家・空き家などの不動産を相続放棄できる?メリット・デメリットを徹底解説

公開日:2023年11月14日

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不要な家や空き家が相続財産に含まれていたとき、相続放棄を考えるかもしれません。しかし、家や空き家などの不動産だけを相続放棄することはできないため注意が必要です。

本記事では、不動産を相続放棄するときに知っておきたいメリット・デメリットや注意点について解説します。最後によくある疑問にも答えているため、ぜひ参考にしてください。

誰も住む予定のない家・空き家を相続する予定の方は、この記事を読んで慎重に相続放棄すべきかどうかを検討しましょう。

家や空き家だけ相続放棄することはできない

相続が発生したとき、現金や預貯金など経済的に価値あるものだけを相続し、不要なものを相続放棄することはできません。つまり、家や空き家が相続人にとって不要なものであっても、家や空き家だけを相続放棄することは不可能です。

そもそも、相続放棄をすると「もともと相続人でなかった」として扱われます。そのため、被相続人が残した相続財産を相続する権利を失います。

たしかに、田舎や地方で土地の活用方法がなかったり、売りたくても売れなかったりするのであれば、そもそも相続したくないと考えてもおかしくありません。

もちろん、相続人同士で行う遺産分割協議にて「自分は家や空き家の不動産を引き継ぎたくない」と主張することは可能です。しかし、その主張が必ずしも通るとは限りません。話し合いの結果、複数人の相続人の共同名義で不動産を引き継ぐケースも十分考えられます。

このように、家や空き家だけを相続放棄することはできないと覚えておきましょう。

相続放棄は3か月以内の手続きが必要

もし、すべての相続財産の相続権利を失ってもよいと考えるのであれば、相続放棄をしましょう。ただし、亡くなってから3か月を過ぎると放棄ができなくなるため注意が必要です。

相続放棄の手続きは簡単にできるものではなく、以下の手順を踏む必要があります。

  1. 財産を調べて相続放棄すべきか検討する
  2. 戸籍謄本や住民票などの必要書類を集める
  3. 相続放棄申述書を作成する
  4. 家庭裁判所に相続放棄の申述を行う
  5. 家庭裁判所から照会書が送付される
  6. 照会書に必要事項を記載して返送する
  7. 家庭裁判所から相続放棄申述受理通知書が届いたら手続き完了

原則、相続放棄の申述は、相続放棄をする相続人本人が家庭裁判所にて行わなければなりません。専門家に頼りたい場合は、弁護士しか代理で申述できないため注意しましょう。

「相続放棄の手続き方法」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

参照:相続の放棄の申述|裁判所

「空き家対策特別措置法」による特定空家等について

被相続人が住んでいた家や別荘など、持ち主がいなくなった空き家が相続財産に含まれている場合、空き家対策特別措置法について理解しておくべきです。

空き家対策特別措置法とは、適切な管理が行われていない空き家や土地・工作物に対して適切な管理を促すために制定された法律です。危険・有害で管理不十分な空き家だと市区町村からみなされると、特定空き家に指定されてしまいます。

特定空き家に指定されると、市区町村から以下の措置が行われます。

  • 助言・指導(所有者に改善するよう働きかける)
  • 勧告(猶予期間を設けて必要な措置を取るよう所有者に勧告する)
  • 命令(猶予期間を設けて勧告した措置を取るよう命令する。50万円以下の罰金規定あり)
  • 代執行(期限までに対応しなかった場合、行政が代わりに措置を取る)

特定空き家は単純に人が住んでいない空き家と異なり、緊急の対応を要する危険な状態の空き家であるケースが多く、近隣住民の安全を第一に考えた措置がとられます。

空き家対策特別措置法が制定された背景

空き家には以下のような問題を引き起こす要因があり、未然にトラブルや危険を回避するために空き家対策特別措置法が制定されました。

  • 屋根材や外壁材などの落下・家屋の倒壊
  • ごみの不法投棄
  • 野良猫・害虫などの繁殖
  • 草木の繁茂
  • 不審者が住み着く

このように、放置された空き家は、衛生面・景観面・治安面などから近隣住民の生活環境に悪い影響を及ぼします。

参照:年々増え続ける空き家!空き家にしないためのポイントは?|政府広報オンライン

空き家を相続したときの税金について

空き家を相続すると、当然空き家の所有者になるため固定資産税の納税義務が発生します。通常、固定資産税の税率は1.4%ですが、空き家(住宅)が建っている土地に対しては、住宅用地特例の軽減措置を受けられます。

同様に、都市計画税も軽減措置が受けられるため、以下の表にまとめました。

固定資産税
区分①小規模住宅用地(200㎡以下の部分)
②一般住宅用地(200㎡を超える部分)
特例率①1/3
②2/3
税金の計算式①固定資産税評価額×1/3×0.3%
②固定資産税評価額×2/3×0.3%
都市計画税
区分①小規模住宅用地(200㎡以下の部分)
②一般住宅用地(200㎡を超える部分)
特例率①1/6
②1/3
税金の計算式①固定資産税評価額×1/6×1.4%
②固定資産税評価額×1/3×0.3%

しかし、特定空き家と指定されて勧告を受けると、住宅用地特例の軽減措置が受けられません。そのため、固定資産税は最大6倍、都市計画税は最大3倍になる可能性があります。

ちなみに、被相続人から相続した空き家を売ると、譲渡所得額から最高3000万円まで控除することができる特例を活用できます。活用すると、売却によって得た所得の3000万円までは所得税が発生しないため、大きな負担を負う必要はありません。

もし、相続で空き家を相続することになったら、早めに売却したり、更地にしたりして、周囲の住民に危険が及ばないように対策しましょう。

参照:No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例|国税庁固定資産税・都市計画税(土地・家屋)|東京都主税局

家や空き家を相続放棄するメリットとデメリット

家や空き家を相続放棄するメリットとデメリットのイメージ

家や空き家を引き継ぎたくないときに相続放棄を考えている方もいるでしょう。しかし、一度相続放棄の手続きをすると、撤回することができません。

そのため、あらかじめ家や空き家を相続放棄するメリットとデメリットを知ったうえで、慎重に判断すべきです。それぞれ詳しく確認しましょう。

家・空き家を相続放棄するメリット

家・空き家などの不動産を相続放棄するメリットは、以下の2点です。

  • 固定資産税や管理維持のための手間や費用が発生しない
  • 家・空き家が売れるか売れないかの心配をしなくて済む

自分で住まない家や空き家を相続した場合、困るポイントは維持管理や活用方法です。土地価格が上昇傾向にある都会であれば買い手も見つかりやすいですが、田舎や地方だと売りたくても売れない状態が続くケースもあります。

売れるまでの間、固定資産税や管理維持費が発生し続けるため、経済的な不安を感じることもあるでしょう。万が一、特定空き家に認定されてしまうと、固定資産税が最大6倍になってしまいます。

相続放棄をすれば経済的な心配はなくなるため、大きなメリットと言えるでしょう。

家・空き家を相続放棄するデメリット

一方、家・空き家などの不動産を相続放棄するデメリットは、相続放棄をすると不動産以外のプラスの財産も放棄することになる点です。

相続したくない相続財産が不動産だけで、ほかの預貯金や有価証券、別の不動産を引き継ぎたいと考えているのであれば、相続放棄は最善の選択ではありません。相続放棄をするとすべての相続財産を相続する権利がなくなるためです。

万が一、他の相続人が家・空き家を相続したあとに売却して利益が発生したとしても、相続放棄した人は分けてもらえません。

このように、相続放棄をしたことで本来受け取れたはずのプラスの財産が受け取れなくなる可能性は十分にあります。3か月の熟考期間の間に、相続放棄すべきかどうかを判断しなければならないため、焦って手続きを進めてしまうと損をするかもしれません。

家・空き家を相続したいかしたくないかだけでなく、総合的な判断が必要です。

家・空き家を相続放棄するときの注意点

家・空き家などの不動産を相続放棄すると決めたら、以下の2つのポイントに注意しましょう。

  • 次順位の相続人に相続放棄の事実を伝える
  • 相続放棄できなくなるケースがある

2つの注意点について、順番に解説します。

次順位の相続人に相続放棄の事実を伝える

相続放棄をするときは、次順位の相続人に相続放棄の事実を伝えましょう。

相続放棄をした人はそもそも相続人ではなかったとみなされるため、先順位の相続人がいなくなると自動的に次順位の人たちが相続人として繰り上がるからです。

相続の順位は、民法で以下のように定められています。

  • 第一順位:子ども
  • 第二順位:両親(直系尊属)
  • 第三順位:兄弟姉妹

ちなみに、被相続人の配偶者は、常に相続人です。

たとえば、相続人が配偶者と子ども2人だったとしましょう。このとき、子ども2人ともが相続放棄をすると、両親が相続人となります。

相続人の誰かが相続放棄したとしても、次順位の相続人に連絡がいくわけではありません。相続放棄をした本人が伝えなければ、知らない間に家・空き家を相続しなければならない立場となってしまいます。

相続放棄の期限は「自分に相続があると知ってから3か月以内」と短く設定されています。早めに相続放棄した事実と相続財産の内容を正確に伝えましょう。

相続放棄できなくなるケースがある

以下のケースに当てはまると、原則的に相続放棄ができなくなるため注意しましょう。

  • 相続財産の一部を使った
  • 相続財産の一部を売却・処分した
  • 期限である3か月を過ぎている

もちろん例外はあり、やむ得ない事情が認められて相続放棄できる場合もあります。気になる点があれば、早めに専門家に相談することをおすすめします。

家・空き家の相続放棄でよくある疑問

最後に、家・空き家を相続放棄するときによくある疑問にQ&A形式で解答していきます。よくある疑問は、以下の通りです。

  • 親族全員が家・空き家を相続放棄した場合はどうなる?
  • 相続放棄によって空き家になる場合はどうする?
  • 空き家を相続放棄するとどうなる?
  • 相続放棄せずに家・空き家を手放すことはできる?

相続放棄にあたっての疑問を解消しましょう。

親族全員が家・空き家を相続放棄した場合はどうなる?

親族全員が相続放棄をした場合、家・空き家を引き継ぐ人がいなくなるため国庫に帰属します。

国庫に帰属するとは、被相続人が持っていた所有権を国に渡すことです。そのため、固定資産税や維持・管理費は発生しません。

ただし、国庫に帰属するためには、相当の手続きが必要です。

相続放棄によって空き家になる場合はどうする?

相続人全員が相続放棄したことによって空き家になる場合、相続財産清算人を選任したのち国庫に帰属させます。

まず、相続人の代表が家庭裁判所にて相続財産清算人の選任申し立てを行い、相続財産清算人を選出します。相続財産清算人が選出された時点で、管理義務責任を引き継ぐことが可能です。

責任から逃れられる一方で、相続財産清算人には報酬が発生します。相続財産清算人が空き家や土地などの相続財産を処分し終えるまで支払いは続くため、親戚同士で話し合っておきましょう。

最終的に、相続財産清算人は正当な手続きを踏んで、空き家を含めた相続財産を国庫に帰属させます。

空き家を相続放棄するとどうなる?

相続人全員が相続放棄をしたとしても、財産管理義務が残るため注意しましょう。

空き家となった建物は、老朽化による倒壊や害虫・害獣の発生などを引き起こしかねません。近隣住民に多大な被害を及ぼすリスクがあり、管理者のいない状況は危険が残ります。

そこで、民法では以下のように定められています。

相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。※引用:民法|第940条(相続の放棄をした者による管理)

あくまでも財産管理義務は、相続人全員が相続放棄した場合にのみ発生します。また、相続財産清算人に相続財産を引き渡すと管理義務は発生しません。

相続放棄せずに家・空き家を手放すことはできる?

相続放棄をせずに、家・空き家を手放す方法はあります。

まず、限定承認を活用する方法です。限定承認とは、相続で得たプラスの財産を限度に、マイナスの財産を引き継ぐことです。

不動産によって財産の合計がマイナスになるのであれば、引き継ぐ必要はありません。限定承認も自分に相続があると知ってから3か月以内の手続きが必要です。

次に、一度家・空き家を相続してから手放す方法です。以下のような方法で家・空き家の所有権を第三者に移すことができます。

  • 不動産会社に売却する
  • 空き家バンクを活用する
  • 自治体や団体、法人に寄付をする

立地によっては、マンションや駐車場にして収益を得ることも可能です。

相続放棄だけでなく、さまざまな選択肢のなかから不動産を手放す方法を検討しましょう。

相続放棄以外の選択肢も含め家・空き家を手放す方法を考えよう

家や空き家を相続したくないという理由だけで相続放棄をしてしまうと、ほかの価値ある相続財産を相続する権利を失ってしまい、後悔するかもしれません。不要な家や空き家だけを相続放棄することはできないため、慎重な判断が必要です。

また、相続人全員が相続放棄をしたとしても、相続財産清算人を選出するまでは財産管理義務から逃れられません。

それでも相続放棄をしたいと考えるのであれば、早めに専門家へ相談しましょう。相続放棄の手続き期限は3か月と短く、短期間であらゆる角度から相続放棄すべきかどうか判断する必要があるからです。

問題を早く解決するためにも、相続に詳しい専門家からアドバイスをもらうことをおすすめします。

記事の著者紹介

安持まい(ライター)

【プロフィール】

執筆から校正、編集を行うライター・ディレクター。IT関連企業での営業職を経て2018年にライターとして独立。以来、相続・法律・会計・キャリア・ビジネス・IT関連の記事を中心に1000記事以上を執筆。

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本記事の内容は、記事執筆日(2023年11月14日)時点の法令・制度等をもとに作成しております。最新の法令等につきましては、専門家へご確認をお願いいたします。万が一記事により損害が発生することがあっても、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。

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