相続登記(不動産の名義変更)に遺産分割協議書は必要?

公開日:2023年12月8日

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不動産を相続する場合、相続登記が必要です。

相続登記では手続きにさまざまな書類が必要になり、遺産分割協議書も添付するのが一般的です。ただし、遺産分割協議書は必ず必要というわけではなく不要なケースもあります。

この記事では、相続登記と遺産分割協議の関係性と必要・不要なケースについて詳しく解説します。

遺産分割協議書と相続登記

遺産分割協議書とは、遺産を誰がどのように相続するか決める遺産分割協議の結果を書類にしたものです。また、相続登記とは不動産を相続した際に、不動産の名義を被相続人から相続人に変更する登記のことを言います。

相続が発生した際の流れとともに、遺産分割協議書と相続登記について確認していきましょう。相続が発生すると、遺産の相続の仕方は次の2通りになります。

  • 遺言にしたがって相続
  • 遺産分割協議で相続割合を決める

遺言のある相続の場合、遺言書が優先されるため遺言書の内容に沿っての相続となります。
一方、遺言のない相続では、相続人全員で「誰が・どの遺産を・どれくらい相続する」かを話し合って決めることになるのです。この話し合いのことを遺産分割協議と言います。遺言がある相続の場合でも、遺産分割協議により遺言とは異なる内容での相続も可能です。

ちなみに、相続割合で揉めて遺産分割協議で全員の合意が得られない、相続人が協議に参加しないなどで協議が進まない場合は、家庭裁判所による調停や審判が必要になります。

遺産分割協議で相続割合の合意を得られたら、その内容を遺産分割協議書という書面に作成します。遺産分割協議書は必ずしも必要ありませんが、後から相続人の気が変わったなどでトラブルに発展するケースもあるので、基本的には書面に残すことをおすすめします。

相続割合が決まれば相続が終わりではありません。相続割合が決まれば、それぞれの相続人で相続手続きを行っていきます。

不動産や預金口座を相続した人は、被相続人から相続人への名義変更手続きが必要になるのです。この不動産の名義変更のことを相続登記と言います。

相続登記する際には、不動産の情報だけでなく相続人の戸籍などさまざまな書類が必要になります。その必要書類の一つに挙げられるのが、遺産分割協議書です。ただし、遺産分割協議書はすべてのケースで必要ではありません。

必要になるケースと必要でないケースがあるので、どのケースで必要になるかを理解しておくことが大切です。

「相続登記」「遺産分割協議」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

以下では、相続登記で遺産分割協議書が必要になるケースと不要なケースを詳しく解説していきます。

相続登記で遺産分割協議書が必要なケース

相続登記で遺産分割協議書が必要なケースは、主に下記の2つです。

  • 遺言書がない相続
  • 法定相続分と異なる割合で相続する

遺言書がない相続

遺言書のない相続の場合、遺産分割協議で遺産の割合を決め、その決定に従って相続登記を行います。ただし、相続人が1人の場合や法定相続分で相続する場合などは遺産分割協議書の必要はありません。

なお、遺言書があるケースでも遺言書に不動産について書かれていない場合、書かれていない内容は遺産分割協議で分割するため遺産分割協議書が必要です。

法定相続分と異なる割合で相続する

法定相続分とは、法律によって定められている相続割合のことです。相続割合は被相続人と相続人との関係性によって異なりますが、主な相続割合は次のようになります。

相続人相続割合
配偶者と子ども配偶者2分の1・子2分の1
配偶者と直系尊属(父母・祖父母)配偶者3分の2・直系尊属3分の1
配偶者と兄弟姉妹配偶者4分の3・兄弟姉妹4分の1

たとえば、配偶者と子ども2人が相続人の場合、配偶者が2分の1・子どもが4分の1ずつ相続するのが法定相続分にのっとった相続割合です。

法定相続分は、あくまで目安であり必ずしもこの割合で相続する必要はありません。法定相続分と異なる割合で相続する場合は、遺産分割協議を行って遺産分割協議書を作成する必要があり、相続登記でも遺産分割協議書が必要になるのです。

相続登記で遺産分割協議書が不要なケース

相続登記で遺産分割協議書が不要なケースとしては、主に次の4つが挙げられます。

  • 遺言書がある
  • 相続人が1人だけしかいない
  • 法定相続分で相続する
  • 家庭裁判所で調停・審判になる

それぞれ見ていきましょう。

遺言書がある

遺言書がある相続では遺言書にしたがって相続することになり、遺産分割協議自体が必要ありません。相続登記の際には遺産分割協議書に代わって遺言書を提出します。

ただし、公正証書遺言書以外の遺言書の場合、遺言書と一緒に家庭裁判所の検認済み証明書の添付が必要になる可能性があります。

公正証書遺言書以外の遺言書は、勝手に開封すると罰則を科せられる恐れがあるので注意しましょう。

勝手に開封してしまうと他の相続人から偽装や改ざんを疑われ、無効を主張される可能性もあります。遺言書を見つけた場合は、速やかに家庭裁判所に検認の手続きを申請するようにしましょう。

また、遺言書としての形式を満たしていないなどで無効になってしまうと、遺産分割協議が必要となり、相続時に遺産分割協議書が必要になるので注意しましょう。

遺言書がある場合でも、遺言書とは異なる相続割合で相続する場合は遺産分割協議を行い、遺産分割協議書の提出が必要になります。

相続人が1人だけしかいない

相続人が1人だけしかいないのであれば、その人がすべて相続するだけなので話し合いも必要ありません。よって、相続登記時にも遺産分割協議書の提出は不要です。

法定相続分で相続する

法定相続分の割合で分割する場合、遺産分割協議書不要で相続登記が可能です。

家庭裁判所で調停・審判になる

相続人間で分割割合で揉め遺産分割協議で合意できない場合、家庭裁判所での調停を申し立てることになります。調停でも合意できない場合は、さらに審判により遺産分割が決定します。

家庭裁判所の調停・審判で遺産分割について決まった場合、その内容は調停調書や審判書として作成されます。この場合は、調停調書や審判書が遺産分割協議書の代わりとなるのです。

遺産分割協議書の作成方法と流れ

ここでは、遺産分割協議書の作成方法と流れについて解説します。

遺産分割協議書作成までの流れ

まずは、作成までの流れを見ていきましょう。大まかな流れは次の通りです。

  1. 遺言書の確認
  2. 相続人の確定
  3. 相続財産の確定
  4. 遺産分割協議
  5. 遺産分割協議書の作成

遺言書がある場合は、遺産分割協議は不要です。遺言書がない・遺言書に記載されていない遺産がある・遺言書の内容とは異なる相続をしたいといった場合では遺産分割協議を行うことになります。

遺産分割協議を行うにあたって、先に相続人と相続財産を確定させていきましょう。

協議後に新たな相続人が出てきた、相続財産が増えたとなると、遺産分割協議をやり直さなけらばならないので、慎重に確定作業を進めることが必要です。自分たちだけでは確定が難しい場合は、専門家に相談するようにしましょう。

相続財産・相続人が確定したら、相続人全員で遺産分割協議を行います。遺産分割協議で全員の合意を得られれば、内容を遺産分割協議書にまとめていきます。

遺産分割協議の期限はありません。しかし、相続税の納税期限が相続開始から10か月以内のため、それまでに相続手続きを終える必要があります。

できるだけ早い段階で遺産分割協議を終えられるようにしましょう。

作成方法

遺産分割協議書には決まった書式はありません。

インターネットなどで雛形を検索して作成するとよいでしょう。ただし、必要な事項が漏れていると後々トラブルに発展する可能性があるので注意が必要です。

下記の項目は必ず記載するようにしましょう。

  • 被相続人の最後の住所・死亡日・氏名
  • 分割する財産の具体的な内容
  • 相続人全員が合意している旨
  • 相続人全員の住所・氏名・実印での押印

作成は手書き・パソコンどちらでも問題ありません。パソコンで作成する場合でも相続人の住所・氏名部分は自署が必要なので注意しましょう。

遺産分割協議書は、法の知識がない個人が作成するとトラブルになりかねません。特に遺産財産が複雑や相続人間のトラブルの恐れがあるといった場合は、専門家に相談して作成することをおすすめします。

遺産分割協議書の注意点

遺産分割協議書作成の際の注意点としては、次のようなことが挙げられます。

  • 相続人全員の署名・実印が必要
  • 相続財産は正確に記載する
  • 誰がどの遺産を取得するか明確に記載する
  • 相続人が1人1通ずつ保管する

相続財産の記載は不動産の場合は登記簿の通りに正確に記載する必要があります。

他の財産も、預貯金なら銀行名・口座番号まで記載し、どの財産なのか特定できるようにすることが大切です。作成後の遺産分割協議書は全員が保管する義務はありませんが、全員で写しを保管することをおすすめします。

1通しかない場合、相続人それぞれで相続手続きする際に手間がかかるものです。また、保管者による改ざんなどが疑われてしまう恐れもあるので、全員が1通ずつ保管するほうが望ましいでしょう。

令和6年4月からは不動産を相続したら必ず相続登記をしなければならない

令和6年4月からは不動産を相続したら必ず相続登記をしなければならないポイントのイメージ

相続登記は、必ずしなければならないものではありません。しかし、相続登記せずに放置していると売却できない・二次相続時にトラブルになるなどのリスクがあるため速やかに登記することが大切です。

現時点では登記義務はない相続登記ですが、法改正により令和6年4月1日からは相続登記が義務化されました。これにより、令和6年4月以降に不動産を相続した場合、相続から3年以内に登記する必要があります。

正当な理由なく登記しない場合、10万円以下の過料に課せられるので注意しましょう。また、この法改正では令和6年4月以前に相続した不動産も対象となる点には注意が必要です。

すでに相続した不動産で相続登記していない場合、「相続から3年以内」「施行日から3年以内」のいずれか遅い日までに相続登記が必要です。相続登記が済んでいない人は、早めに手続きを進めるようにしましょう。

相続登記を長年放置している場合、登記手続きが煩雑になる恐れがあるため、専門家への相談をおすすめします。

「不動産相続」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

遺産分割協議や相続登記は専門家への相談も検討しよう

不動産を相続した場合、名義を変更する相続登記が必要です。

相続登記では遺産分割協議書が必要なケースがあるため、早めに遺産分割協議を行う必要があります。しかし、遺産分割協議書の作成は必要事項を漏れなく記載しなければ、後々トラブルに発展する恐れがあるので慎重に作成しなければなりません。

法の知識がない人が作成するとミスが発生する可能性があるので、司法書士などの専門家に相談しながら作成することが大切です。

司法書士であれば、遺産分割協議書の作成だけでなく相続登記手続きもサポートしてもらえるので、スムーズな相続登記ができるでしょう。

著者紹介

逆瀬川勇造(ライター)

金融機関・不動産会社での勤務経験を経て2018年よりライターとして独立。2020年に合同会社7pockets設立。前職時代には不動産取引の経験から、相続関連の課題にも数多く直面し、それらの経験から得た知識など分かりやすく解説。【資格】宅建士/AFP/FP2級技能士/相続管理士

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本記事の内容は、記事執筆日(2023年12月8日)時点の法令・制度等をもとに作成しております。最新の法令等につきましては、専門家へご確認をお願いいたします。万が一記事により損害が発生することがあっても、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。

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