相続税はいくら?計算方法をステップごとに具体例付きで徹底解説します

公開日:2022年12月23日|更新日:2023年1月6日

相続税は自分で税額がいくらかを計算する必要がある税金です。相続税は、勤務先のお給料(給与所得)から天引きされる所得税などとは、異なる区分の税金だからです。

そのため、「遺産を相続したら相続税がかかるのは分かるけどいくらかかるのか? いくらまでなら非課税なのか?」と疑問を持つ人も多いのではないでしょうか?

相続税が発生すると税務署に申告する必要があるため、相続税の計算方法を事前に知っていると、その判断基準が分かり対処もスムーズになります。

こちらの記事では、相続税の計算方法をステップごとに解説し、さらに相続税を計算する上での注意点や節税対策についても紹介しています。

相続税の計算方法と非課税になるケース

相続税の計算方法について解説していきます。

相続税の計算方法は5ステップ

相続税の大まかな計算ステップはこちらです。

【図解】相続税の計算方法5ステップ

<ステップ1:正味の遺産額を算出>
故人から各相続人等が相続や遺贈などで取得した財産価額を整理。みなし相続財産や相続開始前3年以内の贈与財産などを加算。生命保険金などの非課税枠や、債務・葬式費用を差し引くことで「正味の遺産額(相続税の課税対象となる価格)」を算出します。

<ステップ2:課税遺産総額の計算>
正味の遺産額から基礎控除分を差し引きます。

<ステップ3:全員分の相続税額を算出し合算>
各相続人が法定相続分に従って相続したと仮定して、各人の相続税額を算出して全てを合算します。

<ステップ4:各人の相続税額を計算>
相続税総額を、各人が実際に相続する遺産額で按分して算出します。

<ステップ5:各人の相続税額から各種控除を適用>
各相続人の相続税額から適用できる「配偶者の税額軽減」などの各種控除を差し引きます。

相続税が非課税になる3つのケースとは?

相続税を納税しないで済む、主なケースをご紹介します。
課税遺産総額が下記の控除額を下回ると非課税になります。

  1. 相続税の基礎控除額
  2. 各種の税額控除
  3. 小規模宅地の特例控除

また、「相続税の基礎控除額」と「各種の税額控除」については、一定の金額が決まっています。税額控除は「配偶者の税額軽減」を例にして、それぞれ以下の通りです。

  • 相続税の基礎控除額
    → 3000万円+(600万円×法定相続人の人数)
  • 配偶者の税額軽減
    → 1億6000万円

上記の金額を下回れば、非課税になります。
「配偶者の税額軽減」に代表される「各種の税額控除」は、他にも「未成年控除」「障害者控除」などがあります。

土地などの相続財産に関しては「小規模宅地の特例控除」がありますが、こちらは定められた対象面積までの範囲で土地などの不動産価値が減額される割合が決まります。

「基礎控除」について詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

《注意》非課税≠申告なしとは限らない

「相続税が非課税だ!じゃあ、税務署への申告もしないで済む!」と思った方もいらっしゃるかもしれませんが、そうとも限りません。

どの控除制度を適用するかで、税務署への申告が必要なケースと、そうでないケースに分かれるからです。税務署への申告が必要かどうかは、以下の通りです。

  • 相続税の基礎控除額 → 不要
  • 各種の税額控除 → 場合により必要
  • 小規模宅地の特例控除 → 必要

基礎控除より下回る場合は非課税となり、税務署へ申告する必要はありません。

紛らわしいのが「各種の税額控除」の場合です。申告する必要があるのは、「配偶者の税額軽減」を適用する場合です。それ以外の「未成年者控除」「障害者控除」は、申告する必要はありません。

「小規模宅地の特例控除」に代表される特例制度の適用を受けるときは税務署へ申告する必要があります。申告した後に、非課税措置を受けられると考えていただいて問題ございません。

遺された配偶者や子どもに適用できる控除制度を確認しておきましょう。

参考:国税庁「財産を相続したとき

「相続税」について詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

各相続人が負担する相続税計算の5ステップ

相続税額の計算方法をステップごとに解説します。

【図解】相続税の計算方法5ステップ

<ステップ1:正味の遺産額を算出>
故人から各相続人等が相続や遺贈などで取得した財産価額を整理。みなし相続財産や相続開始前3年以内の贈与財産などを加算。生命保険金などの非課税枠や、債務・葬式費用を差し引くことで「正味の遺産額(相続税の課税対象となる価格)」を算出します。

<ステップ2:課税遺産総額の計算>
正味の遺産額から基礎控除分を差し引きます。

<ステップ3:全員分の相続税額を算出し合算>
各相続人が法定相続分に従って相続したと仮定して、各人の相続税額を算出して全てを合算します。

<ステップ4:各人の相続税額を計算>
相続税総額を、各人が実際に相続する遺産額で按分して算出します。

<ステップ5:各人の相続税額から各種控除を適用>
各相続人の相続税額から適用できる「配偶者の税額軽減」などの各種控除を差し引きます。

ステップ1:正味の遺産額を算出

「課税される相続財産の合計額」を算出するための計算式はこちらです。

【図解】「課税される相続財産の合計額」を算出するための計算式

「正味の遺産額(相続税の課税対象となる金額)」=「課税対象財産」-「非課税財産」-「相続税の債務控除と葬儀費用」

各項目の金額を求めていきます。
まずは、「課税対象財産」となる財産の範囲がこちらです。3種類を全て加算します。

  • 本来の相続財産
  • みなし相続財産
  • 生前贈与財産

「本来の相続財産」は、現金、預貯金、株、土地やマンションなどの不動産が対象です。「みなし相続財産」は、死亡保険金死亡退職金です。亡くなったとき(相続したとき)にはまだ存在していないが、将来もらえる財産のことです。

「生前贈与財産」は、2種類あります。相続開始前3年以内の贈与財産と、相続時精算課税制度の適用を受けて贈与された財産です。たとえば、5年前に親から子どもへ贈与された財産は含みません。

次に、「非課税財産」に該当する項目がこちらです。

  • 死亡保険金や死亡退職金の非課税になる金額
  • 相続した墓地・仏壇・仏具

死亡保険金や死亡退職金は、法定相続人の数に500万円を掛けた金額までが非課税になります。

最後に、「相続税の債務控除と葬儀費用」を見ていきます。
債務控除に含められる項目は「借入金、不動産等の購入代金の未払い金、未払い医療費や所得税などの税金」です。一方で、遺言執行費用や相続税申告費用といった、被相続人が亡くなった後に発生した費用は債務控除に含まれません。

葬儀費用については、「通夜、仮葬儀、埋葬費用、お寺へのお布施」が控除できます。故人を送別する大切な儀式で必ず発生する費用は控除ができます。一方で「香典返しの費用、初七日法要、四十九日」などの葬式が終わった後の法要関連費用は控除ができません。

「課税対象財産」「非課税財産」「相続税の債務控除と葬儀費用」の各項目を把握し、「課税される相続財産の合計額」を算出しましょう。

ステップ2:課税遺産総額の計算

課税される遺産総額を把握しましょう。
正味の遺産額(相続税の課税対象となる金額)を明確にしてから、基礎控除額を差し引きます。

【図解】「課税遺産総額」を求める計算式

「課税遺産総額」を求める計算式はこちらです。

課税遺産総額 =正味の遺産額-「基礎控除額」

基礎控除額は「3000万円+(600万円×法定相続人の数)」で計算します。

実の子どもなどの法定相続人がいる場合は、最低でも3600万円が控除されます。この時点で課税遺産総額がなければ、申告する必要がなくなります。

課税遺産総額がある場合は、次のステップへ続きます。

「基礎控除」について詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

ステップ3:全員分の相続税額を算出し合算

配偶者、子ども、養子などの相続人が「いくら相続税額を負担するか」を算出するためには、まずは相続人全員が負担する「相続税総額」を算出します。

【図解】相続人全員が負担する「相続税総額」を算出

「相続税総額」の算出方法は、実際に各相続人が遺言などに従って遺産分割した金額ではありません。相続人が「法定相続分に従って相続したもの」と仮定して、各法定相続人の取得した遺産金額を計算します。

この計算を行うときの注意点が、相続放棄をした法定相続人も、放棄せずに相続したものとして計算に含めるということです。

各人の仮の相続税額=「課税遺産総額×法定相続分」×税率 - 控除額

このようにして、配偶者、子ども、養子といった相続人全員分の「各人の仮の相続税額」をいったん算出します。そして、それら全てを加算することで「相続税総額」を算出します。

なお、「各人の仮の相続税額」を算出するための早見表はこちらです。各人の法定相続分と早見表の取得金額項目にズレがないように気を付けましょう。

<相続税の早見表>

法定相続分に応ずる取得金額税率控除額
1,000万円以下10%
3,000万円以下15%50万円
5,000万円以下20%200万円
1億円以下30%700万円
2億円以下40%1,700万円
3億円以下45%2,700万円
6億円以下50%4,200万円
6億円超55%7,200万円

引用:国税庁「No.4155 相続税の税率

ステップ4:各人の相続税額を計算

「各人が実際に負担する相続税額」を計算します。
配偶者、子ども、養子などが各々が実際に負担する相続税額は、「相続税総額」を各人が実際に取得する遺産割合で按分して算出します。

【図解】「相続税総額」を各人が実際に取得する遺産割合で按分して算出

按分(あんぶん)とは、「特定の基準となる数量に比例して分配する」ことで、遺産相続の場合は「全体の遺産総額に対して、実際に各人が受け取った遺産割合に応じて分配する」ということになります。計算式はこちらです。

各人が実際に負担する相続税額=「相続税総額」×(各人の相続財産÷課税される相続財産の合計額)

これで、相続税総額が、実際に受け取った遺産総額に応じて、各人に相続税が負担されることになります。

ステップ5:各人の相続税額から各種控除を適用

配偶者の場合は「配偶者の税額軽減」、18歳未満であれば「未成年者控除」、障害を抱えているときは「障害者控除」が個別で適用されます。

また、相続人が配偶者・子ども、養子・親以外の場合は、相続税額が2割加算されてしまいます。

【図解】各人の相続税額から各種控除を適用

土地を相続した場合も、土地の用途別に相続税評価額の特例が適用されて、相続税額が減額されることがあります。たとえば、配偶者であったり、被相続人と同居していた子どもや養子などの相続人であったりすると適用条件を満たすことがあります。

「基礎控除」について詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

参考:国税庁「No.4152 相続税の計算

相続税の課税額計算を3つの事例別で分かりやすく説明!

実際によく起こりうる相続パターンを想定して計算していきます。

預貯金、土地やマンションといった不動産を相続した場合、各人にいくら相続税がかかるかを事例別でご紹介します。

前提条件として、被相続人は遺言を残さず、相続人全員で協議分割を行い被相続人の遺産を分けたものとし、さらに「相続時精算課税制度」「小規模宅地等の特例」は適用しないものとします。また、記載事項以外は一切の条件を除外して考えます。

事例1:配偶者と子ども2人が相続

夫が亡くなり、配偶者である妻と被相続人の長男、長女が相続人になる場合。

【図解】事例1:配偶者と子ども2人が相続

<相続人と遺産の内訳>

  • 妻(48歳):預貯金5000万円
  • 長男(15歳):預貯金3000万円、死亡保険金1000万円
  • 長女(22歳):預貯金2000万円、死亡保険金500万円

<ステップ1:正味の遺産額を算出>

上記の遺産の内訳で、非課税財産を考えましょう。
死亡保険金は1500万円(500万円×3人)までが非課税扱いになります。

  • 課税対象財産:1億1500万円
  • 非課税財産:1500万円
  • 課税される相続財産の合計額:1億円(=課税対象財産-非課税財産)

<ステップ2:課税遺産総額の計算>

法定相続人の人数に合わせて「基礎控除額」を算出し、4800万円分(3000万円+600万円×3人)を控除します。

課税遺産総額=5200万円(=課税される相続財産の合計額-基礎控除額)

<ステップ3:全員分の相続税額を算出し合算>

このケースにおける法定相続分を見ていきます。「配偶者:子ども」が「1:1」になります。したがって、配偶者が全体の2分の1に対して、子どもも全体の2分の1です。つまり、長男と長女で2分の1をさらに2等分して、それぞれ全体の4分の1ずつ取得できます。各人の法定相続分と早見表を照らし合わせて、「各人の仮の相続税額」を算出します。

  • 妻:340万円=2600万円×0.15-50
    (法定相続分)2600万円=5200万円×0.5
  • 長男:145万円=1300万円×0.15-50
    (法定相続分)1300万円=5200万円×0.25
  • 長女:145万円=1300万円×0.15-50
    (法定相続分)1300万円=5200万円×0.25

配偶者である妻とその子どもである長男、長女の各人が法定相続人分で相続したと仮定した上での相続税額を合算します。

相続税の総額:630万円=340万円+145万円+145万円

<ステップ4:各人の相続税額を計算>

  • 妻:315万円=630万円×5000万円÷1億円
  • 長男:189万円=630万円×3000万円÷1億円
  • 長女:126万円=630万円×2000万円÷1億円

ここで注意するのが、「課税対象財産」から「非課税財産」を控除した金額を、「課税される相続財産の合計額」(基礎控除額を差し引く前の課税遺産総額)で按分するということです。

<ステップ5:各人の相続税額から各種控除を適用>

各人で適用できる控除を計算します。

  • 妻:「配偶者の税額軽減」
  • 長男:「未成年者控除」
  • 長女:該当なし

配偶者である妻は1億6000万円、または法定相続分(今回は2600万円)までは相続税がかかりません。長男は、18歳までの年数に10万円を掛けた金額分(30万円)を控除できます。

<相続税の納付額>

  • 妻:0円
  • 長男:159万円
  • 長女:126万円

事例2:配偶者と祖父母が相続

妻が亡くなり、配偶者である夫と被相続人の母方の祖父母が相続人になる場合。

【図解】事例2:配偶者と祖父母が相続

<相続人と遺産の内訳>

  • 夫(48歳):不動産6300万円、死亡保険金3000万円
  • 祖父(83歳):株式2000万円
  • 祖母(84際):株式1000万円

<ステップ1:正味の遺産額を算出>

上記の遺産の内訳で、非課税財産を考えましょう。
死亡保険金は1500万円(500万円×3人)までが非課税扱いになります。

  • 課税対象財産:1億2300万円
  • 非課税財産:1500万円
  • 課税される相続財産の合計額:1億800万円(=課税対象財産-非課税財産)

<ステップ2:課税遺産総額の計算>

法定相続人の人数に合わせて「基礎控除額」を算出し、4800万円分(3000万円+600万円×3人)を控除します。

課税遺産総額=6000万円(=課税される相続財産の合計額-基礎控除額)

<ステップ3:全員分の相続税額を算出し合算>

このケースにおける法定相続分を見てきます。「配偶者:祖父母」が「2:1」になります。したがって、配偶者が全体の3分の2に対して、祖父母で全体の3分の1です。つまり、祖父と祖母は3分の1をさらに2等分して、それぞれ全体の6分の1ずつ取得できます。

各人の法定相続分と早見表を照らし合わせて、「各人の仮の相続税額」を算出します。

  • 夫:550万円=4000万円×0.15-50
    (法定相続分)4000万円=6000万円×2÷3
  • 祖父:100万円=1000万円×0.1
    (法定相続分)1000万円=6000万円×1÷6
  • 祖母:100万円=1000万円×0.1
    (法定相続分)1000万円=6000万円×1÷6

配偶者である夫と祖父、祖母の各人が法定相続人分で相続したと仮定した上での相続税額を合算。

相続税の総額:750万円=550万円+100万円+100万円

<ステップ4:各人の相続税額を計算>

  • 夫:約541.6万円=750万円×7800万円÷1億800万円
  • 祖父:約138.8万円=750万円×2000万円÷1億800万円
  • 祖母:約69.4万円=750万円×1000万円÷1億800万円

夫が相続した遺産は、預貯金6300万円と死亡保険金3000万円から非課税分の1500万円を差し引いた分1500万円を合算した金額です。

<ステップ5:各人の相続税額から各種控除を適用>

各人で適用できる控除を計算します。

  • 夫:「配偶者の税額軽減」
  • 祖父:該当なし
  • 祖母:該当なし

先ほどと同様に、配偶者は1億6000万円または法定相続分(今回は4000万円)までは相続税がかかりません。

<相続税の納付額>

  • 夫:0円
  • 祖父:約138.8万円
  • 祖母:約69.4万円

事例3:住宅ローンがあり、子ども2人

配偶者と離婚している妻が亡くなり、その子どもである長女と次女(養子)が相続するケースを見ています。

預貯金に加えて、住宅ローンという債務も相続したとします。

【図解】事例3:住宅ローンがあり、子ども2人

<相続人と遺産の内訳>

  • 長女(30歳):預貯金4000万円、住宅ローン残高3000万円
  • 次女(養子・27歳):預貯金3000万円

<ステップ1:正味の遺産額を算出>

上記の遺産の内訳で、非課税財産を考えましょう。

住宅ローンが相続税の申告の対象外となる条件は、団体信用生命保険(団信)に加入しているかどうかです。

団体信用生命保険(団信)とは、住宅ローンを支払う契約者が支払うことができない状態(死亡や高度障害の状態)になったときに備えて、生命保険会社がその返済分を補填する保険です。保険金の受取は相続人ではなく「金融機関」です。また、団信への加入はあくまでも任意です。

では、団体信用生命保険(団信)に加入していないとどうなるのでしょうか?
住宅ローン残高は債務として相続税から控除できます。

  • 課税対象財産:7000万円
  • 非課税財産:なし
  • 債務控除:3000万円
  • 課税される相続財産の合計額:4000万円(=課税対象財産-債務控除)

<ステップ2:課税遺産総額の計算>

法定相続人の人数に合わせて「基礎控除額」を算出し、4200万円分(3000万円+600万円×2人)を控除します。養子である次女も法定相続人にカウントします。

課税遺産総額=0円(=課税される相続財産の合計額-基礎控除額)

<相続税の納付額>

  • 長女:0円
  • 次女(養子):0円

このように、住宅ローンは債務控除として遺産から基礎控除と併せて差し引きます。
残された子どもたちの長女と次女が相続税を支払う必要はありません。

相続税の節税対策になること

相続税の節税対策につながる特例制度、各種控除、生前贈与をご紹介します。

特に、子どもなどが被相続人から相続した土地、マンション、建物といった不動産は相続税を払う可能性が高いです。相続税の負担をなるべく軽くするために、適用できる特例制度や各種控除をしっかり把握しましょう。

2つの不動産特例制度。相続税評価額80%減に

「小規模宅地等の特例」とは、土地の相続税評価額を通常の相続税評価額から最大で80%減額できる制度。相続や遺贈によって取得した宅地等について、住むためなのか、事業のためなのかなどの使用用途に応じて、一定の要件を満たしている場合に限り適用されます。建物は対象とならず、土地のみ(マンションであれば敷地権)に対して対象面積に応じて、相続税評価額が減額されます。

相続財産を譲渡(売却)した場合にも特例制度が存在します。「相続財産を譲渡した場合の取得費特例」は、相続した不動産を相続から3年10か月以内に売却した場合に、相続税の一部を取得費として加算できる特例制度です。

取得費が増えると譲渡所得が減り、その分「譲渡所得税」として支払う金額が減少し、一定の節税効果が見込めます。

参考:国税庁「No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例

配偶者の税額軽減など控除・空き家の3000万円の特別控除など

相続税に関する控除には大きく分けて2種類あります。「各人に適用される控除」「空き家に関する控除」です。

前者は、「配偶者の税額軽減」「障害者控除」「未成年者控除」などです。「配偶者の税額軽減」は税務署に申告する必要がありますので注意が必要です。「障害者控除」「未成年者控除」を適用する場合は、基礎控除と同様に申告する必要はありません。
子どもが未成年で何らかの障害を持っている場合は、適用の対象なのでしっかりと把握しておきたいです。

後者は、「相続した空き家の3000万円特別控除」が一例に挙げられます。相続や遺贈で取得した空き家を売却した場合に適用されます。譲渡所得から最大で3000万円を控除できます。期限が相続開始日から3年後の12月31日までであり、売却価格は1億円以下などを満たしていることが条件です。

土地、マンション、建物といった不動産を相続や遺贈で取得すると税金が発生してしまうので、相続税評価額を減額できるこうした控除は家計の手助けになります。

参考:国税庁「No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例

生前贈与:土地の価値が高くなるときは節税効果が見込める

生前贈与は、土地、マンションなどの不動産の価値が上昇する前、つまり相続税評価額が低いうちに子どもなどへ贈与しておくことで一定の節税効果につながる可能性があります。

生前に不動産の贈与する際にかかる税金は、相続税ではなく贈与税が掛かります。

両者の「登録免許税」の税率を比較すると、相続税だと0.4%、贈与税だと2%になります。登録免許税だけでみると、支払う税金は5倍の差が生じるので、贈与税の方が節税効果が低いといえます。

つまり、生前贈与を行う場合は、所有する土地、建物、マンションなどの不動産の価値(相続税評価額)が将来値上がりする可能性が高い場合は、子どもなどに早めに贈与しておくことで節税効果が期待できるといえます。

「生前贈与と贈与税・相続税」について詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

相続税を申告納税に関する基本知識

相続税を申告する期限、対象となる人、もし支払いが遅れてしまった場合はどうなるのかを解説します。

相続を知った翌日から10か月以内に申告しよう

相続税の申告期限は、「相続開始を知った日」の翌日から10か月以内です。

【図解】相続税の申告納税は10か月以内に

亡くなった被相続人が住んでいた地域を管轄する税務署に、相続税の申告と納付の手続きを行う必要があります。

なお、「相続開始を知った日」とは「被相続人が死亡したと相続人が知った日」を指します。ほとんどの場合は、死亡日と相続開始日は一致しますが、必ずしも「死亡診断書」などに記載された「死亡日」と一致するとは限りません。

たとえば、長期間にわたり海外旅行をしていた、もしくは、子どもなどの相続人の居場所が分からず連絡が取れなかったなどのケースが該当します。あくまでも、配偶者や子どもなどの相続人がいつ相続を知ったかを基準に申告期限は決定します。

こんな場合も税務署に申告しよう

「相続税の計算をした結果、相続税がゼロになったから申告する必要がない」と思われる人もいるかもしれません。

しかし、こちらに該当する人は、相続税申告書を提出する必要があります。

  • 「小規模宅地等の特例」などの特例制度の適用を受けた
  • 「配偶者の税額軽減」の適用を受けた
  • 「相続時精算課税制度」の適用を受けた

遺産総額が基礎控除額を下回った場合は、基本的に相続税を申告する必要はありません。特例や控除などの制度の適用を受けた場合は、忘れずに申告するようにしておきましょう。

「準確定申告」で被相続人に変わり所得税を申告

亡くなった被相続人が事業を営んでいた場合、相続人が代わりに事業収入で得た所得税を申告する義務が発生します。これを「準確定申告」と呼びます。

申告・納付期限は4か月以内です。相続税と同様に相続開始を知った日の翌日が基準日です。

期限に遅れると延滞税が課される

相続税の申告や納税が遅れてしまうと「延滞税」が課せられます。
「延滞税」は追加徴税の一種であり、納期限の翌日から相続人が納付する日までの日数に応じて、利息に相当する延滞税が課されます。なお、納付方法は現金一括のみです。

国税庁から発表された相続税の調査報告を見てみると、申告忘れ・申告額の過少報告などの追徴課税事案は増加傾向にあります。令和元事務年度における、実地調査1件当たりの追徴税額は641万円。対前事務年度比112.8%に増加したとの報告がありました。

相続するときは葬式執行や家族間での遺産配分の協議などで、忙しくなることが多いです。うっかり忘れてしまわないように、相続税の納付期限をしっかり把握しておきましょう。

参考・出典:国税庁「No.9205 延滞税について」、「令和元事務年度における相続税の調査等の状況

いつでも相談できる税理士を見つけておこう

相続が発生するというのは、あなたの身近な人が亡くなってしまったということです。

子どもであれば、親が亡くなった悲しみに暮れる間もなく、葬式などの法事の執行に加えて想像以上に行政手続きが発生してしまいます。

仕事をしながら、不動産の名義変更、預貯金や株式、被相続人の戸籍の収集など全てに対応するのはとても大変です。

「子どもに最期まで迷惑を掛けたくない」というのが親心。遺された子どもにとっても、初めての手続きであるため、分からないことだらけになることでしょう。そんなときに備えて、いつでも相談できる専門家を見つけておくと大変便利です。

相続プラスでは、あなただけに合った税理士・司法書士・行政書士を見つけることができます。

専門家を見つけて万全の備えを!

相続税の計算方法についてステップごとに解説していきました。

税務署に申告する必要があるのかを、まずは判断。そのうえで、自分に適用できる控除や特例などの制度を確認しておくと安心につながります。

さらに、ささいなことであってもいつでも相談できる「あなただけの税理士」を見つけておくと安心感はさらに強まります。遺された子どもにできることがあれば、少しずつでもいいので進めておきましょう。

相続プラスは相続に関するあらゆる悩みをサポートしていきます。

こちらの記事が一助となれば幸いです。

監修者紹介

新村貢一(税理士)

税理士にいむら会計事務所

東京税理士会 麹町支部所属(登録番号 第60361号) 税理士にいむら会計事務所代表。平成4年の開業以来、30年以上にわたり税務に関するプロフェッショナル集団として、お客様のあらゆる税務課題を解決。法人税・相続税の税務申告、節税対策を得意とし、法人企業から個人事業まであらゆる税務課題に対応している。著書多数。【資格】税理士/AFP/登録政治資金監査人/経営革新等支援機関(認定支援機関)

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本記事の内容は、記事執筆日(2022年12月23日)時点の法令・制度等をもとに作成しております。最新の法令等につきましては、専門家へご確認をお願いいたします。万が一記事により損害が発生することがあっても、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。

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