考える人もたくさんいます。

  • 思い出の詰まった実家を人に譲ったり更地したりできない
  • 同居していた家を失いたくない
  • 土地・建物を活用して不動産収入を得たい

相続人同士で引き継いだ不動産をどのように活用するか意見が分かれると話し合いが進みません。遺産分割協議が成立したとしても、不動産を相続した人が勝手に実家を売却してしまい、他の兄弟姉妹から反感を買ってしまう場合もあります。

トラブル発生時の解決策

残された不動産の活用方法は、1つに決めるしかありません。意見が合わなくても、しっかりと話あって結論を出さなければならないでしょう。

売却する場合や住み続ける場合、不動産収入を得る場合などのメリット・デメリットをしっかり検討し、それぞれにかかる経費や売却価格などをシミュレーションする必要があります。

それでも決定できなかった場合、家庭裁判所で遺産分割調停を申し立てましょう。調停で解決できない場合は裁判所が不動産の分割方法を決めることとなります。ただし、売却に決定した場合は競売命令が下され、相続人が売却するときと比べて低い価格になる可能性があります。

できるだけ相続人同士での話し合いで解決するよう努めましょう。

不動産の評価方法で揉める

不動産には明確な価格がないため、遺産分割や相続税計算のために評価額を決定しなければなりません。しかし、不動産の評価方法はたくさんあり、評価方法によって算出される評価額は異なります。

遺産分割をするとき、不動産を相続する人は不動産の評価額を低くしたいと考え、代償金を受け取る相続人は評価額を高くしたいと考える傾向にあります。評価方法で揉めてしまうと遺産分割協議が進まず、相続の手続きが終わりません。

トラブル発生時の解決策

相続人同士で評価方法の折り合いがつかない場合、双方の主張している評価額の間をとって譲り合いましょう。

片方が無茶な金額を提示する場合には、不動産鑑定士に公平に評価してもらうことを検討してください。不動産鑑定士は第三者目線で公平な不動産評価を行い、不動産鑑定評価書という公的な書類を作成してくれます。

空き家を管理する人がいない

相続した不動産が空き家で、管理する人がいないことからトラブルに発展するケースもあります。たとえば、以下のように実家が空き家になってしまう場合があります。

  • 住む人がいないのに思い出があるからといって空き家にしてしまう
  • 遠方に住んでいて売却の手続きが進まない
  • 売却したいのに買い手が見つからない

しかし、空き家にしておくと管理費用や固定資産税がかかり続けます。だれがこの費用を負担するかの話し合いがまとまらず、揉めてしまうことも珍しくありません。

また、空き家を放っておくと以下のようなリスクが生じます。

  • 劣化による倒壊
  • 動物が住みつく
  • 犯罪グループのアジトに使われる

近隣住民に迷惑をかけてしまい、行政指導が入る場合があります。

トラブル発生時の解決策

空き家のまま放置すると多くのリスクが発生します。空き家にせず、以下のような解決策から最適な選択をしましょう。

  • 相続人の誰かが住む
  • 賃貸で貸し出す
  • 売却する
  • 更地にする

また、売却せずに相続人名義で所有し続けるのであれば、管理費や固定資産税をどのように負担するかを話し合っておきましょう。

名義変更(相続登記)をしないままでいる

不動産を相続したにもかかわらず、名義変更しないままでいる人が稀にいます。しかし、名義変更をしないまま放置しておくと、公的な所有者が不明なままです。ほかの相続人が共有名義で登記したり、売却したりしてしまうことでトラブルに発展する可能性があります。

また、相続手続きをしないまま相続人が死亡してしまった場合、相続人の子どもが2代分の相続登記をしなければなりません。

トラブル発生時の解決策

だれが不動産を相続するのかが確定したら、できるだけ早く名義変更手続きを済ませましょう。

令和6年4月1日からは相続登記の義務化が始まり、不動産を相続すると決まった日から3年以内に正当な理由なしに手続きを怠ると10万円以下の過料の対象となります。

ちなみに、令和6年4月1日以前に発生した相続も義務の対象です。今も相続登記を終えていない場合、令和6年4月1日から3年以内に手続きしなければなりません。

ペナルティを受けないためにも、早めの名義変更をおすすめします。

「相続登記」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

共有名義で相続が複雑化している

相続財産のなかに、被相続人と他の人との複数名で所有している共有名義の不動産があると、相続が複雑化します。以下のような理由から、共有名義になっている不動産は少なくありません。

  • 1世代前の相続で法定相続分通りの持分で相続をした
  • 夫婦共有名義で購入した
  • 二世帯住宅で親子で半分ずつの持分で購入した

当然、共有名義のうち1人が亡くなると、被相続人の持分のみが相続財産の対象です。

もし、相続をきっかけに不動産の売却やリフォームを希望しても、共有名義の全員が同意しなければならず、思い通りに不動産を活用できません。

何度も法定相続分での持分で相続を繰り返していると、疎遠になっている親戚や他人の合意を取らなければならず、不動産を持て余してしまいます。

共有名義の相続登記」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

トラブル発生時の解決策

できるだけ共有名義は解消するようにしましょう。

まず、対策としては生前に共有名義を解消しておくことです。1世代変わると親戚同士であっても連絡が取れなくなるケースがあります。相続が発生するとより複雑化するため、早い段階で解消しておきましょう。

すでに相続が発生して共有名義の不動産が見つかった場合、共有持分を放棄したり売却したりすることが可能です。共有者同士での話し合いが困難な場合は、裁判所に共有物分割請求訴訟をおこすことができます。代理で手続きしてもらえる弁護士に相談しましょう。

不動産価値に対する相続税が支払えない

不動産を相続したときに相続人に相続税の負担が大きく、トラブルを招く恐れがあります。一般的な一軒家であっても、土地と家屋をあわせると基礎控除額を大きく上回ってしまい、納税に困る相続人はたくさんいます。

価値ある不動産を相続したとしても、残念ながら現金は手に入りません。相続財産のなかに預貯金が多く含まれていれば問題ありませんが、「相続財産の大部分を不動産が占める」というケースもあるでしょう。

そのような場合、相続人が自分の財産のなかから相続税を捻出する必要があります。

トラブル発生時の解決策

相続人が相続税を納められない可能性があるとき、被相続人が生命保険の受取人を不動産を引き継ぐであろう人に指定しておくことをおすすめします。生命保険から相続税を支払うことで、相続人の経済的負担が軽減されます。

また、引き継いだ不動産を売却して譲渡利益から相続税を支払うという選択肢もあります。ただし、実家の場合、ほかの相続人から売却することに同意を得られなければ、家族関係にヒビが入ってしまう可能性があるため注意しましょう。

不動産の相続トラブルにならないために事前にできること

不動産の相続トラブルにならないために事前にできることのイメージ

不動産の相続トラブルにならないために事前にできることは、主に5つあります。

  1. 生前によく話し合っておく
  2. 生前贈与をする
  3. 遺言書を作成する
  4. 住んでいない家や使っていない不動産を整理する
  5. 専門家に相談する

順番に確認し、できることから実践しましょう。

生前によく話し合っておく

配偶者や子どもなど、相続人となる家族とよく話し合っておきましょう。物理的に分割できない不動産を残す場合、分け方について話しておくことが大切です。

たとえば、1人に不動産を相続させたいのであれば、他の相続人が不公平にならないよう不動産に見合う財産を用意しておくと納得してもらいやすいです。「生前に売却して3人で分けなさい」と指定しておいてもいいでしょう。

また、不動産を複数所有している場合、誰がどの不動産を相続すべきかを話し合っておくと遺産分割協議がスムーズに進みます。

あらかじめ相続について家族で話し合い、所有者本人の意思を伝えておけば相続人の納得感が高まります。

生前贈与をする

確実に不動産を引き継がせたいという相手がいるのであれば、生きているうちに生前贈与をしましょう。生前贈与は、不動産の所有者である贈与者と引き継ぎたい受贈者の双方の合意があれば成立します。相続争いや共有名義によるトラブルを防ぐ効果が見込めます。

ただし、複数の家族がいるなか、1人にだけ生前贈与をすると反感を持つ家族が出てくるかもしれません。あらかじめ贈与する理由や意図を伝え、納得のうえ贈与契約を交わしましょう。

また、生前贈与で所有権が変わったときに行う登記手続きで納める登録免許税は、相続登記で納める登録免許税よりも高く設定されています。同じ不動産でも税率が高いため、注意しましょう。

遺言書を作成する

遺言書を作成し、誰に不動産を相続させるかを指定しておけばトラブル防止に役立ちます。遺言書にはあなたの思いを相続人に残すことも可能です。

  • 「家業を継いでくれた長男に店と実家を相続させる」
  • 「近くで仕事をしている次男に実家を相続させる」
  • 「妻の世話を頼みたいから長女に実家を相続させる」

このように、理由があると相続人も納得して遺言書に従ってくれるでしょう。

住んでいない家や使っていない不動産を整理する

別荘や森、畑など、現在使っていない不動産があるのであれば整理しておきましょう。できるだけ相続トラブルの種をなくすためには、以下のような対策があります。

  • 単純売却(売却して現金化しておく)
  • 土地活用(賃貸物件・駐車場などにして利益を獲得できる状態にする)

家族が不要だと感じないような形で残すことが大切です。

専門家に相談する

「不動産を残すことでトラブルになりそう」「相続人同士で揉めている」という場合、専門家に相談しましょう。トラブル内容によって、相談すべき専門家が異なります。

専門家相談・依頼できる内容
司法書士
  • 登記手続き
  • 不動産関連
  • 相続放棄
税理士
  • 節税対策
  • 贈与税・相続税の申告
弁護士
  • 遺産分割
  • 相続放棄
  • そのほかのトラブル全般

解決したい内容に合わせて、相談先を決めましょう。

不動産相続でトラブルに発展したら専門家に相談しよう

相続財産のなかに不動産があると平等に分けることが難しいため、トラブルに発展する可能性があります。誰も引き継ぎたくない不動産の管理や、不動産の評価方法で揉めるケースも珍しくありません。

どのようなトラブルであっても、早めに専門家に相談することで早期解決を目指せます。専門家は客観的な視点で問題を紐解き、複雑化させないまま解決に向けてのアドバイスをしてくれます。

万が一、法律トラブルに発展した場合は迷わず弁護士に相談しましょう。遺産分割調停や共有物分割請求訴訟など、裁判所で結論を出すための手続きを迅速に済ませてくれます。

ぜひ頼りになる専門家に相談し、心の負担を軽くしましょう。

著者紹介

安持まい(ライター)

執筆から校正、編集を行うライター・ディレクター。IT関連企業での営業職を経て2018年にライターとして独立。以来、相続・法律・会計・キャリア・ビジネス・IT関連の記事を中心に1000記事以上を執筆。

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本記事の内容は、記事執筆日(2024年4月19日)時点の法令・制度等をもとに作成しております。最新の法令等につきましては、専門家へご確認をお願いいたします。万が一記事により損害が発生することがあっても、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。

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