相続放棄が認められない事例・判例と失敗しないためのポイントまとめ

公開日:2024年3月8日

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相続放棄をしようと手続きをしても、稀に家庭裁判所で認められない事例があります。原因は、意図せず相続財産を処分してしまった場合や相続放棄の期限である3か月の熟慮期間を過ぎてしまっている場合などです。本記事では相続放棄が認められない事例について詳しく解説します。失敗しないためのポイントもあわせてご紹介しているため、参考にしてください。

相続放棄が認められない事例とは

家庭裁判所で相続放棄の申述をしたとき、多くのケースで受理されます。しかし、稀に相続放棄が認められない事例も実際にあるため、事例を確認しておきましょう。

相続放棄が認められない事例は、以下の通りです。

  • 法定単純承認が成立した場合
  • 熟慮期間が経過している場合
  • 必要な書類が不足している場合

ただし、相続放棄の申述をして家庭裁判所で受理されないケースはとても珍しい事例です。

次の章から、どのようにして相続放棄が認められなかったのか詳しく事例をご紹介します。

「相続放棄できない場合の対処法・失敗しないポイント」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

法定単純承認が成立した

以下の行為をした場合、法定単純承認が成立したとして相続放棄が認められなくなる可能性があります。法定単純承認とは、相続人が相続をしたものとみなされる制度です。

法定単純承認が成立するケースは、以下の2つです。

  • 熟慮期間に相続人が相続放棄・限定承認の手続きをしなかった
  • 被相続人の相続財産の全部あるいは一部を処分した

単純承認の意志がなくても、以下の行為があると単純承認の意志があるとみなされる場合があります。

  • 被相続人の銀行口座からお金を引き出した
  • 被相続人の不動産や自動車を名義変更した
  • 被相続人の不動産を解体・売却した
  • 被相続人の賃貸契約を解約した
  • 被相続人の借金・税金を支払った
  • 遺産分割協議に参加した

法定単純承認に該当するかどうかの判断は、専門知識が不可欠です。不用意に被相続人の相続財産に触れないように注意しなければなりません。

法定単純承認が成立したとみなされた実例

法定単純承認が成立したと判断された事例をご紹介します。

被相続人が賃貸契約していたマンションの貸料の振込先を賃借人から相続人名義に変更したことが民法921条1号所定の「相続財産の処分」に該当するとされ、相続放棄が認められませんでした。
東京地裁平成10年4月24日判決

被相続人のスーツ、毛皮、コート、靴、絨毯など財産的価値のあると考えられる遺品のほとんどを持って帰る行為は法定単純承認となるとされ、相続放棄が認められませんでした。
東京地裁平成2年3月21日

このように、家族なら何も疑わずに行ってしまう行為であっても、法定単純承認と認められてしまうケースは少なくありません。一般的な形見分けであれば法定単純承認ではないとされている一方で、価値のあるものを持ち帰ると法定単純承認とみなされるという判例もあります。

相続放棄を検討しているのであれば、「これは大丈夫だろう」と自己判断せず専門家に相談するようにしましょう。

法定単純承認に該当しないとみなされた実例

一方、法定単純承認に該当しないと判定された事例についてもご紹介します。

行方不明となっていた被相続人が遠方で死亡したと警察署から連絡を受け、急いで向かった妻と子どもが被相続人の身の回り品と着衣の引き取りを求められました。やむを得ず財布を含む身の回り品を引き取りましたが、被相続人の所持金は2万0432円と少額のため、相続財産と社会通念状認められないとされ法定単純承認に該当しないと判断されました。
大阪高裁昭和54年3月22日決定

遺族が当然なすべき被相続人の火災費用と治療費残額を支払ったことは人倫と道義上必然の行為であり、これを行ったからといって債務承継の意思があったと判断することはできないと判断されました。そのため、相続財産を処分した行為とは認められず、法定単純承認に該当しないと判断されました。
大阪高裁昭和54年3月22日決定

被相続人の財産を持ち帰ったり、葬儀費用を遺産から支払ったりした場合でも、一般常識の範囲内と判断されれば単純承認事由に該当しないと考えられます。

ただし、「豪華な葬式を行った」「経済的価値の高いものを持ち帰った」と判断されれば、法定単純承認とみなされる可能性があります。専門家でも見解がわかれる場合があるほど難しい判断のため、やむを得ない場合であっても1つ1つ専門家に相談したうえで行動しましょう。

熟慮期間が経過している

熟慮期間が経過していると、相続放棄が認められないケースもあります。相続放棄の熟慮期間とは、自分に相続があったことを知ったときから3か月間を指します。

原則、熟慮期間中に相続放棄するかどうかを判断して手続きを終えなければならず、期限を過ぎてから相続放棄の申述をしても認められるケースは稀です。

しかし、亡くなった方と疎遠になっていた場合や元々の相続人が相続放棄をして知らされていなかった場合など、相続放棄の手続きが遅れてしまうケースは珍しくありません。このような場合、自分に相続があったことを知った日が証明できれば、熟慮期間の起算点をずらすことができ相続放棄が認められます。

また、熟慮期間が過ぎてから巨額な負債が見つかった場合にも、相続放棄が認められた事例があります。やむを得ない事情がある場合は、熟慮期間が経過しているからといって諦める必要はありません。

熟慮期間が経過した例

熟慮期間が経過したことで相続放棄が認められなかった事例をご紹介します。

被相続人に巨額の債務があったと知った日が熟慮期間を経過してましたが、熟慮期間の起算日を「巨額の債務があったと知った日」とすべきと主張しました。しかし、被相続人の死亡の事実を死亡日に知っていたうえに被相続人の相続財産に宅地・建物・預金があることを知っていたといえることから、被相続人の死亡の認識した時期から熟慮期間を起算し、その経過後に行われた相続放棄の申述は不適法であるとされ、相続放棄は認められませんでした。
高松高裁 平成13年1月10日決定

被相続人の死亡後債務者から相続人たちに対して内容証明郵便で貸金返還の請求を通知され、その請求から3か月以上経ってから相続放棄の申述を行いました。被相続人は分籍していたため相続は発生しないと確信していたという主張に対し、法定相続人である旨が記載されていた債務者からの通知書を受け取った時点で法定相続人であることを知ったと認めるべきだとし、相続放棄は認められませんでした。
大阪高裁 平成13年10月11日決定

このように、原則熟慮期間を過ぎてからの相続放棄の申述は受理されません。事情があったとしても「被相続人の死亡を知った日」や「被相続人の法定相続人だと知った日」が熟慮期間の起算日となり、3か月後までに手続きする必要があります。

ただし、稀に特別な事情があったとして熟慮期間の起算点をずらすことが認められた事例もあります。

熟慮期間の起算点をずらすことを認めた例

熟慮期間の起算点をずらすことを認めた事例について、ご紹介します。

被相続人所有の不動産があると知っていながら他の相続人が不動産をすべて相続すると信じていたとき、被相続人の死亡から約11か月後に訴状の送付によって被相続人に債務があったことを知ってから相続放棄の申述をしましたが受理されました。
名古屋高裁平成19年6月25日決定

前妻との間に子どものいる男性と結婚した被相続人は、その子どもたちと養子縁組を行っていませんでした。被相続人が死亡し、被相続人の兄弟姉妹が相続人であったものの、当人たちは養子縁組をしていない子どもたちが相続人であると認識していたため3か月間相続手続きをしていませんでした。その後真実が分かり相続放棄の申述をしたものの受理されませんでしたが、高裁決定で「自己が法律上相続人となった事実を知った時から起算すべきもの」との判決が出されました。熟慮期間の起算点がずらされて相続放棄の申述は受理されました。
仙台高裁決昭和59年11月9日決定

ご紹介した判例のように、自己に相続するものがないと信じていた場合や、債務の存在を本当に知らなかった場合、熟慮期間の起算点がずらされて相続放棄が認められる可能性があります。また、自分が相続人であることを知らなかった場合にも、自分が相続人であると認識した日が起算点になる可能性が高まります。

必要な書類が不足している

必要な書類が不足しているイメージ

相続放棄が認められない事例として、必要書類が不足しているにもかかわらず、家庭裁判所からの指示を無視して放置してしまったケースが挙げられます。

本来、相続放棄の申述に必要な書類は、以下の通りです。

  • 申述書
  • 被相続人の住民票除票または戸籍附票
  • 相続放棄する相続人の戸籍謄本
  • 被相続人の死亡の記載がある戸籍謄本
  • 収入印紙800円分

さらに、被相続人との関係によって追加で提出を求められる書類もあります。代襲相続や祖父母が相続するような特別なケースでは必要書類が増えるため、家庭裁判所や専門家に確認を取るようにしましょう。

書類に不備や漏れがあった場合、そのまま通知なしに棄却されるわけではありません。通常、家庭裁判所から申述者本人に連絡が入り、不備の訂正や追加の必要書類についての補完指示がされます。

しかし、すぐに対応しないと手続きが完了しないまま、期限を迎えてしまう場合があります。

また、家庭裁判所から送付される照会書へ回答を返信しないまま放置していても、相続放棄の申述が却下される原因になりかねません。照会書を受け取ったらできるだけ早く返送しましょう。

このような必要書類の不備によって相続放棄が認められない事態は回避すべきです。どうしても相続放棄をしたいと考えているのであれば、弁護士や司法書士に依頼をしてスムーズに手続きを完了させましょう。不安を抱えている方は、専門家を頼ることをおすすめします。

相続放棄が認められない場合は専門家に相談しよう

相続放棄が認められない場合でも、2週間以内であれば即時抗告にて不服申し立てをすることが可能です。具体的な真実を詳しく話すことで、相続放棄が認められる場合があります。

そもそも熟慮期間中に相続放棄の申述を行えば、ほとんどのケースで認められます。もし、熟慮期間の期限が迫っていたり、すでに経過していたりする場合は、相続問題に詳しい専門家に相談しましょう。

あなたが有利となるように専門知識を使って相続放棄の手続きを進めてくれるはずです。

「相続放棄できない場合の対処法・失敗しないポイント」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

著者紹介

安持まい(ライター)

執筆から校正、編集を行うライター・ディレクター。IT関連企業での営業職を経て2018年にライターとして独立。以来、相続・法律・会計・キャリア・ビジネス・IT関連の記事を中心に1000記事以上を執筆。

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