相続登記の原本還付とは?返却可能な書類や請求の流れ、注意点をまとめて解説

公開日:2024年1月17日

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相続登記における原本還付とは、提出した書類の原本を手続き完了後に返却してもらえる制度です。

相続が発生した際、金融機関での名義変更や相続税申告などの相続手続きをしなければなりません。原本還付を活用すれば、必要書類を別の手続きでも使えます。

本記事では、相続登記で原本還付可能な書類や請求方法、注意点についてまとめて解説します。これから手続きをする方は、ぜひ参考にしてください。

相続登記における原本還付とは

相続登記における原本還付とは、原本とそのコピーを一緒に提出して書類の原本を返却してもらう制度です。法務局が原本とコピーを照らし合わせ、コピーの内容が正しいことを確認できれば原本を手元に戻してもらえます。

不動産の相続登記をする際、遺産分割協議書や戸籍謄本、住民票、印鑑証明などの原本を登記申請書と一緒に提出します。これらの書類を発行するためには市区町村役場で取得手続きをしなければなりません。

相続をする際、相続登記以外の手続きにおいても戸籍謄本や住民票の原本を求められるケースは多く、そのたびに新しく取得すると大変です。そこで、原本還付をすれば、一度提出した原本が手元に戻ってきます。

相続登記以外の手続きで遺言書や戸籍謄本、住民票などの原本の提出が必要な場合に有効活用できます。

相続登記で原本還付請求をするメリット

相続登記で原本還付請求をするメリットは、主に2つあります。

  • 証明書取得にかかる手間と費用を削減できる
  • 証明書類を手元に残せる

それぞれのメリットを詳しく知って、原本還付を活用しましょう。

証明書取得にかかる手間と費用を削減できる

原本還付をすれば、戸籍謄本や住民票、印鑑証明などの証明書取得にかかる手間と費用を削減できます。

相続の手続きは、相続登記だけではありません。預貯金・有価証券などの解約・名義変更や相続税の申告には、同様の証明書の提出が求められます。そのたびに市区町村役場へ書類を取得しに出向くには、時間と労力がかかります。

もちろん、1部ごとに発行手数料も支払わなければなりません。たとえば、住民票の取得には300円前後の取得費用がかかります。5つの相続手続きをすると仮定したとき、単純に5倍の1500円がかかります。

しかし、手続きが終わったあと原本が手元に戻ってくるのであれば、取得した書類を何度も使うことができ、取得費用を大幅に節約することが可能です。

証明書類を手元に残せる

遺言書や遺産分割協議書などは、再発行ができない唯一無二の書類です。そのため、原本還付請求をしておかなければ、他の相続に関する手続きができなくなるため注意しましょう。

また、すべての相続手続きが完了したあとであっても、数年後に税務調査が入ったり相続争いが起こったりする可能性は否定できません。トラブルを解決するための重要な証拠書類となるため、遺言書や遺産分割協議書を手元に置いておく必要があります。

相続登記で原本還付される書類とされない書類

相続登記では、原本還付される書類とされない書類があります。あらかじめ書類の種類を確認しておき、原本還付できる書類はできるだけ制度を利用しましょう。

原本還付で原本を返却してもらえる書類

相続登記で原本還付してもらえる書類は、以下の通りです。

  • 戸籍謄本等
  • 住民票
  • 印鑑証明書
  • 遺産分割協議書
  • 遺言書
  • 固定資産評価証明書

これらの書類は、他の相続手続でも原本の提出を求められるケースがあります。原本還付請求することをおすすめします。

原本還付ができない書類

原本還付ができない書類は、以下の通りです。

  • 登記申請書
  • 委任状
  • 相続関係説明図

登記申請書と委任状は、相続登記のためだけに必要な書類であるため戻ってきません。

また、相続関係図は、戸籍謄本の原本還付を受けるための書類です。本来であれば戸籍謄本をすべてコピーして提出する必要がありますが、戸籍謄本の量が膨大になるとコピーが大変です。

戸籍謄本等のコピーの代わりとして相続関係説明図を提出するため、原本還付はできません。

不動産相続の手続き」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

 

相続登記で原本還付請求をする方法と流れ

相続登記で原本還付請求をするには、原本を返してほしい書類の原本にコピーを添付して提出しましょう。しかし、提出方法にも一定のルールがあるため、詳しく解説します。

相続登記で原本還付請求をする流れは、以下の通りです。

  • 原本還付を受けたい書類をコピーする
  • コピーした書類を順番に並べてホチキスで綴じる
  • すべてのページの継ぎ目に契印をする
  • 先頭部分に署名・捺印をする
  • 登記申請書や原本と一緒に提出する
  • 登記完了後に原本を受領する

詳しく確認し、法務局に原本還付請求をしましょう。

原本還付を受けたい書類をコピーする

まず、原本還付を受けたい書類のすべてのページをコピーしましょう。このとき、縮小や拡大はせず、原寸大でコピーしましょう。

相続関係説明図を提出すると戸籍謄本等のコピーは不要

相続関係説明図を提出すれば、戸籍謄本等のコピーは必要ありません。

相続登記では、被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本や相続人の戸籍謄本が必要です。相続手続きのたびに膨大な量のコピーをすることは大変なため、相続関係説明図を作成しておくと重宝します。

ただし、相続関係説明図がなくてもすべてのページのコピーと一緒に提出すれば戸籍謄本等の原本還付も受けられます。

コピーした書類を順番に並べてホチキスで綴じる

コピーした書類は、以下の順番に並べましょう。

  1. 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本
  2. 遺言書または遺産分割協議書
  3. 遺産分割協議書を提出する場合、印鑑証明書
  4. 被相続人の住民票除票または戸籍附票
  5. 申請者の住民票
  6. 固定資産評価証明書

相続関係説明図を提出する場合、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本のコピーは不要です。もちろん、原本還付が不要な書類は飛ばしましょう。

書類を順番に並べたら、長辺左側の上部と下部の2か所をホッチキスで綴じます。

すべてのページの継ぎ目に契印をする

すべてのページの継ぎ目に契印をします。

契印とは、複数枚にわたる書類が連続した文書であることを証明するために、両ページにまたがって1つの印鑑を押印することです。契印があれば、ページの順番の正確性を証明できるうえに、差し替えや抜き取りの防止もできます。

契印には、登記申請書に押印した印鑑と同じものを使いましょう。

先頭部分に署名・捺印をする

ホッチキスで綴じたコピー書類の1番上の余白部分に「この写しは、原本と相違ありません」と記載します。文言と一緒に、相続登記の申請人の署名・捺印をします。

捺印には、申請書に押印した印鑑と同じものを使いましょう。

登記申請書や原本と一緒に提出する

登記申請書や原本と一緒に提出するために、以下の順番に書類を並べましょう。

  1. 登記申請書(原本)
  2. 収入印紙貼付台紙(原本)
  3. 相続登記の委任状(原本)
  4. 相続関係説明図(原本・あれば)
  5. コピー書類の束
  6. 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本(原本)
  7. 遺言書または遺産分割協議書(原本)
  8. 遺産分割協議書を提出する場合、印鑑証明書(原本)
  9. 被相続人の住民票除票または戸籍附票(原本)
  10. 申請者の住民票(原本)
  11. 固定資産評価証明書(原本)

書類の数が多いため、バラバラにならないよう大きなクリップでまとめて提出しましょう。

登記完了後に原本を受領する

登記完了後、原本を返却してもらえます。

原本還付は、法務局の窓口で受け取るか、郵送で受け取るか選択できます。郵送で受け取りたい場合は、申請書に「送付の方法により原本還付書類の返却を希望します」との記載が必要です。申請書提出時に切手を貼った返信用封筒を添付しておきましょう。

相続登記における原本還付の注意点

相続登記における原本還付の注意点のイメージ

相続登記で原本還付請求をする際、以下の3つのポイントに注意しましょう。

  • 原本還付は申請時に申し出る
  • 申請書提出後すぐに原本は返却されない
  • 委任状を提出する際には原本還付についての記載を忘れない

あらかじめ理解しておかなければ、あとから後悔することになりかねません。順番に確認しましょう。

原本還付は申請時に申し出る

原本還付は登記申請時に申し出ましょう。申請書を提出したあとに、原本還付を受けたいと申し出ても原本は返却されません。他の相続手続きに使うのであれば、再度書類を取得する必要があります。

原本還付を希望するのであれば、登記申請をするときに忘れずに行いましょう。

申請書提出後すぐに原本は返却されない

登記申請書を提出したあとすぐに原本を返却してもらえないため、注意しましょう。原本が返却されるタイミングは、登記完了後です。

一般的に、申請から登記完了までにかかる期間は10日程度です。法務局の混み具合や、書類の不備・漏れの状況によっては、それ以上かかってしまう場合もあります。

登記手続きが完了するまで原本が手元に戻ってこないため、他の相続手続きを進められない点に留意しましょう。原本を確認できないことで不具合が起きないよう、自分用の控えとしてコピーを残しておくと安心です。

委任状を提出する際には原本還付についての記載を忘れない

申請者本人でなく、司法書士や他の相続人などに申請を代理してもらう場合、委任状が必要です。原本還付請求をするのであれば、委任状にも原本還付に関する事項の記載を忘れないようにしましょう。

委任状には、代理人に相続登記の申請をする権限を付与する旨を記載します。しかし、この権限には原本還付の請求や受領が含まれていません。

「原本還付請求および、受領に関する一切の件」と補足的な内容を委任状に含めることで原本還付請求に関する手続きの権限も付与できます。

記載を忘れると代理人では原本還付請求と受領ができないため、注意しましょう。

相続登記の委任状」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

郵送による原本還付は返送用の封筒と切手が必要

郵送での原本還付を請求する場合、必要な金額の郵便切手を貼った返送用封筒を一緒に提出しましょう。

返信用封筒は書類が一式入る大きさのものを選び、事前に返信先の住所・氏名をしておきます。また、速達を希望する際には、その費用についても郵便切手で提出します。

あらかじめ、郵便局の公式サイトから必要な郵便切手の料金を確認しておきましょう。

相続登記の原本還付を活用して費用や手間を削減しよう

相続登記を申請する際、原本還付請求をすれば登記完了後に書類の原本が返却されます。遺産分割協議書や遺言書などは原本還付請求をしないと、他の相続手続きができなくなるため必ず忘れないようにしましょう。

登記簿謄本や住民票なども原本還付を活用すれば、取得にかかる手間や費用を削減できます。可能な限り制度を活用しましょう。

原本還付請求を含め、間違いのない相続登記手続きをしたいのであれば司法書士や弁護士などの専門家への依頼もおすすめです。相続登記に関する疑問や不安を解消してくれるため、まずは相談してみましょう。

著者紹介

安持まい(ライター)

執筆から校正、編集を行うライター・ディレクター。IT関連企業での営業職を経て2018年にライターとして独立。以来、相続・法律・会計・キャリア・ビジネス・IT関連の記事を中心に1000記事以上を執筆。

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本記事の内容は、記事執筆日(2024年1月17日)時点の法令・制度等をもとに作成しております。最新の法令等につきましては、専門家へご確認をお願いいたします。万が一記事により損害が発生することがあっても、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。

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