仮登記とは?相続した不動産の仮登記や不要な仮登記所有権の抹消方法を解説

公開日:2024年1月26日

仮登記とは?相続した不動産の仮登記や不要な仮登記所有権の抹消方法を解説_サムネイル

相続手続きをするなかで、仮登記のある不動産や被相続人名義の仮登記所有権が見つかることは珍しくありません。

本記事では、仮登記に関する相続手続きについて詳しく解説します。そもそも仮登記とは何のために行うのかも説明するため参考にしてください。

仮登記があることで相続でお困りの方は、最後まで読んで疑問を解消しましょう。

仮登記が相続した不動産に含まれていたらどうすればいい?

仮登記の記載がある不動産が相続に含まれていた場合、一度相続登記を行ってから仮登記の抹消手続きを行いましょう。

相続手続きを進めるなかで、仮登記された不動産が見つかることは珍しくありません。たとえば、不動産の売買手続きの途中で亡くなってしまったケースや、昔に不動産を売却しようと仮登記されたままのケースなどが挙げられます。

あくまでも「仮」のため放置してしまう方もいます。たしかに、昔に仮登記されたものであればそのまま本登記されない可能性も十分にあるでしょう。しかし、相続したあとに仮登記が本登記されてしまうと、所有の権利を失ってしまいます。

そのため、一度不動産の名義を被相続人から相続人に変更するための相続登記を行ってから、仮登記を抹消する必要があります。

一方、被相続人名義の仮登記所有権が見つかったという場合もあるでしょう。この場合にも、一度仮登記を相続すれば、相続した仮登記を抹消できます。

そもそも仮登記とは

仮登記とは、本登記することを前提に、あらかじめ登記上の順位を確保するための登記です。

一般的に、不動産売買において、契約締結時には前払金や手付金と呼ばれる一部の金銭のみを支払い、後日全額を支払って土地や物件の引き渡しを行います。引き渡しと同時に所有権移転登記を行いますが、売買契約を結んでから物件の引き渡しまでに期間が発生してしまいます。

この期間、買い手の地位は不安定です。なぜなら売り手が他の人と二重に売買契約を結び、他の人が先に所有権移転登記すると、不動産を取得できない人が出てきてしまうからです。不動産所有の権利はあくまでも登記されている人にしか主張できません。

このようなトラブルを回避するために、買い手は仮登記を活用します。仮登記をしておけば、他の人が本登記することができません。

ただし、「仮」とついているように、仮登記はあくまでも順位の保全効力しかなく、本登記をして初めて所有権が移ります。

仮登記の2つの種類

仮登記には2つの種類があります。

  • 所有権移転仮登記(1号仮登記)
  • 所有権移転請求権仮登記(2号仮登記)

権利変動が生じているかどうかで呼び方が変わります。2つの違いや概要を確認しましょう。

所有権移転仮登記(1号仮登記)

所有権移転仮登記(1号仮登記)とは、所有権移転の権利変動がすでに生じているものの、登記申請の条件を満たせない場合に行う仮登記です。

すでに買い手が全額費用を支払っているにもかかわらず法務局へ提出する書類が揃わないときに仮登記を行い、順位を確保します。

具体的には、以下のような場合に所有権移転仮登記(1号仮登記)を行います。

  • 登記申請に必要な義務者の識別情報や第三者の許可証・同意書・承諾書を添付できないとき
  • 農地法の許可は取得できているが、許可を証明する書類が手に入らないとき

書類さえ揃えれば、本登記できる状態です。不動産登記法105条1号で定められている登記の種類のため、条文番号を取って1号仮登記と呼ばれます。

所有権移転請求権仮登記(2号仮登記)

所有権移転請求権仮登記(2号仮登記)とは、物権変動はまだ生じてないものの、将来的に権利変動を生じさせる請求権が発生している場合に行う仮登記です。

現時点では購入意思はあるものの売買契約や金銭の受け渡しなどが終わっていないときに手続きします。

具体的には、以下のような場合に所有権移転請求権仮登記(2号仮登記)を行います。

  • 将来的な不動産の売買を口約束したとき
  • 農地法の許可が取得できていないとき

このように、将来的に権利変動をすることを約束し、仮押さえするという意味で行う仮登記です。

相続した不動産に仮登記が含まれていた場合の手続きの流れ

相続した不動産に仮登記が含まれていたままだと、いつ本登記されて権利が移行するかわかりません。古い仮登記であったとしても、仮登記があることを理由に売却において不利になる場合もあります。

そこで、仮登記を抹消する手続きを行いましょう。仮登記が含まれている不動産を相続した際、以下の流れで仮登記の抹消の手続きを行います。

  1. 相続登記する
  2. 仮登記を抹消する

仮登記所有権が相続財産に含まれていて、その権利を放棄したい場合にも同様の流れで手続きを進めます。

順番に確認しましょう。

相続登記する

まず、相続登記をしましょう。なぜなら、仮登記の抹消手続きは、不動産の所有者か仮登記名義人でないとできない手続きだからです。

相続登記をする際、特別な手続きはいりません。以下の必要書類と登記申請書を管轄の法務局に提出しましょう。

  • 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本一式
  • 被相続人の住民票除票
  • 相続人全員の戸籍謄本
  • 土地・不動産を相続する人の住民票
  • 遺言書or遺産分割協議書+相続人全員の印鑑証明書
  • 相続関係説明図
  • 不動産の評価証明書(固定資産評価証明書)
  • 手続きは、相続登記の申請から10日前後で完了します。

「相続登記」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

仮登記を抹消する

仮登記の抹消方法は、3つあります。

  • 仮登記名義人と不動産の所有者の共同申請
  • 仮登記名義人の単独申請
  • 登記上の利害関係人による単独申請

3つの方法について詳しく解説します。

仮登記名義人と不動産の所有者の共同申請

一般的に、仮登記名義人と不動産の所有者の共同申請で申請します。仮登記の権利証(登記済証または登記識別情報)も一緒に提出します。

ただし、古い仮登記の場合、仮登記名義人と不動産の所有者が連絡を取り合うことが難しく、連絡が取れても手続きの協力を得られないかもしれません。このような場合は、他の方法で抹消しましょう。

登記上の利害関係人による単独申請

不動産の所有者や後順位の抵当権者などの利害関係者による単独申請も可能です。ただし、仮登記名義人の実印が押印された抹消承諾書と印鑑証明書も提出しなければなりません。

仮登記名義人が亡くなっている場合、相続人全員の抹消承諾書と印鑑証明書が必要となり、手続きが煩雑になります。

もし、仮登記名義人の協力が得られない場合は、裁判による仮登記の抹消を検討しましょう。訴訟を検討する際は、法律の専門家である弁護士に相談しましょう。

仮登記名義人の単独申請

仮登記名義人が単独で申請することも可能です。被相続人名義の仮登記所有権が見つかり、該当の不動産は不要だと判断した場合に手続きしましょう。

このとき、仮登記名義人の抹消承諾書を作成し、実印を押印して印鑑証明書と一緒に提出する必要があります。

不動産の所有権移転仮登記を申請する手続き・必要書類・費用

ここからは、不動産を仮登記したい方向けに、仮登録の手続き方法について詳しく解説します。

まずは、不動産の所有権移転仮登記の申請方法や費用について確認しましょう。以下の流れに沿って解説するため、ぜひ参考にしてください。

  • 手続きの方法
  • 必要書類
  • 費用

また、農地の仮登記手続きについても特殊なため解説します。詳しく確認しましょう。

手続きの方法

所有権移転仮登記は、登記権利者(不動産の所有者)と登記義務者(新たな不動産の所有者)の共同で行うことが原則です。

ただし、以下の場合、登記権利者による単独申請が可能です。

  • 登記義務者の承諾がある
  • 裁判所から仮登記を命ずる処分が行われたとき

単独申請する際には必要書類が増えるため注意しましょう。

必要書類

所有権移転仮登記に必要な書類は、以下の通りです。

  • 登記申請書
  • 売買契約書の写し
  • 登記義務者の印鑑証明書
  • 固定資産税評価証明書

また、登記権利者による単独申請をする際は、以下のいずれかの書類も添付しなければなりません。

  • 登記義務者の承諾書
  • 仮登記を命ずる処分の決定書の正本等

漏れなく揃えましょう。

費用

所有権移転仮登記にかかる費用の内訳は、以下の通りです。

  • 登録免許税
  • 専門家費用(弁護士、司法書士)
  • その他実費

順番に確認しましょう。

登録免許税

所有権移転仮登記の申請時に発生する登録免許税は、以下のように計算します。

登録免許税=不動産価値×1%

不動産価値は、固定資産税評価証明書から確認できます。

専門家費用(弁護士、司法書士)

所有権移転仮登記を依頼した際の専門家費用は、数万円程度です。登記申請書の作成や代理申請を依頼できます。もちろん、依頼しなければ専門家費用はかかりません。

登記手続きは弁護士や司法書士に依頼することが一般的です。手続きにおいて、不安な点・疑問点がある方や忙しくて時間が取れない方は専門家に相談することも検討しましょう。

「弁護士や司法書士」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

その他実費

その他、添付書類の取得費用や法務局までの交通費、申請書類の郵送代などが実費で発生します。専門家に依頼した場合にも、書類の取得費用や交通費などは実費で請求されることが一般的です。

農地の仮登記手続き

農地の売買をする際、仮登記を行うケースが多いです。

なぜなら、農地を売買をするためには農地法の許可が必要だからです。農業委員会や都道府県知事などの許可なしに農地を売買できませんが、許可を得るために2〜3か月以上かかります。

本来、農地の所有権移転登記をするには許可証を法務局に提出しますが、許可が出るまでの期間が長く、待っているだけの状態となります。

そこで、農地法の許可をもらうことを前提として仮登記するケースが多いです。許可が出たら、所有権を移転してもらえます。これを条件付所有権移転仮登記と呼びます。

仮登記を申請する際、登記原因は条件に合わせて以下のように記載しましょう。

売買契約の内容記載内容
耕作目的の農地売買年月日売買(条件:農地法第3条の許可)
転用目的の農地売買年月日売買(条件:農地法第5条の許可)
転用目的の市街化区域内農地の売買年月日売買(条件:農地法第5条の届出)
農地法の許可と売買代金完済を条件とした売買契約年月日売買(条件:農地法第3条の許可および売買代金完済)

許可が得られないままだと、本登記できないままのため注意しましょう。

仮登記のメリット・デメリット

仮登記のメリット・デメリットのイメージ

最後に、仮登記をするメリットとデメリットについて確認しましょう。

仮登記のメリット

仮登記をするメリットは、2つあります。

  • 登記順位を確保できる
  • 登録免許税を節約できる

詳しく見ていきましょう。

登記順位を確保できる

不動産登記法によって、仮登記には本登記をする際の順位保全効が認められています。仮登記のあと本登記をした際、仮登記の手続きをした日に遡って本登記の効果が発生します。

万が一、自分が仮登記をしたあとに、別の人が仮登記をしたとしましょう。このとき、本登記できる条件を満たしたときに手続きすると、あとから仮登記をした人は本登記できなくなります。

所有権移転仮登記(1号仮登記)のように書類が揃っていない場合や、所有権移転請求権仮登記(2号仮登記)のように口約束の状態であっても登記手続きができるため、自分が有利となります。

登録免許税を節約できる

本登記と比べ、登録免許税率を低くできることもメリットです。

売買に基づく所有権移転本登記の登録免許税率は、原則2%です。しかし、所有権移転仮登記の登録免許税率は1%と半分の金額で済みます。

そのため、実務的に本登記する必要がない場合に、あえて仮登記で済ませておくケースもあります。

仮登記のデメリット

仮登記をするデメリットは、2つあります。

  • 本登記とは違って対抗力がない
  • 本登記への移行するために利害関係人の承諾がいる

詳しく見ていきましょう。

本登記とは違って対抗力がない

仮登記をしていても、第三者への対抗要件として認められません。そのため、第三者に所有権や抵当権を主張しようしても認められず、トラブルに巻き込まれる可能性があります。

権利を主張するためには、本登記を行いましょう。

本登記への移行するために利害関係人の承諾がいる

本登記するためには、登記上の利害関係のある第三者の承諾が必要です。いつでも本登記へ移行できると思って悠長にしていると、承諾が得られなくなる場合があるため注意しましょう。

万が一承諾を得られない場合、裁判所で承諾の意思表示を求めることとなります。

相続財産のなかに仮登記のある不動産がある場合は抹消手続きをしよう

相続財産のなかに仮登記のある不動産が含まれていたら、一度相続登記をして抹消手続きをしましょう。なぜなら、仮登記のある不動産はいつ本登記されて所有権が移されるかわからないためです。昔の仮登記だったとしても、仮登記のある不動産は売買契約において不利です。

一方、仮登記を相続した場合でも、一度相続登記の手続きをします。その後、本登記するか、抹消手続きするかして対処しましょう。

仮登記に関する相続手続きや仮登記手続きをするには、専門的な知識が必要です。弁護士や司法書士へ相談し、適切な対応をしましょう。仮登記に関して分からないことがあれば、早めに専門家へ相談することをおすすめします。

著者紹介

安持まい(ライター)

執筆から校正、編集を行うライター・ディレクター。IT関連企業での営業職を経て2018年にライターとして独立。以来、相続・法律・会計・キャリア・ビジネス・IT関連の記事を中心に1000記事以上を執筆。

専門家に相談する

専門家に相談するのイメージ

本記事の内容は、記事執筆日(2024年1月26日)時点の法令・制度等をもとに作成しております。最新の法令等につきましては、専門家へご確認をお願いいたします。万が一記事により損害が発生することがあっても、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。

記事をシェアする