土地を遺産相続するのに期限がある?近年の法整備や放置することのデメリットとは

公開日:2023年10月25日

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「不動産を相続したけど何からすればいい?」

不動産を相続した場合、相続人への名義変更手続きが必要です。

相続に伴う不動産の名義変更についても義務化され期限が設けられるので、知らずに放置しているとペナルティが課せられる恐れがあります。

この記事では、不動産相続で必要な名義変更手続きの期限や変更しないデメリットについて分かりやすく解説します。

不動産を相続する流れや期限

「田舎の土地を相続した」「実家を相続する」など、相続財産の中に不動産が含まれるケースは珍しくありません。まずは、相続が発生してから不動産を相続する流れを見ていきましょう。

不動産の相続はおおまかに次のように進みます。

  1. 遺言の確認
  2. 相続人の確定
  3. 相続財産の確認
  4. 相続放棄などの手続き(3か月以内)
  5. 遺産分割協議
  6. 相続登記
  7. 相続税の申告と納税(10か月以内)

上記の手続きの中で期限があるものは、「相続放棄」「相続税の申告・納税」の2つです。相続で相続税が発生する場合、その申告・納税期限は「相続があることを知った日の翌日から10か月以内」となります。

遺産分割協議などには期限は決められていませんが、10か月以内に相続財産を確定して納税できるように進める必要があるのです。

また、不動産を含め相続が発生した場合、相続の仕方は次の3つの選択肢があります。

  • 単純承認
  • 相続放棄
  • 限定承認

相続財産をすべて相続する単純承認は、一般的な相続です。一方「不動産を相続したくない」「相続財産に負債が多い」などで選択するのが、相続放棄、または限定承認となります。

相続放棄・限定承認は、共に「相続を知った日の翌日から3か月以内」の申請が必要です。期限を超えると適用できなくなるので、早めに判断して手続きを進める必要があります。

このように、不動産の相続では、期限のある手続きがあるのでそれぞれの期限に間に合うように手続きを進めていくようにしましょう。

「不動産相続」や「不動産の相続手続き」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

相続時の名義変更(相続登記)に期限はある?

不動産を相続する場合、被相続人から相続人への名義の変更が必要です。この相続に伴う名義変更を「相続登記」と呼びます。

相続登記は、令和5年時点では手続きの期限はありません。しかし、令和6年4月1日から相続登記が義務化され、それに伴い手続き期限が設けられるのです。

また、この相続登記の義務化では、令和6年4月以降の相続だけでなく、すでに発生した相続も対象となる点にも注意が必要です。令和6年4月より前の相続であっても、不動産を相続し名義変更していない場合は期限内の相続登記が必要になります。

相続登記は、戸籍など必要な書類集めに手間や時間がかかり、登記自体にも費用がかかります。さらに、司法書士に依頼するとなるとハードルの高さを感じる人もいるでしょう。相続登記をしなくてもペナルティがないこともあり、煩わしさなどから登記しない人も多くいるのです。

相続登記が義務化されたことにより、期限内に相続登記しない場合は罰則が課せられます。不動産を相続した場合は、すみやかに相続登記の手続きを進めるようにしましょう。

「相続登記」や「相続手続きの期限」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

相続登記で義務化になったこと

相続登記で義務化になったことのイメージ

令和3年の不動産登記法の改正では令和6年の相続登記義務化だけでなく、他にも登記に関する義務化が追加されます。

ここでは、相続登記の義務化内容とその他の義務化として、次の3つについて詳しくみていきましょう。

  • 3年以内の期限の義務化
  • 住所変更登記の義務化
  • 法務局へ所有者情報の提供の義務化

3年以内の期限で義務化

義務化後、相続登記の期限は次のようになります。

相続の開始及び所有権を取得したことを知った日から3年以内

相続登記は相続の開始の日からというわけではなく、所有権を取得したことを知った日から3年以内となっています。例えば、遠方に住んでいる疎遠の親戚が無くなり、他の相続人が相続放棄したことで自分が相続人になるケースもあるでしょう。

しかし、そのようなケースでは自分が相続人になったことすら知らない場合もあります。そのような場合は、相続人になった(所有権を取得した)ことを知らないうちは相続開始から3年以上経過しても義務の違反とはならないのです。

義務化された背景には、所有者不明の土地が増えたことがあります。相続登記の義務化がないことから不動産の名義が亡くなった人のままというケースが多くあり、現在はすぐに所有者が分からない・所有者と連絡が付かない不動産が増加しているのです。

所有者不明の土地は、所有者を特定するコストがかかるだけでなく災害時や公共事業の際に支障が出る恐れがあります。そのようなことから相続登記の義務化の必要性が高まり、今回の義務化につながったのです。

先述したように、今回の義務化では令和6年4月以前の相続も対象となります。義務化以前の相続での登記期限は次の通りです。

  • 自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から3年以内
  • 民法および不動産登記法の改正法の施行日から3年以内

すでに相続している場合は、施行日の令和6年4月から3年以内の令和9年4月までの登記完了が必要になります。相続登記されていない期間が長期間にわたる場合や、同一の不動産で数世代すでに相続が発生している場合など、登記に時間がかかる恐れがあるでしょう。

過去に、不動産を相続した可能性がある人は速やかに手続きの準備に入ることをおすすめします。

住所変更登記の義務化

相続登記に続き、令和8年には住所変更登記が義務化されます。

不動産の登記簿には、該当の不動産の情報だけでなく所有者の氏名や住所などの情報も記載されます。この不動産の所有者の住所や氏名などが変更になった際に変更内容を登記する手続きが、住所変更登記です。

例えば、「結婚で姓が変わった」「不動産は所有し続けるけど転勤などで居住地が変わる」「投資用不動産を所有し、購入時点と住所が変わっている」と言ったケースで必要になります。

相続登記で所有者が明らかになっても、その後所有者の住所や姓名が異なるとまた所有者不明になりかねません。そのため、今回の法改正では住所変更登記も義務化されるのです。

義務化されると、住所変更があった場合「変更のあった日から2年以内」に変更登記しなけらばならなくなります。

正当な理由なく登記期限を超えると罰則もあるので注意しましょう。また、住所変更登記の義務化も施行前の変更も対象となります。

施行日以前の住所・氏名の変更については「変更のあった日」または「施行日」のいずれか遅い日から2年以内です。令和8年4月に施行された場合、令和10年4月までに変更が必要になります。

変更手続きを行っていない場合は、すみやかに手続きを進めるようにしましょう。

法務局へ所有者情報の提供義務化

今回の法改正では、新たに不動産登記を申請する際、所有者情報として「生年月日」「住所」「氏名」といった情報の提供も義務化されます。

ただし、登記簿に記載されるのは住所・氏名のみで生年月日が記載されることはありません。これは、法務局が住民基本台帳ネットワークシステムや商業・法人登記システムから所有者情報の検索・登記変更する際に情報として利用されるのです。

相続登記せず名義変更を放置するデメリット

相続登記せずにいると次のようなデメリットがあります。

  • 不動産・土地の売却ができない
  • 遺産分割が難しくなる
  • 固定資産税や手続き費用が増える
  • 不動産が差し押さえられる

不動産・土地の売却ができない

基本的に不動産は名義人しか売却できません。

仮に、売却できた場合でも売主が名義人でなければ、買主は購入後に不動産の名義を自分に変更できなくなります。購入後に自分の名義にできない不動産を買いたいという人はいないでしょう。

相続後不動産を売却するためには、相続登記して名義を自分にしておく必要があるのです。相続直後は売却する気が無くて名義をそのままにしているケースも少なくありません。

しかし、相続開始から数年経過してから名義変更しようとしても、必要書類が準備しにくくなりスムーズに変更を進められない可能性があります。さらに、二次相続など複数の相続が発生していると、より手続きは煩雑になります。

売却するかどうかは関係なく、相続後には速やかに相続登記することで、後々のトラブルを避けやすくなるでしょう。

遺産分割が難しくなる

名義変更を放置していると、いざ変更しようとなった際に変更が難しくなる恐れがあります。

遺産分割が難しくなる要因としては、次のようなことが挙げられます。

  • 相続人の判断能力の低下
  • 相続人の死亡
  • 相続人の気が変わる

相続人の判断能力の低下

相続人が高齢者と言った場合、認知症の発症による判断能力の低下で遺産分割協議が難しくなる可能性があるでしょう。

相続発生時から時間が経過することで相続人も年齢を重ねます。高齢の被相続人の配偶者といった場合、高齢化から認知症発症のリスクが高まるものです。

認知症を発症すると、遺産分割協議に参加できなくなるため成年後見人を付ける必要があります。成年後見人を付けずに認知症を発症した人が参加した遺産分割協議は、無効になる可能性が高いでしょう。

成年後見人を付けるとなると、家庭裁判所に手続き等が発生し、より時間がかかってしまうのです。

「遺産分割協議」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

相続人の死亡

さらに時間がかかると、相続人が死亡してしまう可能性があります。

相続人が死亡した場合、相続人を被相続人とした相続も発生し、不動産の所有権を主張できる人が増えます。これを数代繰り返してしまうと、相続権が非常に複雑になってしまい遺産分割が困難になるのです。

「数次相続」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

相続人の気が変わる

相続発生時から時間が経つことで相続人の事情や気が変わる可能性もあります。事情が変わることで、相続発生時なら円満に解決できたことも解決が難しくなる恐れがあるでしょう。

このように相続登記を放置していると、時間の経過により状況が変化することで遺産分割協議が難しくなり、名義変更手続きも煩雑になる恐れがあるのです。

相続登記は一代ごとに相続発生後すみやかに手続きすることで、無用なトラブルなどを防ぎやすくなるでしょう。

固定資産税や手続き費用が増える

不動産を所有する場合、例え空き家であっても不動産がある以上毎年固定資産税・都市計画税が発生します。

相続登記しない場合、不動産は相続人全員で共有することになり、相続人全員がこれらの税金を負担することになるでしょう。しかし、共有で納税するとなると納税忘れや相続人の一部しか支払わないなどでトラブルに発展する可能性があります。

もし、納税忘れとなると延滞税など税負担も増してしまうので注意しましょう。

また、長年登記しないままでいざ登記しようとしても必要な書類が増えるなどで通常よりも手続きが増えます。特に数世代前から登記していない場合、戸籍や住民票が廃棄されている可能性もあり、取得には特殊な書類や手続きが必要になるのです。

書類取得や手続きなどが増えることで、通常よりも登記にかかる費用も高くなってしまう点にも注意しましょう。

不動産が差し押さえられる

相続人の誰かが借金をしていると不動産が差し押さえられてしまう可能性があります。

複数の相続人がいる状態で相続登記しなければ、その不動産は相続人全員で共有して所有していることになります。そのため、相続人の誰かが借金をしている場合、債権者が申し立てることでその相続人の持ち分の不動産が差し押さえられる場合があるのです。

持ち分のみの差し押さえであっても、一部が差し押さえられると売却や活用が難しくなります。

土地の相続は期限までに手続きしよう!

相続登記の期限や登記しないデメリットなどをお伝えしました。

不動産を相続した場合、被相続人から相続人への名義変更である相続登記が必要です。相続登記は令和6年4月1日から義務化され、登記しない場合はペナルティもあります。

また、登記を放置していると後々手続きが煩雑になるなど不利な状況になりやすいので、速やかに登記手続きを進めるようにしましょう。

著者紹介

逆瀬川勇造(ライター)

金融機関・不動産会社での勤務経験を経て2018年よりライターとして独立。2020年に合同会社7pockets設立。前職時代には不動産取引の経験から、相続関連の課題にも数多く直面し、それらの経験から得た知識など分かりやすく解説。【資格】宅建士/AFP/FP2級技能士/相続管理士

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本記事の内容は、記事執筆日(2023年10月25日)時点の法令・制度等をもとに作成しております。最新の法令等につきましては、専門家へご確認をお願いいたします。万が一記事により損害が発生することがあっても、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。

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