相続放棄すると生命保険はどうなる?保険金の受け取り可否や相続税の扱いなど解説

公開日:2024年10月29日

相続放棄すると生命保険はどうなる?保険金の受け取り可否や相続税の扱いなど解説_サムネイル

「相続放棄したから死亡保険金は受け取れない?」そんな疑問を抱えている方もいるでしょう。相続放棄しても保険金は受け取れます。しかし、受け取れない生命保険や受け取ると相続税が発生するケースもあるので注意が必要です。この記事では、相続放棄しても受け取れる生命保険について、受け取れないケースや相続税・注意点などを解説します。

相続放棄しても生命保険の死亡保険金は受け取ることができる

相続放棄とは、相続財産のすべてを放棄することです。借金などのマイナスの財産だけでなく、現預金といったプラスの財産も一切相続することはできません。

しかし、一定の条件を満たした死亡保険金は相続財産には該当しません。民法上、受取人に指定されている死亡保険金は、受取人固有の財産という扱いになります。被相続人の死亡によって受け取るお金ではありますが、被相続人から受け取るわけではなく保険契約に基づいて保険会社から受け取るお金です。そのため、相続財産には含まれません。

相続放棄は「相続財産・債務」の一切を放棄することですが、死亡保険金は相続財産ではなく受取人の財産であることから、相続放棄しても受け取れるのです。

ただし、死亡保険金も契約内容などによっては相続財産に該当し、相続放棄で受け取れなくなる場合があります。すべての死亡保険金を無条件に受け取れるわけではないので、受け取れるもの・受け取れないものを理解しておくことが大切です。

次の章では、受け取れる死亡保険金・受け取れない死亡保険金について詳しく解説するので参考にしてください。

相続放棄しても受け取れる死亡保険金と受け取れない死亡保険金

生命保険は、一般的に契約の際に以下の3者が指定されます。

  • 契約者:保険契約を申し込んで保険料を支払う人
  • 被保険者:保険の対象となる人
  • 受取人:生命保険金を受け取る人

相続放棄しても死亡保険金を受け取れるかどうかは「受取人」が誰になっているかが、判断基準になってきます。なお、契約者と保険料支払者が違うケースもありますが、本記事では契約者=保険料支払者という前提で解説します、

受け取れる死亡保険金

死亡保険金が受け取れる生命保険は、受取人が以下のようなケースです。

  • 受取人が相続放棄した人に指定されている
  • 受取人の指定はないが規約上受取人が法定相続人となっており相続放棄した人が該当する

上記の死亡保険金は、受取人固有の財産として相続放棄しても受け取れます。

たとえば、契約者・被保険者が夫で受取人が妻というケースで夫が死亡した場合、妻は相続放棄しても死亡保険金を受け取ることが可能です。また、受取人を指定していなくても保険契約約款などで法定相続人が受取人として定められている場合も、相続放棄していても受け取れます。

受け取れない死亡保険金

一方、相続放棄すると受け取れないケースは、以下の通りです。

  • 受取人が被相続人
  • 被相続人が契約者で被保険者はそれ以外

受取人が被相続人となっている死亡保険金は被相続人の財産となり、本来の相続財産として取り扱われます。そのため、相続放棄すると受け取れなくなるのです。

たとえば、夫が契約者・被保険者・受取人である死亡保険金を、夫の死亡により妻が受け取る場合が該当します。この場合、死亡保険金は一度夫に支払われるため、夫の財産となります。

それを妻が受け取る(相続する)ことになるので、相続放棄してしまうと受け取れなくなるのです。入院給付金や満期保険金などが給付される生命保険は、受取人が被相続人というケースは少なくないため、注意しましょう。

また、被相続人が契約者ではあるけど被保険者でない場合も、気を付けなければなりません。たとえば、契約者が夫、被保険者が妻というケースで、夫が死亡した場合を見てみましょう。この場合、被保険者である妻は生存しているので死亡保険金自体は給付されませんが、仮に妻が保険契約を引き継いだ場合、解約返戻金の受取が可能です。この被相続人が本来なら受け取ることのできた解約返戻金や満期保険料などを受け取る権利は「生命保険契約に関する権利」と呼ばれ相続財産として取り扱われます。

そのため、もし妻が相続放棄すると生命保険契約に関する権利は相続できなくなるのです。なお、この場合、死亡保険金の給付はありませんが、相続放棄せず、解約返戻金や満期保険料を受け取る場合には、相続税の対象となる点にも注意しましょう。もっとも、相続税の対象となるのは解約返戻金のあるタイプの生命保険であり、掛け捨てタイプの死亡保険金は対象外です。

死亡保険金を受け取れるかの判断基準である「受取人」は、保険契約の詳細を確認すれば把握できます。相続放棄後に自分が受取人でないとわかると受け取れなくなってしまうため、保険契約を確認したうえで相続放棄を検討することが大切です。

相続放棄して受け取った死亡保険金の相続税について

相続放棄して受け取った死亡保険金の相続税についてのイメージ

相続放棄しても死亡保険金を受け取れますが、受け取ると相続税が課税される可能性があります。

みなし相続財産として相続税の課税対象になる

みなし相続財産とは、本来の相続財産ではないものの被相続人の死亡をきっかけに受け取る財産のことです。相続人が受取人の死亡保険金は受取人固有の財産とはいえ、被相続人の死亡をきっかけに受け取ったお金でもあります。実質的には相続したと同義ともいえることから「みなし相続財産」として扱われるのです。

みなし相続財産は、相続税の対象です。そのため、相続放棄していても死亡保険金を受け取ると、受け取った額に対して相続財産が課税されます。

死亡保険金だけでなく、前述した「生命保険に関する権利」や死亡退職金・個人年金などもみなし財産に該当するので、注意しましょう。

死亡保険金の非課税枠が使えない

相続放棄した場合、死亡保険金の非課税枠が使えないため税負担が大きくなる恐れがあります。死亡保険金には、以下のような非課税枠があり一定額までは相続税の対象となりません。

死亡保険金の非課税枠=法定相続人の人数×500万円

たとえば、法定相続人が妻・子どもA・Bの合計3人なら「3人×500万円=1500万円」までの死亡保険金は非課税となります。この場合で、死亡保険金が2000万円なら500万円が相続税の対象です。

なお、死亡保険金の非課税枠を計算する「法定相続人の人数」には、相続放棄した人も含むことができます。しかし、非課税枠を適用できるのは相続人だけであり、相続放棄すると適用できないため注意しなければなりません。

相続税が課税される死亡保険金(生命保険金)は次の計算で求められます。

相続税の課税対象になる死亡保険金のイメージ

引用:国税庁|No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金

仮に、先述の例で子どもBが相続放棄、生命保険金は妻が1000万円・子どもがそれぞれ500万円ずつ受け取るとしましょう。非課税枠は1500万円ですが、子どもBは適用できないため、妻と子どもAで非課税枠を受け取った額に応じて分け合います。

それぞれの非課税枠は以下の通りです。

  • 妻:1500万円×1000万円÷(1000万円+500万円)=1000万円
  • 子どもA:1500万円×500万円÷(1000万円+500万円)=500万円
  • 子どもB:非課税枠なし

非課税枠を考慮した課税対象額は以下のようになります。

  • 妻:1000万円-1000万円=0円
  • 子どもA:500万円-500万円=0円
  • 子どもB:500万円-0円=500万円

相続放棄した子どもBは非課税枠が適用できないため、受け取った500万円が相続税の対象となってしまうのです。

他の人が相続放棄することで非課税枠には変更はありませんが、相続放棄した本人は税負担が増える可能性がある点には注意しましょう。

非課税枠が使えなくても相続税の基礎控除以下であれば相続税はかからない

受け取った死亡保険金が非課税枠を超えたからといって、必ず相続税が課せられるわけではありません。

相続税は、プラスの財産からマイナスの財産を差し引いた後の相続財産が基礎控除を超えた場合に課税されます。そのため、非課税枠適用後の死亡保険金と他の財産の合計が基礎控除以下であれば、相続税は課税されません。

相続税の基礎控除は、以下の通りです。

相続税の基礎控除額=3000万円+600万円×法定相続人の人数

上記の法定相続人の人数には、相続放棄した人も含むことができます。

たとえば、法定相続人が妻・子どもA・子どもB(相続放棄)の場合、基礎控除は「3000万円+600万円×3人=4800万円」です。この場合、「死亡保険金から非課税枠を差し引いた額」と「他の相続財産」の合計が4800万円を超えなければ相続税は発生しません。

このように生命保険金の非課税枠を適用できなくても、相続財産額・基礎控除額によっては相続税が発生しない可能性も高いので覚えておきましょう。

相続放棄しても配偶者の税額軽減を適用できる

相続税には、基礎控除以外にもさまざまな軽減措置が用意されています。その代表的な特例に「配偶者の税額軽減」があります。

配偶者の税額軽減とは、配偶者が取得した遺産額のうち「1憶6000万円」または「配偶者の法定相続分相当額」のうちいずれか多い金額までは相続税がかからない税額軽減措置です。これによって、基本的に配偶者に相続税が課せられることはないでしょう。

この軽減措置は、たとえ配偶者が相続放棄していても適用できます。そのため、配偶者は相続放棄して死亡保険金を受け取った場合でも、相続税が課税されるケースはほとんどないといえます。

受け取った死亡保険金で相続税以外にかかる可能性のある税金

死亡保険金を受け取った場合、「契約者」「被保険者」「受取人」の関係性によっては相続税以外で以下のような税金が課せられるケースがあります。

  • 所得税・住民税
  • 贈与税

所得税・住民税

死亡保険金に所得税・住民税が課せられるケースは以下の通りです。

  • 契約者:相続人A
  • 被保険者:被相続人
  • 受取人:相続人A

上記のように、契約者と受取人が同じであるケースで所得税・住民税が課税されます。

たとえば、夫が保険料を支払い妻を被保険者・受取人を夫としている保険で、妻の死亡により夫が受け取る場合です。この場合、夫が相続放棄していても受取人である夫は生死亡保険金を受け取れます。

しかし、受け取った保険金は所得となるため、所得税および住民税の対象です。保険金を一時金として受け取る場合は、一時所得・年金として受け取る場合は雑所得に区分され所得税を計算します。

なお、受け取る死亡保険金の額が支払った保険料よりも少ない場合は、所得税は課税されません。

贈与税

贈与税が課税されるケースには、以下のようなパターンがあります。

  • 契約者:相続人A
  • 被保険者:被相続人
  • 受取人:相続人B

贈与税は、契約者・被保険者・受取人がそれぞれ異なるケースで課税されます。たとえば、夫が保険料を負担し、妻が被保険者・子どもが受取人で、妻の死亡により死亡保険金が子どもに支払われるケースです。この場合、保険料を支払っている夫から子どもへの贈与とみなされ、贈与税が課せられます。

なお、贈与税には年間110万円の基礎控除があるので、基礎控除を超えた部分が贈与税の対象です。贈与税は基礎控除が少なく税率も高いので、相続税・所得税よりも税負担が高くなる可能性があるので注意しましょう。

このように、生命保険は相続税の節税対策としても有効ですが、受取人によっては思わぬ税負担になる恐れがあります。課せられる税金によっても税負担は大きく異なるので、受取人の税負担も考慮して検討することが大切です。

「生命保険と相続税」について、さらに詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

生命保険以外にも相続放棄しても受け取れる財産はある

生命保険金以外で相続放棄しても受け取れる可能性がある財産には、以下のようなものがあります。

  • 死亡退職金・未払給与
  • 遺族年金・死亡一時金
  • 健康保険からの一時金(埋葬料・葬祭費)
  • 信託財産

死亡退職金・未払給与

被相続人が勤めていた企業から支払われる死亡退職金や死亡時に未払い分の給与は受け取れる可能性があります。しかし、受け取れるかは就業規則や契約によっても異なり判断が難しいため、受け取る前に弁護士に相談することをおすすめします。

遺族年金・死亡一時金

被保険者の死亡で遺族に支払われる遺族年金や死亡一時金は、遺族の生活を保障するためのお金であることから相続放棄しても受け取れます。ただし、「子のある配偶者」など受給要件もあるので、要件を満たしているかは確認するようにしましょう。

健康保険からの一時金(埋葬料・葬祭費)

健康保険から葬祭費や埋葬料といった一時金が支給されます。これらの一時金は遺産とは異なる扱いとなるので、相続放棄しても受け取ることが可能です。

国民健康保険・社会保険など加入状況によって、一時金の有無や額・名称が異なるので加入状況に応じて詳細や手続き方法を確認する必要があります。

信託財産

信託財産とは、委託者(財産管理を委託する人)が受託者(管理する人)に管理を委託した財産のことです。代表的なものに家族信託での信託した財産があります。

家族信託では、信託契約終了後の財産の取得者をあらかじめ定めることが可能です。そのうえで、信託財産は相続財産とは区別される財産なので、相続放棄の影響を受けません。そのため、信託財産の継承者は相続放棄しても財産を受け取ることが可能です。

ただし、信託契約上で「信託財産を相続財産に含む」など取り決めが交わされていると受け取れないので注意しましょう。

相続放棄した場合の死亡保険金について知っておきたいこと・注意点

死亡保険金には、受け取ると相続放棄できないなどいくつか注意点があります。ここでは、相続放棄した場合の生命保険について知っておきたいこと・注意点として以下の5つを紹介します。

  • 死亡保険金を受け取った後に相続放棄できる?
  • 受取人が指定されていない死亡保険金はどうなる?
  • 相続放棄と生命保険を組み合わせると良いケース
  • 相続放棄した人が受取人にいても非課税枠は利用できる
  • 専門家への相談も検討する

死亡保険金を受け取ったあとに相続放棄はできる?

相続財産を使った・処分したなどで単純承認したとみなされると相続放棄できなくなります。そのため、死亡保険金が相続財産に該当するかが判断ポイントとなります。

  • 受取人が相続人であれば受け取っても相続放棄できる
  • 受取人が被相続人であれば受け取ると相続放棄できない

受取人が相続人の死亡保険金は、受取人固有の財産となるので受け取っても相続放棄が可能です。一方、受取人が被相続人である場合は、相続財産とみなされるため受け取ってしまうと相続放棄できなくなります。

なお、受取人が相続人の死亡保険金は受け取っても問題ありませんが、他の財産にも手を付けてしまうと相続放棄ができないので注意しましょう。

相続放棄を検討している場合は、財産の受取・処分には慎重な対応が必要なので専門家に相談することをおすすめします。

「相続放棄できないケース」について、さらに詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

受取人が指定されていない死亡保険金はどうなる?

受取人が指定されていない死亡保険金は、原則として保険契約約款に従って支払われます。基本的には法定相続人が定められているケースが多いでしょう。

また、受取人が先に死亡している場合は、変更手続きすることで新たな受取人が受け取ることが可能です。変更手続きされていない場合は、こちらも約款に従うことになりますが、受取人の法定相続人が指定されているケースが一般的です。

相続放棄と生命保険を組み合わせると良いケース

相続放棄すると死亡保険金など一部を除いて、相続財産は受け取れません。そのため、プラスの財産が多い・相続したい財産があるというケースでは、相続放棄は慎重に検討する必要があります。

一方、以下のようなケースでは死亡保険金を受け取りつつ相続放棄を検討するとよいでしょう。

  • 被相続人に借金や未払い金が多い
  • 被相続人が連帯保証人になっている
  • 相続財産が不動産ばかり

借金や未払い金・連帯保証人など負債の負担がプラスの財産よりも明らかに多い場合は、相続放棄が適しています。また、相続財産が不動産の場合、現金での分割が難しくトラブルになりやすくなります。不動産は別の相続人が相続し、自分は死亡保険金を受け取って相続放棄することでスムーズに相続を進めやすくなるでしょう。

相続放棄した人が受取人にいても非課税枠は利用できる

前述のとおり、相続放棄した人がいる場合でも、相続税の基礎控除や生命保険の非課税枠には影響ありません。しかし、相続放棄した人は非課税枠が適用できないので、税負担が大きくなる可能性があります。

相続放棄を検討する際には、税負担も考慮しておくことが大切です。

生命保険が関わる相続放棄には専門知識が必要なケースも多い

相続放棄しても死亡保険金は受け取れますが、契約状況によっては受け取れないケースもあります。また、受け取ることで相続放棄できない・相続税がかかるなどもあるので、慎重な判断が必要です。とくに、受取人が指定されていないケースや保険約款の理解が難しい・税負担に不安があるといったケースでは、専門家への相談をおすすめします。

また、これから相続税対策として生命保険を検討している場合も、受取人の税負担など考慮しなければならない点がいくつかあります。よかれと思って受取人にしたのに思わぬトラブルになったと、ならないように事前に専門家から適切なアドバイスをもらうとよいでしょう。

相続放棄でお困りの方へ_専門家をさがす

相続放棄して受け取る死亡保険金は専門家に相談を

相続放棄していても、受取人が相続人である死亡保険金は受け取ることが可能です。一方、受取人が被相続人である死亡保険金は受け取ることができません。

また、受け取れる死亡保険金であっても、受け取ることで相続税が発生する可能性があることは覚えておきましょう。

生命保険の契約内容によっては、受け取ってしまうことで相続放棄ができないケースもあります。相続放棄を検討している・保険金を受け取ってもいいか悩むという場合は、専門家に相談することをおすすめします。

記事の著者紹介

逆瀬川勇造(ライター)

【プロフィール】

金融機関・不動産会社での勤務経験を経て平成30年よりライターとして独立。令和2年に合同会社7pockets設立。前職時代には不動産取引の経験から、相続関連の課題にも数多く直面し、それらの経験から得た知識などわかりやすく解説。

【資格】

宅建士/AFP/FP2級技能士/相続管理士

専門家をさがす

専門家に相談するのイメージ

本記事の内容は、記事執筆日(2024年10月29日)時点の法令・制度等をもとに作成しております。最新の法令等につきましては、専門家へご確認をお願いいたします。万が一記事により損害が発生することがあっても、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。

記事をシェアする