家族信託の費用事情を解説!自分で?専門家?費用を最小限に抑える方法と失敗しないコツ

公開日:2022年6月30日|更新日:2023年6月30日

家族信託とは?一般的な費用一覧や家族信託を利用するときの注意点を解説_サムネイル

「家族信託に必要な費用はどのくらいなんだろう」と気になっていませんか。信託財産や土地によって異なるため一概に言えませんが、平均的な額は50〜100万円で収まることが多いとされています。一見高額な料金に思えますが、自分たちの家庭事情に沿った内容で家族信託を設計するため、長期的なメリットを得られます。そのため、費用対効果は大きいといえるでしょう。今回は、家族信託の費用の目安と内訳について詳しく解説します。家族信託の費用について理解を深めて、自分たちの家族にピッタリな財産の継承方法を設計しましょう。

家族信託とは

家族信託とは、家族に自分の財産管理を託す制度のことです。判断能力の衰えていないうちに所有する財産を家族に託すことで、円滑な財産継承ができます。また、家族信託なら認知症や亡くなっても口座を凍結される心配がありません。

家族信託では、託す財産のことを信託財産といいます。家族信託の肝となる役割は、以下の3種類です。

  1. 所有している財産を委託する人…委託者(親など)
  2. 信託財産の管理や運用を行う人…受託者(子どもなど)
  3. 信託財産の所有権を持つ人…受益者(親など)

委託者と受益者は同一になることが少なくありません。

委託者の財産を管理するために、受託者は新たに信託口口座(専用口座)や信託専用口座(普通口座)を開設する必要があります。

信託口口座とは、受託者によってお金を管理・運用するための口座です。 名義が委託者と受託者の連名で記載されます。信託口口座で運用すれば、信託財産であることが第三者にも明らかなため、分別管理がしやすくなります。

信託専用口座とは、受託者名義で作られた普通預金口座のことです。信託口口座を開設できないときに代用できます。ただし、受託者が委託者よりも先に死亡すると、次の受託者がスムーズに口座を引き継ぐことができない可能性があります。

家族信託について詳しく知りたい人は、「家族信託とは」をご覧ください。

家族信託にかかる費用

費用のイメージ

家族信託を行うときに必要な費用は、平均で50~100万円ほどで落ち着くケースが多く見受けられます。ただし、土地の有無や信託財産の額、契約内容によって必要な費用は変わります。あくまでも目安として確認しましょう。

開始時にかかる費用

信託設定費用(弁護士や司法書士などに設計を依頼)

弁護士や司法書士などの専門家に家族信託の設計を依頼するための費用は、およそ30~80万円の間に落ち着くことが多いとされています。設計依頼料は専門家によって前後しますが、以下の表を目安にすれば大きく逸脱することはないでしょう。

家族信託で必要な項目と費用相場は、以下の表の通りです。

信託財産の評価額費用
3000万円以下一律30万円
1億円以下部分信託財産の1%
1~3億円以下部分信託財産の0.5%

信託財産には預貯金のほかに不動産も含まれ、不動産の評価額は固定資産税評価額が基準です。固定資産税評価額は毎年送られてくる納税通知書で確認できます。納税証明書に添付された課税明細書に固定資産税評価額が記載されているので確認しましょう。

たとえば、信託財産のうち現金が5000万、不動産が6000万だと仮定します。このときの設計依頼料の計算方法は、以下の通りです。

  • 現金と不動産の合計額…5000万+6000万=1億1000万
  • 1億以下部分…1000万×1%=10万円
  • 1~3億円以下部分…1億×0.5%=50万円
  • 1億以下部分と1~3億円以下部分の合計…10万+50万=60万円

この場合の弁護士や司法書士への設計依頼料は、60万円です。

信託財産の登記費用

信託財産が預貯金などの金融資産だけであれば、不動産の信託登記をするための税金は発生しません。しかし、信託財産に不動産が含まれている場合は、信託登記の申請時に「委託者」または「受託者」が「登録免許税」を支払う必要があります。

不動産の所在地を管轄する法務局にて、「所有権移転登記」と「信託登記」の申請を行います。所有権移転登記は非課税ですが、信託登記に対して「登録免許税」が発生します。登録免許税は固定資産税評価額を基準に算定され、建物については固定資産税評価額の0.4%、土地については0.3%(※)が課税されます。

土地建物
固定資産税評価額の0.3%
※令和5年3月31日まで
固定資産税評価額の0.4%

信託登記費用は、不動産の所在地や評価額によって異なりますが、一般的には、数万円から数十万円程度です。
(※3)令和8年3月31日まで0.3%の軽減措置が適用されています。

司法書士への登記依頼費用

上記の登記自体は自力で行うことも可能ですが、専門家に依頼することもできます。
登記の専門家である司法書士への依頼費用は、およそ8〜12万円の間で落ち着くとされています。複雑な内容のため司法書士に任せる方法をおすすめします。

公正証書作成手数料

公正証書作成手数料とは、契約書作成の手数料として公証人へ支払う費用のことです。相場は3~10万円の間で推移することが多いとされています。

契約の内容や信託財産によって公正証書作成手数料は変動するため、預貯金の額や不動産の評価額によって費用は大きくなります。

公正証書の作成代行費用

公正証書作成の代行費用は、およそ10~15万円で落ち着くケースが多いようです。

公正証書とは、公証事務を担う法の専門家(公証人)が契約など一定の事項について作成し、 内容を証明する書類のことです。一連の作成手続は、公証人法により厳格に規定されています。

公正証書を作成するためには、煩雑な手続きが必要です。たとえば、公正証書を作成する前に資料を提出して公証人と打ち合わせをしなくてはなりません。実際に作成する日はあらかじめ予約をとる必要があります。公正証書の作成代行費用は、このような手続を代行するための費用です。

実際のところ、家族信託契約は私文書での契約でも有効に扱われます。しかし、公正証書だと公証人が本人確認や意思確認を行ってから契約成立を認めるため、私文書よりも証明力は高いとされているのです。

そのため、多くの場合は公正証書で家族信託契約書を作成します。

贈与税

委託者と受益者が同じ「自益信託」であれば、他人に財産が移ったとみなされないため、贈与税は発生しません。しかし、委託者と受益者が異なる「他益信託」というケースもあります。他益信託であれば、財産が他人に移ったとみなされて、受益者(財産権を持つ人)に対して贈与税が発生します。

開始後にかかる税金・経費やランニングコスト

受託者への信託報酬

家族信託の場合は「受託者=家族」となることが一般的のため無報酬となることが多いようです。しかし、受託者が家族の場合でも報酬を設定することは可能ですので、信託報酬を定めた場合は定期的に費用が発生します。

信託監督人・受益者代理人への報酬

信託開始後にきちんと事務が実施されているかを監督する信託監督人や、受益者に代わって受益者の権利を行使する権限を持つ受益者代理人を設置している場合は、それぞれ報酬費用が発生します。

固定資産税

家族信託を契約し名義変更を行うと固定資産税の納税通知書は、不動産の所有者(所有権登記名義人)である「受託者」に送付されるようになります。ただし、委託者は管理・運用を任されている立場であるため、受益者(財産権を持つ人)が支払いを負担することもできます。

利益が生じた場合の税金

信託財産から利益が生じた場合は、信託の種類に合わせた税金が課税されます。

1. 収益発生時に受益者に直接所得税(不動産所得、雑所得、利子所得、配当所得)などが課税される

  • 特定金銭信託・ファンドトラスト
  • 単独運用指定金銭信託
  • 有価証券の信託
  • 不動産信託・土地信託

2. 収益分配時に受益者に信託の種類によって所得税(利子所得、配当所得、雑所得)などが課税される

  • 合同運用指定金銭信託
  • 証券投資信託・国内公募投資信託・外国投資信託年金
  • 信託(確定給付企業年金信託、確定拠出年金信託、厚生年金基金信託)
  • 特定公益信託

3. 受託者に対して法人税が課税される

  • 受益証券発行信託(特定受益証券発行信託を除く)
  • 目的信託などの受益者等が存在しない信託
  • 2. に該当しない投資信託

引用:一般社団法人信託協会「信託と税金

費用をなるべく抑えたい場合の手立ては?

費用をなるべく抑えたいときのイメージ

費用をなるべく抑えて家族信託の手続を行うなら、公正証書の作成をせずに私文書で作成しましょう。そうすることで公正証書作成手数料を節約できます。私文書で作成するときは、その日に家族信託契約書が存在していたことを証明する確定日付の印をもらいに行きましょう。確定日付の印のみなら、700円の実費で済みます。

ただし、私文書には以下のようなデメリットがあるため、節約するメリットが上回る場合に活用してください。

  • 公正証書に比べて証拠能力として低い
  • 消失すると証拠がなくなる
  • 信託口口座の開設ができない

私文書だと「委託者本人の意志である証拠」に乏しく、相続人同士で争いが起こる可能性があります。公正証書の場合、公証役場で申請者の本人確認をしたうえで意思確認が行われるため、強力な効力を持つ傾向にあります。

公正証書には原本があるため、紛失や盗難、焼失しても再発行できますが、私文書は再発行できません。

私文書だと信託口口座開設できない金融機関が多くあります。信託口口座を開設するときは金融機関で公正証書のリーガルチェック(法務確認)が行われるため、私文書だと口座開設に必要な書類と認められない可能性があります。その場合、信託専用口座で代用できますが、分別管理を徹底したいなら信託口口座が最適です。信託口口座の開設を考えているなら公正証書で作成することをおすすめします。

私文書で家族信託の契約内容を作成すれば費用削減につながりますが、大きなデメリットになるケースも少なくありません。しっかり吟味したうえで私文書で作成するか結論を出しましょう。

自分で家族信託の手続きはできないの?

家族信託は司法書士や弁護士でなくても手続可能なため、家族信託の契約内容から公正証書作成、登記まですべて自分で行えば費用を抑えることができます。

すべて自力で家族信託契約を締結し、公正証書で作成した場合にかかる費用は、以下のような実費です。

  • 公正証書作成手数料
  • 登録免許税(土地がある場合)

ただし、法的な専門知識がない人が自力で手続するには、難易度が高いためおすすめできません。なぜなら、内容に漏れや間違いがあると法律的に無効になりかねないからです。また、当事者がすべて取りまとめることで、「取りまとめる人だけが有利な内容になるのではないか」とトラブルの原因にもなります。

たしかに、専門家の手を借りずに信託内容の作成から登記申請まで自分ですべて行えば、費用を抑えられるでしょう。しかし、法律的に無効になれば、これまでの労力は無駄になってしまいます。また、契約内容に穴があっても自分で気付くことは非常に困難です。そのため、のちのち大きなトラブルに発展してもおかしくありません。

確実に家族信託の手続を行うなら、費用をかけて専門家に相談することをおすすめします。

家族信託を利用するときの注意点

家族信託を利用するうえで知っておきたい注意点が4つあります。順番に見ていきましょう。

  1. 相続権を持つ家族としっかり話し合う
  2. 不安なら信託監督人を立てる
  3. ほかの制度との併用を検討する
  4. 実務経験の豊富な専門家に相談する

相続権を持つ家族としっかり話し合う

家族信託は受託者に財産管理を任せることになるため、相続権を持つ家族全員としっかり話し合う必要があります。一部の家族だけで話を進めてしまうと、ほかの相続人は不信感を抱くことになり、争いの原因になりかねません。

家族信託の設計を行うときは、必ず相続権を持つ家族の理解を得ながら決めましょう。

不安なら信託監督人を立てる

受託者に財産管理を任せるにはすでに高齢で不安な場合や財産を悪用される心配があるなら、信託監督人を立てましょう。信託監督人とは、受託者がしっかり管理できているか監督する人のことです。

親族に信託監督人を頼む方法以外に、司法書士や弁護士といった専門家に依頼する方法もあります。この場合の信託管理人の費用は、月額1万円〜とされています。

ほかの制度との併用を検討する

遺言書や任意後見といった、ほかの制度との併用することも考えましょう。家族信託は自由のきく制度ですが、決して万能ではありません。そのため、希望する承継の形を明確にして、理想に対し家族信託の利用だけで足りるのか検討する必要があります。

家族信託のほかに遺言書を併用した方がより希望を忠実に叶えられる場合も少なくありません。なぜなら、信託財産以外の財産について遺言を残しておかないと法定相続されるからです。つまり、信託財産以外の財産を法定相続人以外の人に承継させたいと考えているなら、家族信託と遺言書を併用しなくてはなりません。

家族構成や財産の内容、希望する承継によって最適な制度は異なります。家族信託以外の制度も活用して理想の承継を実現させましょう。

実務経験の豊富な専門家に相談する

家族信託を設計するときは、実務経験の豊富な専門家に相談することをおすすめします。なぜなら、契約内容の設定から公正証書作成や登記まで複雑な手続をいくつも経る必要があるからです。また、過不足なく家族の意見を反映させるには家族信託のみでは補えないことは珍しくありません。実務経験の豊富な専門家なら、家族信託の利用では足りない部分の指摘や、ほかの制度との併用の提案を期待できます。

費用も大事な観点ですが、実務経験の豊富な専門家でないと気付けない点もあるため、家族信託を得意とする専門家に依頼することをおすすめします。一般社団法人家族信託普及協会で紹介してもらうことも可能です。

まとめ

家族信託を行うための費用は、50~100万円の間で落ち着くことが多い傾向です。相場は財産の状況やコンサルティング費用によって変動がありますが、ある程度の出費は見込んでおくことをおすすめします。

司法書士や弁護士に依頼すると高額ですが、長期にわたって家族信託の制度を活用するためメリットは大きいでしょう。
また、専門家の知恵を借りれば、個々の状況にあわせてほかの制度と組み合わせて検討できるため、より自分たちの家庭環境に適した契約内容で手続できます。

円滑な財産承継や、判断能力の衰えで家族に迷惑をかけないためにも、前向きに家族信託を検討しましょう。

著者紹介

相続プラス編集部

相続に関するあらゆる情報を分かりやすくお届けするポータルサイト「相続プラス」の編集部です。相続の基礎知識を身につけた相続診断士が監修をしております。相続に悩むみなさまの不安を少しでも取り除き、明るい未来を描いていただけるように、本サイトを通じて情報配信を行っております。

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本記事の内容は、記事執筆日(2022年6月30日)時点の法令・制度等をもとに作成しております。最新の法令等につきましては、専門家へご確認をお願いいたします。万が一記事により損害が発生することがあっても、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。

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