相続登記義務化に続いて始まる住所等の変更登記申請義務化とは?

公開日:2023年12月19日|更新日:2024年1月11日

相続登記義務化と合わせて始まる住所等の変更登記申請義務化とは?_サムネイル

不動産所有者の住所や氏名を変更した場合、住所・氏名の変更登記が必要です。

令和5年時点では変更登記を放置していても問題ありませんが、相続登記の義務化に伴い変更登記は義務化されます。

この記事では、住所・氏名の変更登記の義務化について、注意点や手続きまで分かりやすく解説します。

不動産の住所・氏名変更登記の義務化とは

不動産の住所・氏名変更登記は、令和8年4月から義務化されます。

これによって、登記簿に記載されている所有者の住所・氏名に変更が生じた際には、変更を申請する変更登記が必ず必要になるのです。

そもそも住所・氏名変更登記とは?

不動産の登記簿には、不動産を特定する情報だけでなく所有者の氏名・住所の情報も記載されています。しかし、登記後に引っ越しや結婚などで記載された氏名・住所に変更が出ることは少なくありません。

この登記簿に記載されている住所・氏名の内容を変更する登記が、住所変更登記・氏名変更登記です。

住所・氏名変更登記は、それまで登記の義務はありませんでしたが、2021年の不動産登記法改正に伴い令和8年の義務化が決まったのです。

義務化の背景

今、日本が抱える問題のひとつに「所有者不明土地の増加」があります。

所有者不明土地とは、登記簿を参照しても直ちに所有者が判明しない土地や所有者が判明しても連絡が取れない土地のことです。

所有者不明土地は、公共事業や復興事業の妨げになる恐れや所有者特定に時間や費用を要するなど、土地活用・街づくりにおいて問題になるものです。

また、所有者不明のまま管理を放置されると雑草の繁茂や不法投棄・害虫の発生など近隣の生活環境に影響が出る恐れもあります。所有者不明土地ができる大きな要因が、正しく登記されていないことです。

特に、相続登記が長期間放置されることによる所有者不明土地の増加は、高齢化による相続機会の増加により、今度ますます増えることが懸念されています。

所有者不明土地の解決のため、令和3年の不動産登記法改正では令和6年4月1日からの相続登記が義務化されました。しかし、相続登記だけを義務化しても、登記後に住所・住所の変更登記を放置されると所有者不明土地になりかねません。

そのため、相続登記義務化に続いて令和8年4月から住所・氏名変更登記も義務化されるのです。

住所・氏名変更登記の義務化の注意点

住所・氏名変更登記義務化の注意点として、次の3つが挙げられます。

  • 変更から登記までの期限がある
  • 罰則が科せられる
  • 過去の変更も対象となる

それぞれ詳しくみていきましょう。

変更から登記までの期限がある

義務化後は、転居などで住所に変更のあった日から、2年以内の登記変更が必要です。婚姻などで氏名に変更があった場合も、変更から2年以内に登記しなければなりません。

罰則が科せられる

正当な理由がなく変更から2年以内に登記がない場合、5万円以下の過料の罰則が科せられます。なお、正当な理由の具体例や過料が科せられる手続きについては、今後定められていく予定です。

過去の変更も対象となる

義務化後に罰則の対象となるのは、令和8年4月以降の変更だけでなくそれ以前の変更も含まれます。すでに変更が生じており登記していない場合、義務化の施行日から2年以内の登記が必要です。

現時点で変更登記が済んでいない人は、速やかに登記手続きすることをおすすめします。

手続き方法・必要書類

ここでは、住所・氏名変更登記の方法と必要書類を解説します。

手続き方法

手続きの大まかな流れは次の通りです。

  1. 必要書類の収集
  2. 申請書の作成
  3. 法務局に登記申請
  4. 登記完了

登記申請書を作成し必要書類を添えて、不動産の所在地を管轄する法務局に申請します。申請時には、不動産個数1個につき1000円の登録免許税を収入印紙の貼付での納税が必要です。

たとえば、一戸建ての場合、土地と建物で2000円の登録免許税となります。

また、申請書の提出方法は法務局窓口だけでなく、郵送での申請も可能です。郵送の場合は、返信用封筒を同封し「不動産登記申請書在中」と記載して書留で送付しましょう。

1週間から10日ほどで登記は完了します。申請時に通達された完了日以降に登記完了証を受け取り登記が完了です。

必要書類

登記申請には下記の書類が必要です。

登記内容必要書類
住所変更登記住民票または戸籍附票
(登記されている住所から現住所までの変遷があきらかになるもの)
氏名変更登記・戸籍謄本
・住民票または戸籍附票

また、申請に貼付する必要はありませんが、申請書を作成する際の不動産情報を確認するために登記事項証明書も必要です。登記事項証明書は、法務局の窓口で入手できます。

情報だけを閲覧するなら、「登記情報提供サービス」を活用してインターネット上での閲覧も可能です。

住所・氏名変更登記は、登記の中でも比較的しやすい手続きといえます。ただし、変更せずに長期間放置していると住所履歴などの必要書類が収集できない場合もあるので、その場合は専門家に相談するとよいでしょう。

法務局の職権による変更登記の仕組みも導入予定

法務局の職権による変更登記の仕組みも導入予定のイメージ

住所・氏名変更登記の義務化に伴い、法務局が職権で住所などの登記を変更する仕組みも導入されます。

この仕組みでは、令和8年4月1日以降に登記する際に検索用情報を提供することで、法務局が住基ネットなどで変更を確認した場合、登記官が住所・氏名の変更を行えるのです。

住所・氏名変更登記は、義務化したからと言って実効性が必ずあるとは言い切れません。

「収入が低く登記費用を捻出できない」「DVの恐れがあり住所が明らかになる手続きをしたくない」など登記できない事情を抱える人もいるでしょう。

職権による変更登記制度では、名義人本人の申請がなくても法務局の登記官で変更登記が可能になるため、変更登記の効率化が見込めます。

この仕組みでは、登記官は個人だけでなく、法人の住所・氏名変更登記ができます。ただし、個人と法人では異なる手続きで変更されます。

個人の変更登記

個人の変更登記を職権でできるのは、あらかじめその個人から申し出があった場合のみに限られます。

個人の現住所が了承なくあきらかになると、DV被害などの恐れもあります。被害者保護の観点から、住所情報の公開を希望しない場合は職権でも変更できなくなっているのです。

個人の登記を職権で変更する場合の大まかな流れは、次のようになります。

  1. 登記申請時に生年月日などの検索用情報を提供
  2. 登記官が住民基本台帳ネットワークで定期的に名義人の氏名・住所の照会
  3. 変更を確認した場合、登記名義人の承諾を受けてから変更登記

個人では、変更登記する際に名義人に申し出たうえで了承を得なければ、変更登記を自動的に行えません。なお、検索情報の提供は、登記申請時以外でも任意で提出できるようになる予定です。

法人の変更登記

法人は、個人のようにプライバシーに配慮する必要がないため、より簡単な流れで変更されます。

法人の手続きは次の通りです。

  1. 登記時に法人番号などの検索情報を提供
  2. 商業・法人の登記システムが変更情報を通知
  3. 登記官が変更登記を行う

法人の場合は、了承を得ることなく変更登記されます。また、法人の場合、商業・法人登記簿の記載内容に変更がある場合の変更登記は、現時点ですでに義務となっています。

住所・氏名の変更があったら速やかに登記申請を

引っ越しや婚姻などで住所・氏名に変更がある場合、不動産登記簿の所有者情報の変更登記が必要です。令和8年4月1日以降は、変更登記が義務となり2年以内に登記しない場合罰則が科せられます。

令和8年4月1日以前の変更であっても、義務化に伴い変更義務の対象となるため、変更が生じているのに変更登記していない人は速やかに登記申請するようにしましょう。

住所・氏名変更登記は、長期間放置していると手続きが複雑になる恐れがあります。また、書類の収集や手続きなど時間が取れないというケースもあるでしょう。

手続きは司法書士に依頼できるので、変更があった人・これから変更する人は一度相談してみることをおすすめします。

著者紹介

逆瀬川勇造(ライター)

金融機関・不動産会社での勤務経験を経て2018年よりライターとして独立。2020年に合同会社7pockets設立。前職時代には不動産取引の経験から、相続関連の課題にも数多く直面し、それらの経験から得た知識など分かりやすく解説。【資格】宅建士/AFP/FP2級技能士/相続管理士

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本記事の内容は、記事執筆日(2023年12月19日)時点の法令・制度等をもとに作成しております。最新の法令等につきましては、専門家へご確認をお願いいたします。万が一記事により損害が発生することがあっても、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。

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