特別受益とは?主張方法や該当するケースを知って相続争いを回避しよう

公開日:2023年11月29日

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「過去に兄だけ経済的な援助を受けていた」というように、一部の相続人にだけ生前贈与や遺贈などが行われていた場合、特別受益に該当するかもしれません。

特別受益を無視して遺産分割をすると、他の相続人が不公平に感じます。公平な遺産分割をするために、特別受益がある場合には遺産分割で配慮することが原則です。

本記事では、特別受益があった場合の遺産分割方法や主張方法をわかりやすく解説します。特別受益の知識を深め、公平に遺産分割を実施しましょう。

特別受益とは

特別受益とは、複数の相続人がいるなか、一部の相続人だけが被相続人から受け取っていた利益のことです。たとえば、3人の相続人がいるなか、1人、ないし2人だけが生前贈与で多額な資金援助を受けていた場合などに「特別受益があった」といいます。

相続人のだれかだけが生前に財産を受け取っているにもかかわらず、それを無視して遺産分割をすると不公平です。そのため、特別受益を考慮し、「特別受益の持ち戻し」を行って遺産分割することができます。持ち戻しによって生前に財産を受け取っていない相続人も不満なく、公平な遺産分割ができます。

このように、特別受益は相続人同士での不公平をなくして公平に遺産分割するための制度です。

特別受益の定義

特別受益の定義は法律で定められておらず、何が特別受益に該当するのかはケースバイケースです。なぜなら、被相続人の収入や資産の状況、他の相続人とのバランスなど、多角的に判断する必要があるからです。

たとえば、「⚪︎円以上の生前贈与は特別受益としてみなされる」「結婚資金は特別受益としてみなされる」という目安もありません。そのため、特別受益として認められるかどうかは、専門家でも意見が分かれる場合があります。

特別受益の対象と範囲

特別受益の対象は、相続人に限られます。なぜなら、相続人同士での不公平をなくすための制度だからです。愛人やビジネスパートナーなど、相続人でない相手にたくさん生前贈与があった場合でも、特別受益を主張できません。

また、特別受益の範囲は、以下の3つに限られます。

生前贈与被相続人が亡くなる前に行った贈与。
特別受益に該当する生前贈与は、婚姻・養子縁組・生計の資本として受けた贈与のみ。
遺贈被相続人が遺言書で「▲▲を◎◎に贈与する」と指定されて財産が引き継がれること。
原則、遺贈ならすべて特別受益に該当する。
死因贈与被相続人が生前に「私が死亡したらあなたに〇〇を贈与します」と約束をして行われる贈与。
原則、死因贈与ならすべて特別受益に該当する。

このように、生前贈与が特定の相続人に対して行われていたとしても、すべてが特別受益に該当するとは限りません。

令和5年に行われた法改正による影響

令和5年4月1日に施行された法改正には、特別受益に関する言及があります。その内容は、「特別受益は、相続開始後10年が経過した場合に主張できない」というものです。つまり、特別受益の主張に時効ができたと考えられます。

ただし、被相続人が亡くなってから10年経ったら遺産分割できないわけではありません。あくまでも特別受益を裁判所で主張できないというだけです。相続人全員が納得していれば、相続発生から10年経過したあとでも、特別受益を考慮した遺産分割をすることができます。

特別受益の持ち戻し

特別受益に該当する財産は、遺産分割時に相続財産の額に合算して相続分を計算します。これを特別受益の持ち戻しと言います。

たとえば、長男・次男・三男の3人が法定相続人だったとしましょう。被相続人の生前、長男だけが生活資金の援助として300万円生前贈与を受けていたと仮定します。一方、相続財産は1200万円でした。

このとき、相続財産1200万円に長男への特別受益300万円を合算した1500万円を3人で遺産分割します。相続分で分配するのであれば、3分の1ずつとなるため1人500万円ずつです。

しかし、すでに長男は300万円を受け取っているため、相続分の500万円から特別受益の300万円を差し引いた200万円を相続します。

ちなみに、持ち戻しの時価は相続開始時の評価額です。土地や建物などの評価が変化する財産に対しては、相続開始時の評価額にて持ち戻します。

特別受益に該当するケース・該当しないケース

特別受益の対象は相続人に対する生前贈与・遺贈・死因贈与に限られますが、すべてが該当するわけではありません。ここでは、特別受益に該当するケースと該当しないケース、持ち戻しができないケースをご紹介します。

該当するケース

特別受益に該当する可能性のあるケースは、以下のケースです。

  • 婚姻・結婚等のための生前贈与
  • 不動産の生前贈与・無償提供
  • 事業資金の生前贈与
  • 相続税の節税対策の生前贈与
  • 相続人への遺贈
  • 相続人への死因贈与
  • 扶養の範囲を超える生活費の援助
  • 高いレベルの教育費・海外留学費用の援助
  • 借地権の継承・設定

このように、扶養義務の範囲を超えた贈与・援助などは、特別受益に該当する可能性があります。

少額であれば扶養義務の範囲とみなされるケースもあります。しかし、同じ金額であっても他の相続人への資金援助状況や資産状況によって判断が変わると覚えておきましょう。

該当しないケース

該当しない可能性のあるケースは、以下の通りです。

  • 孫や内縁の妻など、相続人以外の遺贈や贈与:相続人以外の人が被相続人の財産を譲り受けていても、該当しない。
  • 生命保険・死亡退職金:受取人の権利であるため相続財産に含まれず、対象にならない。
  • 日常的な生活費・教育費・少額の小遣い:扶養義務の一環とみられる範囲の援助は、該当しない。
  • おしどり贈与:20年以上連れ添った配偶者に対する住まいを購入するための費用や居住用不動産の贈与は、該当しない。贈与額の110万円までに加えて2000万円が非課税となる。

このように、相続財産の前渡しでないとみなされると特別受益に該当しないケースがほとんどです。ただし、「実質的に相続人に対する特別受益だととれる」「他の相続人の遺留分を侵害している」など、状況によっては特別受益に該当すると判決を受けるケースもあります。

特別受益の持ち戻し免除の意思表示があると持ち戻しができない

被相続人が生前に意思を明らかにすれば、特別受益があっても持ち戻しをせずに遺産分割できます。これを特別受益の持ち戻し免除の意思表示と呼びます。

持ち戻し免除の意思表示に決まった形式はありません。一般的には、遺言書に一筆「長男に生前贈与した不動産は妻との同居のためであるため、特別受益の持ち戻しは行わないこと」などと記載します。

法律で意思表示方法は定められていないため、書面や口頭でも問題ありません。しかし、証拠が残る形で意思表示をしたほうが、調停や審判に移行したときにも効力を発揮できます。

特別受益の主張の流れ

他の相続人に特別受益があった場合、特別受益があったことを主張する必要があります。主張が認められなければ特別受益を持ち戻すことなく、遺産分割が進んでしまうためです。

特別受益の主張をするときの流れは、以下の通りです。

  1. 相続人が特別受益を得ていた証拠を収集する
  2. 遺産分割協議で特別受益を主張する
  3. 家庭裁判所へ調停の申立てを行う
  4. 家庭裁判所の審判で判断してもらう

4つのステップについて、順番に詳しく確認しましょう。

1.相続人が特別受益を得ていた証拠を収集する

まず、他の相続人が特別受益を得ていた証拠を収集しましょう。「姉だけが留学4年分の費用を出してもらっていた」「弟だけが事業立ち上げ資金を援助してもらっていた」など、特別受益があったとしても、証拠がなければ主張できません。

証拠には、以下のような情報が必要です。

  • いつ渡されたのか
  • 誰に渡されたのか
  • いくら(相当)の特別受益があったか

被相続人の預貯金通帳や残高証明、不動産の登記簿、贈与契約書などから証拠を見つけましょう。

ただし、証拠がなくても特別受益のあった相続人が「特別受益分を考慮して遺産分割を進めてもよい」と聞き入れてくれる場合には、証拠がない状態でも特別受益を持ち戻して遺産分割することができます。

2.遺産分割協議で特別受益を主張する

証拠集めができたら、まずは特別受益を得た特別受益者との遺産分割協議で特別受益を主張しましょう。

たとえば、「姉さんは500万円の留学費用を出してもらったから、その分を考慮して遺産分割をしてほしい」などと主張し、話し合いでの解決を試みます。話し合いで特別受益者の合意が得られれば、特別受益分を考慮して遺産分割を進めます。

3.家庭裁判所へ調停の申立てを行う

話し合いで解決しない場合、家庭裁判所へ遺産分割調停の申立てを行いましょう。調停では、第三者である調停委員が間に入って話し合いをします。双方の合意が得られれば、調停成立です。

4.家庭裁判所の審判で判断してもらう

調停でも解決しない場合は調停不成立となり、家庭裁判所の審判で判断を下します。

審判では、裁判所が特別受益として認められるかどうか、どのように遺産分割をすべきかの最終的な判断が下されます。

特別受益と遺留分の関係について

特別受益と遺留分の関係についてのイメージ

遺留分とは、民法で定められた相続人に最低限守られる相続財産の取り分です。兄弟姉妹以外の法定相続人であれば、遺留分を主張できます。

たとえば、被相続人が「長男に全財産を譲る」といった内容の遺言書を遺したとしましょう。この遺贈は特別受益に該当するだけでなく、他の相続人の遺留分侵害にも該当します。

遺留分を侵害をされた相続人は、特別受益者に対して遺留分侵害額請求を行うことが可能です。

以下のような贈与であれば、遺留分算定における持ち戻しの対象となります。

  • 相続開始からさかのぼって1年以内に、相続人以外に行われた贈与
  • 贈与者・受贈者が相続人の遺留分を侵害すると知ったうえで行った贈与・不当な金額による有償行為

ちなみに、遺留分計算の際には、持ち戻し免除がされても特別受益は考慮されるため注意しましょう。相続分と遺留分で考え方が異なるため注意しましょう。

また、遺留分を算定する際、持ち戻しの対象にできる特別受益は相続開始前10年間に行われたものに限られます。以前は持ち戻し期間は限定されていませんでしたが、民法改正によって令和元年7月1日以降に開始した相続において期間が制定されました。

「生前贈与の遺留分」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

特別受益を考慮した遺産分割の計算方法

特別受益があった際、特別受益を考慮して遺産分割を行います。具体的な例を見ながら、計算方法について確認しましょう。

  • 被相続人:父
  • 相続人:配偶者(母)・長男・次男の3人
  • 相続財産:5000万円
  • 特別受益者:長男
  • 特別受益:長男に対して600万円の生前贈与

計算の手順は、以下の通りです。

  1. みなし相続財産の総額を算出する
  2. みなし相続財産を相続分で分割する
  3. 特別受益者の相続分を算出する

順番に確認しましょう。

1.みなし相続財産の総額を算出する

まず、特別受益の持ち戻しをするには、民法上のみなし相続財産にもとづいて相続分を計算しなければなりません。

計算式は、以下の通りです。

みなし相続財産の総額=相続発生時の相続財産の評価額+特別受益の評価額

今回の例に当てはめて計算すると、以下の通りです。

みなし相続財産の総額=5000万円+600万円=5600万円

5600万円の相続財産があったとみなして、それぞれの相続分を計算していきます。

2.みなし相続財産を相続分で分割する

みなし相続財産を相続分で分割すると、以下のようになります。

  • 配偶者(母):5600万円×1/2=2800万円
  • 長男・次男:5600万円×1/2×1/2=1400万円

特別受益のなかった配偶者(母)と次男の取り分は、上記の計算の通りです。

3.特別受益者の相続分を算出する

特別受益者である長男の取り分は、相続分からすでに受け取っている特別受益を差し引きます。

長男の相続分:1400万円-600万円=800万円

本来であれば1400万円の配分でしたが、特別受益600万円分が考慮され800万円に金額が変更されます。

このように、特別受益を主張するかどうかによって、相続人の取り分は大きく変動します。他の相続人に特別受益があった場合には遺産分割協議で主張しましょう。

民法改正によって変わった特別受益の考え方

令和に入ってから行われた2度の民法改正では、特別受益に関する内容も記載されています。大きく変更となった点は、3点です。

  • 遺留分侵害の算定における特別受益の時効
  • おしどり贈与における特別受益の持ち戻し免除の意思表示の推定
  • 特別受益の主張の時効

相続争いを避けるためにも、3点について詳しく理解しましょう。

遺留分侵害の算定における特別受益の時効

令和元年7月1日に施行された民法改正では、遺留分侵害の算定における特別受益の時効が設定されました。

内容は、遺留分侵害の算定において、特別受益は相続発生前10年以内の生前贈与に限定するというものです。そのため、10年以上前の留学資金や結婚資金などは遺留分侵害の算定において考慮されません。

おしどり贈与における特別受益の持ち戻し免除の意思表示の推定

令和元年7月1日に施行された民法改正では、婚姻20年以上の夫婦間で住まいを購入するための費用や居住用不動産の贈与・遺贈があったときには「特別受益の持ち戻し免除の意思表示があったもの」と推定されることとなりました。

ポイントは「推定」という部分です。実際に持ち戻し免除の意思表示があったかどうかではなく、意思表示があったものとみなして持ち戻しが免除されます。

高齢化社会や核家族化の時代の流れに沿って、配偶者の生活保障をより手厚くするために法改正されたと推測できます。

特別受益の主張の時効

令和5年4月1日に施行された民法改正では、特別受益の主張の時効が設定されました。内容は、相続開始から10年経過すると特別受益の主張ができず、考慮した遺産分割はされないというものです。

もちろん、遺産分割時に相続人全員が同意したうえで、特別受益を考慮した遺産分割をすることに問題はありません。あくまでも、裁判所における特別受益の主張ができなくなります。

特別受益の主張の時効は、早期の遺産分割や相続登記を促すために設定されたと推測できます。

特別受益を主張して公平な遺産分割をしよう

一部の相続人にだけ特別受益があると、相続争いの原因になりかねません。主張する場合は証拠を準備し、他の相続人にも納得してもらえるよう協力を促しましょう。

しかし、どの贈与・遺贈が特別受益に該当するのかは、一般人にとって判断が難しいです。特別受益に該当するかどうかや、証拠集め、話し合いには弁護士に介入してもらったほうがスムーズに遺産分割が進むケースもあります。

特別受益について悩みがあるなら早めに弁護士に相談し、円滑な遺産分割ができるようサポートしてもらいましょう。

「生前贈与と遺産分割」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

著者紹介

安持まい(ライター)

執筆から校正、編集を行うライター・ディレクター。IT関連企業での営業職を経て2018年にライターとして独立。以来、相続・法律・会計・キャリア・ビジネス・IT関連の記事を中心に1000記事以上を執筆。

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本記事の内容は、記事執筆日(2023年11月29日)時点の法令・制度等をもとに作成しております。最新の法令等につきましては、専門家へご確認をお願いいたします。万が一記事により損害が発生することがあっても、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。

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