相続財産に借金があるときの3つの対処法をメリット・デメリットで徹底比較

公開日:2023年11月28日

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相続財産のなかに借金があった場合、遺産を引き継ぐ相続人は借金を返済しなければなりません。そのため、相続が発生したら、まず相続財産の内訳をしっかり調査する必要があります。

この記事では、相続財産に借金がある時の3つの対処法を解説するため、ぜひ参考にしてください。借金が発覚した際や、これから借金を相続するかもしれない方に役立ちます。

借金がある場合どうすればいい?借金を相続する場合にやるべきこと

借金が相続財産に含まれる場合、相続の方法は3つあります。

  • そのまま借金ごと相続する「単独承認」
  • プラスの範囲で限定的に借金を放棄する「限定承認」
  • 借金もほかの財産も相続しない「相続放棄」

いずれの方法で相続するか決めるためには、相続財産の徹底した調査が必要です。借金があると知っていても、どれほどの金額なのか、預貯金から返済できる範囲なのかを詳しく理解していないケースは珍しくありません。

相続が発生した場合にやるべき財産の調査方法を、プラスの財産・マイナスの財産ごとに確認しましょう。

プラスの財産の調査

自宅の遺品整理をしながら、通帳や現金、固定資産税の納税通知書、有価証券などを探しましょう。

現金や預金口座情報については、地道に自宅を探したり、近所や会社周りの銀行に1つずつ当たったりして探すしかありません。

一方、調査が可能なプラスの財産もあります。探し方について、以下の表にまとめました。

財産の種類探し方
現金・預貯金・自宅の金庫・タンスをくまなく探す
・自宅や会社の周りの金融機関に聞いて回る
不動産・役所で評価証明書や名寄帳を取得する
・法務局のブルーマップから地番を判明させて登記簿を取得する
株式・証券保管振替機構で開示請求をする
・取引先の証券会社で残高証明書を取得する

各機関に問い合わせをする際、以下のような資料が求められます。

  • 被相続人(死亡した方)の出生から死亡までの戸籍謄本・除籍謄本
  • 被相続人の住民票除表
  • 相続人の戸籍謄本(相続人であると証明できる書類)
  • 相続人の身分証明書(免許証・マイナンバーカードなど)
  • 相続人全員の印鑑証明書

スムーズに手続きが済むよう、準備しておきましょう。

マイナスの財産の調査

マイナスの財産とは、借金やローンなど支払い義務のある財産を指します。マイナスの財産は債権者ごとに問い合わせ先が異なるものの、相続人から被相続人の借金状況を照会できます。

債権者ごとの問い合わせ先は、以下の通りです。

債権者照会先
銀行や信用金庫など全国銀行協会の全国銀行個人信用情報センター(KSC)
クレジット会社・消費者金融など信用情報機関(CIC)
貸金業・保証会社など日本信用情報機関(JICC)

それぞれ、開示手数料として1000〜2000円程度の費用がかかります。

また、問い合わせの際には、それぞれ以下の資料が求められます。

  • 被相続人が亡くなったことがわかる戸籍・除籍謄本など
  • 相続人であるとわかる戸籍謄本など
  • 相続人の身分証明書(免許証・マイナンバーカードなど)

どの機関も、現在は郵送のみでの受付です。

相続財産に借金がある場合の3つの方法

相続財産に借金がある場合、以下の3つの相続方法があります。

  • 相続放棄(すべての財産を相続しない)
  • 単純承認(マイナス・プラス両方の財産を相続する)
  • 限定承認(プラスの財産の範囲内でマイナスの財産を引き継ぐ相続)

どのようなケースでどの方法を選ぶべきかについて、解説します。

相続放棄(すべての財産を相続しない)

相続放棄とは、被相続人の相続財産を一切相続しないことです。相続財産に含まれる借金の返済義務から逃れられます。借金だけでなく、預貯金や不動産などのプラスの財産の承継もできません。

相続放棄の手続きをすると、「初めから相続人でなかった」として扱われます。そのため、相続人同士で行う遺産分割協議への参加や、相続税の納税をする必要がありません。

相続放棄の手続きの期限は、相続発生の事実を知ってから3か月以内の熟慮期間です。

「相続放棄」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

単純承認(マイナス・プラス両方の財産を相続する)

単純承認とは、借金を含むマイナスの財産もプラスの財産も相続することです。

たとえば、相続財産に預貯金1000万円と借金2000万円があった場合、1000万円の財産を受け取れる一方で2000万円の借金の支払い義務も発生します。

相続発生の事実を知ってから3か月以内に相続放棄・限定承認の手続きをしなかった場合、自動的に「単純承認を選んだ」とみなされます。

限定承認(プラスの財産の範囲内でマイナスの財産を引き継ぐ相続)

限定承認とは、プラスの財産の範囲内でマイナスの財産も相続することです。

たとえば、相続財産のうち、プラスの財産が1000万円、マイナスの財産が1500万円あったとしましょう。この場合、相続しなければならない借金はプラスの財産と同額である1000万円までです。債権者は、差額の500万円を相続人に請求できません。

一方、プラスの財産のほうがマイナスの財産より多かった場合、借金をすべて返済し、差額のプラスの財産を相続できます。

限定承認の手続きの期限は、相続発生の事実を知ってから3か月以内の熟慮期間です。

「限定承認」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

3つの方法のメリットとデメリット

3つの方法のメリットとデメリットのイメージ

ご紹介した3つの相続方法には、それぞれメリット・デメリットがあります。借金がある場合に、どのようなメリット・デメリットがあるのか確認しましょう。

相続放棄のメリット・デメリット

相続放棄をするメリットは、借金やローンなどの返済義務がなくなることです。巨額の負債があるとほかの相続財産ではカバーできず、相続人の財布から返済しなければなりません。経済的に大きなダメージとなるため、返済義務がなくなることで肩の荷が下りるでしょう。

また、相続人同士の争いに巻き込まれずに済みます。相続放棄をするともともと相続人ではなかったとして扱われるため、遺産分割協議に参加する必要はありません。

一方、デメリットは、他の財産を相続する権利を失うことです。借金があるからと慌てて手続きを完了したあと、「家を売れば返済できる」と気づいても撤回はできません。また、生前に相続放棄はできないため、「相続しない」と念書を書いていたとしても死後改めて手続きをする必要があります。

このようなメリット・デメリットから、相続放棄が向いている方の特徴は以下の通りです。

  • 借金が巨額で到底返済できない
  • 相続財産の一切を相続したくない
  • 相続の話し合いで相続人とかかわりたくない

当てはまるのであれば、早急に手続きに向けて準備を始めましょう。

単純承認のメリット・デメリット

単純承認をするメリットは、手続きに労力・コストがかからない点です。無条件に相続財産のすべてを引き継ぐことができます。

一方、デメリットは、マイナスの財産や使っていない不動産などの不要な財産も引き継がなければならない点です。ただし、借金が少ないのであれば、被相続人が残した現金や預貯金で返済できるでしょう。

このようなメリット・デメリットから、単純承認が向いている方の特徴は以下の通りです。

  • プラスの財産のほうがマイナスの財産を上回っている
  • 相続財産に預貯金や住んでいる家など相続したい財産が含まれる

当てはまる場合は、遺産分割協議や財産の管理・処分について考え始めましょう。

限定承認のメリット・デメリット

限定承認をするメリットは、プラスの財産を超えてマイナスの財産を弁済できる点です。プラスの財産を限度としてマイナスの財産を相続するため、相続によって相続人の財産が減ることはありません。

「借金があるから」と一度相続放棄をしてしまったあとに、タンス貯金や隠し口座が見つかる場合もあります。しかし、相続放棄の手続きをしてしまっていると、あとから出てきたプラスの財産を相続する権利はもうなくなっています。

逆に、あとから借金が出てきた場合も、プラスの財産が限度であるため、相続人の財産で弁済する必要はありません。このように、プラスの財産とマイナスの財産が詳しくわからない場合でも、限定承認であれば相続人が相続によって損せずにすみます。

一方で、デメリットは、時間と手間がかかる点です。申立ての準備から手続き完了までに半年から1年以上かかるケースもあります。理由は、相続人全員で共同して手続きしなければならないことや、家庭裁判所で行われる調査が膨大であることです。

また、みなし譲渡所得税が課税される可能性もあります。限定承認で不動産を相続すると、税制上、被相続人から相続人へ相続発生時の時価で売却したとみなされるためです。そのため、被相続人が取得したときと比べて時価が上がっていると、差額はみなし譲渡所得としてみなされ、課税されます。

このようなメリット・デメリットから、限定承認が向いている方の特徴は以下の通りです。

  • プラスの財産とマイナスの財産が詳しくわからない
  • 大幅に評価額が上がった不動産が含まれていない
  • 相続財産に預貯金や住んでいる家など相続したい財産が含まれる

手続きには時間がかかるため、早めに相続人同士で限定承認をすべきかどうか検討しましょう。

借金を相続する際の注意点

借金を相続する際、以下の4つのポイントに注意しましょう。

  • みなし単純承認となる行為に気をつける
  • 相続放棄をすると他の相続人に返済義務が移る
  • 1人でも単純承認すると限定承認ができない
  • 債務者を債権者が承諾するとほかの相続人に返済を求められない

順番に解説します。

みなし単純承認となる行為に気をつける

相続放棄や限定承認を検討している場合、みなし単純承認となる行為には注意しましょう。みなし単純承認とは、一定の行為をした場合に「単純承認をした」とみなされてしまうことです。

みなし単純承認となる行為は、以下の通りです。

相続財産の一部、もしくはすべてを処分した(預貯金の解約、不動産の売却など)
相続財産を隠蔽、消費した(口座からお金を引き出して使った、意図的に財産を隠したなど)

以下のような場合、みなし単純承認とされてしまうのかどうかが曖昧なため、表にまとめました。

行為みなし単純承認に該当
葬儀費用を相続財産の中から支払ったしない
生命保険を受け取ったしない
相続人の財布から借金の一部を支払ったしない
相続財産のなかから借金の一部を支払ったする
賃貸借契約・携帯電話などを解約したしない
意図的に、財産の一部を財産目録に記載しなかったする
遺品の形見分けを受け取ったする(高価な場合)
遺品の形見分けとして価値あるものを持ち帰ったする
相続財産に該当する建物を取り壊したする

このように知識を持っていないと判断できない曖昧な境界線があります。不安な場合はむやみに相続財産に手をつけないよう注意しましょう。

相続放棄をすると他の相続人に返済義務が移る

相続放棄をすると、借金の返済義務は次の順位の相続人に移ります。たとえば、相続人である配偶者・長男・次男が全員相続放棄しても、被相続人の父母が存命であれば借金の返済義務は父母に移ります。

相続放棄した事実が、次の順位の人に知らされることはありません。そのため、連絡を入れなければ突然債権者から督促状が届き、慌てさせることとなるでしょう。

プラスの財産とマイナスの財産の内訳や、相続放棄に至った理由、対処が必要である旨を伝えておくと、トラブルを防げます。

1人でも単純承認すると限定承認ができない

限定承認は相続人全員で手続きしなければならないため、1人でも単純承認するとその相続における限定承認はできません。1人でも単純承認する人がいれば、ほかの相続人は単純承認か相続放棄のいずれかしか選べないため、注意しましょう。

なお、相続人のうち相続放棄する人がいても、残りの相続人だけで限定承認の手続きを進めることは可能です。相続放棄をすると、もともと相続人でなかったとして扱われるため、安心して手続きを進めましょう。

債務者を債権者が承諾するとほかの相続人に返済を求められない

もし、借金を相続すると決めた場合、債務者が誰になったのかを債権者に伝えましょう。

相続人が長男・次男・長女の3人だったとしても、「長男だけが借金返済をする」と決めることが可能です。この内容は遺産分割協議で成立させられます。

しかし、遺産分割協議で成立させただけでは、債権者から次男や長女に対しても返済を求められる場合があります。

そこで、長男だけが借金を背負っていくことを債権者に伝え、承諾をもらう必要があります。将来的に長男が借金を返済していけなくなった場合でも、承諾をもらっていれば次男・長女が取り立てられることはありません。

長男の経済力が問題なかったり、引き継いだ事業に関する借金だったりすると、債権者の承諾は得られやすいです。

相続財産に借金が含まれるなら専門家にアドバイスを求めよう

相続財産に借金がある場合、単純承認・相続放棄・限定承認の3つの対処法があります。借金の額が少なければ、単純承認でも問題ないでしょう。しかし、借金が巨額だと相続人の経済的負担が大きいため、相続放棄や限定承認を選択することをおすすめします。

相続放棄や限定承認は、相続が発生した事実を知ってから3か月以内に手続きしなければならず、早急な判断が求められます。少しでも相続放棄や限定承認を検討しているのであれば、専門家からアドバイスをもらいましょう。

手続き以外の面でも、他の相続人への伝え方や相続財産の扱い方など、トラブルを招かないための対処法を教えてくれます。心の負担を軽くするためにも、専門家から適切なサポートを受けましょう。

著者紹介

安持まい(ライター)

執筆から校正、編集を行うライター・ディレクター。IT関連企業での営業職を経て2018年にライターとして独立。以来、相続・法律・会計・キャリア・ビジネス・IT関連の記事を中心に1000記事以上を執筆。

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本記事の内容は、記事執筆日(2023年11月28日)時点の法令・制度等をもとに作成しております。最新の法令等につきましては、専門家へご確認をお願いいたします。万が一記事により損害が発生することがあっても、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。

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