配偶者居住権とは?登記は必要なの?仕組みやメリット・デメリット

公開日:2023年12月7日

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夫婦のどちらか一方が亡くなっても、遺された配偶者がそのまま家に住み続けられる権利を「配偶者居住権」といいます。しかし、配偶者居住権には登記が必要なケースがあるので、内容をしっかり把握しておく必要があります。

この記事では、配偶者居住権の概要や登記の必要性、設定したほうがいいケースなどを分かりやすく解説します。

配偶者居住権とは

配偶者居住権とは、夫婦のどちらかが無くなった後も遺された配偶者が家に住み続けられる権利のことです。

生涯、又は一定期間を設けてその間は無償で家に住み続けられます。

法改正により新設された背景

配偶者居住権は、相続法改正に伴い令和2年4月に新設された権利です。

それまでの相続法では、遺された配偶者がそのまま家に住み続けられないトラブルが発生するケースがありました。

たとえば、夫婦が暮らしている家の名義が夫の場合の相続を見てみましょう。
夫が死亡した場合、夫名義の家は相続財産の対象となります。この家に妻が住み続ける方法は、主に次の3つになります。

  • 家を相続して名義を妻にする
  • 家の相続人に無償で家に住まわせてもらう
  • 家の相続人に賃料を支払って住む

家の名義を妻にすれば、そのまま問題なく妻が住み続けられます。しかし、仮に相続財産が家が1000万円・現金が1000万円で子がいる場合、妻は家を取得することで現金を相続できません。

高齢の妻が現金を相続できないことで、その後の生活費が苦しくなる恐れもあるでしょう。さらに、このケースで相続財産に現金が無ければ、家は子と分けなければならないため、売却して分割になる可能性もあるのです。

一方、子が家を取得して無償で住まわせてもらえれば、妻は居住場所の心配はありません。
ただし、家は子の名義となるため、子が家を売却したい・親子の仲が悪いといったケースで家から追い出されてしまう可能性があるのです。

賃貸契約を結んで住めば簡単に追い出される心配はありませんが、毎月の賃料の負担が伸し掛かります。

このように、改正前の法律では配偶者が「家に住み続けること」と「生活費を確保する」ことの両立が困難なケースが発生するのです。

その問題を解消するために新設されたのが、今回の「配偶者居住権」となります。

配偶者居住権の仕組み

配偶者居住権では、家に対する権利を次の2つに分けます。

  • 住む権利(配偶者居住権)
  • それ以外の権利(負担付き所有権)

それまでの相続時の所有権には住む権利も含まれていたため、配偶者が不利な状況になる要因となっていました。今回の法改正では家の権利が「配偶者居住権」と「それ以外の所有権」に分かれることが認められています。

配偶者が住む権利を相続し、それ以外の相続人が所有権を相続できるため、配偶者がそのまま住み続けられ、さらに、所有権者から追い出される心配もなくなったのです。

また、この際に仮に家の価値が4000万円なら、配偶者所有権が2000万円それ以外の権利が2000万円というように、相続財産の価値も分割されます。相続財産に占める家の価格が下がることで、配偶者が現預金などの他の財産を取得しやすくなるのです。

このように権利が分かれることで、配偶者は「住む権利」と「その他の財産(生活費)」の両方を取得しやすくなります。

配偶者居住権の成立要件

配偶者であれば無条件で配偶者居住権が取得できるわけではありません。配偶者居住権が成立するには、下記の3つの要件を満たす必要があります。

  • 遺された配偶者が亡くなった人の法律上の配偶者であること
  • 亡くなった人が所有している家に亡くなったときに配偶者が居住していたこと
  • 「遺産分割」「遺贈」「死因贈与」「家庭裁判所の審判」のいずれかで配偶者所有権を取得したこと

内縁の配偶者や住んでいなかった家では配偶者居住権は認められないので、注意しましょう。

参照:配偶者居住権とは|法務局

配偶者居住権と配偶者短期居住権

令和2年の法改正では、配偶者居住権と同時に「配偶者短期居住権」も新設されました。
配偶者短期居住権では、一定期間の期限を設けて遺された配偶者が無償で家に住み続ける権利のことです。

配偶者居住権が生涯というように長期の権利であるのに対し、配偶者短期居住権は短期の権利となります。

配偶者短期居住権では、配偶者が住み続けられる期間は次のいずれかとなります。

  • 遺産分割協議が終了するまで
  • 配偶者が亡くなった日から最低6か月

配偶者短期居住権があることで配偶者は家を出るまでに6か月の猶予を得られます。配偶者短期居住権は、相続開始時に被相続人の所有する建物に無償で居住していれば、自動的に発生する権利です。

配偶者居住権のメリット・デメリット

ここでは、配偶者居住権のメリット・デメリットを解説します。

メリット

メリットとしては、次の3つが挙げられます。

  • そのまま家に住み続けられる
  • 他の遺産も取得しやすくなる
  • 相続税の節税になる可能性がある

それぞれについて見ていきましょう。

そのまま家に住み続けられる

親子間の仲が悪い・相続財産が不動産しかないといったケースでは、遺された配偶者は家から追い出される恐れがあります。

高齢になってから家を失うと、次の家を探すのは容易ではありません。仮に、賃貸が見つかったとしても、収入の少ない老後に賃料の負担は大きいものです。

日本の長寿化は進んでおり、配偶者が死亡してから遺された配偶者が生存する期間が長期に渡る可能性は十分あります。

配偶者居住権があることで、老後の住居を確保できるのは大きなメリットと言えるでしょう。

他の遺産も取得しやすくなる

配偶者居住権があることで、配偶者は家以外の遺産も取得しやすくなります。相続財産が家と現金というケースは少なくありません。

現金が家の価値よりも多ければ、家を取得したうえでさらに現金を相続できますが、家の価値と現金の価格が同等であれば、家を取得すると現金が相続できなくなります。さらに、現金が家の価値を下回ると、分割時に代償金を支払うか家を売却しなければならないのです。

配偶者居住権があることで、家の価値も分割されるため家を取得しても、現金等の他の資産を取得しやすくなります。

相続税の節税になる可能性がある

配偶者居住権を利用すると二次相続での相続税の節税になる可能性があります。最初の相続で、配偶者が配偶者居住権、子が家の所有権を相続するとします。

次に配偶者が死亡すると二次相続が発生しますが、配偶者居住権は相続できないため権利が消滅するだけです。

子はすでに家の所有権を有しているため、家に対する相続税はかかりません。仮に、最初の相続で配偶者が所有権を相続し、二次相続で子が家の所有権を相続すると家は2回の相続で相続税の対象となるのです。

配偶者居住権を利用して子が先に所有権を相続しておくことで、相続税の節税を期待できます。ただし、配偶者居住権で節税できるかは資産状況などによっても異なります。

ケースによっては配偶者居住権を利用しない方が節税できる可能性もあるので、節税を目的としているなら専門家への相談をおすすめします。

デメリット

デメリットには、次の3つが挙げられます。

  • 売却できない
  • 共有名義では設定できない可能性がある
  • 所有者に税負担がかかる

それぞれ見ていきましょう。

売却できない

配偶者居住権はあくまで住む権利であり、家の所有権ではないため配偶者が自分の意志で家を売却できません。

将来、施設に入るなどで家の売却を検討している場合も、勝手に売却できないため注意しましょう。また、リフォームなどの増改築や第三者に賃貸に出す場合も、所有者の許可が必要です。

所有者にしても、配偶者居住権が設定されている家を勝手に売却できません。仮に、売却に進んだとしても配偶者には住む権利があるので、他の人は住めないため買い手はいないでしょう。

共有名義では設定できない可能性がある

配偶者居住権が設定できるのは、相続時点で家の所有者が相続人単体、または被相続人と配偶者の共有名義の場合のみです。

家の名義が被相続人と配偶者以外の子や第三者と共有である場合、配偶者居住権を設定できない可能性があるので注意しましょう。

所有者に税負担がかかる

家にかかる税金である固定資産税・都市計画税は家の所有者に納税義務があります。

配偶者居住権で家に住むのは配偶者ですが、税金の負担は子など別の所有者になるため、所有者は住まないのに税負担がかかる恐れがあります。

配偶者居住権に登記は必要?

配偶者居住権は所有権同様に登記が可能です。

登記自体は義務ではありませんが、基本的には登記をおすすめします。

登記することで、家に住む権利があることを第三者に公的な証明が可能です。登記しなかったからと言って所有権者から立ち退きを求められても立ち退く必要はありません。

しかし、登記が無ければ所有者が配偶者居住権の存在を知らない第三者に売却した場合、立ち退きを求められると対抗できなくなります。

登記しておくことで、安心して生活し続けられるでしょう。

ただし、配偶者居住権登記は建物のみへの設定となり、敷地には登記できません。また、配偶者短期居住権は登記ができない点にも注意しましょう。

登記する場合、配偶者居住権者と建物の所有者の共同申請での登記となります。

配偶者居住権登記の申請時には「建物の固定資産税×0.2%」の登記費用(登録免許税)も掛かるので、金額を確認して用意しておきましょう。

なお、配偶者居住権登記は相続登記していることが前提となるため、事前または同時に相続登記手続きする必要もあります。

配偶者居住権を設定した方が良いケース、しなくて良いケース

配偶者居住権を設定した方が良いケース、しなくて良いケースのポイントのイメージ

配偶者居住権は必ずしも設定しなければならないわけではありません。相続人や財産状況などに応じて任意で設定するものです。

配偶者居住権を設定するかどうかは、相続人の状況に応じて個別に判断しなければなりません。

以下では、設定したほうが良いケースとしなくても良いケースを紹介するので参考にしてください。

配偶者居住権を設定した方が良いケース

設定したほうが良いケースとしては、下記が挙げられます。

  • 配偶者の住む家を確実に確保したい
  • 配偶者にも預貯金を遺したい
  • 相続財産のほとんどが家
  • 配偶者と子または他の相続人との仲が悪い
  • 配偶者には住んでもらいたいが、配偶者が亡くなった後は希望する人に相続させたい

相続人が配偶者以外にもいるケースで、確実に配偶者が住む家を遺したい、家以外にも預貯金も確保してあげたいという場合に配偶者居住権は有効です。

相続財産が家しかない場合、相続人で遺産を均等に分割するには家の売却となってしまうため配偶者の住処が確保しにくくなります。また、配偶者と他の相続人の仲が悪いケースでも、配偶者が家から追い出される可能性があるので設定しておくことをおすすめします。

子がいないケースなどで、配偶者には家に住んでもらいたいけど配偶者の死後は、配偶者の血族に家を継いでもらいたくない・別に相続してもらいたい人がいるというケースでも、配偶者居住権を利用すれば相続の希望を叶えやすくなるでしょう。

配偶者居住権を設定しなくても良いケース

設定しなくても良いケースには、下記のようなケースが挙げられます。

  • 相続人が配偶者しかいない
  • 家以外の相続財産も十分にある
  • 配偶者が長く家に住むつもりがない

相続人が配偶者しかいない場合や、他の相続人との関係性が良好など確実に配偶者の生活が守られるのであればあえて設定する必要はありません。仮に、家の所有権を配偶者がすべて相続してもさらに現預金を相続できるなど、相続財産が十分にあるというケースでも必要ないでしょう。

また、配偶者居住権があることで売却がしにくくなります。配偶者がすぐに施設に入る、子の家で同居するなど家を手放す予定がある場合は、むしろ設定しない方がスムーズに家を処分できます。

配偶者居住権の登記の方法と費用

ここでは、配偶者所有権の登記の方法について見ていきましょう。

登記する方法には「自分でやる」「専門家に依頼する」の2つの方法があります。

自分でやる場合

登記する建物を管轄する法務局に必要書類を揃えて提出すれば、登記できます。

主な必要書類は下記の通りです。

  • 配偶者居住権の登記申請書
  • 遺産分割協議書または遺言書
  • 登記識別情報
  • 固定資産評価証明書
  • 実印と印鑑証明書

主な費用は「不動産の固定資産税評価額×0.2%」のみとなります。また、登記は所有権者と共同申請が必要です。

所有権者が協力してくれない場合でも、判決を得て単独で登記できます。ただし、手続きが煩雑になり、登記できない間にトラブルに発展する可能性もあるので早めに専門家への相談をおすすめします。

専門家に依頼する場合

専門家に依頼すれば、必要書類の収集や申請書の作成・申請全てお任せできるので大きな手間はかかりません。

特に、申請書の作成など法的な知識も必要になるため、不安があるなら専門家への依頼をおすすめします。

専門家に依頼する場合、登録免許税以外にも専門家への報酬が必要で、依頼先にもよりますが3~10万円程が費用の目安です。

配偶者居住権の設定は専門家に相談を

配偶者居住権を設定することで、配偶者の住む家を確保したうえで現預金などの生活費も確保しやすくなります。

ただし、登記しなければ住む権利を第三者に主張できなくなるので、速やかな登記をおすすめします。また、配偶者居住権は必ず設定する必要はなく、資産状況や相続人の関係性などによっても異なります。

配偶者居住権を設定するかどうか悩んでいるなら、一度専門家に相談してみるとよいでしょう。

著者紹介

逆瀬川勇造(ライター)

金融機関・不動産会社での勤務経験を経て2018年よりライターとして独立。2020年に合同会社7pockets設立。前職時代には不動産取引の経験から、相続関連の課題にも数多く直面し、それらの経験から得た知識など分かりやすく解説。【資格】宅建士/AFP/FP2級技能士/相続管理士

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本記事の内容は、記事執筆日(2023年12月7日)時点の法令・制度等をもとに作成しております。最新の法令等につきましては、専門家へご確認をお願いいたします。万が一記事により損害が発生することがあっても、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。

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