遺産共有とは?相続で遺産分割協議をせずに不動産を共有・放置している人は要注意

公開日:2023年8月3日

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「遺産共有」という言葉を知っていますか。遺産共有とは、複数の法定相続人で遺産相続協議をせずにいる状態のことです。遺産共有の状態が続くと、相続人同志のトラブルを引き起こす原因になりかねません。

この記事では、遺産共有のデメリットや問題点について詳しく解説します。遺産共有状態がなぜ良くないのかを理解し、遺産分割に向けて準備を始めましょう。

遺産共有とは

遺産共有とは、以下のような理由で預貯金や不動産などの遺産を2人以上の法定相続人の間で共有している状態です。

  • 遺言書が作成されていない
  • 遺産分割協議が成立しない

本来、預貯金や不動産などを持ったまま死亡した人がいる場合、配偶者や子どもたちの法定相続人で遺産の分割方法を決めなければなりません。

「誰がどの相続財産を受け継ぐか」が決まっていない状態のままだと、さまざまなトラブルを引き起こす原因になります。

次の章で遺産共有のデメリットや問題点について確認しましょう。

遺産共有のデメリット・問題点

遺産共有によるデメリット・問題点は、以下の通りです。

  • 相続手続きができない
  • 不動産が共有名義となる
  • 共有物分割請求ができない
  • 相続税で不利になる

4つのポイントについて、詳しく確認しましょう。

相続手続きができない

遺言書や遺産分割協議書がなければ、相続手続きができません。なぜなら、誰がどの相続財産を相続するかの証明がないと手続きに応じてもらえないからです。

遺産分割がされていない相続財産は被相続人のものです。そのため、不動産の活用や預貯金の引き出し・解約もできません。

また、固定資産税などの維持・管理費は発生し続けるため、被相続人の負の財産が生まれてしまいます。

ただし、法定相続分の割合の持分で共有するときに限って、遺産分割協議がなくても不動産の相続登記が可能です。

不動産が共有名義となる

遺産共有であっても、不動産は各自の相続分を共有持分として相続登記することが可能です。相続登記をすると、法定相続人全員の所有物となってしまいます。1つの不動産に対して複数人が持ち主である状態です。

この状態によって引き起こされる問題は、以下のように複数あります。

  • 不動産の処分がしづらくなる
  • 数次相続発生のリスクが生まれる
  • 共有者に勝手に売却される可能性がある

順番に確認しましょう。

不動産の処分がしづらくなる

不動産を共有すると、以下のような処分が難しくなります。

  • 売却
  • 取り壊し
  • 建築

なぜなら、共有者全員の同意が必要だからです。1人でも処分方法に反対する人がいる場合、不動産の処分はできません。

実際に、共有者の一部の人が処分をしようとした行為に対して他の共有者が反対によって、現状に戻すよう求められたケースもあります。

このように、せっかく被相続人からの財産を活用できません。

数次相続発生のリスクが生まれる

遺産分割をせずに放置していると、相続人が死亡してしまうこともあるでしょう。これを相次相続といいます。

相次相続が複数発生すると、法定相続人が増え、法定相続分の計算がとても複雑になってしまいます。

新たな法定相続人が現れて話し合いが複雑になるため、さらに遺産分割協議の成立が困難になるでしょう。

共有者に勝手に売却される可能性がある

不動産は、共有状態だと「自分の共有持分に限っては売却が可能」です。たとえば、子ども3人で遺産共有となっていた場合、子ども1人あたり3分の1の持分を売却できます。

相続人のうち1人でも不動産の持分を売却してしまうと、他人と共有名義不動産を共有することになりかねません。

共有持分買取業者といった不動産業者に売却されてしまい、不動産業者が他の共有持分権者にしつこく買取・売却を迫られた、というトラブル事例もあります。

共有物分割請求ができない

通常、土地や建物などの共有物を分割するための手続きに「共有物分割」を活用します。しかし、遺産共有で共有関係を解消するには、遺産分割の手続きが必要と過去の裁判で結論付けられています。

そのため、遺産共有状態である財産に対して共有物分割請求はできません。

そもそも共有物分割請求とは、共有状態の解消を行うために裁判所で訴訟を起こすことです。裁判所に適切な分割方法を決めてもらうため、どちらかが勝つ・負けるというものではありません。

たしかに遺産共有であっても、それぞれの相続分の相続登記は可能です。そのため、普通の共有状態になったように思えます。しかし、あくまでも遺産共有の状態のため、共有物分割請求はできないとされています。

相続税で不利になる

遺産分割の内容が決まっていない遺産共有の状態だと、相続税で不利になる可能性があります。

たとえば、一般的に活用されている配偶者控除や小規模宅地等の特例などが受けられません。なぜなら、適用の要件に、相続税申告期限である被相続人の死亡から10ヶ月後までに遺産分割協議が成立していることが含まれているためです。

さらに、遺産分割協議が成立していない状態でも相続税申告期限は変わりません。分割できていない状態のまま一度仮の申告・納税をしなければならず、高額な相続税をおさめる必要があります。

仮の申告では、特例や控除が受けられず、通常より高額な相続税をおさめなければなりません。

法改正により一部改善

改正・見直しのイメージ

令和3年4月の民法改正で、遺産分割における相続制度の見直しが行われました。すでに令和5年4月1日から施行されています。

今までは複数人の法定相続人がいる場合、遺産共有で1つの相続財産を所有することが原則でした。しかし、遺産共有の関係にあると相続財産の管理が難しく、遺産分割もされないままであることが課題とされていました。

そこで、相続発生時の共有問題を解消するために、民法が改正されたのです。

改正された内容について確認しましょう。

民法改正によって変わった大きなポイント

この民政改正によって変わった大きなポイントは、以下の3つです。

  • 遺産分割に期限を設置(第九百四条の三)
  • 相続開始後から長期間経っても、通常共有持分と遺産共有持分が同時に起きているときの分割方法を合理化(第二百五十八条の二)
  • 相続開始後から長期間経っても、相続人の所在が不明などによる不動産の遺産共有部分の取得方法の合理化(第二百六十六条の二、三)

参照:民法|e-GOV法令検索

遺産分割の期限は、相続開始時(被相続人が死亡したとき)から10年間です。10年を超えると、通常の遺産分割がしづらくなってしまいます。

民法改正による注意点

民法改正で注目すべきポイントは、遺産分割に期限が設けられたことです。相続開始から10年以内に遺産分割協議を成立させなければ、一部の相続人に取得可能な相続財産が減ってしまう可能性が出てきます。

なぜなら、期限を過ぎてしまうと特別受益や寄与分の主張ができなくなり、法定相続分で遺産分割しなければならないからです。

一方、期限を過ぎてしまっても、相続人全員が合意すれば法定相続分とは違う割合で遺産分割できます。ただし、10年も経って相続人全員が集まって遺産分割協議を行うケースは、現実的ではないでしょう。

このように、遺産分割に「相続開始から10年以内」という期限が設けられた以上、できるだけ早く遺産分割協議を開始し、成立させる必要が出てきます。

民法改正のメリット

相続人にとって、民法改正のメリットは、法定相続分を基準に円滑な遺産分割ができることです。期限が設定されたため、遺産分割協議をしなければならないという意識が生まれ、共有財産を放置することも減るはずです。

共有物分割訴訟も10年経過後に可能に

民法改正によって、相続開始10年が経過していれば、例外として相続財産に含まれる共有物の持分について裁判所による共有分割ができるようになりました。

この例外は、共有物の持分が相続財産に含まれる場合に限られており、共有物すべてが遺産共有状態にある場合には適用されません。つまり、以下の条件に当てはまる場合にのみ認められます。

  • 遺産共有と通常共有が同時に起きている
  • 相続開始から10年が経過している

ただし、10年経過前であれば遺産共有状態を解消するには共有物分割ではなく、遺産分割の手続きをしなければなりません。

まとめ

もし、被相続人の相続財産が分割できておらず、遺産共有の状態なのであれば早めに解消しましょう。なぜなら、時間が経てば経つほど法定相続人が増えたり、連絡が取れなくなったりして遺産分割協議の開催が難しくなるからです。

法改正によって10年の期限が設けられたとしても、10年後以降に相続人同士で揉める原因になるかもしれません。法律も絡んでくるため、弁護士や行政書士などの専門家の力も借りましょう。

法定相続人全員が気持ちよく遺産分割できるよう、早めの遺産分割をおすすめします。

記事の著者紹介

安持まい(ライター)

【プロフィール】

執筆から校正、編集を行うライター・ディレクター。IT関連企業での営業職を経て平成30年にライターとして独立。以来、相続・法律・会計・キャリア・ビジネス・IT関連の記事を中心に1000記事以上を執筆。

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本記事の内容は、記事執筆日(2023年8月3日)時点の法令・制度等をもとに作成しております。最新の法令等につきましては、専門家へご確認をお願いいたします。万が一記事により損害が発生することがあっても、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。

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