生前贈与があったときの遺産分割とは?特別受益の考え方や注意点を解説

公開日:2023年6月29日

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「長男だけ生前贈与で多額の支援を受けているのに、遺産分割では平等に分けるなんて不公平」といったトラブルは相続時によく発生します。亡くなった方が相続人のうち一部の人を生前贈与などで優遇していたら、その相続人の特別受益が認められる可能性があります。

自分以外の相続人に特別受益が認められたら、自分の相続分が増える可能性があるため調査すべきです。調査せずに遺産分割をすると後々トラブルになるケースも考えられます。

この記事では、生前贈与を受けた相続人がいる場合の相続を控えている方に向けて特別受益の考え方や注意点を解説します。遺産分割をする前に読んで、損をしないよう遺産を相続しましょう。

そもそも生前贈与・遺産分割・特別受益とは?

亡くなった方が相続人の一部の人にだけ生前贈与をして優遇していた場合、特別受益が認められて遺産分割に影響が出る可能性があります。

そもそも初めての相続では、「遺産分割」や「特別受益」の意味も知っているようでよくわからないと感じる方が多いのではないでしょうか。

この章では、以下の3つの言葉について、詳しく解説します。

  • 遺産分割
  • 生前贈与
  • 特別受益

基礎知識を知ったうえで相続手続きを進めましょう。

遺産分割とは

遺産分割とは、相続人同士で話し合って亡くなった方が残した遺産の分割方法を決めることです。亡くなった方が遺言書を書いていない場合、すべての遺産は相続人全員で共有している状態となります。

そのため、だれがどの財産を引き継ぐのかを決めるために遺産分割を行います。遺産分割ができたら、決定した内容を遺産分割協議書にまとめます。遺産分割協議書が相続した事実を証明する書類となり、相続税の申請や不動産の相続登記の手続きを進めていくことが可能です。

「遺産分割協議書」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

生前贈与とは

生前贈与とは、亡くなる前に財産を譲り渡すことです。生きているうちであれば、いつでも・誰にでも・何回でも贈与できます。つまり、相続人以外にも生前贈与できます。

ただし、財産を贈る側と受け取る側の双方の合意がなければ、贈与は成立しません。

たとえば、一方的に親が子ども名義で預金口座を開設したとしましょう。親が子ども名義の預金口座にお金を入れ続けていても、子どもが管理していなければ贈与は成立していません。

生前贈与は口頭でも約束できます。しかし、言った・言っていないでトラブルを引き起こさないためにも、贈与契約書を交わすことをおすすめします。

また、生前贈与には贈与税が発生するため注意しましょう。

「生前贈与」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

特別受益とは

特別受益とは、一部の相続人が以下のような行為を受けたことで発生した利益です。

  • 生前贈与:亡くなる前に双方の合意をもって財産を譲り渡すこと
  • 遺贈:遺言書によって特定の相続財産を特定の人に譲り渡すこと
  • 死因贈与:亡くなる前に双方の合意をもって「亡くなったあと」に財産を譲り渡すこと

相続人が遺贈を受けるケースはまれです。しかし、相続放棄をしても遺贈された財産なら受け取れるため、負の財産が多いときに相続人に対して遺贈すると遺言書に記載される場合も否定できません。

たとえば、被相続人に子どもが2人いるにもかかわらず、長男にだけ家を購入したり、企業の援助に1000万円を渡したりしていたとしましょう。しかし、その事実を無視して遺産分割をすると、次男にとって心地の良いものではありません。

そこで公平性に配慮し、特別受益とされた生前贈与や遺贈などで受け取った財産を、相続人全員で共有する相続財産に含んで遺産分割します。つまり、特別受益分を遺産の前渡しとして扱い、特定の相続人が不利にならないよう計算し直します。これが「特別受益の持ち戻し」です。

ただし、特別受益者は法定相続人に限定されます。法定相続人以外に渡された財産があったとしても、遺産分割に影響はありません。

生前贈与・特別受益があるときの遺産分割

生前贈与による特別受益がある場合、通常通りに遺産分割をすると相続人のなかで不公平が生まれてしまいます。そこで、遺産分割では公平を期すために遺産分割では、特別受益を相続財産に含めて協議します。

ここでは、生前贈与・特別受益があるときの遺産分割について確認しましょう。

特別受益における生前贈与

法定相続人に生前贈与があったからと言って、すべて特別受益に判断されるわけではありません。

以下の3つの生前贈与であれば、特別受益と判断されます。

  • 婚姻のための贈与
  • 養子縁組のための贈与
  • 生計資本としての贈与

事業資金や住宅購入資金の援助など、生前贈与の多くは「生計資本としての贈与」に該当します。ただし、100%生前贈与が特別受益になるわけではありません。

例外は以下の通りです。

  • 扶養範囲内の生活費
  • 高等学校教育までの学費

大学の学費は扶養内の生活費と判断される場合もあります。しかし、相続人の一人だけが私大の医学部に進んだり、長期海外留学に行ったりした費用を負担してもらったような場合には、特別受益になると考えられます。

客観的に見て、相続人同士が公平であるかどうかが特別受益であるかの判断基準と考えましょう。

生前贈与があっても遺産分割協議できる?

もちろん、生前贈与があっても遺産分割協議はできます。ただし、生前贈与が特別受益に該当する場合、相続財産に持ち戻して遺産分割を実施します。

持ち戻しをするには、以下の2つを足して「みなし相続財産」の額を合算しましょう。

相続開始時に残された相続財産
特別受益

具体的に、計算方法を解説します。

<仮定>

  • 法定相続人:妻・子どもA・子どもB
  • 相続財産の額:1億5000万円
  • 特別受益:子どもAのみが1000万円の生前贈与を受けていた

この場合、みなし相続財産の額は以下の通りです。

相続財産額1億5000万円+特別受益額1000万円=1億6000万円

もし、妻が1億円、子どもAと子どもBが3000万円ずつ相続すると遺産分割協議で決まったとしましょう。このとき、実際に取得できる額は、子どもAと子どもBでそれぞれ異なります。

  • 子どもAの取得額=3000万円ー特別受益額1000万円=2000万円
  • 子どもBの取得額=3000万円

このように、生前贈与を受けた子どもAは、遺産分割協議で決定した相続額から特別受益額を差し引いた金額を受け取ります。

持戻し免除の意思表示

持ち戻し免除の意思表示とは、特別受益を持ち戻して実際の相続財産に加算しなくていいといった被相続人による意思表示のことです。

通常、特別受益があればみなし相続財産として、相続財産と特別受益を合算して遺産分割します。しかし、特別受益の持ち戻し免除の意思表示が認められる場合、遺産分割に考慮されません。

持ち戻し免除の意思表示は、明示・黙示の両方が認められています。以下のような推測ができるときに、「持戻し免除の意思表示があった」と判断できます。

  • 特別受益のある相続人の取り分を減らす意思がない
  • 法定相続分以上の財産を相続させようとしていた意思が遺言書に書かれている

また、相続法の改正によって、以下の場合には持ち戻し免除の意思表示が推定されるようになりました。

「婚姻期間が20年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地について遺贈又は贈与をしたときは、当該被相続人は、その遺贈又は贈与について第1項の規定を適用しない旨の意思を表示したものと推定する。」

引用:民法 903条| e-Gov法令検索

ただし、被相続人による持ち戻し免除の意思表示が書面に残されなかった場合、どうしても推測をするしかありません。被相続人と相続人の関係や、生前贈与に至った経緯などから総合的に判断されます。

生前贈与がある場合に遺産分割をするときの注意点

生前贈与がある場合に遺産分割をするときの注意点

生前贈与がある場合、以下の3つの点に気をつけましょう。

  • 特別受益は遺留分侵害請求の対象となる
  • 死亡から10年経過後の遺産分割では特別受益が主張できない
  • 相続放棄した人の生前贈与は特別受益の対象でない

一部の相続人が不利にならないために、理解しておきましょう。

特別受益は遺留分侵害額請求の対象となる

特別受益は、遺留分侵害額請求の対象となります。

そもそも遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人に最低限保証される相続分の割合のことです。法定相続人であるにもかかわらず、仲が悪いといった理由で相続できないといった事態を避けるために定められています。遺留分が侵害された場合、遺留分侵害額請求によって遺留分の相続が可能です。

このような理由から、特別受益は本来相続人で共有すべき財産であるとみなされます。ただし、以下のような期間の制限があるため、注意しましょう。

  • 相続発生前10年以内に行われた相続人に対する贈与
  • 相続発生前1年以内に行われた相続人以外に対する贈与

期限に注意して遺留分侵害額請求を行いましょう。

死亡から10年経過後の遺産分割では特別受益が主張できない

被相続人の死亡日から10年経過後に遺産分割を行っても、特別受益を主張できなくなりました。令和3年の民法改正によって、以下のように変更されています。

相続開始日が令和5年4月1日以降相続発生から10年経過後、特別受益は考慮しない
相続開始日が令和5年4月1日より前相続発生から10年経過後、あるいは令和5年4月1日から5年経過時の遅い方の日付以降、特別受益は考慮しない

参照:あなたと家族をつなぐ相続登記 ~相続登記・遺産分割を進めましょう~|法務省

相続放棄した人の生前贈与は特別受益の対象でない

法定相続人であっても相続放棄した人が受けた生前贈与は、特別受益の対象ではなくなります。なぜなら、相続放棄をおこなった人は初めから相続人ではなかったとして扱われるためです。

特別受益の持ち戻しは、あくまでも相続人同士の公平性を保つための制度です。そのため、相続放棄をして相続人でなくなった人の生前贈与は特別受益として扱われません。

まとめ

一部の相続人に生前贈与があると、遺産分割において考慮されます。生前贈与が特別受益に該当する場合、相続財産に持ち戻してから遺産分割をしなければなりません。ただし、特別受益に該当するかどうかは多角的な視点からの判断が必要です。

相続人全員で公平な遺産分割をするために、特別受益や持ち戻しについての理解を深めておく必要があります。もし、遺産分割で不公平だと感じたら、専門家に相談しましょう。

著者紹介

安持まい(ライター)

執筆から校正、編集を行うライター・ディレクター。IT関連企業での営業職を経て2018年にライターとして独立。以来、相続・法律・会計・キャリア・ビジネス・IT関連の記事を中心に1000記事以上を執筆。

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本記事の内容は、記事執筆日(2023年6月29日)時点の法令・制度等をもとに作成しております。最新の法令等につきましては、専門家へご確認をお願いいたします。万が一記事により損害が発生することがあっても、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。

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