生前贈与の費用を詳しく解説!贈与税の制度や相続についても紹介

公開日:2023年8月10日

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「生前贈与の費用はいくらくらいになるんだろう?」と気になっていませんか。

不動産を生前贈与すると、贈与税のほかに不動産取得税や登録免許税などがかかります。贈与税は負担の軽い制度を選べるため、非課税で済むかもしれません。

今回は生前贈与にかかる税金を詳しく紹介します。生前贈与と相続どちらがお得かも解説しているので参考にしてください。

不動産の贈与税|暦年課税制度と相続時精算課税制度とは?

暦年課税制度と相続時精算課税制度は贈与するときに、贈与税が課せられる制度です。

法定相続人となる予定の人が贈与を受ける場合は、暦年課税か相続時精算課税のどちらかを選択できます。

暦年課税制度と相続時精算課税制度の大きな特徴は、以下の通りです。

  • 暦年課税制度:長期にわたり毎年110万円以内なら非課税
  • 相続時精算課税制度:贈与者1人当たり累計2500万円以内なら非課税

それぞれの税制度を詳しく見ていきましょう。

暦年課税制度とは?不動産の評価・計算方法

暦年課税制度とは、1月1日から12月31日までの1年間に贈与された財産の合計額に応じて課税される方式を言います。ただし、贈与を受けた金額が110万円以下なら贈与税の申告が不要です。

暦年課税制度の特徴を以下の表にまとめました。

暦年課税制度
贈与者(あげる人)制限なし
受贈者(もらう人)制限なし
非課税枠基礎控除:年間110万円
課税時の計算式(その年の贈与額−110万円)×10〜55%
税率の考え方一般贈与財産用…特例贈与財産用に該当しない場合特例贈与財産用…直系尊属からの贈与
申告の有無贈与額が110万円を超えた場合に申告
贈与者が死亡したときの相続税の扱い受贈者が相続人の場合、相続開始前3年以内に受けた贈与財産は相続財産に加算する
※令和6年1月1日以後に受けた贈与は7年以内に延長される
延長4年間の総額100万円は加算されない
注意点相続時精算課税を選択したら暦年課税制度は使用できない

※太文字は令和6年1月1日から施行される内容です

令和6年1月1日以降に法定相続人へ贈与すると、相続時に死亡前7年以内の贈与額が相続財産に加算されます。

ただし、延長された4年間の贈与額のうち総額100万円までは加算されません。実際に7年間の加算対象となるのは令和13年1月以降の相続税申告からです。

令和5年中の贈与は改正前の法律のため、死亡前3年間の加算期間が適用されます。

基礎控除を超えた分に対する税率は贈与する関係性によって変わるため、国税庁ホームページ「贈与税の計算と税率(暦年課税)」で確認しましょう。

「暦年課税制度」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

参照:資産課税|総務省 No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)|国税庁

相続時精算課税制度とは?不動産の評価・計算方法

相続時精算課税制度とは、受贈者が2500万円まで贈与税を納めずに贈与を受けられる方式です。贈与者が亡くなったタイミングで、生前にもらった財産の贈与時の価額と相続財産の価額を合計した金額から相続税額を計算し、相続税として納税します。

2500万円を超えた分の贈与には、贈与時に20%の贈与税が課せられますが、相続税の算出時に支払った贈与税分は控除されます。

また、令和6年1月1日から年間110万円の基礎控除が新たに加わります。つまり、毎年110万円以下の贈与なら贈与税の申告が不要です。

相続時精算課税制度
贈与者(あげる人)贈与をする年の1月1日に60歳以上の父母または祖父母
受贈者(もらう人)贈与を受ける年の1月1日に18歳以上の推定相続人または孫
非課税枠特別控除:贈与者1人につき累計2500万円
基礎控除:年間110万円
課税時の計算式(贈与額‐2500万円)×20%
{(贈与額−110万円)‐2500万円}×20%
申告の有無最初の贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までの間に、贈与税の申告書に「相続時精算課税選択届出書」を添付して申告
※年間110万円以下の贈与は申告不要
贈与者が死亡したときの相続税の扱い贈与財産の贈与時の価額を相続税の課税価格に加算
※年間110万円以下の財産は加算不要
注意点一度選択すると相続まで変更不可

※太文字は令和6年1月1日から施行される内容です。

何回贈与を受けても、1人の贈与者からの贈与額の合計が2500万円になるまで非課税になります。2500万円を超えた分にかかる税率は一律20%です。

また、贈与者ごとに相続時精算課税制度を利用できます。たとえば、両親、祖母からそれぞれ贈与を受ければ、最大7500万円まで贈与税が発生しません。

「暦年課税制度」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

参照:資産課税|総務省

不動産の生前贈与にかかる費用

不動産の所有権を贈与すれば生前贈与できます。ただし、不動産の生前贈与の場合、贈与税のほかにも費用がかかるため、想像以上の出費となるかもしれません。

不動産の生前贈与にかかる費用を確認しましょう。

  • 贈与登記と登録免許税
  • 贈与税
  • 不動産取得税

非課税枠内で生前贈与すれば贈与税は免除されるため、上記の税すべてが必ずしもかかるわけではありません。

それぞれの税について詳しく見ていきましょう。

相続登記と登録免許税

贈与登記とは、贈与によって不動産の所有者が変わるときの名義変更手続きのことです。

贈与登記に法的義務はありません。ただし、登記変更は第三者に所有権を明確に公示する手段です。トラブルを回避するためにも登記は必ず行いましょう。

登録免許税の納税義務者は、登記を受ける人です。つまり、不動産を譲り受けた人が登録免許税を支払います。

贈与登記にかかる費用は、登録免許税と司法書士報酬の2つです。司法書士に依頼せずに自分で登記申請する場合、登録免許税のみかかります。

登録免許税にかかる費用

登録免許税は、法務局で登記手続きするときに国へ納付する税金です。不動産(土地、建物)の固定資産評価額に税率をかけて計算します。固定資産評価額は毎年送付される納税通知書で確認可能です。

相続による所有権移転と生前贈与でかかる税率は異なります。

  • 相続…固定資産評価額×0.4%
  • 生前贈与…固定資産評価額×2%

たとえば、固定資産評価額が2000万円の場合、相続したときの登録免許税は8万円です。生前贈与だと、40万円かかります。

登録免許税を納めるときは以下の費用も必要です。

  • 登記事項証明書や固定資産評価証明などの発行手数料
  • 印紙代

上記の費用は合計で約2000~3000円です。

司法書士の報酬費用

司法書士に贈与登記申請を依頼したときの報酬相場は、4万5000円~8万円です。自分で登記申請できますが、プロである司法書士に依頼するケースが一般的です。

司法書士報酬のほかに、以下の実費項目が加算されます。

  • 法務局に納める登録免許税
  • 住民票、印鑑証明書の手数料
  • 不動産評価証明書の手数料
  • 登記事項証明書の手数料
  • 郵送費、出張費

司法書士への報酬費用は高額ですが、贈与税を含めたトータルの税金がいくらなのか見極めて、不動産を贈与すべきかの相談・アドバイスを受けられます。

「相続登記で発生する費用・登録免許税」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

贈与税

贈与税は、個人から贈与されて財産を得たときにかかる税金です。贈与税の納税義務者は、財産をもらった人(受贈者)になります。

贈与税の課税制度として、暦年課税と相続時精算課税の2つから選択可能です。

どちらも贈与税の非課税枠を設けていますが、以下の場合だと贈与によって取得したものとみなされる可能性があります。その場合、みなし贈与として贈与税を課せられるかもしれません。

  • 対価を支払わず不動産や株券の名義を受贈者に変更
  • 著しく低い価額で財産の譲渡
  • 返済能力催促なしかつ、有る時払いの催促なしの状況で多額の借金

たとえば、7000万円の不動産を500万円で親から譲ってもらった場合、通常の売買取引で考えると不自然なため贈与とみなされます。

また、贈与者から借金をして先に不動産を譲り受けた場合、借用書と定期的な返済があれば贈与と判断されません。しかし、有る時払いの催促なしだと判断されれば、贈与としてみなされます。

贈与税の計算

贈与税の計算方法は、2種類あります。

以下の表で確認しましょう。

項目計算式
暦年課税制度(その年の贈与額−110万円)×10〜55%
精算課税制度(贈与額‐2500万円)×20%
{(贈与額−110万円)‐2500万円}×20%

(※)太文字は令和6年1月1日から施行される内容です

贈与したい額とすべての相続財産を整理して計算しましょう。

「相続税」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

不動産取得税

不動産取得税とは、不動産を取得した場合に課税される税金です。不動産の「取得」について課される税金のため、贈与のときに一度だけ支払えば済みます。

ちなみに、相続すると不動産取得税はかかりません。

贈与税が国税であるのに対し、不動産取得税は都道府県が課す地方税です。また、贈与税が課税されないケースでも、不動産取得税は課税されます。

不動産取得税の納税義務者は、不動産を取得した人(受贈者)です。

不動産取得税の税率は本来4%ですが、令和6年3月31日までの取得だと以下の内容で軽減税率が適用されます。

土地住宅用建物住宅用以外の建物
標準課税3%3%4%

不動産取得税額の計算方法は、以下の通りです。

不動産取得税額=固定資産評価額 ×標準課税(3%)

固定資産評価額は、毎年自宅に送付される納税通知書に記載されています。

参照:不動産取得税に係る特例措置|国土交通省

土地は相続がいい?生前贈与がいい?

土地は相続がいいか生前贈与がいいか悩む人のイメージ

不動産の生前贈与か遺産相続のどちらがお得かは、その家庭の資産状況によって変わるため、一概にどちらがよいとは言えません。

あらかじめ相続財産の総額を把握して、相続と生前贈与のどちらを利用するべきか見極めることが大切です。

最適な資産移動の方法を以下の3つのケースで見ていきましょう。

  • 土地を生前贈与した方がいいケース
  • 土地を相続した方がよいケース
  • 贈与税が非課税になるケース

順番に確認しましょう。

土地を生前贈与した方がいいケース

土地を生前贈与した方がいいケースは、以下の3つです。

  • 確実に将来値上がりする土地
  • 収益を生む不動産
  • 相続税がかからない(基礎控除内)

再開発や新駅開設などで、確実に将来値上がりする土地なら生前贈与を検討しましょう。相続税だと死亡時の相続税評価額で計算されますが、贈与税は贈与した時の相続税評価額で計算します。値上がりした土地を相続すると、相続税額が大きくなりやすいです。

また、家賃収入のある不動産は財産を増やし続けるため、相続まで待つと税負担が大きくなると予測できます。そのため、早めに贈与する方が相続税対策になります。特に中古住宅は不動産取得税に軽減措置がとられているため、活用しましょう。

相続税の基礎控除範囲内で不動産を贈与できるなら、生前贈与がよいケースがあります。

基礎控除の計算方法は以下の通りです。

3000万円+(600万円×法定相続人数)

相続時精算課税制度を使えば、2500万円までの贈与であれば非課税です。小規模宅地等の特例が適用できない土地で相続税の基礎控除内に収まるなら、生前贈与の方がお得になるかもしれません。

土地を相続した方がよいケース

土地を相続した方がよいケースは、以下の状況に当てはまる場合です。

  • 評価額が基礎控除に満たない
  • 小規模宅地等の特例による節税効果を得たい

相続だと、基礎控除や特例が適用されて納税せずに済むケースが出てきます。相続財産の総額が基礎控除額(3000万+600万×法定相続人の数)を超えない場合、相続税の申告手続きが不要です。

また、基礎控除以外にも以下の相続税控除制度の適用により相続税額を軽減できます。

  • 配偶者の税額軽減
  • 未成年者の税額控除
  • 障害者の税額控除
  • 相次相続控除
  • 贈与税額控除

それぞれに条件が設けられているため、適用されるか確認しましょう。

小規模宅地等の特例とは、相続や遺贈によって土地を取得した場合、一定の要件に当てはまれば、相続税の計算をする際の評価額を最大80%減額できる特例制度です。土地の対象面積に応じて相続税額が減額されるため、建物は対象となりません。

生前贈与と相続を具体例で確認

以下のケースで生前贈与と相続で支払う費用を確認しましょう。

母親から固定資産税評価額4000万円の土地を40才の息子1人が承継

わかりやすく比較するために特例や控除の適用はないものとして計算しました。あくまでも、おおよその数字として確認してください。

生前贈与の場合、以下の税金がかかります。

項目費用
登録免許税4000万円×2%=80万円
贈与税(暦年課税制度の場合)(4000万円−110万円)×50%(速算表の税率)−415万円(控除額)=1530万円
不動産取得税4000万円×3%=120万円
合計1730万円

生前贈与だと、合計1730万円の税金がかかります。

今回は母から子(成年者)へ贈るケースのため、直系尊属からの贈与として特例贈与財産用の贈与税の特例税率の速算表をもとに計算しています。

相続した場合、以下の税金がかかります。

項目費用
登録免許税4000万円×0.4%=16万円
相続税{4000万円−(基礎控除:3000万円+600万円×1人)}×10%(速算表の税率)=40万円
合計56万円

相続したときの合計金額は56万円です。ちなみに、不動産取得税は相続だとかかりません。

相続税の税率は相続税の速算表をもとに計算しています。

参照:No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)|国税庁No.4155 相続税の税率|国税庁

贈与税が非課税になるケース

生活を営むための生活費や教育費などは、基本的に贈与税がかかりません。

贈与税が非課税になる場合を具体的に確認しましょう。

  • 年間110万円以下の贈与
  • 生活費や教育費の贈与
  • 配偶者への贈与
  • 結婚・子育て資金
  • 教育費の一括贈与
  • 住宅資金贈与
  • 障がい者への贈与

金銭的な贈与を行う場合は、目的・用途を決めると非課税になります。

ただし、贈与する金額や受贈者の収入によって贈与税がかかるケースもあるため、必ず非課税になる条件を確認しましょう。

「生前贈与」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

まとめ

土地や建物の生前贈与を行うと、以下の費用がかかります。

  • 贈与税
  • 不動産取得税
  • 登録免許税

生前贈与を行うときは、相続財産の状況に応じて税金を抑えられる制度を選択しましょう。資産状況によって暦年課税制度と相続時精算課税制度のどちらが節税できるかが変わってきます。

また、生前贈与だと不動産取得税がかかりますが、相続で不動産を譲り渡すと不動産取得税はかかりません。

相続税対策として土地を次世代に譲り渡すときは、不動産以外の財産状況も把握してから生前贈与と相続のどちらがよいか判断しましょう。

著者紹介

安持まい(ライター)

執筆から校正、編集を行うライター・ディレクター。IT関連企業での営業職を経て2018年にライターとして独立。以来、相続・法律・会計・キャリア・ビジネス・IT関連の記事を中心に1000記事以上を執筆。

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本記事の内容は、記事執筆日(2023年8月10日)時点の法令・制度等をもとに作成しております。最新の法令等につきましては、専門家へご確認をお願いいたします。万が一記事により損害が発生することがあっても、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。

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