現金を手渡しで生前贈与をしてもいい?税務署に指摘されないための注意点

公開日:2023年9月14日

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孫の教育資金や学費、子どもの住宅購入資金など、現金での生前贈与を検討している方も多いのではないでしょうか。

現金を手渡しする場合、税務署からの調査が入ったり生前贈与と認められなかったりとリスクもあるため注意点が必要です。

本記事では、現金で生前贈与する際の税務リスクや注意点について解説します。相続税対策を考えている方や、子どもや孫に支援したいと考えている方は、ぜひ参考にしてください。

生前贈与は現金手渡しは可能だが税金面でのリスクも多く要注意

現金手渡しで生前贈与することは法的に可能です。「現金手渡しだから」という理由でペナルティを受けることはありません。

しかし、多額の現金を贈与するとなると、銀行から引き落とした現金をそのまま手渡しして完了とはならないため注意しましょう。

ここでは、生前贈与を現金手渡しで行う際の法的解釈や税務リスクについて解説します。

現金手渡しでの生前贈与は法的には可能

生前贈与は現金を手渡しでもできます。法的にも問題ありません。

そもそも、生前贈与とは、生きているうちに財産を他の人に譲り渡すことです。亡くなったあと、持っていた財産は法定相続人の間で話し合って決められますが、生きているうちの贈与であれば「譲りたい人」「譲りたいタイミング」「どの財産を譲りたいか」を自身で決められます。

特段、財産を譲る方法については法律で定められておらず、現金で手渡しをしても法的に罰せられることはありません。

「生前贈与」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

生前贈与を現金で行う場合の非課税金額

生前贈与には、通常の贈与と同様に贈与税がかかります。年間110万円までは非課税です。現金であっても現物・振り込みにかかわらず非課税額は変わりません。

ただし、特例や制度を利用すれば110万円以上を非課税で贈与できるうえに、税務リスクも少なく済みます。生前贈与でよく活用される特例や制度は、以下の通りです。

  • 相続時精算課税制度
  • 住宅取得等資金贈与における非課税の特例(令和5年12月31日までの贈与に適用)
  • 教育資金贈与における一括贈与の特例(令和8年3月31日までの贈与に適用)
  • 結婚・子育て資金における一括贈与の特例(令和7年3月31日までの贈与に適用)
  • 配偶者控除(夫婦間での住居の贈与)

これらの特例や制度を利用するには、贈与税の申告が必須です。基礎控除額110万円を超えて生前贈与をする際には、現金手渡しであっても手渡しでなくて申告を忘れないようにしましょう。

「生前贈与の特例や制度」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

税金を安くしたいからと現金手渡しを行うのはリスクしかない

税金を安くしたいからという理由で、現金手渡しで生前贈与をすることはリスクでしかありません。

たしかに、銀行の振り込み記録が残らず、贈与された事実が残らないため「脱税できるかも」と思う人もいるでしょう。しかし、税務署は個人の収入から資産の予測ができます。もちろん、資産の動きの把握も可能です。

たとえば、「預金口座から多額の引き出しがあったが、そのお金はどこに行ったのか」と脱税を疑います。亡くなったあとからでも相続税の脱税がないかをチェックするため、厳しく不自然なお金の流れがないかを確認します。

そのため、記録が残らない現金手渡しであっても、税務調査を受けると脱税の発覚は免れません。

むしろ、故意に隠そうとしてバレたときには重いペナルティがあります。脱税するつもりがなくても当事者以外にはやり取りが不透明です。だからこそ、現金手渡しによる生前贈与には、注意しなければならないことが多いです。

生前贈与を現金手渡しで行うリスク

生前贈与を現金手渡しで行うリスクのイメージ

生前贈与を現金手渡しで行うと、たくさんのリスクを背負うことになります。具体的には、以下の4つのリスクが発生します。

  • 税務調査を誘発する
  • 追徴課税を受ける
  • 定期贈与とみなされる可能性がある
  • そもそも生前贈与と認められない

以上のようなリスクを把握すれば、現金手渡しはやめておこうと思えるでしょう。

税務調査を誘発する

現金手渡しであれば税務署に贈与の事実がバレないと思う人もいるかもしれませんが、贈与税の税務調査は毎年実施されています。

たしかに不動産や振り込みよりは発覚しづらいことは事実です。しかし、税務署は常に個人の資産の動きがわかるよう情報収集していて、使途不明の出費や出どころのわからない収入があると、贈与があったのではないかという仮説が浮上します。

税務署では個人の年収・所得を把握しているため、収入に見合わない出費があれば贈与されたのではないかといった疑いがかかります。

このような疑いが持ち上がると、税務調査を誘発してしまいかねません。税務調査が入ると、あっさり贈与の事実が明らかになるでしょう。

追徴課税を受ける

現金手渡しだと生前贈与の金額が証明できないため、追徴課税を受けるリスクがあります。追徴課税は、申告漏れや脱税など正確な申告をしなかった人に対する行政制裁です。

実際には基礎控除におさまる110万円以下の贈与だったとしても、現金手渡しだとその事実を証明できません。

そのため、税務調査の結果、「基礎控除以上の金額を渡している」「暦年贈与と認めない」とされた場合には、悪意がなくても追徴課税を受ける可能性があります。追徴課税を受けるのは、受贈者です。

追徴課税には、以下の4つの種類があります。

  • 延滞税
  • 過少申告課税
  • 無申告課税
  • 重加算税

それぞれの税金について確認しましょう。

延滞税

延滞税は、期限に遅れて贈与税を納付したときに課される税金です。本来の納付期限の翌日から実際に納付した日までの日数に応じて加算されます。

  • 2か月以内:年2.4%
  • 2か月以後:年8.7%

こちらの延滞税の税率は令和4年1月1日〜令和5年12月31日の期間に適用されます。他の期間は税率が異なるため、ご注意ください。

過少申告課税

過少申告課税とは、正当な理由なしに申告期限までに申告しなかったときに課される税金です。税率は、以下の通りです。

<期限内に申告した額、あるいは50万円のいずれか多い方以下の部分>

税務調査の事前通知から税務調査までの間に申告したとき

  • 平成28年以前:なし
  • 平成29年以降:5%

税務調査を受けてから申告したとき

  • 10%

<期限内に申告した額、あるいは50万円のいずれか多い方を超える部分>

税務調査の事前通知から税務調査までの間に申告したとき

  • 平成28年以前:なし
  • 平成29年以降:10%

税務調査を受けてから申告したとき

  • 15%

税務調査の事前通知を受けるまでに自主的に申告した場合には課税されません。そのため、誤りに気づいたらすぐに修正申告をしましょう。

無申告課税

無申告課税は、贈与税の申告自体を忘れていた場合に課される税金です。本来納めるべき贈与税額に対して課税されます。

無申告課税の税率は以下の通りです。

<平成28年以前>

自主的に申告したとき

  • 5%

税務調査の事前通知から税務調査までの間に申告したとき

  • 5%

税務調査を受けてから申告したとき

  • 50万円以下の部分:15%
  • 50万円超えの部分:20%

<平成29年以降>

自主的に申告したとき

  • 5%

税務調査の事前通知から税務調査までの間に申告したとき

  • 50万円以下の部分:10%
  • 50万円超えの部分:15%

税務調査を受けてから申告したとき

  • 50万円以下の部分:15%
  • 50万円超えの部分:20%

申告期限が平成28年以前か平成29年以降かで税率が異なるため注意しましょう。

重加算税

重加算税は、税逃れのために故意に申告しなかったときに課される税金です。無申告の場合と過少申告の場合で税率が異なります。

<申告期限が平成29年以降で過去5年以内に贈与税で無申告加算税・重加算税を課されたことがある場合>

  • 無申告の場合:50%
  • 過少申告の場合:40%

<上記以外の場合>

  • 無申告の場合:40%
  • 過少申告の場合:35%

追徴課税のなかでもっとも重いペナルティが課されます。

定期贈与とみなされる可能性がある

定期贈与とみなされると、贈与税を払わなければなりません。定期贈与とは、まとまった贈与契約を結んだうえで毎年分割して財産の移動を行うことです。

たとえば、1000万円の生前贈与をすると約束をしたうえで、毎年100万円×10年の分割で渡す場合に定期贈与とみなされます。

定期贈与の場合、毎年の贈与額が基礎控除110万円以下であったとしても、初めに取り決めた贈与額全額に対して贈与税がかかります。さきほどの例だと、一見毎年100万円のため申告が不要のように思えますが、実際には1000万円の定期金が贈与されたとして課税対象は1000万円です。

万が一、数年後に税務調査が入って定期贈与だと指摘されると、遡って申告しなければなりません。延滞税や過少申告課税も課せられるため、余分な税金の支払いを求められます。

そもそも生前贈与と認められない

現金手渡しだと生前贈与した事実を税務署に対して証明できません。相続税について税務調査が行われる際には、個人の預金通帳がチェックされます。多額の使途不明の出金が見つかると、「何に使ったのか」と確認されるでしょう。

このとき「孫に生前贈与した」と事実を説明しても、証拠がないため否認される可能性があります。つまり、生前贈与だと認められず、その額も相続税の対象となってしまうのです。

余分な税金を支払う羽目になってしまうため、証拠が残らない現金手渡しの生前贈与は控える方が無難です。

生前贈与を現金手渡しで行う際の注意点

どうしても生前贈与を現金手渡しで行いたい理由があるのであれば、以下の5つの注意点を理解しておくべきです。

  • 毎年贈与契約書を作る
  • 死亡7年前の生前贈与は課税される
  • 生前贈与を行った証拠を残す
  • 名義預金にしない
  • 定期贈与とみなされないようにする

注意点を確認し、税務リスクを回避しましょう。

毎年贈与契約書を作る

贈与契約書を毎年作成しましょう。贈与契約書は、贈与の事実を証明するための書類の1つです。作成しておけば、税務調査があった際の主張に信ぴょう性を持たせられます。

また、ポイントは贈与を行うたびに作成することです。贈与契約書を作成していなければ、定額贈与とみなされて課税されるリスクがあります。

贈与契約書には法律で定められた形式はありません。個人で作成しても問題ありませんが、以下の内容を必ず盛り込むようにしましょう。

  • 贈与者の氏名・住所
  • 受贈者の氏名・住所
  • 贈与日
  • 贈与財産の種目・内容・金額
  • 贈与の方法
  • 贈与者・受贈者の署名と実印による捺印

パソコン・手書きのどちらで作成しても問題ありませんが、署名や押印だけは自筆することをおすすめします。

死亡7年前の生前贈与は課税される

相続発生から遡って7年間の期間に法定相続人に対して生前贈与をしていた場合、贈与された額を遺産に加算して相続税の計算を行わなければなりません。このように贈与された額を遺産に加算することを生前贈与加算といいます。

そのため、死期が迫ってきたタイミングで相続税を減らすために生前贈与をしても、節税対策になりません。

ただし、相続や遺贈によって財産を取得していない人に対しての贈与は生前贈与加算の対象外です。たとえば、法定相続人が配偶者と息子の2人で、孫が遺贈を受けていなかったら、孫に生前贈与されていても加算されません。

ちなみに、令和5年度の税制改定によって、遡って生前贈与加算する年数が延長されて7年になりました。令和5年12月31日までに贈与された財産に関しては「亡くなる前から遡って3年間」です。実際には令和9年1月1日以降に発生した相続から、生前贈与加算の対象期間が次第に延長されます。

参照:令和5年度相続税及び贈与税の税制改正のあらまし|国税庁

生前贈与を行った証拠を残す

かならず生前贈与を行った証拠を残しましょう。贈与契約書も証拠の1つになりますが、実際に生前贈与がなされたかどうかがわかりません。

金銭の贈与を行う際、1番確実な方法は金融機関への振り込みです。贈与者の通帳にも、受贈者の通帳にも記録が残るため、疑われることはありません。

しかし、何かしらの事情によって現金手渡しの方法で生前贈与するのであれば、以下の方法で証拠を残しましょう。

  • 贈与者は領収書を発行する
  • 受贈者は受け取った現金を即座に金融機関へ入金する

領収書とその控えは、双方ともに贈与契約書と一緒に保管しておきます。万が一、税務調査があった際にも、贈与があった事実を証明しやすくなります。

名義預金にしない

贈与された金銭を入れる口座が名義預金にならないよう注意しましょう。

名義預金とは、親や祖父母が子ども・孫の名義で預貯金をすることです。名義は受贈者になっているものの、実際に管理したり使ったりしている人が親や祖父母であれば、それは親や祖父母の財産であるとみなされます。

受贈者である子どもや孫が預金の存在を知らなかったり、使い方を決められなかったりすると、生前贈与として認められません。そのため、贈与者が亡くなったときに相続税の対象となってしまいます。

また、口座に預金が貯まっていく一方で、使われている形跡がなければ本人が管理せずに、形式だけの名義口座だと判断される可能性もあります。

未成年者の場合には親が代理で管理することとなりますが、もちろん用途は受贈者本人のためのものではくてはなりません。通帳・カードは、受贈者本人か代理人である親が管理し、自由に入出金させるようにして名義預金の疑いがかからないよう対策しましょう。

定期贈与とみなされないようにする

定期贈与と判断されないよう、工夫をしましょう。定期贈与とは、一定期間定期的な給付を行う贈与です。1000万円の贈与を分割して渡していると見做されると、1000万円に対して贈与税が発生します。

一方、似ている言葉に「連年贈与」があります。連年贈与とは、毎年繰り返される贈与です。たまたま毎年贈与を行っていた場合は連年贈与ですが、定期贈与と判断されると余分な税金を支払わなければなりません。

とくに、何年も経過してから定期贈与だとみなされてしまうと、多額の贈与税や追徴課税が発生します。定期贈与と認識されないためには、以下の点に注意して基礎控除を活用してください。

  • 贈与のたびに贈与契約書を作成する
  • 毎年同じ時期に贈与しない
  • 毎年同じ額の贈与をしない

以上のポイントをおさえて、定期贈与と指摘されないように工夫をしましょう。

現金手渡しではなく贈与税の特例制度を利用しよう

税金対策をするために現金手渡しで生前贈与することは控えましょう。税務リスクが高まるため、どうしても現金を手渡ししなければならない理由があるとき以外はおすすめできません。

もし、節税対策をしたいのであれば積極的に特例制度を上手に利用する方が賢明です。

どのように贈与をすれば良いかわからないときには、税金の専門家である税理士に頼ることも検討してみてください。早く相談して長期的に計画を立てれば、贈与税・相続税の対策ができます。

さまざまな角度から税金対策を進めましょう。

著者紹介

安持まい(ライター)

執筆から校正、編集を行うライター・ディレクター。IT関連企業での営業職を経て2018年にライターとして独立。以来、相続・法律・会計・キャリア・ビジネス・IT関連の記事を中心に1000記事以上を執筆。

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本記事の内容は、記事執筆日(2023年9月14日)時点の法令・制度等をもとに作成しております。最新の法令等につきましては、専門家へご確認をお願いいたします。万が一記事により損害が発生することがあっても、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。

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