相続放棄できないこともあるって本当?相続放棄できないケースと対処法

公開日:2024年2月27日

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相続財産に借金が多い、遠方の不動産を相続したくないといった場合、相続放棄を検討する人も多いでしょう。しかし、相続放棄は必ず認められるわけではなく、相続放棄できないケースもあるので注意が必要です。

この記事では、どのようなケースで相続放棄できないのか、できない場合の対処法と相続放棄を失敗しないポイントについて解説します。

相続放棄は受理されるケースが多い

相続放棄とは、被相続人の財産を放棄する事です。相続が発生した場合、相続人は次の3つの選択肢から、相続の仕方を決めることになります。

  • 単純承認
  • 限定承認
  • 相続放棄

単純承認とは、すべての財産を相続する一般的にイメージする相続の方法です。単純承認では、プラスの財産だけでなくマイナスの財産もすべて相続することになります。

しかし、相続財産が借金しかないといった場合で、相続しないための選択肢としてあるのが限定承認と相続放棄です。限定承認はプラスの財産の範囲でマイナスの財産も相続する方法ですが、選択するケースはあまり多くありません。

一方、マイナスの財産もプラスの財産もすべて相続しない方法が、相続放棄です。相続放棄することで、はじめから相続人でなかったことになるため、借金を背負うことはありません。

ただし、実家などプラスの財産も一切相続できないので注意は必要です。

被相続人の財産が明らかに借金が多いといった場合、相続放棄を検討することになります。とはいえ、「相続放棄したいからする」といった簡単な話ではなく、相続放棄するには家庭裁判所に申請して認められる必要があるのです。

そのため、中には相続放棄を申請しても認められずに放棄できないケースもあります。ですが、相続放棄が難しいかといえば、基本的には申請すればほとんどのケースで認められるためそれほどハードルが高いわけではないのです。

令和4年司法統計」によると、「相続の放棄の申述の受理」について、既済のものでは総数27万5359件に対して、却下が400件と却下率が約0.15%となっています。却下がない訳ではありませんが、却下される可能性はごく低いと言えるでしょう。

「相続放棄」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

相続放棄ができない・認められない事例

可能性がごくわずかとはいえ、相続放棄が却下されるケースがあることも事実です。どのようなケースで認められないのかを理解しておくと、より確実に相続放棄できるようになるでしょう。

相続放棄ができない・認められない事例としては、下記のようなものが代表的です。

  • 法定単純承認が成立してしまった
  • 手続きに不備がある
  • 熟慮期間が過ぎてしまった

法定単純承認が成立してしまった

法定単純承認とは、法律上すべての財産を相続する単純承認が成立したと見なされてしまうことをいいます。単純承認が成立すると、それ以降で相続放棄できません。

法定単純承認が成立するケースには、次のようなケースがあります。

  • 相続財産を使ってしまった
  • 遺産分割協議に参加した
  • 経済的価値のある遺品の持ち帰り
  • 名義変更を行った
  • 被相続人宛ての請求書を支払う

相続財産を一部でも利用したり処分・譲渡したりすると、相続したとみなされてしまいます。また、価値のある遺品の持ち帰りや被相続人名義の預貯金や不動産・車・携帯などの名義変更、請求書の支払いをするのも単純承認と見なされる恐れがあります。

「被相続人が亡くなったから代わりに家賃や携帯代を支払っておこう」とちょっとしたことで単純承認となる可能性があるので、注意が必要です。

ただし、不動産の修繕や遺産から葬儀費用を支払うなどは単純承認とは見なされないとされています。とはいえ、何が単純承認とみなされるかは判断が難しいので、相続放棄を検討している場合は基本的には遺産に手を付けないほうがよいでしょう。

判断が付かない場合は、事前に弁護士に相談してから支払いなどを行うことをおすすめします。

手続きに不備がある

相続放棄を申請する場合、作成した申述書と必要書類を揃えて家庭裁判所に提出する必要があります。必要書類に不備があると、受理されないので注意が必要です。

しかし、不備があるからといってすぐに却下となるわけではありません。不備がある場合は、その旨の連絡がくるので対応することで基本的には相続放棄できるでしょう。

相続放棄を申し立てた後、家庭裁判所から照会書が送られてくるので、照会書の内容に沿っての回答が必要です。回答しない場合は、却下される可能性があるので注意しましょう。

また、相続放棄の申述が本人の真意でないとみなされる場合も、却下される恐れがあります。本人の真意でない相続放棄とは、他の相続人に脅されるなどして相続放棄させられた場合を言います。

熟慮期間が過ぎてしまった

熟慮期間とは、相続をどのようにするか考え・決める期間のことです。

相続放棄には、「自己のために相続が開始したことを知った日から3か月」という期限があります。この期限を超えてしまった場合、相続放棄ができません。

相続の開始があったことを知った日とは、単純な相続であれば被相続人が亡くなった日です。
しかし、関係性が希薄などで自分が相続人であることを知らなかったなどでは、相続人であることを知った日から計算されます。
熟慮期間は、被相続人との関係性など事情によってスタートの日が異なるので、注意しましょう。

また、熟慮期間が経過しても、「後から借金が判明した」など事情によっては相続放棄できるケースもあります。
期限切れ目前・期限が切れてしまっているといった場合でも、あきらめずに弁護士へ相談するとよいでしょう。

相続放棄ができない場合の対処法

相続放棄が認められないと、相続人は不利益を被る恐れがあります。では、相続放棄できない場合はどのようにすればいいのでしょうか?相続放棄できない場合の対処方法は、できない理由によって異なります。

ここでは、主な対処法として下記の3つを解説します。

  • 借金を相続してしまったら債務整理を検討
  • プラスの財産を相続したくないなら相続分の譲渡を検討
  • 期限切れや手続きが面倒なら専門家に相談

借金を相続してしまったら債務整理を検討

相続放棄が却下された場合、プラスの財産だけでなくマイナスの財産も相続することになります。

プラスの財産以上にマイナス財産が多いと、財産だけでは返済できない分を自分の資産から支払う必要があります。借金を多く相続してしまい、自己資産でも対応しきれないという場合、債務整理という方法もあります。

債務整理とは、借金を減額・免除してもらい返済の負担を軽減する方法です。大きく次の3つの方法があります。

  • 任意整理
  • 個人再生
  • 自己破産

どの方法を選ぶかによって、手続きや減額できる借金の額は変わってきます。

また、どの方法であってもメリット・デメリットがあるので、借金の状態などから適切な方法を選ぶことが大切です。債務整理を検討する場合、弁護士などに相談して適切な方法の選び方や手続きなどを相談することをおすすめします。

プラスの財産を相続したくないなら相続分の譲渡を検討

相続放棄する理由は、借金だけとは限りません。

プラスの財産が多い場合でも、すでに十分な贈与を受け取っている・生活が安定しているので遺産は不要・別の相続人に遺産を相続してもらいたいなどの理由で相続するケースも珍しくありません。

そのような理由の場合は、相続放棄以外でも次のような対応が可能です。

  • 他の相続人などに譲渡する(無償・有償)
  • 遺産分割協議で相続分を拒否する

相続放棄できなくても譲渡や拒否という方法で、相続分をゼロにすることが可能です。ただし、譲渡は条件によっては相手に贈与税が課せられる可能性があるので注意しましょう。

また、相続放棄以外の方法で相続しないという選択をしても、相続人としての権利は残ります。もし、被相続人に借金がある場合、借金は背負うことになるので相続財産の状況をしっかり確認したうえで選択するようにしましょう。

期限切れや手続きが面倒なら専門家に相談

  • 熟慮期間が過ぎてしまって相続放棄できなかった
  • 仕事が忙しくて手続きの暇が取れない
  • 書類集めや裁判所に出向くのが面倒

上記のような理由で相続放棄できないのであれば、一度弁護士や司法書士に相談してみましょう。相続放棄の手続きは、弁護士・司法書士で代行してもらえます。

依頼料は掛かりますが、借金を背負うことを考えれば費用を払ってでも相続放棄する価値はあるでしょう。先述したように、熟慮期間が過ぎた場合でも事情によっては相続放棄できるケースがあります。

この場合も、早い段階で専門家に相談することをおすすめします。

相続放棄で失敗しないためのポイント

相続放棄で失敗しないためのポイントのイメージ

相続放棄には認められないケースもあるので、慎重に手続きを進める必要があります。また、相続放棄という選択が必ずしも適切とは限りません。

相続放棄にもメリット・デメリットがあるので、安易に相続放棄してしまうと失敗したと後悔することにもなりかねません。

ここでは、相続放棄で失敗しないためのポイントとして、下記の5つを解説します。

  • 相続財産調査を確実に行う
  • 手続きは早めに行う
  • 相続財産には手を付けない
  • 放棄できないものもある
  • 相続放棄すると次の相続人に相続権が移る

相続財産調査を確実に行う

相続放棄を検討するなら、事前に相続財産を明確にしておくことが大切です。

「借金があるから相続放棄しよう」と思っていても、実は借金がわずかしかないというケースもあります。その場合で、相続放棄してしまうと不動産などプラスの財産も相続できなくなります。

反対に、借金はないと思っていても後から判明するということもあるでしょう。相続放棄の手続き期限は3か月あるとはいえ、被相続人の死亡からバタバタしているとあっという間に3か月は過ぎてしまいます。

特に、被相続人の財産や借金が多岐に渡ると、調査だけでもかなりの時間がかかることもあるものです。相続が開始したらできるだけ早い段階で財産調査を行って、財産の全容を明らかにしたうえで相続放棄するかを判断するようにしましょう。

手続きは早めに行う

相続放棄できる期限が3か月と決まっています。3か月を経過しても事情によっては認められる可能性もありますが、確実に放棄できるとは言えません。

反対に、期限内であれば却下される確率が低く、ほぼ確実に相続放棄できます。期限を超えたばかりに、相続放棄できる機会を失ってしまう恐れもあるので、期限内に手続きを行うことが大切です。

自分だけでは時間がかかる、どう手続きを進めればいいか分からないと悩んでいるなら、少しでも早く専門家に相談するようにしましょう。

相続財産には手を付けない

相続放棄前に財産に手を付けてしまうと、単純承認とみなされ相続放棄できない可能性があります。預貯金などを勝手に使用しないのはもちろんですが、請求書などを善意で支払うのもNGです。

相続放棄を検討しているなら、相続財産はプラス・マイナスを含めて手を付けずにおくようにしましょう。

放棄できないものもある

相続放棄した場合でも、一部の財産の相続や義務は残る点は覚えておきましょう。

  • 祭祀財産(墓や仏壇・仏具・家系図など)
  • 空き家の管理義務

お墓などの祭祀財産は相続財産とは別とされており、祭祀継承者に選ばれると相続放棄していても相続する必要があります。また、他に管理する人がいない空き家の場合、相続放棄後にも管理の義務が残っている点にも注意が必要です。

相続放棄すると次の相続人に相続権が移る

相続放棄すると、自分が相続するはずの財産は別の相続人に移ります。仮に、自分が借金を相続放棄すると、次の相続順位の人が相続することになるのです。

相続放棄は別の相続人に影響が出るものであるため、事前に他の相続人に了承を得ておくとトラブルを避けられるでしょう。

相続放棄に関してよくある質問(Q&A方式)

最後に、相続放棄に関してよくある質問をみていきましょう。

税金は相続放棄できる?

相続放棄した場合、被相続人が滞納している税金の支払いも免除されます。

ちなみに、自己破産の場合税金の滞納分は免除されません。被相続人に借金が無くても税金の滞納分が高額という場合は、相続放棄の検討を視野に入れるのもよいでしょう。

相続財産から葬式代を支払ったら、相続放棄はできない?

相続財産から葬儀費用を支払ったとしても、単純承認にあたらないとされています。

とはいえ、どの範囲までが許容されるかは明確ではないため、相続放棄を検討しているなら財産からの支払いは控えることをおすすめします。

被相続人の自宅を特殊清掃したら相続放棄できなくなる?

孤独死などで遺体が長期間放置されていた場合、特殊清掃が必要になるケースがあります。

特殊清掃については、財産の処分ではなく建物の保存行為とみなされ単純承認にあたらない可能性があります。

ただし、遺品整理などを行ってしまうと単純承認とみなされる恐れがあります。どこまで許容されるかは判断が難しいので、一度専門家に相談してみるとよいでしょう。

相続放棄をしても空き家を管理しないといけない?

相続人には、財産管理義務があります。

これはたとえ相続放棄したとしても、次の相続人が管理を始めるまで義務を負うため、注意が必要です。空き家を相続放棄した場合でも、自分が最下位の相続人であり他に相続人がいないというケースでは、管理義務が残ります。

管理義務を免れるには、家庭裁判所に申請して相続概算管理人を選定してもらう必要があるので注意しましょう。

相続放棄を検討しているなら弁護士に相談しよう

相続放棄は基本的に要件さえ満たせればほとんどのケースで受理されます。

しかし、期限が過ぎている・財産に手を付けた・書類に不備があるなどの理由によっては認められない可能性もあるので、慎重に手続きを進める必要があります。期限切れなどで相続放棄できないと思っていても、認められる可能性もあるので諦めずに専門家に相談してみるとよいでしょう。

また、相続放棄を失敗しないためには、手続き前に押さえておきたいポイントもいくつかあります。確実に相続放棄するためには、早い段階で専門家に相談することをおすすめします。

著者紹介

逆瀬川勇造(ライター)

金融機関・不動産会社での勤務経験を経て2018年よりライターとして独立。2020年に合同会社7pockets設立。前職時代には不動産取引の経験から、相続関連の課題にも数多く直面し、それらの経験から得た知識など分かりやすく解説。【資格】宅建士/AFP/FP2級技能士/相続管理士

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本記事の内容は、記事執筆日(2024年2月27日)時点の法令・制度等をもとに作成しております。最新の法令等につきましては、専門家へご確認をお願いいたします。万が一記事により損害が発生することがあっても、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。

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