相続放棄後にしてはいけないこととは?具体例をご紹介

公開日:2023年10月31日

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相続財産に負債が多い場合などで有効になるのが相続放棄です。

しかし、相続放棄には手続きの前後にやってしまうと放棄できない恐れがあることがあるので、注意が必要です。また、相続放棄は期限が決められているため、手続きを急ぐ必要もあります。

この記事では、相続放棄の基本とともに前後でやってはいけないことについて、分かりやすく解説していきます。

そもそも相続放棄とは

相続放棄とは、被相続人の財産を一切相続しないことです。相続が発生した場合、次の3つの選択肢があります。

  • 単純承認
  • 限定承認
  • 相続放棄

単純承認とは、相続財産を無条件ですべて相続することです。一般的な相続と言えばこの単純承認を指します。

相続財産がプラスである場合などでは、単純承認で問題ないでしょう。しかし、相続財産は必ずしもプラスであるとは限りません。

被相続人の借金や未払いなどで、相続財産がマイナスしかない場合もあります。この場合で、単純承認を選択してしまうと、相続人は借金を背負うことになってしまうのです。

被相続人のマイナス財産を相続したくない場合の選択肢となるのが、「限定承認」か「相続放棄」となります。

限定承認とは、相続財産のプラスの範囲でマイナスを相続する方法です。相続財産にプラスもあるがマイナスもある、借金はあるけど不動産など相続したい財産もあるといったケースで選択されるのが一般的でしょう。

それに対して、相続財産を一切引き継がない方法が相続放棄になります。

相続放棄することで、被相続人の借金を背負う必要はありません。しかし、マイナスの財産だけでなくプラスの財産も引き継げなくなるので、「不動産だけは引き継ぎたい」ということができない点には注意が必要です。

相続放棄を選択する際には、手続きの前後でやってしまうと相続放棄できなくなる行為があるので注意しなければないません。

相続放棄について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

法的に相続放棄の前後でやってはいけないこと

相続放棄の前後でやってはいけないことは、次の3つです。

  • 相続財産の処分行為
  • 相続財産の隠匿・消費
  • 3か月以上相続を放置

それぞれ詳しくみていきましょう。

相続財産の処分行為

相続財産を相続放棄前に勝手に処分してしまうと、単純承認したとみなされ相続放棄ができません。民法では、単純承認について次のように定めています。

(法定単純承認)
第九百二十一条 次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。
一 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第六百二条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。

財産の処分には、金銭の使用や売却・不動産の取り壊し・金銭の請求などが該当します。ただし、葬儀費用など一定の処分は認められています。

何が処分に該当するかは判断が難しく、中には、意識せずに処分に該当してしまうこともあるので、注意が必要です。処分について判断に悩む場合は、弁護士などの専門家に相談したうえで取り扱うことをおすすめします。

相続財産の隠匿・消費

相続財産の隠匿・消費とは、相続放棄後に財産を隠したり使うことです。相続放棄後に相続財産を勝手に使用するのは、相続放棄と矛盾が生じます。

また、相続放棄すると相続権が次に移る為、財産を隠されるなどすれば次の相続人に迷惑が掛かってしまうでしょう。

相続放棄前の処分行為は、うっかりなどで行ってしまう可能性がありますが、相続放棄後の隠匿・消費は故意や悪意によるものと言えるでしょう。うっかりでは片づけられないので、制裁的に相続放棄後であっても相続放棄が無効になるので注意が必要です。

3か月以上相続を放置

相続放棄するには、家庭裁判所への申請が必要です。この申請手続きは、相続開始があることを知ってから3か月以内という期限があります。

一般的には、相続開始があることを知った日=被相続人の死亡日です。3か月以上経過してしまうと、単純承認をしたとみなされ相続放棄できなくなります。

「相続開始から3か月ある」と思っていても、被相続人の死亡後には様々な手続きが発生しあっという間に時間が過ぎるものです。特に、相続放棄を選択する前には、相続財産の調査や相続人の確定が必要になり時間がかかります。

そこから放棄の手続きをしようとすれば3か月経過してしまう可能性も少なくないので、注意しましょう。ただし、財産調査に時間がかかっているなど3か月に間に合わない場合は、事前に家庭裁判所に申し立てることで期間の延長など対応してもらえる可能性があります。

とはいえ、3か月以内に手続きしてしまう方が安心なので、早めに手続きを進められるようにしましょう。

相続放棄の前後にやってはいけないことの具体例

ここでは、相続放棄前後にやってはいけないことの具体例を見ていきましょう。
主な具体例としては次のようなケースが挙げられます。

  • 被相続人の預貯金の引き出しや解約
  • 実家の売却や解体
  • 家具や家電・車などの整理や処分
  • 入院費の支払い
  • 被相続人の遺産から借金や税金を支払う
  • 賃貸アパートの解約
  • クレジットカードや携帯電話の支払いや解約

被相続人の預貯金の引き出しや解約

被相続人名義の預貯金を引き出してしまうと、財産の勝手な処分に該当し相続放棄できなくなる恐れがあります。また、口座の解約や名義変更も処分と見なされます。

仮に、うっかりで引き出してしまった場合、お金を使用しなければ処分には当たらない可能性もあります。引き出してしまった場合は、そのまま口座に戻すか、自身の財産とは分けて管理しておくとよいでしょう。

とはいえ、引き出したりすると相続放棄できなくなるリスクが高くなるので、基本的には預貯金は触れずに放置しておくことをおすすめします。

実家の売却や解体

被相続人の死亡で実家が空き家になるなどで売却を検討する人もいるでしょう。しかし、相続放棄するなら売却は出来ません。

売却手続きを進めてしまうと単純承認したとみなされるので注意が必要です。また、老朽化などを理由に解体したい場合も、相続放棄するなら解体は出来ないので注意しましょう。

ただし、現状を維持するための補修などは相続放棄に影響しません。

家具や家電・車などの整理や処分

家具や家電といった家の中に残されているものや車を勝手に処分してはいけません。

被相続人の死亡後に遺品整理を進めたい場合でも、遺品整理をしてしまうと財産を処分したとみなされ相続放棄できなくなってしまうのです。ただし、家具や家電・車などはその価値によっても判断が異なります。

遺品整理にしても、個人の写真や手紙と言った資産価値のないものであれば、処分するのは問題ないとされているのです。

家具や家電・車も価値がなければ処分しても問題ありませんが、第三者から見て資産価値のある物の場合は、処分してはいけません。処分の判断が難しいため、処分を検討している場合は弁護士などの専門家に相談したうえで処分を検討するようにしましょう。

入院費の支払い

被相続人が亡くなる直前、入院していたケースでは病院から入院費の請求を受けます。しかし、この入院費を相続財産から支払うと財産の処分にあたってしまうので注意が必要です。

入院費を支払う場合は、被相続人の財産ではなく相続人の財産から支払えば、相続放棄に影響はありません。ただし、入院費で連帯保証人になっている場合は、相続放棄しても支払う義務があるケースもあるので注意しましょう。

被相続人の遺産から借金や税金を支払う

被相続人に借金や未払いの税金があり、それらを被相続人の財産から支払ってしまうと財産の処分にあたります。相続放棄後には、支払の義務はなくなるので放置して問題ありません。

何らかの事情があり借金や税金を支払う場合は、相続人の財産から支払うようにしましょう。また、被相続人の生命保険を受け取り、保険金から支払う分も相続放棄には影響しません。

反対に、被相続人が誰かにお金を貸していた場合、債務者にお金の請求をしてはいけない点にも注意しましょう。

賃貸アパートの解約

被相続人が賃貸アパートに住み、被相続人以外に住む人がいないケースもあるでしょう。

住む人がいないのであればアパートの解約をしたいところですが、解約をしてはいけません。

アパートを解約してしまうと、財産の処分と見なされ相続放棄できなくなる可能性があります。また、アパートの賃料の未払い分の支払いについても相続財産から支払うことはできません。

遺品整理も処分内容によっては単純承認になってしまうため注意が必要です。相続放棄する場合は、大家さんや管理会社などにその旨を伝えて慎重に対応するようにしましょう。

ただし、大家さんや管理会社からの一方的な解約であれば、相続人の意志は関わらないため単純承認とは見なされない可能性があります。

クレジットカードや携帯電話の支払いや解約

被相続人がクレジットカードや携帯電話を所有してるケースでも、勝手に解約するのはおすすめできません。解約や名義変更してしまうと、財産の処分にあたる可能性があります。

クレジットカードや携帯電話の契約は、財産の処分にあたるかは判断が難しいところです。しかし、勝手に解約してしまうと処分と見なされるリスクがあるので、放置しておくほうが無難でしょう。

相続放棄のときにしても良いこと

相続放棄のときにしても良いことのイメージ

相続放棄する場合であっても、次のようなことは行っても問題ないとされています。

  • 相続財産調査
  • 相続財産管理
  • 保存行為

相続財産調査

相続財産調査とは、被相続人の財産を調査することです。

財産を調査するだけなら、処分には当たりません。そもそも相続放棄するかどうかは、相続財産が明確にならなければ判断できません。

相続財産管理

相続人は相続放棄するまで、財産の管理義務を負います。ここでいう「管理」とは、財産の性質を変えない範囲で保存・利用・改良することです。

管理義務の範囲を超えてしまうと「処分」となり、相続放棄ができません。相続放棄する前であっても、処分にあたらない管理であれば相続放棄に影響はないのです。

また、相続放棄した後でも相続財産管理義務は残る点には、注意が必要です。

相続放棄の場合、次の相続人が決まり財産の管理を始めるまでは、管理義務が継続します。
仮に、相続放棄後に老朽化した実家で被害が出ると、損害賠償請求される恐れがあるのです。

相続人が自分以外他に誰もいない場合は、相続財産管理人が選定されるまで管理義務が残ります。相続放棄したからと言って、管理を怠ってしまうとトラブルに発展する可能性があるので注意しましょう。

保存行為

保存行為とは、財産の価値を保存・維持するための行為です。

代表的なものが家の補修などが挙げられます。例えば、実家を維持するための補修は保存にあたりますが、名義を変更して売却するとなると処分になってしまうのです。

保存の範囲内であれば、相続放棄前であっても問題ありません。

相続放棄前後でやってはいけないことを知っておこう

相続放棄前後でしてはいけないこと・しても良いことについてお伝えしました。

相続放棄前後に、「財産の処分」「財産の隠匿・消費」「3か月以上相続放棄を放置」していると、相続放棄できなくなったり・無効になる恐れがあります。ただし、財産の管理や保存など一部のことはやっても相続放棄に影響はありません。

とはいえ、相続放棄に影響するかの判断は難しく、ちょっとしたことがリスクになりかねません。また、相続放棄には3か月という期限もあるため、速やかな手続きが必要です。

相続放棄を検討している場合は、早い段階で弁護士などの専門家に相談して手続きを進められるようにしましょう。

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本記事の内容は、記事執筆日(2023年10月31日)時点の法令・制度等をもとに作成しております。最新の法令等につきましては、専門家へご確認をお願いいたします。万が一記事により損害が発生することがあっても、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。

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