不要な土地だけの相続放棄はできない!土地を手放す方法と注意点を解説

公開日:2023年11月15日

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「相続放棄して土地を手放したい」と考えていませんか。しかし、土地だけを相続放棄することはできません。

本記事では、相続放棄して土地を放棄するメリットと相続放棄以外の方法で土地を手放す方法を解説します。新しく施行された相続土地国庫帰属制度についても紹介するため、参考にしてください。

資産や土地の状況に応じた方法を選択し、損をしない相続手続きを行いましょう。

そもそも相続放棄とは

相続放棄とは、被相続人(亡くなった人)の財産の相続をすべて拒否することです。そもそも相続人でなかったとみなされるため、不要な土地だけでなく、プラスの財産を引き継ぐ権利も失います。

相続放棄される代表的なケースは、以下の状況です。

  • 現金や預貯金などの資産よりも明らかに負債が大きい
  • 親族との関係が希薄で相続争いを避けたい
  • 特定の人に相続財産を相続させたい

相続によって不利益を被るケースや、1人の相続人に事業を継がせたいケースなどで、相続放棄の手続きが行われます。

相続放棄を行うには、相続を知ってから3か月以内に家庭裁判所へ申し立てをしなければなりません。期限をすぎると、特別な事情がない限り相続放棄を認めてもらえないため注意しましょう。

ちなみに、一度相続放棄の手続きをすると撤回することはできません。3か月という短い期間で判断することは難しいため、早めに相続財産の内容を確認するようにしましょう。

「相続放棄」や「相続放棄の手続き方法」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

土地だけを相続放棄することはできない

「不要な土地だけ放棄し、現金は相続したい」のように、財産を限定して相続放棄することはできません。

相続放棄すると、最初から相続人でないとみなされるため、被相続人の相続財産を相続する権利が失われます。つまり、相続放棄をすると、土地だけでなく自分の引き継ぎたい財産も相続できません。

預金や有価証券などのプラスの財産を相続したいのであれば、相続放棄をしないでおきましょう。

「土地・不動産の相続」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

誰も相続する人がいない場合、土地はどうなる?

相続人全員が相続放棄すると、最終的に土地や建物は国庫に帰属します。「国庫に帰属する」とは、国が相続財産を引き取るという意味です。

ただし、国庫に帰属させるには、相続財産の清算を行う相続財産管理人を選任しなければなりません。

相続財産管理人とは、相続人の代わりに相続財産を管理して精算する人です。財産管理する相続人がいない場合に、相続財産管理人が被相続人の相続財産を管理して精算します。

相続財産管理人の選任には、相続放棄した相続人たちの代表者からの申し立てが必要です。

利害関係人の申し立てにより、家庭裁判所が相続財産管理人を選任します。状況に応じて、弁護士や司法書士など財産の精算に適した専門職の人が選任されます。

相続財産管理人の主な業務は、以下の通りです。

  • 債権者や受遺者への支払い
  • 特別縁故者へ相続財産の分与手続き
  • 残余財産の国庫への帰属

相続財産管理人は、被相続人の資産や負債をチェックして精算します。被相続人の債務が相続財産に含まれていれば、プラスの資産から弁済します。

精算手続きにより残った土地があれば、国庫に帰属させて財産処分は完了です。

土地を相続放棄するメリット

土地を相続放棄するメリットは、管理・維持費がかからなくなる点です。土地の所有者となると、毎年固定資産税が発生します。もちろん、建物があるのであれば、建物に対しての固定資産税もかかります。

また、土地を放っておくと草木が伸びたり、不法投棄をされたりすることで、近隣住民に迷惑をかけるかもしれません。苦情が出ると所有者が対処しなければならず、時間も費用もかかります。

はじめから土地を相続しなければ、このような心配をする必要がなくなります。もし、土地以外の財産も引き継ぐ必要がないと考えるのであれば、相続放棄を選んでもよいでしょう。

相続放棄をしないで土地を手放す方法

ここでは、相続放棄をせずに土地を手放す方法について解説します。以下の3つの方法は、一度相続してから土地を手放す方法です。

  • 売却する
  • 自治体や法人などへ寄付する
  • 新たな制度「相続土地国庫帰属制度」を活用する

順番に確認しましょう。

売却する

相続をしてから土地を売却できます。

売却方法として、以下の3つが挙げられます。

  • 更地にして売り出す
  • 空き家・空き地バンクに登録する
  • 買取業者に相談する

エリアによっては買い手がつかずに売却できないケースも十分に考えられます。慎重に売却方法を検討しましょう。

自治体や法人などへ寄付する

無償でもいいから土地を手放したいのであれば、自治体や法人などへ土地を寄付する方法を検討しましょう。

以下の団体であれば、非課税で寄付できます。

  • 自治体
  • 学校法人や宗教法人といった公益目的の法人
  • 認定NPO法人
  • 認可地縁団体の町内会や自治体

一方で、寄付すると課税される団体も存在するため注意しましょう。たとえば、個人が法人に対し、土地や建物を寄付した場合は寄付した人に課税されます。

新たな制度「相続土地国庫帰属制度」を活用する

令和5年4月27日に施行された相続土地国庫帰属制度を活用しましょう。相続土地国庫帰属制度とは、相続人からの申請により一定の条件を満たした土地を国が引き取る制度です。

宅地や田畑、森林などを相続したときに、相続人が本制度で申請して負担金を納付することを条件に、土地の所有権を国が引き取ってくれます。この制度は、令和5年4月27日以前に相続した土地でも活用可能です。

相続土地国庫帰属制度が制定された背景には、以下の問題がありました。

  • 相続した土地を手放したいと考える人の増加
  • 所有者不明による管理が不足した土地の増加

国民が管理・維持しきれない土地を代わりに国が管理することで、荒廃した土地や所有者不明な土地の解消が期待されています。

相続土地国庫帰属制度を利用するには、以下の手順を踏みましょう。

  1. 相続人による申請
  2. 法務局による審査・承認
  3. 相続人による負担金納付

相続土地国庫帰属制度を利用できる人は、相続や遺贈で土地を取得した相続人です。複数の相続人で土地を相続したケースでも本制度の利用は可能ですが、所有者全員での申請を要します。

また、すべての土地が国に引き取られるわけではありません。法務局の審査で、管理や処分を行うときに、過度な費用や労力を要するとみなされた土地は、引き取り不可とされています。

さらに、相続土地国庫帰属制度を利用するには、以下の費用が必要です。

  • 審査手数料1万4000円
  • 土地管理費10年分相当額

負担金の額は、一般的な宅地や田畑であれば原則20万円です。負担金を納付すると、国が土地の管理・処分を開始します。

参照:相続土地国庫帰属制度の概要|法務省

土地の手放し方法に悩んだら専門家に相談しよう

土地を相続することが決まっているのであれば、早めに専門家に相談して結論を出しましょう。相続放棄をするにしても、3か月以内に手続きを済まさなければならず、早急な対応が必要です。

また、相続放棄以外の方法で土地を手放す選択肢もたくさんあります。なかでも相続土地国庫帰属制度は始まったばかりの制度であるため、前例が少なく専門家でなければ正当な手続きを進められないかもしれません。

もし、土地を相続放棄するかどうかや、土地の手放し方法に悩むのであれば専門家へ相談して適切な選択肢を選びましょう。

「土地の相続相談」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

土地を相続放棄するときの注意点

土地を相続放棄するときの注意点のイメージ

土地を相続放棄するときの注意点は、2つあります。

  • 相続放棄しても管理義務は残る
  • 相続放棄を他の相続人に伝える

注意点を把握していないと大きなトラブルに発展しかねません。順を追って確認しましょう。

相続放棄をしても管理義務が残る

相続人全員が相続放棄すると土地は国の財産となりますが、財産管理義務は残ります。

相続財産管理人が選任されて管理を開始するまでは、相続人が「自己の財産と同一の注意を持って」土地を管理しなくてはなりません。

相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない

引用:民法第940条|民法(明治二十九年法律第八十九号)

相続財産管理人による管理が開始されるまで、相続人が自身の財産と同じように相続財産を管理しましょう。

空き家対策特別措置法による特定空き家に注意しよう

土地に空き家などの建物がある場合、相続した空き家を放置し続けていると、空家等対策特別措置法により「特定空き家」に指定される可能性があります。

特定空き家とは、管理不十分により危険・有害だと自治体から指定された空き家のことです。特定空き家に指定されて自治体から勧告を受けると、固定資産税の特例措置を受けられません。

管理不十分な空き家は、害虫の発生や景観の悪化など近隣住民の生活環境に支障をもたらします。

空き家を放置していると近隣住民の迷惑になるだけでなく、固定資産税の増額にもつながるため適切な管理をしましょう。

参照:空家等対策の推進に関する特別措置法|e-GOV法令検索

相続放棄をすることを他の相続人にも伝える

相続放棄したときは、ほかの相続人や親族にも伝えましょう。なぜなら、あなたが相続放棄をしたことで、新たに相続人となる親族が出てくる可能性があるからです。

相続放棄をすると、もともと相続人でなかったとみなされます。もし、相続人である子どもが全員相続放棄をすると、被相続人の両親が相続人となります。

民法で定められている相続順位は、以下の通りです。

  • 第一順位:子ども
  • 第二順位:両親(直系尊属)
  • 第三順位:兄弟姉妹

被相続人の配偶者は、常に相続人です。

当初の相続人が相続放棄したとしても、家庭裁判所から相続順位の繰り上がりのお知らせは届きません。新たに相続人になった事実を知る機会がないため、相続放棄した旨をほかの相続人や親戚に伝えましょう。

「相続の順位」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

相続放棄しなくても土地を手放すことはできる

土地を相続したくない場合でも、相続放棄するかどうかは慎重に判断しましょう。

なぜなら、相続放棄をすると預金や有価証券などのプラスの財産を相続する権利を失うためです。さらに、一度相続放棄の手続きをすると撤回することはできません。

ご紹介したように、土地を相続をしてから手放す方法はたくさんあります。

著者紹介

安持まい(ライター)

執筆から校正、編集を行うライター・ディレクター。IT関連企業での営業職を経て2018年にライターとして独立。以来、相続・法律・会計・キャリア・ビジネス・IT関連の記事を中心に1000記事以上を執筆。

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本記事の内容は、記事執筆日(2023年11月15日)時点の法令・制度等をもとに作成しております。最新の法令等につきましては、専門家へご確認をお願いいたします。万が一記事により損害が発生することがあっても、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。

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