山林や農地などの土地を相続したら?手続き・書類・費用、評価方法を徹底解説

公開日:2023年4月14日|更新日:2023年5月1日

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遺産相続した際に、とくに大きな割合を占めるのが土地などの不動産。

その中に、実家などの建物やその土地であればよく耳にしますが、「農地や山林」が含まれていたとしたら、どのような対応を取ればいいのでしょうか?

こちらの記事では、山林や農地などの土地を相続における「困った」を解決に導く方法を紹介します。

土地の相続とは?

不動産相続は、土地・建物・土地の敷地内にある石垣や立木などが含まれます。また、土地の相続は大別すると2つに分けられ、居住用の建物が建つ、または建物の敷地のために使用される土地(宅地)か、そうではない土地(山林や農地など)のいずれかです。

土地はどちらかに分類されるかが、土地の評価方法にも大きな影響を及ぼし、さらに、「土地が宅地に転用できるかどうか」が評価額を決定する上での大きなポイントになります。

そもそも、土地を相続したら法務局で行う名義変更手続きである「相続登記」と、「相続税の申告納税」という2つが必要な手続きになります。とくに、後者の「申告納税」では、不動産を含めた遺産総額を把握するために、土地評価額を自分で計算しておくことが求められます。

それでは、山林や農地がどのような基準で定義されているのか、またどのような種類があるのかを解説していきます。

家などの「不動産の相続」について、さらに詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

山林は3種類:住宅地からの距離が関係する

「山林」とは、不動産登記事務取扱手続準則にて、「耕作によらないで竹木の育成する土地」と定義されています。つまり、人工的に肥料を施したり耕作によらずに、自然に樹木や竹が生育されている状態の土地であるといえます。

山林がどのような環境にあるかによって3種類に分けられます。どれに分類されるかで、山林の評価額が宅地からの影響を受けるかどうかも決定します。

  1. 純山林
  2. 市街地山林
  3. 中間山林

1つ目が「純山林」。林業経営が主な目的であり、市街地から遠く離れた場所に位置している山林です。宅地への転用が見込めないため、純山林の評価は宅地の影響をほとんど受けません。

2つ目が「市街地山林」。市街化区域にあり住宅地に隣接している山林。宅地に転用できる可能性があるため市街地山林の評価額は、近隣にある宅地の評価額の影響を受けます。土地活用の可能性が一番高いといえます。

3つ目が「中間山林」。読んで字のごとく純山林と市街地山林の中間に位置する山林。市街地付近や別荘地帯付近にあり、評価方法は純山林と同じです。ただし、純山林よりも評価倍率が高いので、売買価格の水準が純山林よりも高くなるのが中間山林の特徴です。

なお、国税庁が発表している「倍率表」では、それぞれの「純=純山林、比準(市比準)=市街地山林、中=中間山林」という略字表記が、山林の列に記載されています。

農地は4種類:転用許可の有無が影響大

「農地(農用地)」とは、耕作目的の土地のこと。農地法では「土地に労費を加えて、肥料などを与えて(肥培管理して)作物を栽培する土地」と定められています。現在は耕作していなくても(休耕地、不耕作地であっても)、いつでも耕作できる土地であれば農地に区分されます

注意点として挙げられるのが、農地であるかどうかは土地登記簿の「地目」で決定されないということ。つまり、登記簿上に記載されている土地の主な用途である「地目」が宅地や山林であっても、農地法の定める「現に耕作の用に供されている限り」、その土地は農地とみなされるということです。

ただし、宅地の一部を耕作している「家庭菜園」や学校などの教育目的の農園は、農地として独立していないため、農地に区分されません。

山林の評価方法と同様に、田んぼや畑といった農地の場合もその種類を確認します。建物を建てられる「宅地」に転用(農地以外への用途に変更)できるかの基準も踏まえて、農地は次の4種類に分類されます。

  1. 純農地
  2. 中間農地
  3. 市街地農地
  4. 市街地周辺農地

1つ目が「純農地」。農用地区域内にあり宅地の評価額の影響を受けず、宅地に転用することが困難な状態です。

2つ目が「中間農地」。都市近郊にある農地で、売買価格は純農地よりも高い水準にあり、宅地に転用できる可能性があります。

3つ目が「市街地農地」。簡単にいえば、市街化区域内にある農地のことです。他にも、農地法に規定されている農業委員会からの「転用許可」を、すでに受けているなどの条件を満たせば、市街地農地に分類されます。

4つ目が「市街地周辺農地」。農地など以外への転用が許可されている地域にありますが、まだ転用の許可が受けていない農地です。また、市街地農地ほどではないですが、宅地化の傾向が強い農地とみなされています。

なお、国税庁が発表している「倍率表」では、それぞれの「純=純農地、中=中間山林、比準(市比準)=市街地農地、周比準=市街地周辺農地」という略字表記が、田または畑の列に記載されています。

山林や農地の相続手続き・必要書類・評価方法

山林や農地を実際に相続した後のイメージ

山林や農地は相続した後の必要となる手続きの流れや書類なども、共通している部分があります。さらに、評価方法についても基本的に国税庁が発表している「倍率方式」による点でも共通点があります。

したがって、山林や農地の共通点を交えながら、相続手続きや必要書類、そして評価方法について解説していきます。

山林や農地の相続手続きと必要書類

山林や農地の相続手続きでは、宅地などの一般的な不動産相続の手続きとほぼ同じです。以下のような流れで、相続手続きを行います。

  1. 不動産の評価・相続人の調査
  2. 必要書類の収集
  3. 遺産分割協議書の作成
  4. 法務局での相続登記
  5. 税務署への相続税の申告納税
  6. 関係各所への届出

山林や農地の相続手続きは(1)~(5)までは同じです。<(2)必要書類の収集>において、共通して必要となる公的書類は、死亡した人や相続する人の戸籍謄本や住民票などです。おおむね以下のような書類が必要です。

<一般的な必要書類>

  • 登記申請書
  • 相続関係説明図
  • 死亡した人の出生から死亡までの戸籍謄本一式
  • 死亡した人の住民票除票(または戸籍除附票)
  • 相続人に関する戸籍謄本
  • 相続人に関する住民票(または戸籍除附票)
  • 遺言書または、遺産分割協議書相続人全員分の印鑑登録証明書
  • 固定資産評価証明書
  • 委任状(代理権限証書)
  • 届出書
  • 登記事項証明書

ただし、上記の必要書類は相続方法によって必要となる書類が異なるので注意が必要です。さらに、相続登記が義務化されたため、法務局での名義変更(登記申請書の提出)も忘れずに行わなければなりません。

<(6)関係各所への届出>は、相続したのが山林と農地かで取るべき対応が異なります。山林の相続では市区町村役場に「所有者届出書」「その山林の土地の位置を示す図面」、そして「登記事項証明書」などの提出が必要です。一方で、農地の相続では農業委員会へ「農業委員会が指定する届出書」「登記事項証明書」などの提出が必要となります。

なお、山林と農地の相続ともに申請期限があります。山林を相続した場合、「市区町村長への届け出」の申請期限は、「相続開始(土地の所有者となった)日から90日以内」に各種書類を提出しましょう。農地を相続した場合だと、自分が相続した農地を管轄する農業委員会の「届出」の提出期限は「相続開始を知った日から10か月以内」です。

山林・農地を相続した際の共通する注意点は、届出の提出期限が過ぎると「10万円以下の過料」に処せられる可能性があることが挙げられます。

「不動産相続の手続き」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

山林や農地の評価方法

前述の通り、山林や農地の評価方法は、主に市街地にある宅地の評価額を導き出す「路線価」ではなく、市街地から離れた地域の土地評価の計算に用いられる「倍率方式」に基づいて評価額を導き出します。

「相続した不動産の評価」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

ただし、倍率方式によるかどうかは、相続した山林や農地がどの種類に区分されるかによります。さらに、土地活用が期待できる宅地や市街地に近い場合、または隣接する場合は、宅地の土地評価額を考慮して計算するのが原則となっています。

山林と農地の分類を踏まえた上で、それぞれの評価方法について解説します。

<山林の評価方法は2種類だけ>

山林は「純山林」「市街地山林」「中間山林」の3つに分類されますが、山林の評価方法は2種類しかありません。

3つの分類の内、「純山林」と「中間山林」は同じ計算方法です。次のような倍率方式によって評価額を算出します。

純山林・中間山林の相続税評価額=固定資産税評価額 × 倍率

一方で、「市街地山林」は原則として「比準方式」で評価額を算出します。

市街地山林の相続税評価額=山林を宅地とした場合の評価額-造成費

市街地山林は宅地に近い場所にあります。そのため、山林を宅地であると仮定して、そこから山林から宅地に転用する際に発生する「造成費」を控除して、評価額を求めます。

ただし、「市街地山林」が所在する区域が、倍率方式の区域に該当する場合は「純山林」と「中間山林」と同じように倍率方式で評価額を算出します。

自分が相続した山林がどれに区分されているのかは、国税庁ホームページにて公開されている「評価倍率表(財産評価基準)」をご確認ください。

参考:国税庁「第4節 山林及び山林の上に存する権利

<農地の評価方法は3種類>

農地は4種類に分類されますが、評価方法は3種類となっています。「純農地」と「中間農地」は同じ計算方法であり、次のような倍率方式によって計算します。

純農地・中間農地の相続税評価額=固定資産税評価額 × 倍率

「市街地農地」は、「宅地比準方式」または純農地などと同様に「倍率方式」により評価額を算出します。宅地比準方式の場合は、次のような計算方法です。

市街地農地の相続税評価額=(農地を宅地とした場合の1㎡当たりの価額-1㎡当たりの造成費)× 地積

市街化区域内にある市街地農地は、宅地の影響を受けるため、まずは農地を宅地と仮定した上で、1㎡あたりの価額を算出します。そこから、1㎡あたりにかかる造成費を控除して、地積(土地の面積)を乗じることで、「市街地農地の相続税評価額」を算出します。

「市街地周辺農地」は、「市街地農地」にて算出した評価額を2割引きしたものになり、次の通りです。

市街地周辺農地の相続税評価額=市街地農地とした場合の価額 × 80%

「純農地」と「中間農地」は評価額の計算方法は簡単ですが、残りの「市街地農地」と「市街地周辺農地」はやや煩雑に感じるかもしれません。

いずれにしても、農地の評価額を計算するためには、国税庁ホームページに公開されている「評価倍率表(財産評価基準)」の情報が必要です。自分が相続した農地の区分と倍率などをご確認ください。

参考:国税庁「No.4623 農地の評価

山林や農地の相続手続きで発生する費用や税金

山林や農地などの土地の相続手続きは必ず行政手続きなどが絡んでくるため、何かしらの費用や税金が発生すると考えおきましょう。

発生する費用と税金を、大別してまとめると以下の通りです。

  1. 書類の取得費用
  2. 専門家への報酬費用(代行依頼手数料)
  3. 税金(登録免許税、相続税など)

上記の費用や税金について、順番に解説していきます。

書類の取得費用

山林や農地の相続で必要となる書類の取得費用は以下の通りです。

証明書名1通あたりの取得費用
戸籍謄本450~750円
住民票または住民票除票200~300円
戸籍の附票、戸籍の除票300~400円
印鑑登録証明書200~300円
固定資産評価証明書300~400円
登記事項証明書480~600円

上記の「書類の取得費用」の合計は3000円程度で、相続登記で法務局に提出する書類がほとんどです。また、死亡した人や相続人分が必要となり、各自治体で発行手数料は異なるため、上記の取得費用はあくまでも目安です。

さらに、コンビニエンスストアなどに設置されているコピー機などのサービスを利用すれば、ほとんどのケースで市町村役場の窓口で請求するよりも安く済みます。

固定資産評価証明書は毎年発行される証明書です。複数枚手元にある場合は、必要となる証明書の発行年度を間違えないように注意しましょう。

山林や農林といった土地の相続では、建物が建つ宅地などの相続とは異なり、市区町村役場や農業委員会に「登記事項証明書」を追加で届け出る必要があります。相続人は忘れないように注意しましょう。

専門家への報酬費用(代行依頼手数料)

山林や農地の相続手続きは、行政書士などの専門家に代行依頼ができます。専門家に代行依頼した場合、その分の報酬費用が発生します。

専門家への報酬費用の具体例を、行政書士に依頼したときの代行依頼手数料を見てきましょう。「遺産分割協議書」の作成は平均すると約6万8000円、「森林の土地の所有者届出」では約7万9000円の費用が発生します。遺産分割協議書は遺言書がない場合や、法定相続分に従わずに相続する場合に必要となります。

また、山林や農地でも名義変更を行わなければなりません。「相続登記」は士業の中でも、司法書士しか依頼できません。司法書士に支払う報酬は、相続登記の代理業務の他にも、代行してもらう範囲により変動します。戸籍謄本等の書類収集や遺産分割協議書の作成などを含めると、その分報酬が高くなります。

司法書士が受任する頻度が高い一般的な相続登記のケースでは、司法書士にどのくらいの報酬が発生するのでしょうか? 司法書士への報酬金額について、関東地区を例に挙げると全体の平均値は約6万6000円、報酬金額の幅は約3万9000円~10万3000円となっています。

司法書士や行政書士などの専門家に依頼するかどうか、専門家への報酬費用も考慮した上で判断しましょう。

出典:日本行政書士連合会「報酬額の統計」、日本司法書士連合会「報酬アンケート結果(2018年(平成30年)1月実施)

発生する税金は3種類

山林や農地に限らず、不動産相続では名義変更に際して「登録免許税」が発生します。登録免許税額は山林・農地ともに、固定資産税評価額の「0.4%」に相当します。

登録免許税を算出するためには、前述した「固定資産評価証明書」は必須。不動産相続した年度やその年度の倍率方式を確認して、土地の評価額を間違えないように注意しましょう。

山林や農地の相続では、遺産総額が相続税の基礎控除額を超えた場合に「相続税」が発生する可能性があります。ただし、亡くなる3年前(※1)に贈与(生前贈与)があった場合は、相続財産の課税価格にその贈与額分が加算され、相続税の課税対象となるので注意しましょう。これを「生前贈与加算」といい、贈与するときに支払った贈与税額が、相続税額から控除される(差し引かれる)仕組みとなっています。

なお、相続して山林や農地を所有すると、その後「固定資産税」が所有者に課せられます。一般的に、固定資産税の課税額は「固定資産税評価額 × 1.4%」で算出されます。山林や農地は、通常の土地よりも固定資産税評価額が低い価格になることが多いです。しかし、宅地の近い距離にある、または建物が建ち宅地化される予定がある場合は、高くなる傾向があるため注意しましょう。

(※1)令和6年以降、生前贈与の加算期間は3年から7年に変更される予定です

山林や農地を相続する、放棄する以外の活用方法

山林や農地の土地活用のイメージ

実際に、山林や農地が遺産の中に含まれていると発覚した際に、相続人が遠方に住んでいたり、死亡した人と同様に農地の耕作などを引き継ぐことが困難なケースがあります。

こうなると相続を選択すると「土地を管理して、同じ作業を行う」か、または相続して(相続放棄をして)しまうかの二択を考えてしまうかもしれません。

しかし、相続するか相続放棄をするか以外にも土地活用するという選択肢は残されていますメインとなるのが、相続した山林や農地を「売却・貸出・経営」して土地活用すること。それでは、具体的にどのような土地活用が残されているのかを掘り下げて解説します。

相続した山林の土地活用の方法

相続した山林の土地活用の方法は、主に6つが考えられます。

  1. 近隣の山所有者・林業従事者への売却
  2. 林業従事者・林産物業者・地方自治体に貸出
  3. 建築資材置き場などの保管場所として貸出
  4. キャンプ場などのレクリエーション施設の開業
  5. 太陽光発電の用地として開発
  6. 産業廃棄物処理施設の用地として貸出

一番手っ取り早いのが、相続した山林を山林業者に売却してしまうこと。売却先が見つからないときは、森林組合の力を借りて、売却先を斡旋(あっせん)してもらうこともできます。

森林を伐採する「林業従事者」や、きのこ類を販売したり、タケノコの採取ツアーなどを行う「林産物業者」に貸出するのも、有効な土地活用手段の一つ。林業従事者に貸し出すと、当然ながら森林が伐採されてしまい、貸し出す前の状態に戻るまでは相当な期間が必要となる点には注意してください。また、「地方自治体」に貸出契約が成立できたら、固定資産税の減額のメリットが見込めます。

山林という広い空間自体を保管場所として活用する方法もあります。たとえば、建築資材置き場やトランクルーム置き場としてであれば、初期費用や管理の手間もかからず、そのまま山林を土地活用して賃料を得ることができます。

最近では、アウトドアがブームになったり、都心を離れた自然の中で息抜きをしたいと考えたりする人も一定数います。そのため「レクリエーション施設」として、山林を土地活用する方法があります。土地を整理し「キャンプ場」や「ハイキングコース」などを開業するのも土地活用として有効でしょう。他の土地活用では、エアソフトガンで撃ち合って勝敗を決める「サバイバルゲーム」のフィールドとして利用料を得るのも一つです。

山の斜面を利用して、日照時間が長く、南向きなどの立地条件が整っていれば、「太陽光発電」のために用地を開発する土地活用もあります。電気業者に売電することで収入を継続的に得られるメリットがあります。ただし、太陽光発電だとパネル設置などの初期費用が高くなり、費用の回収にも年月を要してしまうデメリットも忘れてはいけません。

その他に考えられる土地活用は、産業廃棄物処理施設の用地として貸出すること。住宅地から一定の距離があることが前提条件であり、郊外にある山林地帯であり重機などが通過できると土地活用が望めます。しかし、廃棄物の埋め立ては土地の汚染にもつながるため、他の用途への転用が非常に難しくなるというデメリットがあります。

相続した農地の土地活用方法

相続した農地は、農地以外の用途(地目)に転用ができるか、できないかが分岐点となります。というのも、農地法により農用地区域と定められている場合などでは、農地転用が原則不許可であり、基本的に農地以外の土地活用ができないためです。

それでは農地転用ができるケースと、できないケースに分けて解説していきます。

<農地転用ができないケース>

農地以外に用途に「農地転用」ができないケースだと、次のような農地の土地活用があります。

  1. 市民農園の開設
  2. 農家民宿の開設
  3. 農地集積バンクに貸出
  4. 農家・農業生産法人に売却

農地は、農地として貸し出す場合は農地法の許可が原則必要ですが、貸し農園や観光農園といった「市民農園」であれば、許可が不要なので土地活用がしやすいでしょう。市民農園には、手続きが簡素な「農園利用方式」の他にも「市民農園整備促進法」「特定農地貸付法」によるものがあります。利用者に貸し付けるか、農作業をしてもらうなどの目的別、または施設の条件別に、こちらの3つのいずれかを選択します。

農地の近くに自宅や空き家があれば、それらを活用してスタートできるのが「農家民宿」。旅行者に対して営利目的で宿泊施設を提供するため、旅館業法の許可などが必要です。ちなみに、似た言葉である「農家民泊」は、「住宅宿泊事業法」に定める届出を行い、非営利目的で行うため異なるものです。180日の営業日数制限がある民泊とは異なり、「農家民宿」だと365日営業ができます。

「農業集積を目的とした賃貸」では、「農地を農地として貸し出す」土地活用があります。農地集積バンク(農地バンク)と通称呼ばれる「農地中間管理機構」が、全国農地の情報を集約化し、農地所有者と農業経営者(貸し手と借り手)をつなぐ仲介サービスを実施しています。

「農地中間管理機構」とは、農林水産省が設立した公的機関であり、各都道府県に1つの団体や法人が指定されています。面倒な手続きとして、耕作目的で売買や貸し借りに関して農地法に規定されている「3条許可」を得る必要がありますが、「農地集積バンク」に貸し出すことで、日本農業への貢献が期待できます。

農地のまま売却することもできますが、売却先は農家・農業生産法人に限られます。というのも、農地法第3条によって規定された厳しい要件を満たしている必要があるためです。

参考:農林水産省「農地中間管理機構

<農地転用ができるケース>

農地以外に用途に「農地転用」ができるケースだと、次のような農地の土地活用があります。

  1. 賃貸マンションやアパートの経営
  2. 高齢者向け施設の経営
  3. 営農型太陽光発電として活用
  4. 駐車場の経営
  5. 建築資材置き場などの保管場所として貸出
  6. 農地バンクに貸出
  7. 不動産会社へ売却

農地を売却する場合、農業委員会の審査、許可が必要です。農地を宅地に転用してから売却するのであれば農地法に関する一切の制限はありません。

「賃貸マンションやアパート」として土地活用すると、定期的な家賃収入が見込まれます。しかし、近隣に商業施設や病院などの人が集まりそうな地域かどうか入念な調査が必要です。農地周辺に静かな自然が広がり、ある程度の広さがある立地であれば、高齢者向け施設を建設して土地活用する方法があります。このような建物を建てる場合は、いずれにせよ大規模な施設を建築する必要があるため、初期費用がかなり発生するため投資費用を回収するための計画性も重要だといえます。

山林と異なり、農地は平地であることが多いため、「駐車場の経営」として土地活用することもできます。

また山林同様に「建築資材置き場などの保管場所として貸出」、「営農型太陽光発電として活用」ことも可能。山林の太陽光発電と少し異なるのは、「“営農型”太陽光発電」であるということ。「営農型太陽光発電」だと、太陽光を農業生産と発電の2つで共有する仕組みが採られています。具体的には、農地に支柱を立てて、上部空間に太陽光発電設備を設置しているなどの相違点があります。

転用した農地を売却したいときは、農地売買に強い不動産会社に仲介してもらいましょう。

山林の土地活用が見込めないときは?

先ほど解説したいずれの土地活用も見込めない場合は、相続放棄やその他サービスや制度を利用して、山林を手放す方がよいでしょう。相続した農地や山林はそのまま所有していても固定資産税が発生するため、相続人の生活を圧迫する材料になりかねません。

「相続放棄」の場合は、山林や農地といった“一部の遺産だけ”を放棄することはできませんので注意してください。相続放棄された遺産は、最終的には国の資金を管理する「国庫」に帰属します。とはいえ、相続放棄の詳細については、専門家に依頼・相談して手続きを進めた方が安心でしょう。

ちなみに、令和5年4月に「相続土地国庫帰属制度」が開始しましたが、山林や農地の場合の認定要件が厳しく、さらに審査手数料や負担金(処分費用)が発生します。そのため、相続した山林や農地を手放すのは難しいとされているため、同制度の活用は慎重に検討すべきでしょう。

「相続放棄とは何か?」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

「相続放棄の方法」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

《比較》山林や農地の生前贈与と相続。両者の違いは?

遺産に山林や農地といった土地が含まれることが明確であれば、山林や農地を生前贈与で受け取るケースと相続するケースが考えられます。

端的にいえば、自分が所有する財産を相手に渡すタイミングが生前であるか(生前贈与)、死後であるか(相続)ということ。

この場合、相続財産を渡すタイミングが、死後か生前でどのように違ってくるのか特徴を解説します。

山林や農地を“生前贈与”するケース

「生前贈与」とは、受け取る側の合意がある前提で、生前に自分の財産を相手に贈与する行為。山林や農地を生前贈与する場合では、次のような特徴があります。

  • 財産を渡す人やタイミングを選べる
  • 認知症などの対策になる
  • 遺産分割協議でのトラブル回避になる
  • 短期間で手続きが完了する

贈与行為自体が、受け取る相手との合意が形成されている状態です。生前贈与では自分が渡したいときに渡せ、すでに贈与が完了しているのが魅力の1つ。認知症などで自分の判断能力が低下する前に、自分が渡したい相手に確実に財産を渡せます。

さらに、生前贈与で財産の引き渡しが完了していることから、遺産分割協議の際に「誰が土地(山林や農地)を相続するか」という相続人同士のトラブル回避も期待できます。

生前贈与では、1つの財産に対してのみの贈与行為であるため、山林であれば山林に関する手続きのみで済むため相続よりも手続きが少なく、短期間で終了します。

なお、農地に限り、贈与する人と贈与される人の要件を満たせば、「贈与税の納税猶予特例」を受けられることがあります。さらに、この特例では贈与する人または贈与された人が亡くなった場合、贈与税が免除されるため農業従事者にとって手厚い待遇が受けられるのも特徴です。

参考:農林水産省「農地を生前一括贈与した場合の課税の特例 (贈与税納税猶予制度)

「生前贈与」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

山林や農地を“相続”するケース

財産の所有者が死亡することで財産が渡される「相続」では、次のような特徴が挙げられます。

  • 固定資産税の税率が低い
  • 不動産取得税が発生しない
  • 基礎控除額が多い
  • 特例や控除で節税対策になる

相続の特徴として挙げられるのが、生前贈与よりも固定資産税の税率が低いこと。山林や農地を受け取る際に名義変更を行います。その際の登記費用となる「登録免許税」は、生前贈与だと固定資産税評価額に「2.0%」を乗じますが、相続だと「0.4%」と低く済みます。さらに、不動産取得税についても生前贈与の場合は課税されますが、相続なら不要です。

非課税枠となる基礎控除額にも差があります。相続税だと「3000万円+600万円 × 法定相続人の人数」で基礎控除額が導き出されます。一方で生前贈与に課税される贈与税の基礎控除額は、年間で基本的に110万円です。このように税金面で見ると、相続と生前贈与では一定の差が生じるといえます。

なお、生前贈与と同様に、農地の相続でも要件を満たせば、「相続税の納税猶予特例」を受けられます。免除についても、生前贈与とほぼ同じで、相続人の死亡や相続人がさらに生前一括贈与をした場合などに納税が免除されます。つまり、農業を辞めない限りは、事実上、納税猶予というよりも「納税免除」に近い内容といえます。

ここまで解説したように原則として、生前贈与と相続ではどちらがお得になるという決定的な違いはありません。あくまでも、受け取る山林や農地の評価額や受け取る人の要件で変わってきます。さらに、細かなケースでは専門家に依頼して個別に相談することをオススメします。

「相続税」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

参考:農林水産省「農地を相続した場合の課税の特例 (相続税納税猶予制度)

土地活用を念頭に、山林や農地は相続しよう

山林や農地といった建物が建つ可能性が低い土地の相続は、そうではない土地(宅地化されている、または宅地化の可能性がある土地)と比較すると、評価方法も手続きも変わってきます。山林や農地を相続した際は、手続きの流れなど全体像を理解することが先決です。

また、山林を相続した場合は、相続開始から90日以内が手続きの期限であるため、他の手続きとも調整しながらスピーディーに行わなければなりません。

相続しても経済的に負担になるようであれば、相続放棄も有効な手段の1つです。相続して土地活用が望めそうであれば、山林や農地の評価額や周辺地域を調査して、しっかりと有効に活用すべきでしょう。

山林や農地が思わぬ資産形成に役立つ可能性もゼロとは言い切れません。「宝の持ち腐れ」にならぬように、自分たちだけでは対応できない際は、土地活用について専門家に依頼・相談してみることをオススメします。

著者紹介

相続プラス編集部

相続に関するあらゆる情報を分かりやすくお届けするポータルサイト「相続プラス」の編集部です。相続の基礎知識を身につけた相続診断士が監修をしております。相続に悩むみなさまの不安を少しでも取り除き、明るい未来を描いていただけるように、本サイトを通じて情報配信を行っております。

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本記事の内容は、記事執筆日(2023年4月14日)時点の法令・制度等をもとに作成しております。最新の法令等につきましては、専門家へご確認をお願いいたします。万が一記事により損害が発生することがあっても、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。

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