成年後見人の手続きの流れと必要な費用、注意点を解説|制度の概要まとめ

公開日:2023年7月27日

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成年後見人を立てるときに費用がどれほどかかるか気になっていませんか。判断能力ができなくなった方の財産が守られる一方で、手続きや成年後見人への報酬に一定の費用がかかります。

本記事では成年後見人を立てたときの費用を詳しく解説します。支払えない場合の対処法も解説しているため、参考にしてください。

成年後見人に必要な費用についての知識を深め、不安のない状態で申立て手続きを開始しましょう。

成年後見制度とは

成年後見制度とは、知的障害・精神障害・認知症などが原因でさまざまな判断に不安を感じる方のために契約や手続きをサポートする制度です。

1人で決めることに不安のある方を法的に保護しながらも、本人の意志を尊重したサポートが行われます。

主にサポートしてもらえる内容は、以下の2つです。

財産管理不動産・預貯金の管理や相続手続きなど
身上監護介護・福祉サービスの利用契約や入所・入院の契約など

たとえば、認知症の方に相続が発生した場合、認知症の方を「自分で判断できないから」という理由で遺産分割協議に参加させないことはできません。遺産分割協議には相続人全員が参加しなければ、話し合いが成立したと言えないからです。

しかし、1人で判断できない方が遺産分割協議に参加したとしても、意見が言えず、不利益を被るかもしれません。このような場合に成年後見人制度が活用されます。

「成年後見制度」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

参照:成年後見制度とは|厚生労働省

2種類の成年後見制度

成年後見制度は、対象者によって2つの種類に分けられます。

  • 法定後見制度:すでに判断能力が不十分になった方に向けた制度
  • 任意後見制度:いまは判断能力があるが、将来に備えたい方にむけた制度

本人に判断能力がある場合、サポートしてほしい契約や手続きの内容を特定できます。

「2つの成年後見制度の違い」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

成年後見人とは

成年後見人とは、判断能力のない方に代わって法的な契約や手続きを行う代理人です。成年後見人の選出方法や職務内容は、成年後見制度の種類によって異なります。

項目法定後見制度任意後見制度
選出方法家庭裁判所で申立て本人による選出
後職務内容法律によって決定契約内容によって決定
報酬額家庭裁判所が決定契約内容によって決定
監督人家庭裁判所任意後見監督人

成年後見人には本人の子どもや親戚が専任されるケースもありますが、多くのケースで専門家が選出されています。なぜなら、近くに住んでいなかったり財産の管理ができないと判断されたりすると、親族に任せられないためです。

また、親族が成年後見人として選出された場合、遺産分割協議には「利害関係がある」と判断されます。そのため、成年後見人が本人に代わって遺産分割協議に参加できません。

この場合、成年後見人とは別に成年後見監督人を選出する必要があります。

「成年後見人」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

成年後見制度を利用する際に発生する手続きと費用

法定後見人制度を利用する場合、大きく以下の3つの費用が発生します。

  • 申立て手続きで発生する費用:6万円〜
  • 成年後見人への報酬:月2〜6万円
  • 成年後見監督人への報酬:月1〜3万円

それぞれどのような費用なのか確認しましょう。

申立て手続き

成年後見人をつけてもらうためには、家庭裁判所における「後見開始の申立て」の手続きが必要です。申立て手続きの費用相場は、6万円程度です。

ただし、専門家に申立て手続きを依頼するのであれば、追加で15〜25万円の報酬を支払う必要があります。

成年後見人への報酬

成年後見人を立てると、毎月報酬の支払いが必要です。

基本報酬は月2〜6万円程度です。しかし、特別な事情によって困難な手続きをしなければならない場合に基本報酬の50%程度の付加報酬の支払いが発生します。

成年後見監督人への報酬

成年後見監督人とは、成年後見人を監督する役割を持つ人です。必ずしも監督人を立てるわけではなく、家庭裁判所が必要であると認めた場合に裁判所から選任されて就任します。

成年後見監督人への報酬の目安は、1〜3万円です。一般的に、弁護士や司法書士などの専門家が選任されます。

成年後見人の申立て手続きにかかる費用

成年後見人申立ての費用のイメージ

成年後見人の申立て手続きの費用相場は、6万円程度です。さらに専門家に申立て手続きの依頼をすると、15〜25万円かかります。

申立てに必要な費用は、原則申立人が支払います。被後見人本人が申し立てるのであれば、負担は本人です。

以下に内訳をまとめました。

  • 申立て手数料:800円
  • 後見登記手数料:2600円
  • 戸籍謄本・住民票の取得:1500円程度
  • 証明に必要な書類の取得:3000円程度
  • 裁判所との連絡に必要な切手代:3000〜5000円
  • 医療機関による本人の判断能力に関する診断書:数千円
  • 裁判所が本人の判断能力を判定する鑑定費用:5〜10万円
  • 専門家への依頼費:15〜25万円

それぞれ具体的な内容を確認しましょう。

申立て手数料

申立てを行う際、手数料が発生します。費用相場は800円で、収入印紙で納めます。

もし、保佐・補助の申立てや、代理権・同意権の付与申立ても同時にするのであれば、それぞれ800円分の収入印紙が追加で必要です。

後見登記手数料

成年後見人の選出後、後見登記のための手数料が必要です。費用相場は2600円分で、収入印紙で納めます。

戸籍謄本・住民票の取得

成年後見人の申立てには、被後見人本人と成年後見人の候補者の戸籍謄本と住民票の提出が求められます。取得費用の相場は、以下の通りです。

  • 戸籍謄本:1通あたり450円
  • 住民票:1通あたり300円

それぞれ被後見人本人分と成年後見人の候補者分の2通を取得します。自治体によって取得費用は変動するため注意しましょう。

証明に必要な書類の取得

成年後見人の申立てでは、さまざまな証明が求められます。そのため、証明書の取得に3000円程度かかります。具体的には以下のような証明書が必要です。

  • 登記されていないことの証明書:300円程度
  • 残高証明書:1000円程度
  • 不動産の登記事項全部証明書:600円
  • 固定資産税評価証明書・課税証明書:300円程度

まず、申立て以前に後見制度を利用していないことを証明するために「登記されていないことの証明書」を法務局から取り寄せます。なお、「登記されていないことの証明書」は正式名称です。

次に、成年後見人に管理してもらうための財産の証明が求められます。

預金がいくらあるかを証明するために、金融機関で残高証明書を発行してもらいましょう。通帳のコピーでも証明書として受け付けてもらえる場合があります。

土地や家屋などの不動産を持っている場合、不動産ごとに登記事項全部証明書が必要です。法務局で発行してもらえます。

また、不動産の評価額を証明するために、固定資産税評価証明書や課税証明書が必要です。不動産ごとに証明書が必要で、市町村役場で発行してもらえます。

裁判所との連絡に必要な切手代

裁判所から申立人に対して書類を郵送するときに使われる切手代が必要です。費用相場は、3000〜5000円と裁判所によって異なります。あらかじめ管轄の裁判所に確認しておきましょう。

医療機関による本人の判断能力に関する診断書

申立て手続きの際、本人の判断能力に関する医療機関の診断書を提出しなければなりません。被後見人の主治医に診断書を請求して作成してもらいましょう。

取得費の相場は数千円程度です。医療機関によって設定されている価格が異なります。

裁判所が本人の判断能力を判定する鑑定費用

医療機関によって「本人の判断能力がない」と診断されたとしても、裁判所による本人の判断能力を判定する鑑定は行われます。その鑑定のために5〜10万円の費用が必要です。

ただし、明らかに必要でないと裁判所が判断した場合にのみ鑑定は省かれます。

専門家への依頼費

申立て手続きを専門家に依頼するときの費用相場は、15〜25万円程度です。

成年後見人の申立ては本人でもできます。しかし、申立てに必要な書類を作成・収集をしなければならないため、多くの労力を使います。そのため、弁護士や司法書士などの専門家に相談する方は少なくありません。

具体的な費用は、専門家の事務所で確認しましょう。

成年後見人への報酬

成年後見人を立てると、毎月報酬を支払わなければなりません。報酬の種類は以下の通り2つあります。

  • 基本報酬:2〜6万円程度
  • 付加報酬:基本報酬の50%の範囲内

それぞれどのような報酬か確認しましょう。

基本報酬

成年後見人への基本報酬は、月2〜6万円程度です。家庭裁判所の裁判官が基本報酬額を定めます。

報酬額は明確に法律で定められていませんが、裁判所が発表している報酬額の目安は月額2万円です。ただし、管理財産額が高額になる場合には管理業務が複雑になるため、基本報酬額が高くなるとしています。

あくまでも参考としての発表ですが、以下の表からおおよその月額を確認しましょう。

管理財産の額基本報酬額の目安
1000万円超え5000万円以下3〜4万円
5000万円超え5〜6万円

1年分の基本報酬費用をまとめて本人の財産から支払うことが一般的です。

参照:成年後見人等の報酬額のめやす|東京家庭裁判所

付加報酬

付加報酬は、後見事務において特別複雑・困難な事情があった場合に支払う報酬です。基本報酬額の50%の範囲内で報酬を上乗せします。

具体的には、以下のような後見事務があった場合に発生します。

  • 遺産分割協議の参加
  • 不動産の処分・売却
  • 保険金の請求
  • 訴訟・調停

たとえば、基本報酬月3万円だったとき、付加報酬は1万5000円です。

参照:成年後見人等の報酬額のめやす|東京家庭裁判所

成年後見監督人への報酬

成年後見監督人への報酬の目安は、以下通りです。

管理財産の額報酬額の目安
5000万円以下1〜2万円
5000万円超え2万5000〜3万円

成年後見人が家族や親族だった場合に、不正な行為を防ぐために選出されるケースが増えています。

成年後見監督人は成年後見人を監視しなければならないため、弁護士や司法書士などの専門家が成年後見監督人に選出されることが一般的です。

報酬は、本人の財産から支払われます。

参照:成年後見人等の報酬額のめやす|東京家庭裁判所

成年後見人に関する費用が払えない、高い場合

成年後見人が必要なのにもかかわらず、経済的な理由で成年後見制度を使えないと思っている方もいるかもしれません。申立て費用が支払えない場合や成年後見人の報酬が払えない場合に有効な対処法を知っておきましょう。

対処法は、2つあります。

  • 成年後見制度利用支援事業を活用する
  • 法テラスの費用立替制度を活用する

対処方法を知って、経済的な理由で不利な契約を締結したり、本人の意志と異なる決定が行われたりすることを回避しましょう。

成年後見制度利用支援事業を活用する

経済的な理由で成年後見人の申立てができない場合、成年後見制度利用支援事業を活用できるかもしれません。成年後見制度利用支援事業とは、申立て費用や成年後見人や成年後見監督人などへの報酬の全部・または一部を助成する事業です。

国や都道府県が自治体に対して財政支援を行い、自治体から対象者に対して助成されます。対象者は、以下のように定められています。

成年後見制度を利用することが有用であると認められる高齢者又は障害者で成年後見制度の利用に要する経費について補助を受けなければ成年後見制度の利用が困難であると認められるもの。

引用:成年後見制度利用支援事業について|厚生労働省

成年後見制度利用支援事業を活用したい際には、介護支援専門員・相談支援専門員に相談しましょう。介護支援専門員・相談支援専門員の担当がいない場合、都道府県の地域包括支援センターでも相談できます。

法テラスの費用立替制度を活用する

法テラスの費用費用立替制度を活用することも検討しましょう。法テラスとは、全国民に対して法的支援を行う機関です。全国各地に設置されており、法的トラブルを解決するためのサービスを提供しています。

法テラスには費用立替制度があり、弁護士や司法書士への着手金や報酬が支払えない場合に費用を立て替えてもらえます。あくまでも立替えのため分割で法テラスに返済しなければない点に留意しましょう。

費用立替制度を利用することのできる方は、以下の3つの要件に当てはまる方のみです。

  1. 収入や資産が一定額以下であること
  2. 勝訴の見込みがないとはいえないこと
  3. 民事法律扶助の趣旨に適していること

それぞれ法テラスの基準が厳格に決められています。利用できるかどうかは、お近くの法テラスに問い合わせましょう。

引用:費用を立て替えてもらいたい|日本司法支援センター法テラス

成年後見人を立てるときの注意点

成年後見人を立てるときの注意点は、以下の通りです。

  • 成年後見人の解任は家庭裁判所しかできない
  • ランニングコストによって資産が減ってしまう
  • 相続税対策や資産運用ができない

申立てをするまえに、理解しておきましょう。

注意点1:成年後見人の解任は家庭裁判所しかできない

一度、成年後見人を立てると勝手に解任することはできません。成年後見人を選任・解任する権利は家庭裁判所にあるからです。

成年後見人を解任するときには、後見人としての職務を怠ったり、権限を悪用したりした場合にしか認められません。費用を理由にした解任はできないため、費用の計算を十分にシミュレーションしておきましょう。

参照:後見Q&A|裁判所

注意点2:ランニングコストによって資産が減ってしまう

成年後見人を立てると、毎月2万円以上の報酬を支払い続けなければならず、本人の資産が減ってしまいます。

成年後見制度は判断能力が回復するまでやめられない制度のため、基本的には本人が死亡するまで続く制度です。

月2万円の報酬額であっても年間24万円、10年続くと240万円の費用が発生します。不動産の売却や遺産分割協議など、付加報酬が発生する事由がでた場合にはさらに高額の費用が必要です。

一度、成年後見人を立てるとランニングコストが発生し続けるため気をつけましょう。

注意点3:相続税対策や資産運用ができない

成年後見人以外による本人の財産管理ができなくなるため、相続税対策や資産運用が難しくなります。本人の配偶者や子どもなどの家族であっても財産関与ができません。

現金や預金だけでなく、不動産を売ったり、税金対策のために名義変更することも困難になります。ほかにも、生前贈与や生命保険の加入なども本人の財産を脅かす恐れがあるとして認められないでしょう。

一般的な相続税対策や資産運用はできなくなると考えておかなければなりません。

まとめ

成年後見人の申立ての手続きには、6万円以上の費用がかかります。もし、弁護士や司法書士に依頼するのであれば、追加で15〜25万円の報酬が必要です。

また、成年後見人が選出されたら毎月2〜6万円程度の報酬が発生します。不正や横領などの行為がなければ成年後見人の解任はできず、解任できたとしても制度の利用を途中でやめることはできません。

費用が経済的に大きな負担にならないかを十分に検討し、本当に成年後見人が必要かどうかの判断をしましょう。

著者紹介

安持まい(ライター)

執筆から校正、編集を行うライター・ディレクター。IT関連企業での営業職を経て2018年にライターとして独立。以来、相続・法律・会計・キャリア・ビジネス・IT関連の記事を中心に1000記事以上を執筆。

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本記事の内容は、記事執筆日(2023年7月27日)時点の法令・制度等をもとに作成しております。最新の法令等につきましては、専門家へご確認をお願いいたします。万が一記事により損害が発生することがあっても、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。

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