数次相続の相続登記方法とは?中間省略できる例と登記の流れを解説

公開日:2023年12月12日

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「数次相続の相続登記ってどうすればいいのだろう」と、相次ぐ相続の発生に困っていませんか。

数次相続の登記申請をするにあたり、相続人確定や遺産分割協議書の作成など、一般的な相続と比べて負荷のかかる手続きが多いです。

本記事では、数次相続が発生した時の登記申請の流れや重要なポイントを解説します。

数次相続とは

数次相続とは、遺産分割協議や相続登記をしないまま次の相続が複数発生することです。

例を挙げると、Aさんの死亡(一次相続)による遺産分割協議中に相続人であるAさんの配偶者が死亡(二次相続)するケースです。相続が一次、二次と続くため、数次相続といいます。

一次相続の相続人が死亡したときは、二次相続の法定相続人が一次相続における相続人としての立場を引き継ぎます。つまり、被相続人の代理として、一次相続の遺産分割協議に参加しなければなりません。

数次相続の具体例

数次相続の具体例をご紹介します。

<家族構成>
父A・母B・長男C・長女D・長女夫E・長女の娘F

<条件>
父Aが死亡
遺産分割協議前に相続人である長女Dが死亡

<父A死亡時の相続人(一次相続)>
母B・長男C・長女D

<長女D死亡時の相続人(ニ次相続)>
長女夫E・長女の娘F(長女Dの相続分を継承)

一次相続の遺産分割が終わる前に相続人である長女Dが死亡したため、数次相続が発生したといえます。

このときの一次相続の相続人は、もともと相続人だった母B・長男Cと、長女Dの代理である長女夫E・長女の娘Fの合計4人です。

代襲相続との違い

数次相続と代襲相続との違いは、相続人の死亡時期と相続人の考え方です。

そもそも、代襲相続とは、相続開始前に相続人となるべき人が死亡、もしくはその他の理由で相続権を失ったときに、相続人の代わりにその子どもが相続することです。

一方、数次相続は、相続発生後に相続人が死亡して新たな相続が発生する状況をいいます。

新たな被相続人の法定相続人にあたる人が一次相続の相続人の立場を継承するため、子どもだけでなく二次相続における被相続人の配偶者も相続人にあたります。

それぞれの要点をまとめたので確認しましょう。

<代襲相続>

  • 相続発生前にすでに相続人が死亡
  • 相続人の直系卑属(子ども)が相続人

<数次相続>

  • 相続発生後に相続人が死亡(新たな被相続人の発生)
  • 新たな被相続人の法定相続人にあたる人が相続人

代襲相続か数次相続かによって、相続人として遺産分割協議に参加する人が変わります。

相続登記における中間省略とは

中間省略登記とは、中間の移転登記を省略して一次相続の被相続人の名義から最終の相続人へ名義変更する手続きです。

ただし、特定の条件を満たす場合以外、「法律行為の発生ごとに登記をする」必要があるため、中間省略はできません。

中間省略が可能なケース・不可となるケースについてチェックしましょう。

中間省略登記が可能なケース

中間省略は中間者(相続人)がひとりのときに限り、当初の登記名義人から現在の相続人へ名義変更できます。

中間省略登記が可能なケースは、以下の2つです。

  • 中間の相続人が最初からひとり
  • 複数名の相続人の中でひとりが相続

具体例を解説します。

中間の相続人が最初からひとり

中間の相続人が最初からひとりの例を見ていきましょう。

<家族構成>

  • 夫Aと妻Bの二人暮らしで子どもなし
  • 妻B側の親族はいない
  • 夫A側の親族は妹C・弟Dが存命

<妻B死亡時の相続人(中間(一次)相続)>

  • 相続人:夫Aのみ

<夫A死亡時の相続人(ニ次相続)>

  • 相続人:妹C・弟D
  • 不動産は妹Cと弟Dの共同相続

このように、中間相続がひとりであれば、二次相続のときに不動産を共同相続しても中間省略登記ができます。

複数名の相続人の中でひとりが相続

複数名の相続人の中からひとりが相続するときの例は、以下の通りです。

<家族構成>

  • 父A・母B・長男C・次男D
  • ほかに親族はなし

<父A死亡時の相続人(中間(一次)相続)>

  • 相続人:母B・長男C・次男D
  • 不動産を母Bのみが相続予定
  • 遺産分割協議書は未完成

<母B死亡時の相続人(ニ次相続)>

  • 相続人:長男C・次男D
  • 不動産は長男のみで相続

長男と次男で中間相続を母Bひとりにする内容の遺産分割協議書を作成できるため、中間省略登記が可能です。

中間省略の可否は、事案によって変わります。正確な判断は専門知識を要するため、自己判断せずに司法書士へ相談しましょう。

中間省略登記ができないケース

中間省略登記ができないケースは、中間省略登記が可能なケース以外に当てはまるときです。

また、最終相続人がひとりになると、中間者をひとりにするための遺産分割協議ができないため中間省略登記できません。

具体例で詳しく確認しましょう。

<家族構成>

  • 父A・母B・長男C
  • ほかに親族はなし

<父A死亡時の相続人(中間(一次)相続)>

  • 相続人:母B・長男C
  • 不動産は、母Bが相続予定
  • 遺産分割協議書は未完成

<母B死亡時の相続人(ニ次相続)>

  • 相続人:長男C
  • 不動産は長男Cのみで相続

上記のケースだと、二次相続時に相続人がひとりで遺産分割協議ができません。

そのため、母・長男で50%ずつの持分で相続登記し、そのあと母の持つ50%の持分を長男が相続登記する必要があります。原則通りの相続登記申請が必要です。

参照:平成25(行ウ)372 処分取消等請求事件|裁判所平成26(行コ)116 処分取消等請求控訴事件|裁判所

数次相続の登記手続きの流れ

数次相続の登記手続きは、基本的に一次相続と二次相続で必要な資料をそれぞれ揃えて、相続ごとに申請しなくてはなりません。相続登記申請を2回行うイメージです。

以下の流れで、登記手続きをします。

  • 一次相続・二次相続の相続人を確定させる
  • 遺産分割協議書を作成する
  • 必要書類を集める
  • 登記申請書を作成する
  • 法務局で申請する

順を追って確認しましょう。

1.一次相続・二次相続の相続人を確定させる

まず、一次相続と二次相続、それぞれの相続人を確定させましょう。そもそも遺産分割協議には、相続人全員の参加が必要です。

数次相続の場合、一次相続の相続人が死亡しているため、その代理人として二次相続における相続人も一次相続の遺産分割協議に加わります。

そのため、二次相続だけでなく、一次相続の相続人も改めて確定させる必要があります。

2.遺産分割協議書を作成する

遺産分割協議書は登記申請のときに必要なため、遺産分割協議を終えたら遺産分割協議書を作成しましょう。相続税の申告にも遺産分割協議書は必要です。

自分で作成するなら、それぞれの相続ごとに分けて作成するとわかりやすいです。

3.必要書類を集める

相続登記の必要書類は、以下の通りです。

  • 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本一式
  • 被相続人の住民票除票
  • 相続人全員の戸籍謄本
  • 土地・不動産を相続する人の住民票
  • 遺産分割協議書
  • 相続人全員の印鑑証明書
  • 相続関係説明図
  • 不動産の評価証明書(固定資産評価証明書)

遺言書があれば、遺産分割協議書の代わりに提出します。

4.登記申請書を作成する

相続登記申請書を作成しましょう。法務局のサイトに登記申請書の様式や記載例が掲載されています。

<所有権移転登記申請書(相続・遺産分割)(数次相続)>

様式(Word:ダウンロード/PDF:ダウンロード

記載例(Word:ダウンロード/PDF:ダウンロード

登記申請は、最初に一次相続の相続登記申請をして、次に二次相続の登記申請を行います。ただし、中間省略できるケースなら中間省略登記が可能です。

数次相続における、2通りの登記申請を確認しましょう。

  • 一次相続・二次相続に分ける登記方法
  • 中間省略登記の登記方法

2つの方法について確認しましょう。

参照:不動産登記の申請書様式について|法務局

一次相続・二次相続で分けて登記する方法

個別で登記する場合、一次相続の登記で名義を中間相続人に変更したあと、二次相続の登記で現在の相続人名義へ変更します。

死者名義に変更するときは、「原因」は一次相続の発生日、相続人は中間相続人の名前を記載しましょう。

登記申請に必要とされる代表的な項目は、以下の通りです。

  • 登記の目的
  • 相続人
  • 添付情報
  • 登録免許税

一次相続の申請書の登録免許税の欄に「租税特別措置法第84条の2の3第1項により非課税」と記載すると登録免許税の免税措置を受けられます。

参照:相続登記の登録免許税の免税措置について|法務局

中間省略登記の登記方法

中間省略登記では、「原因」「相続人」の項目が重要です。相続の「原因」の欄では、2回分の相続を順番に明記しましょう。

具体的には、以下の通りです。

  • 被相続人の死亡日と中間相続人の氏名
  • 中間の相続人の死亡日

「相続人・被相続人」の欄には中間相続人の名前を書かずに、当初の被相続人と最終的な相続人の名前をそれぞれ記載します。

5.法務局で申請する

登記申請書と必要な書類を揃えて、法務局で登記申請を行います。

法務局に申請する方法は、以下の3つです。

  • 窓口
  • 郵送
  • オンライン

記入漏れや書類不足がなければ、1週間程度で登記完了証と登記識別情報通知書が交付されます。

数次相続における相続登記の注意点

数次相続の相続登記の注意点のイメージ

数次相続登記における注意点は、以下の7つです。

  • 遺産分割協議書はわかりやすく作成する
  • 免税措置が適用される
  • 相続税は相続人に継承される
  • 二次相続人は一次相続の納税期間を延ばせる
  • 相続人が増えても基礎控除額は増加しない
  • 相次相続控除を活用できる
  • 相続放棄できる範囲に注意する

どれも重要なポイントのため、順を追って確認しましょう。

遺産分割協議書はわかりやすく作成する

遺産分割協議書は、誰が見てもわかりやすいように相続ごとに分けて作成しましょう。

一次相続と二次相続をまとめて1通の遺産分割協議書として作成しても法的に問題ありません。しかし、慣れていないと混乱を招く恐れがあるため、各相続に分けて作成する方法が確実です。

一般的な遺産分割協議書の書き方と異なる点は、被相続人と相続人の書き方です。

数次相続だと、初回の被相続人と2回目の被相続人の区別をする必要があります。初回の被相続人は「被相続人」と記し、2回目の被相続人は相続人でもあるため「相続人兼被相続人」と表記します。

また、相続人に関しても、初回のみ相続をする人と2度相続をする人が発生するため、区別しなくてはなりません。

初回のみ相続をする人は、「相続人」と表記します。2度相続をする人は、「相続人兼(名前)の相続人」と表記しましょう。

免税措置が適用される

数次相続が発生すると、登録免許税の免税措置を受けられます。

免税措置の適用条件は、以下の2つのどちらかに当てはまる場合です。

  • 相続で土地を取得した人が相続登記をしないまま死亡
  • 不動産の価額が100万円以下の土地

相続登記していない土地を相続すると、死亡した相続人の相続登記にかかる登録免許税が免除されます。ただし、新たな相続人が登記申請するときの登録免許税は納めなくてはなりません。

免税措置について、注意点が2つあります。

  • 免税措置は令和7年3月31日まで
  • 対象は土地のみ

登録免許税の免税措置の対象は土地のみのため、建物の登記には登録免許税の納税が必要です。

参考:相続による土地の所有権の移転登記等に対する登録免許税の免税措置について|国税庁相続登記の登録免許税の免税措置について|法務局

相続税は相続人に継承される

相続税の申告と納付義務を果たさずに亡くなると、二次相続による新たな相続人に納税義務が継承されます。

つまり、相続税を納めずに相続人が死亡すると、二次相続の相続人は二次相続の相続税だけでなく、一次相続にかかる相続税の納付義務があります。

一次相続、二次相続それぞれの相続税を忘れずに納付しましょう。

二次相続人は一次相続の納税期間を延ばせる

一次相続において相続税の申告をすべきだった人が死亡すると、死亡した人の相続人(二次相続の相続人)に対し、一次相続にかかる相続税の申告・納税期限が延長されます。

二次相続の相続人の納税期限は、相続の発生を知った日から10か月以内です。一次相続の相続税を納付すべき期限が二次相続の納税期限にスライドするイメージです。

ちなみに、一次相続のみの相続人だと納付期間の延長はできません。相続税の納付を延長できる人は、一次相続と二次相続の相続税を支払わなければならない人です。

一次相続のみ相続した人は、最初の相続発生を知った日から10か月以内に相続税を納めましょう。

相続人が増えても基礎控除額は増加しない

二次相続によって法定相続人が増えても、一次相続における相続税の基礎控除額は増加しません。

なぜなら、一次相続が発生した時点の法定相続人の数で計算するからです。

一次相続における相続税の基礎控除額の計算式は、以下の通りです。

3000万円+(600万円×一次相続発生時の法定相続人の数)

ちなみに、二次相続の基礎控除額を計算するときは、二次相続の法定相続人の数で算出します。

相次相続控除を活用できる

数次相続が発生した場合、相次相続控除を利用できる可能性があります。

相次相続控除とは、一定の条件に当てはまったときに、二次相続の相続人に適用される税控除です。

短期間に2回分の相続税を納めなくてはならないため、負担軽減策として数次相続に相次相続控除制度が適用されます。

控除対象となる人は、以下の条件にすべて当てはまる人です。

  • 二次相続での相続人である
  • 相続で被相続人が財産を取得している
  • 一次相続で納税済みである

ただし、相次相続控除の適用対象者は相続人のみです。遺贈された受遺者は適用外です。また、一次相続で相続税を納める必要のないケースにおいて、相次相続控除は適用されません。

参照:No.4168 相次相続控除|国税庁

相続放棄できる範囲に注意する

二次相続だけを相続放棄できないケースがあります。

たとえば、一次相続時に相続放棄の熟慮期間である3か月の間に相続人が死亡して二次相続が発生したケースです。

この場合、二次相続で相続放棄すると一次相続の相続は認められません。なぜなら、相続放棄をすると、最初から相続人でないとみなされるからです。つまり、一次相続のみの相続はできません。

相続に関する意思表示の可否は、状況によって異なります。

状況一次相続二次相続可否
熟慮期間内に二次相続が発生承認承認
相続放棄相続放棄
相続放棄承認
承認相続放棄×
熟慮期間後に二次相続が発生承認承認
相続放棄相続放棄
相続放棄承認×
承認相続放棄×

熟慮期間を過ぎた二次相続には一次相続が含まれており、すべての財産を相続するか放棄するかの2択です。

数次相続が発生した際の登記は複雑

数次相続が発生した際、相続ごとに登記手続きをしなければなりません。中間者がひとりのときに限り、当初の登記名義人から最終の相続人へ手続きできる中間省略登記が認められます。

しかし、専門的な知識がなければ正確な判断や登記申請ができないため、司法書士へ相談した方が確実です。また、数次相続の相続登記は複雑なため、自分ですべての手続きを行うと申請のやり直しが出てくる可能性があります。

数次相続が発生したときは、早めに司法書士に相談してスムーズに手続きを完了させましょう。

著者紹介

安持まい(ライター)

執筆から校正、編集を行うライター・ディレクター。IT関連企業での営業職を経て2018年にライターとして独立。以来、相続・法律・会計・キャリア・ビジネス・IT関連の記事を中心に1000記事以上を執筆。

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本記事の内容は、記事執筆日(2023年12月12日)時点の法令・制度等をもとに作成しております。最新の法令等につきましては、専門家へご確認をお願いいたします。万が一記事により損害が発生することがあっても、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。

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