生前贈与も遺留分侵害額請求の対象になる?対象になるケースとならないケースなど解説

公開日:2023年9月28日

生前贈与も遺留分侵害額請求の対象になる?対象になるケースとならないケースなど解説_サムネイル

相続人の誰かが高額な生前贈与を受けていると、相続時の財産が減少してしまい自分の相続分が減ってしまいます。しかし、生前贈与は遺留分の請求対象となるので、不公平な生前贈与があっても相続分を取り戻せる可能性があります。

ただし、すべての生前贈与が対象とはならないので、何が対象となるのかを理解しておくことが大切です。また、遺留分のことを知らずに生前贈与を受けてしまうと、相続時に遺留分として請求されるケースもあるので、生前贈与の遺留分について理解しておく必要があります。

この記事では、生前贈与の遺留分侵害額請求の対象や注意点・請求された場合の対応を分かりやすく解説します。

生前贈与も遺留分侵害額請求の対象になる

結論から言えば、生前贈与も遺留分侵害額請求の対象となります。

生前贈与として特定の誰かに高額な贈与があった場合、相続財産が少なくなり不公平な相続になってしまう可能性があります。そのような場合、遺留分侵害額請求をすることで相続財産を取り戻すことが可能です。

具体的には、遺留分の対象となる相続財産に生前贈与の額をプラスすることで、遺留分侵害額請求の額を大きくできるのです。ただし、すべての生前贈与が遺留分侵害額請求の対象となるわけではありません。

遺留分侵害額請求ができるかどうかは、いつ・誰に生前贈与されたのかが重要になるのです。

遺留分侵害額請求権とは

そもそも「遺留分」とは、法定相続人の生活を守るため必要最低限相続できる財産のことを言います。

遺言などで遺留分を侵害された法定相続人は、侵害された額を侵害した相続人に対して請求が可能です。この侵害額請求をする権利のことを、遺留分侵害額請求権と言います。

「遺留分侵害額請求」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

生前贈与とは

生前贈与とは、その名の通り生前中に行われる贈与のことを言います。

被相続人の財産を譲り渡すという点は同じですが、相続が死亡後に行われる財産の継承であるのに対し、生前贈与は生前中に行われる贈与という点が異なるのです。

生前中に財産を減らすことで相続税の節税が見込めることから、相続税対策としても活用されています。ただし、生前贈与では贈与税が課せられる点には注意が必要です。

「生前贈与」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

生前贈与が遺留分の対象となるケース・ならないケース

生前贈与が遺留分の対象になるかは、「いつ」「誰が」贈与を受けたかによって異なります。

以下では、次の3つのケースで対象となるかどうかをみていきましょう。

  • 相続人に生前贈与された場合
  • 相続人以外に生前贈与された場合
  • 10年以上前に生前贈与された場合

相続人に生前贈与された場合

相続人が生前贈与を受けた場合、生前贈与の時期と内容で判断が分かれます。

遺留分侵害額請求の対象となる生前贈与は、次の2つともに該当する場合です。

  • 相続開始前の10年間にされた生前贈与
  • 特別受益に該当する生前贈与

何十年前の生前贈与にまでさかのぼって遺留分侵害額請求ができるわけではありません。

対象となるのは、相続開始(被相続人の死亡)前10年間に行われた分のみとなるのです。また、生前贈与の内容が特別受益であることも条件となります。

特別受益とは、特定の一部の人のみが受け取った利益のことを言い、相続人が複数いる場合に該当します。ただし、生前贈与のすべてが特別受益になるわけではなく、「遺産の前渡し」かどうかが重要になります。

具体的には、次のような生前贈与は特別受益に該当するケースが多いでしょう。

  • 婚姻に伴う生前贈与
  • 事業の開業資金の生前贈与
  • 借金の肩代わり
  • 住宅購入資金や居住用不動産の贈与
  • 扶養の範囲を超える生活費の援助
  • 養子縁組に伴う金銭の贈与など

例えば、相続発生前10年以内に相続人の誰か一人だけが結婚費用を負担してもらった、等というケースで遺留分侵害額請求が可能でしょう。

一方、次のような生前贈与は対象とはならない可能性が高くなります。

  • 扶養の範囲内の生活費の援助
  • 生命保険や死亡退職金
  • 孫など相続人以外への贈与

特別受益に該当するかは、財産や贈与の状況などによって判断が分かれます。特別受益に該当するかが気になる場合は、一度専門家に相談するとよいでしょう。

「特別受益」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

相続人以外に生前贈与された場合

生前贈与は誰にしても構わないため、贈与された人が相続人ではないケースもあります。

相続人以外が生前贈与された場合では、「相続開始前の1年間」の贈与に限って遺留分侵害額請求が可能です。相続人以外とは、相続人でない親族だけでなく他人や団体も含まれます。

ただし、孫など代襲相続して相続人になる可能性がある人の場合は注意が必要です。孫が相続人にならない場合は、相続開始前1年までの生前贈与が対象となります。

しかし、孫の親(被相続人の子)が死亡し代襲相続で孫が相続人になる場合は、先述した「相続人に生前贈与した場合」で判断されます。

相続人以外への生前贈与の場合は、相続開始から2年前というように「1年間」よりも前の贈与の場合は対象になりません。これは相続人以外の人への贈与については、数年前までさかのぼって遺留分侵害額請求を受けると受贈者に大きな負担となる可能性があるためです。

10年以上前に生前贈与された場合

「相続人への贈与は10年」「相続人以外への贈与は1年」という期限がありますが、10年以上前(もしくは1年以上前)の生前贈与であっても、以下のケースでは遺留分侵害額請求が可能です。

生前贈与の当事者双方が遺留分権利者に損害を与えることを知っていて生前贈与した場合

例えば、被相続人が年金暮らしの高齢者でこれ以上財産が増える見込がない状態で、財産のほとんどを生前贈与した場合が該当する可能性があります。このように、損害を与える生前贈与には、被相続人の財産状況や収入・健康状態などから考慮されることになります。

ただし、相続がいつ発生するかの予見は難しく、さらに「双方が知っていた」ことを立証するのは容易ではありません。

このケースで生前贈与の遺留分侵害額請求をしたい場合は、弁護士に相談することをおすすめします。

生前贈与に対して遺留分侵害額請求をするときの注意点

生前贈与のイメージ

生前贈与に対して遺留分侵害額請求をする際の注意点として、次の5つが挙げられます。

  • 時効がある
  • 不動産に対して行使することはできない
  • 遺留分侵害額の負担の順番がある
  • 相手が応じない場合は弁護士
  • 回収が難しいこともある

それぞれ詳しく見ていきましょう。

時効がある

遺留分侵害額請求には時効があります。

  • 相続の開始および遺留分の侵害があったことを知った時から1年間行使しない時
  • 相続開始の時から10年間行使しない時

相続の開始および遺留分の侵害があったことを知っていた場合、1年間で遺留分侵害額請求の時効が成立します。

一方、侵害があったことを知らなかった場合でも、相続開始から10年を経過すると、時効が成立して遺留分侵害額請求をする権利が消滅することになります。

遺留分の侵害がある場合は、できるだけ早く請求をすることが大切です。

この際、口頭だけでは言った・言わないになってしまうため内容証明など証拠を残す形で請求をすることをおすすめします。

不動産に対して行使することはできない

また、遺留分侵害額請求では不動産は取り戻せない点にも注意が必要です。

遺留分侵害額請求権は、原則として金銭請求となり侵害分の相当額の支払を求める権利です。民法改正前は、遺留分減殺請求として不動産の取り戻しが可能でしたが、現行の遺留分侵害額請求では不動産自体の取戻しは出来なくなっています。

不動産の生前贈与で遺留分侵害額請求をする場合、不動産の評価額の算出など複雑になるので専門家に相談することをおすすめします。

遺留分侵害額の負担の順番がある

遺留分を侵害する案件が複数あり侵害請求者が複数いる場合、請求をできる順番が決められています。

基本的に次の順番で請求をすることになります。

  1. 受遺者と受贈者の場合は受遺者が先
  2. 受遺者が複数いる場合で贈与が同時の場合は価格に応じて負担する
  3. 受贈者が複数いる場合は、後の受贈者から請求をする

このように請求をできる順番が決まっているため、請求者が相手を選んで請求できない点には注意しましょう。

相手が応じない場合は弁護士

遺留分侵害額請求をしたとしても、相手に無視されるなど応じてくれない可能性もあります。

遺留分侵害額請求を無視した場合でも、請求された側にペナルティがあるわけではないため応じてくれないケースもあるのです。

相手が請求に応じてくれない場合、家庭裁判所で調停を申し立てることになります。調停でも解決できない場合は、さらに訴訟を起こして解決を図ることになるでしょう。訴訟まで発展する場合、個人で対応するのは難しくなります。

応じてくれない時点で、早めに弁護士に相談することで早期の解決を目指せるでしょう。

回収が難しいこともある

遺留分侵害額請求をした場合でも、満額請求ができない場合もあります。

  • 相手がすでに財産を使い込んでいる
  • 相手が減額を主張してくる
  • 相手がこちらの生前贈与を主張してくる

上記のような理由で、減額や回収できない可能性があるのです。

財産を勝手に処分されないためには、相続財産の仮押さえが有効ですが、素人で申し立てるのは難しいでしょう。できるだけ満額回収したい場合は、弁護士に相談して早めに遺留分侵害額請求をすることをおすすめします。

生前贈与に対して遺留分侵害額請求をされた場合の対応方法

遺留分について理解せずに生前贈与を受けてしまい、請求される側になるケースもあります。

基本的に遺留分侵害額請求がされた場合、請求に応じる義務があるため正当な請求なら応じなければなりません。ただし、相手の請求そのままに応じるのではなく、本当に正当なのかなどは確認しておくことが大切です。

遺留分侵害額請求をされた場合の対応として、次のような方法があります。

  • 生前贈与の範囲や内容について話し合う
  • 遺留分侵害額について再計算する
  • 調停で合意を目指す
  • 訴訟で解決する

生前贈与の範囲や内容について話し合う

まずは、冷静に遺留分侵害額請求の中身について確認しましょう。

  • 相手は遺留分を有しているか
  • 時効は成立していないか
  • 支払うべき遺留分か

上記のようなポイントを確認します。

そのうえで、請求者と話し合いができるのであれば、こちらの要望や請求内容について話し合う場をもち話し合いでの解決を目指すとよいでしょう。この際、話し合いの内容は書面や録音で残しておくことをおすすめします。

また、話し合いで合意した場合も後から覆されないように、合意した内容を双方確認の上書面で残しておくことが大切です。

遺留分侵害額について再計算する

請求された金額が適正なのか自分でも再計算することが大切です。

財産の評価額や遺留分割合を計算し、請求が過大ではないか減額できないかをチェックしましょう。計算の上適正であるなら、請求額を支払う必要があります。

遺留分侵害額については、計算が複雑になるので専門家に依頼することをおすすめします。

調停で合意を目指す

請求内容に納得ができない、話し合いの場が持てないという場合は調停での合意を目指すことになります。調停では、家庭裁判所が双方から話を聞き解決のためのサポートをしてくれます。

請求者の言い分を一方的に認めるということはないので、調停になったら出席して自分の主張を伝えるとよいでしょう。

訴訟で解決する

調停でも解決できない場合、相手が訴訟を起こす場合があります。

訴訟を起こされた場合、無視していると相手の主張を認められ強制執行を受ける可能性があるので、放置せずに対応することが大切です。

遺留分損害額請求をされる時点で、相手は自分に良い感情を抱いていない可能性が高くなります。そのため当事者同士で冷静に話し合って解決することは難しく、調停や訴訟に発展しやすくなるのです。

また、請求してくる際には相手はすでに弁護士に相談している可能性が高く、自分だけで対応するのは難しくなります。正当な請求なら放置せず応じる必要がありますが、まずは弁護士に相談して不利にならずに円満な解決を目指すことをおすすめします。

生前贈与の遺留分侵害額請求は専門家に相談しよう

生前贈与の遺留分侵害額請求について、対象や注意点・請求された場合についてお伝えしました。

生前贈与の遺留分侵害額請求は、対象が限定されており判断が難しいものです。また、請求したからといって必ずしも相手がスムーズに応じてくれるとは限りません。

反対に遺留分を侵害する側になってしまうケースもあるでしょう。生前贈与の遺留分はとてもデリケートな問題で、個人での解決のハードルは高いものです。

円満に解決を目指すなら早めに弁護士に相談することをおすすめします。

著者紹介

逆瀬川勇造(ライター)

金融機関・不動産会社での勤務経験を経て2018年よりライターとして独立。2020年に合同会社7pockets設立。前職時代には不動産取引の経験から、相続関連の課題にも数多く直面し、それらの経験から得た知識など分かりやすく解説。【資格】宅建士/AFP/FP2級技能士/相続管理士

専門家に相談する

専門家に相談するのイメージ

本記事の内容は、記事執筆日(2023年9月28日)時点の法令・制度等をもとに作成しております。最新の法令等につきましては、専門家へご確認をお願いいたします。万が一記事により損害が発生することがあっても、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。

記事をシェアする