民法で定められた遺産相続できる人のことを法定相続人といいます。こちらの記事では、こちらの記事では、法定相続人になれる親族はどこまでの範囲かなど「法定相続人」の範囲や順位について図・表を用いてわかりやすく解説します。将来の相続に備えて、法定相続人の基礎知識をしっかり理解しておきましょう。
目次
法定相続人とは?その範囲や相続順位と相続割合
死亡した人の財産を相続する権利(相続権)は、民法(法律)で規定されています。言葉の意味を1つずつ説明したうえで、民法で定められている「相続権を得られる親族の範囲、相続権の順位、そして各相続人が遺産相続できる割合」を解説します。
法定相続人とは、法律で相続できる権利を与えられた人
法定相続人とは、「法定相続」の権利を持つ人を指します。「法定相続」とは、死亡した人の相続財産(遺産)を民法で定められた通りに相続することです。法定相続に従った各相続人の取り分を「法定相続分」と呼びます。つまり、法定相続人の取り分は、原則「法定相続分」通りになります。法定相続人は遺産を相続しなくても、法定相続分を相続する権利を持つ権利者である「法定相続人」と呼べます。
また、法定相続人と似ている言葉に「推定相続人」というものがあります。「推定相続人」とは、現時点で、ある人が死亡したと仮定したときに、相続人になることが推定される相続人を指します。「推定」という言葉がつくのは、まだ相続が発生していない(死亡していない)ためです。
たとえば、現時点で夫が亡くなったと仮定したとき、妻が法定相続人(相続人)になりますが、今後、離婚する可能性もゼロではありません。このように「民法で定められている相続できる順番や親族の範囲からみて、現時点では法定相続人(相続人)になるだろう」と推定される人物に対して使用されます。
さらにもうひとつ、「法定相続人」と似た言葉に「相続人」があります。「相続人」は実際に遺産相続した人という意味の言葉です。「法定相続人」が相続人となることが多いですが、法定相続人が相続放棄する場合も考えられるため、必ずしも「法定相続人」と相続人が同じになるとは限りません。
法定相続人・推定相続人・相続人の意味について、まとめると次の通りです。
- 法定相続人:民法で定められた相続分に従って相続できる人
- 推定相続人:法定相続人、または相続人になる可能性がある人
- 相続人:実際に遺産を相続した人
【図解】法定相続人の範囲
法定相続人として民法で定められているのは、死亡した人の配偶者(妻・夫)と、自分と血のつながりがある血族です。また、配偶者においては、民法で「配偶者は常に相続人となる」(民法890条)と定められています。そのため、相続人が複数いたとしても必ず遺産を取得できる権利を有します。
それでは、配偶者以外の親族を含めた法定相続人の範囲を見ていきます。法定相続人になれる親族の範囲は、下記の画像の通りです。
法定相続人になれる親族は、次の通りです。
- <配偶者>夫・妻
- <直系卑属>子ども・孫・ひ孫など
- <直系卑属>父母・祖父母・曾祖父母(そうそふぼ)など
- <傍系血族>兄弟姉妹・姪(めい)甥(おい)
配偶者・直系卑属・直系尊属・傍系血族に含まれる親族を1つずつ見ていきましょう。
<配偶者:夫や妻>
「配偶者」とは、戸籍上(法律上)の婚姻関係にある者を指し、一般的には妻や夫を指します。ただし、離婚して戸籍から抜けてしまうと、その離婚した相手はもはや法定相続人ではなくなり相続権が発生しません。また、籍を入れずに夫婦同然の生活をしている、いわゆる事実婚状態と呼ばれる「内縁の妻・夫、パートナー」は配偶者とみなされません。
<直系卑属:子ども・孫・ひ孫など>
「直系卑属」は、子ども・孫・ひ孫などの自分より下の世代が該当します。
まずは、「子ども」について細かく見ていきましょう。法定相続人として相続権が認められる「子ども」とは、主に次の3つです。
- 実子(嫡出子):婚姻関係が成立している男女の間に生まれた子ども(一般的にはその父と母と血縁関係がある)
- 養子:親子間で血縁関係はないものの養子縁組をして、法的に親子関係が成立している子ども
- 胎児:母親のお腹の中にいてまだ生まれていない子ども
他にも、法定相続人になるのか迷ってしまいそうな「離婚した相手との子ども」「婚外子(非嫡出子)」「連れ子。」「血縁関係」と「法的手続き」が大まかな判断基準になるので、順番に解説していきます。
「離婚した相手との子ども」は「実子」であるため、離婚した親の法定相続人になります。「離婚した相手との子ども」は、父と母の血縁関係があり、かつ父と母が婚姻関係にある状態で生まれています。そのため、両親が離婚しても「実子」であることに変わりないため、離婚した両親に対しての相続権を持つのです。
一方で、婚姻関係にない男女の間に生まれた「婚外子(非嫡出子)」については、母親と父親により条件の有無があります。婚外子は、母親の法定相続人には無条件でなれますが、父親については父親から「認知」を受けないと法定相続人になれません。「認知」とは、簡単にいえば、「その子どもが、自分の子どもである」と法的に認める行為です。認知することで戸籍上に父親の名前が記載され、法的な親子関係が成立するため相続権を得られます。
もし結婚する際に、結婚相手に「連れ子」がいた場合、自分と血縁関係がないため連れ子には相続権が認められません。しかし、連れ子と自分との間で養子縁組をすることで、「養子」として親子関係が法的に成立するため、連れ子も相続権を得ることができます。
次に、孫やひ孫が相続できるケースについては、2種類あります。1つは、子ども(孫の親)が亡くなり、その子どもの相続権を継承する「代襲相続人」になった場合です。直系卑属では、代襲相続権は下の世代に継承されていくため、孫が亡くなっている場合は、その孫の子どもであるひ孫が代襲相続権を継承します。代襲相続人以外で相続できるもう1つのケースは、孫やひ孫が死亡した人と養子縁組していた場合が該当します。
<直系尊属:父母・祖父母など>
「直系尊属」は、血のつながりのある自分の父母や祖父母といった自分より上の世代、つまり「先祖にあたる人」を指します。相続する順番は父母、そして父母(両親)が亡くなり祖父母が存命の場合は祖父母が相続人に、という具合に徐々に上の世代にさかのぼっていきます。
また、血縁関係がなくても、養子縁組をしていれば、養子縁組をした親「養親」も直系尊属に含まれます。たとえば、配偶者の父母や祖父母(義理の父母や祖父母)を例に挙げます。配偶者の父母や祖父母は姻族関係はありますが、血縁関係はないため通常は直系尊属には含まれません。しかし、養子縁組をしていると親子関係が法的に成立し「直系尊属」に含まれるため、「配偶者の父母や祖父母」も法定相続人になるということです。
<傍系血族:兄弟姉妹・姪・甥など>
法定相続人になれる「傍系血族」とは、血のつながりのある自分の兄弟姉妹、その兄弟姉妹の子どもである姪(めい)甥(おい)が当てはまります。傍系血族で相続する順番は兄弟姉妹、そして兄弟姉妹がすでに亡くなっている場合、その子どもである姪・甥が代襲相続で相続権を有しています。
なお、法定相続人になれる「傍系血族」では、代襲相続は一代限りしか発生しません。そのため、姪・甥が死亡し、その姪・甥の子どもが再代襲相続することはありません。直系卑属・直系尊属では相続権が下や上の世代に移るのが複数回、傍系血族では下の世代に一回限りということです。
法定相続人の相続順位
ここまで法定相続人になれる親族の範囲を紹介しましたが、法定相続人であれば必ずしも相続できる、というわけではありません。なぜなら、相続には「相続順位」が存在しているからです。法律で定められた相続できる順番に従って、相続できる人(相続人)が優先的に決定されます。
相続財産(遺産)を取得できる相続順位は以下の通りです。
法定相続人 | 順位 |
---|---|
被相続人の配偶者(夫・妻) | 常に相続人 |
被相続人の直系卑属 (子ども、孫、ひ孫など) | 第1順位 |
被相続人の直系尊属 (父母、祖父母など) | 第2順位 |
被相続人の傍系血族 (兄弟姉妹、姪・甥) | 第3順位 |
配偶者は常に相続人になるため、相続順位を考慮する必要がありません。配偶者以外の子ども、父母、兄弟姉妹といった法定相続人には順位が存在しているため、自分よりも順位が上の人がいる場合、法定相続人とならないため、遺産を取得できません。順位が上の相続人(先順位者)は、順位が下の相続人(後順位者)よりも優先して遺産相続できます。
たとえば、死亡した人の家族構成が「妻・子ども・父」というケースを見てみると、この中で実際に相続する「法定相続人」になれるのは「妻・子ども。」父は子どもよりも相続順位が下なので、遺産相続できません。
一方で、死亡した人の家族構成が「妻・父・兄」だったケースでは、この中で、法定相続人になれるのは「妻・父」です。父は兄よりも相続順位が上なので、遺産相続できるということです。このように法定相続人になれる者には範囲があり、その範囲内で法律で定められた相続順位に従って法定相続人が決定されます。なお、推定相続人も法定相続人と同様の相続順位・範囲で決定されます。
法定相続人が相続できる遺産割合
配偶者は常に相続人になるため、他の法定相続人(血族)との組み合わせが発生します。さらに、相続人同士の組み合わせに応じて、誰がどのくらい遺産相続できるかという「法定相続分」も法律で決まっています。配偶者を軸に、他の法定相続人との組み合わせに応じた法定相続分をまとめると下記の通りになります。
法定相続人の 組み合わせ | 配偶者の 法定相続分 | 組み合わせ相手の 法定相続分 |
---|---|---|
<第1順位> 配偶者と直系卑属 (子ども、孫、ひ孫など) | 2分の1 | 2分の1 |
<第2順位> 配偶者と直系尊属 父母、祖父母など) | 3分の2 | 3分の1 |
<第3順位> 配偶者と傍系血族 (兄弟姉妹、姪・甥) | 4分の3 | 4分の1 |
なお、同じ順位の続柄が複数いるときは、法定相続分をその人数で等分します。
法定相続人でも相続権利がない3つのケース
法定相続人であっても相続権を失うケースが存在します。「死亡した人(被相続人)が父親で、相続人が子ども」という組み合わせを例に挙げて、相続する権利がなくなる3つのケースを解説します。
1:相続放棄(自分の意思で放棄する)
「相続放棄」とは、子どもが自らの意思で父親の遺産を相続しないことを選択する行為。相続放棄をする理由のひとつに、父親が多額の借金をしていたことなどが挙げられます。相続人が相続放棄するためには、「自己のために相続の開始を知った日」から「3か月以内」に家庭裁判所に必要な手続きを完了しなければなりません。
2:相続欠格(法的・強制的に奪われる)
子どもが父親を殺害した、または自分に遺産がわたるよう詐欺や脅迫行為で遺言書を作成させたなどの重大な違法行為があった場合は「相続欠格」に該当します。父親の生前に遺した意思とは関係なく、子どもは相続する資格(相続権)を強制的にはく奪され、遺産相続する資格自体を失います。
3:相続廃除(相手の意思により奪われる)
相続欠格と同様に、相続人から相続資格をはく奪する制度が「相続廃除」です。「子どもに相続させたくない」という父親の生前に遺した意思が尊重されます。「相続廃除」が適用される条件は、相続欠格ほどの重大な違法行為までとはいかないが、相続資格を認めるべきではない事由があったとき。
たとえば、父親が子どもから虐待を受けたり、重大な侮辱を加えたり、著しい非行行為があったりした場合などが挙げられます。なお、相続欠格とは異なり、相続廃除は父親の意思に基づいているため、いつでも取り消しが可能です。
法定相続人に影響する8つのケース
死亡した人と相続人の関係性は各人の事情もあり、実にさまざまです。法定相続人に含まれるかどうか、そもそも相続財産(遺産)を受け取れるのか判断に迷うケースを紹介、解説します。
1.法定相続人≠内縁の夫(妻)との子
内縁関係とは、戸籍上の婚姻関係ではないが、お互いに婚姻の意思を持ち、事実上、夫婦同然の生活をしている関係のこと。事実婚とも呼ばれます。内縁関係にある男女に生まれた子ども(婚外子)は、原則として法定相続人にはなれません。ただし、父親が婚外子(非嫡出子)を「認知」した場合は法定相続人になるため、実子と同等の法定相続分を相続する権利が与えられます。
2.法定相続人=胎児も子ども
母のお腹にいてまだ生まれていない胎児も、法定相続人として認められます。胎児には法律上の権利・義務の主体となる「権利能力」が認められていませんが、相続に関しては例外的に相続権が認められています。(民法886条)
3.法定相続人=代襲相続の孫・養子縁組の子
死亡した人の孫やひ孫は原則として、法定相続人にはなれません。ただし、子ども(孫から見ると親)が亡くなり、その子どもの相続権を継承した「代襲相続人」であれば、死亡した人の孫やひ孫は法定相続人になれます。また、死亡した人と血縁関係がなくても、死亡した人と養子縁組していた場合、その子どもは法定相続人になれます。
4.基礎控除などの計算に含められる養子の人数には制限がある
相続税が発生するかのボーダーライン「基礎控除額」や、死亡保険や死亡退職金などの「非課税枠」の計算において、実子であれば法定相続人に含められる人数に制限はありません。一方で、養子は基礎控除などの計算に含められる人数に制限があり、実子がいる場合は1人まで、実子がいない場合は2人までです。このように養子の人数制限が、「法定相続人数」で計算が変動する「基礎控除額」や「非課税枠」に大きく影響してしまうことに注意を払っておきましょう。
5.法定相続分より「遺言書」が最優先される
法定相続人であるからといって、必ずしも法定相続分に従って遺産を相続するわけではありません。遺産分割の方法には優先順位があり、それに従って遺産分割が行われます。遺産相続方法の優先順位は次の通りです。
- 遺言書
- 遺産分割協議
- 法定相続分
遺産が法定相続分に従って遺産分割される条件は、遺言書がなく遺産分割協議も発生しないときです。遺言書が最優先であるということは、原則として遺言書に書かれている「死亡した人(遺言者)が生前に遺した意思」が、遺産分割協議や法定相続分よりも法的に優先(尊重)されるということです。
また、このとき遺言書で財産を相手に渡す「遺贈」を行う人のことを「遺贈者」と呼びます。一方で、遺産を受け取る(遺贈される)人のことを「受遺者」と呼びます。受遺者は、法定相続人以外の人物でも、または会社や団体などの法人でも問題ありません。遺贈者の意向を色濃く反映し、指定できるのが特徴です。
受遺者は、遺産を受け取る(遺贈される)方法によって2種類のいずれかに分類されます。財産を特定せずに、遺産のすべてや遺産の3分の1などの一定の割合を指定して、遺贈を受ける「包括受遺者。」もうひとつが、遺産割合ではなく、特定の財産で遺贈を受ける「特定受遺者」です。
「受遺者」と法定相続人は、遺産を受け取るという点で法定相続人と似ていますが、受遺者と法定相続人には明確な違いがあります。受遺者は、自分の子どもなどに権利が継承される「代襲相続」がなかったり、他の相続人が遺産を相続放棄してもその分の遺産が増えず、遺言書通りの財産しか受け取れなかったりなどが挙げられます。
6.法定相続人の相続遺産は「遺留分」で最低限保障される
前の段落にて、遺言書の内容通りに遺産分割が行われると説明しましたが、例外があります。
それは遺言書が、「法定相続人に『遺留分』を下回る遺産を相続させる」という内容だった場合です。「遺留分」とは、法定相続人に最低限保障されている遺産の取り分のこと。そのため、遺産分割が特定の相続人に偏っており、自分の相続分が遺留分を下回り侵害されている遺言書の内容だった場合、相続人は遺留分侵害額請求権を行使して、自分の相続分を取り戻せる可能性があります。
「遺留分」について詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
7.寄与分や特別寄与料が認められる場合
相続人や親族が被相続人の生前に介護などを行い、被相続人の財産の維持・増加に貢献したと認められた場合には寄与分や特別寄与料が請求できます。
請求が認められた場合、相続財産から金銭を請求することができます。
8.特別受益の持ち戻しが行われる場合
特別受益とは、複数の相続人がいるなか一部の相続人だけが被相続人から受け取っていた利益のことです。たとえば、3人の相続人がいるなか、1人、ないし2人だけが生前贈与で多額な資金援助を受けていた場合などに「特別受益があった」といいます。
相続人のだれかだけが生前に財産を受け取っているにもかかわらず、それを無視して遺産分割をすると不公平です。そのため、特別受益を考慮し「特別受益の持ち戻し」を行って遺産分割することができます。
その結果、受益者の相続分が減り他の相続人の相続分が増えるため、相続時の法定相続分と実際に相続する割合が変わってくる場合があります。
パターン別の相続順位と遺産相続の割合
亡くなった人の血縁関係が複雑で、相続人候補が複数いる場合、誰が法定相続人になるのか迷ってしまいますよね?実際に複数の相続人で遺産相続を行う場合、法定相続人の組み合わせはさまざまなパターンが考えられます。遺言書を遺さずに夫が亡くなったと仮定して、12のパターンに分類して相続順位と相続できる遺産割合を解説していきます。
パターン1:妻と長男、次男の子ども2人
妻は遺産全体の2分の1、長男は4分の1を相続できます。次男がすでに死亡していたとき、次男の子ども2人が代襲相続人となり、遺産の相続権(遺産全体の4分の1)を有します。さらに、遺産全体の4分の1を子どもの人数で等分した割合が、次男の子どもそれぞれに割り振られる法定相続分になります。
<遺産相続できる割合>
妻:2分の1
長男:4分の1
次男の子どもA:8分の1
次男の子どもB:8分の1
パターン2:妻と子ども、夫の両親
配偶者は常に相続人になるため、妻は相続人です。しかし、夫の両親の相続順位は、「子ども(直系卑属)」よりも下に位置しているため相続人になれません。したがって、「配偶者である妻と子ども」が相続人になり、法定相続分の遺産相続をすることができます。
<遺産相続できる割合>
妻:2分の1
子ども:2分の1
夫の両親:なし
パターン3:妻と子ども、胎児
母親のお腹にいる胎児にも、子どもと同様に相続権が認められているため、「直系卑属の相続分」を子どもと胎児の2人で分割します。
<遺産相続できる割合>
妻:2分の1
子ども:4分の1
胎児:4分の1
パターン4:妻と夫の兄弟姉妹、夫の甥(姪)
夫の両親と夫の妹はすでに死亡しており、夫の兄は存命。また、夫の妹に、子ども(夫から見たら甥または姪)がいるパターンを見てみます。妻は遺産全体の4分の3を取得できます。その残り4分の1に関しては、夫の兄と夫の甥(姪)で遺産を等分します。「夫の妹」が有していた相続権は「夫の甥(姪)」に継承され、夫の兄と夫の甥(姪)は同等の相続権を得るためです。
<遺産相続できる割合>
妻:4分の3
夫の兄:8分の1
夫の甥(姪):8分の1
パターン5:妻と実子1人、養子2人
妻と実子1人、養子2人と養子縁組をしていたとします。養子の人数は、相続税の基礎控除額における法定相続人の計算に影響しますが、遺産相続に関してはそのまま実子と養子は変わらず継承できます。遺産全体から妻の遺産相続分を差し引いた分を、実子と養子をあわせて等分したもの、子どもたち3人の遺産割合です。
<遺産相続できる割合>
妻:2分の1
実子:6分の1
養子A:6分の1
養子B:6分の1
パターン6:妻と養子1人、養子に出した実子1人
養子縁組には2種類あります。まず、「普通養子縁組」であれば実子を養子に出しても、実親との親子関係が完全に解消されないため、実親の遺産を相続する権利を有します。
<遺産相続できる割合>
妻:2分の1
養子F:4分の1
養子に出した実子:4分の1
もう1つの「特別養子縁組」の場合は、実親との親子関係が消滅してしまいますので、実親の遺産を相続する権利はなくなります。
パターン7:妻と娘、婿養子
「婿(むこ)養子」とは、妻との結婚などを機に妻の両親と養子縁組をして、妻側の姓を名乗る男性。一方で、似た言葉である「婿」は、養子縁組をせずに妻側の姓を名乗る男性です。養子縁組しているかが大きな違いです。養子縁組している場合、婿養子は自分と妻の両親から相続権を有することが可能になります。
<遺産相続できる割合>
妻:2分の1
娘:4分の1
婿養子:4分の1
パターン8:子どもと相続廃除(相続欠格)された子ども
自分の父親の生前の意思により相続資格をはく奪され「相続廃除」を受けた子ども、もしくは、父親に対して重大な違法行為があり「相続欠格」に該当した子どもには相続権が存在しません。
<遺産相続できる割合>
子ども:すべて
相続廃除(相続欠格)された子ども:なし
パターン9:妻と、相続放棄した子どもの子
子どもが死亡した父に対して「相続放棄」した場合は、その子どもの子(夫から見た孫)に相続権が継承されません。
<遺産相続できる割合>
妻:すべて
相続放棄した子ども:なし
相続放棄した子どもの子:なし
パターン10:内縁の妻と内縁の妻との子ども
戸籍上の婚姻関係にない内縁の妻は法定相続人になれません。しかし、内縁の妻との間に生まれた子ども(婚外子)は、その父親が「認知」した場合に限り、法定相続人になれます。
<遺産相続できる割合>
内縁の妻:なし
認知した内縁の妻との子ども:すべて
ただし、内縁の妻の連れ子だった場合は、夫との法定相続人になれず相続権を有しません。相続権を有するのは、配偶者以外だと、あくまでも血族にあたる関係者。たとえば、父母や祖父母などの直系尊属、子どもや孫などの直系卑属、そして兄弟姉妹などの傍系血族です。したがって、内縁の妻の連れ子は血族にあたらないため、原則として相続権はありません。ただし、父親と養子縁組をすることで、連れ子にも相続権が発生します。
パターン11:妻と子ども、妻と前夫との子ども
再婚した妻との間にできた子ども以外に、再婚した妻が前夫との間にできた子ども(連れ子)がいた場合。再婚して婚姻届けを出しただけでは、再婚した妻と前夫との間にできた子ども(連れ子)には相続権が発生しません。再婚した妻と、再婚した妻との子どもに相続権が発生します。
<遺産相続できる割合>
再婚した妻:2分の1
再婚した妻との子ども:2分の1
再婚した妻と前夫との子ども:なし
原則として連れ子に相続権はありませんが、連れ子が相続できる方法があります。死亡した父親と養子縁組してもらう、または父親からの遺言書を作成してもらうことで、連れ子にも相続権が発生することがあります。
パターン12:妻と子ども、愛人と愛人との子ども
愛人関係とは、一般的に「交際相手が既婚者であると知ったうえで交際を続けている不倫関係」を指すことが多いです。「婚姻届が未提出で戸籍上は配偶者ではない、事実婚のような状態」である内縁関係とは、意味が異なります。
愛人との間に生まれた子どもは、認知されなければ夫の相続人にはなれません。認知されると、妻との間に生まれた子どもと同等の法定相続分を有します。ただし、愛人には相続権が原則として発生しません。
<遺産相続できる割合>
妻:2分の1
子ども:4分の1
愛人:なし
愛人との子ども:4分の1
遺産相続トラブルの現状
相続は、親が死んだら誰しもが直面する身近な問題です。テレビドラマや映画で、遺言書の内容や、遺産相続をめぐり親族間で骨肉の争いになる場面を見た方もいらっしゃるのではないでしょうか。「遺産相続トラブルなんて、しょせんフィクションの世界の出来事でしょ?」と思う方もいるかもしれませんが、そうとも限らないようです。
近年の遺産相続トラブルの傾向と、その解決法について見ていきましょう。
遺産相続トラブルは1.3倍と増加傾向
平成12年以降の家庭裁判所で取り扱う遺産分割事件数は、増加傾向にあります。平成12年度、平成22年度、令和2年度に発生した遺産相続トラブル(遺産分割事件)の件数は次の通りです。
- 平成12年度:8889件
- 平成22年度:1万0849件
- 令和2年度:1万1303件
こちらの各年度の件数から見てもわかるように、遺産分割事件数は約20年間で約1.3倍に増加しています。遺産相続トラブル(遺産分割事件)は、近年より身近な家庭問題の1つとなっているのです。
出典:最高裁判所「遺産分割事件数 終局区分別 家庭裁判所|平成12年度/平成22年度/令和2年度」
相続に関するトラブルで困ったら専門家に相談しよう
こうした遺産分割は相続人同士の仲が良いかどうかだけでなく、お金も絡んできます。そのため、相続に関してトラブルになることも珍しくありません。令和6年の税法改正で相続税を取り巻く状況は、今後も目まぐるしく変化する予定です。
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遺産は財産分与に含まれる?
法定相続人が遺産分割を行う際に、耳にするのが「財産分与」という言葉。財産を分ける手続きの際に用いられる似た言葉ですが、まったく別の意味を持つ言葉です。どのような意味を持つのか、「財産分与」という言葉について解説します。
財産分与とは「離婚相手に財産の分与を請求すること」
財産分与とは、どのような意味なのでしょうか?法務省では以下の通り定めています。
離婚をした者の一方が他方に対して財産の分与を請求することができる制度です。※引用:法務省|財産分与
このように財産分与とは、夫婦の共同で所有していた財産を離婚の際にそれぞれに分配することをいいます。
相続財産は、財産分与の対象にならない!
死亡した人が所有していた財産には、相続財産(遺産)の対象に含まれる財産と含まれない財産が存在します。
夫婦の財産を分類すると、「共有財産」と「特有財産」の2つになります。「共有財産」とは、婚姻中に夫婦が協力して築き上げ、所有していた財産。夫婦共同名義で購入した不動産や自動車、家財、銀行口座などが共有財産に含まれます。
一方で、「特有財産」とは、夫婦の協力とは無関係に取得した個人だけに帰属する財産のこと。たとえば、婚姻前(独身時代)から所有していた現金や預貯金などの財産、別居後に取得した財産、そして親などから無償で取得した住宅資金や「遺産」などです。したがって、財産分与の対象となるのは「共有財産」のみで、特有財産は財産分与の対象とはなりません。
〈こぼれ話〉日本と海外で異なる相続制度
死亡した人の財産を、他人に継承させる「相続制度」は、日本に限らず海外にも存在しています。相続制度の枠組み自体はほぼ共通していますが、各国で相続そのものに対する根本的な考え方が異なっているため、各国で比較してみるとさまざまな違いが見受けられます。日本と比較したときに、海外の相続制度はどのように違うのかを解説していきます。
アメリカの相続制度:州ごとに法定相続分が異なる
アメリカの相続制度における法定相続分の定義が、州ごとに異なっている場合があります。連邦制を採用しているアメリカでは、すべての州に共通して適用される「連邦法」と、各州毎に独自に適用される「州法」が併存しているためです。
その一例として、ハワイ州とカリフォルニア州で「死亡した人(被相続人)に子どもがなく、配偶者と親がいる場合」の相続を比較してみます。ハワイ州では「遺産額が20万ドルを超えた場合、20万ドル分とそこから控除した残りの遺産額の3/4を配偶者が、残り1/4を親が相続する」と規定されています。他方で、カリフォルニア州では、共有財産か特有財産かで遺産相続分を細分化しており、「共有財産の100%を配偶者が相続。特有財産の1/2を配偶者が、残りの1/2を親が相続する」とされています。
日本では、日本国内であればどこに住んでいても、法定相続分の定義は当然変わりません。しかし、アメリカでは州ごとに適用されている法律の影響が強いため、このような違いが生じるのです。
韓国の相続制度:相続は第4順位まで、配偶者に手厚い
日本のお隣の国である韓国では、相続順位が第1順位から第3順位まではほとんど日本と同じ内容で規定されていますが、相続順位の数が異なっています。韓国では、死亡した人の4親等以内の傍系血族(おじ、おば、甥、姪など)が、相続順位の「第4順位」として位置づけられています。
さらに、第3順位である「兄弟姉妹」に関しても、日本と韓国では若干の差があります。遺された血縁関係者に「兄弟姉妹と配偶者」がいた場合を比較すると、日本では「配偶者と兄弟姉妹」がそのまま相続人になりますが、韓国では「配偶者のみ」です。韓国では、死亡した人(被相続人)の兄弟姉妹が相続人になれるのは、配偶者がいないことが条件になります。
相続順位をより広い範囲で定義し、配偶者が法定相続人の組み合わせに及ぼす影響力などで韓国と日本で違いが見受けられます。
フランス・ドイツの相続制度:相続人が日本よりも守られている
最後に、相続放棄についてフランスとドイツを比較して見ましょう。フランスでは3か月40日の申告期限を過ぎた後でも、遺産に負債が発覚すれば相続放棄が認められます。ドイツでは、相続が発生する前に相続放棄の契約ができる制度が存在しています。日本では何も手続きせずに放置していると、相続人に自動的に相続されるような制度設計になっているため、相続人が守られるための救済措置が整っているという点で大きな違いがあります。
法定相続人の理解は「相続人の把握」につながります
相続が発生した際に、相続人の把握は非常に重要です。遺言書があれば、基本的に遺言書の内容に従って相続財産は分割されますが、遺言書がないとそうもいきません。
誰が法定相続人となるのか理解しておかなければ、正しく相続財産(遺産)を分割できません。さらに、相続税の基礎控除額などの非課税枠にも影響します。
相続人数の間違えが後になって発覚すると、遺産分割と各人が負担する相続税計算をやり直すことになり、面倒な事態を引き起こす原因にもなりかねません。相続手続きをスムーズに進めるためにも、法定相続人の基礎知識をしっかりと身に着けておくとよいでしょう。