《遺産相続に借地があった!》借地権の意味や種類、押さえたい注意点とは?

公開日:2023年4月21日

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相続人が継承する遺産相続の対象となるのは、死亡した人が所有していた財産や権利。死亡した人が土地を借りていた場合は土地そのものではなく、土地を借りる「借地権」が相続財産となります。

土地などの不動産にはさまざまな権利があり、「借地権」も生活にかかわる大切な権利の1つです。こちらの記事では、借地権の相続の定義や種類について分かりやすく解説します。さらに、押さえておきたいポイントとして評価方法や借地権の手続きなどもあわせてご紹介!相続人が借地を相続したときに、役に立つ情報満載でお送ります。

借地権の相続とは

遺産相続の場面では、物理的な預貯金や自宅や車以外にも、権利や負債も対象となります。死亡した人が第三者から土地を借りていた場合、その土地を利用できる権利である「借地権」が相続対象となります。借地権の確認方法は、登記されている土地と建物の名義が異なっているかどうかで確認ができます。

そもそも「借地(しゃくち)とは、建物の所有を目的に第三者から土地を借りること。さらに、借地した人(賃借人)が自分の建物を建てるなど土地を利用できる権利のことを「借地権」と呼びます。

借地権に関する定義は、借地借家法と民法にて定義が若干異なっており、借地借家法だと以下の通りです。

借地権 建物の所有を目的とする地上権又は土地の賃借権をいう。

引用:借地借家法 第一章 総則 第二条

「民法第265条」でも借地権に関する定義がされていますが、こちらの記事では、借地借家法における「借地権」を中心に解説します。

先ほど紹介した借地借家法の定義にもある通り、あくまでも目的は「建物の所有」に限られているため、資材置き場や青空駐車場といった建物が伴わない土地利用だと借地権は発生しません

また、目的以外に関する、借地権の特徴をまとめると以下の通りです。

  • 貸借人は地主に対して地代を払う
  • 土地の権利は地主がそのまま持つ
  • 建て替えや売却は地主の承諾が得る必要がある
  • 契約期間の満了後は更地にして地主に返還する

ちなみに、借地権が設定されている土地のことを「底地(そこち)といいます。物理的に見れば、底地と借地は同じですが、立場によって呼び方が異なります。

土地を借りている人からすると「借地」、土地を貸している人からすると「底地」というわけです。土地や家の両方を1人で所有している場合とは異なり、借地だとこのような借りた側と貸した側の権利関係が絡んできます。

家などの「不動産相続」について、さらに詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

以降の段落では、代表的な借地権の種類、借地権の変遷や定義について深く掘り下げていきます。

相続したら土地を評価する理由。その評価方法とは?

相続人が相続した借地権の評価額を導きすための基準となるのが、更地の評価額である「自用地評価額」。もとより、土地を相続したら必要となる手続きが2つあります。1つが、法務局で行う名義変更手続きである「相続登記」。もう1つが、遺産総額が非課税枠を上回った場合には「相続税の申告納税」です。とくに、後者の「申告納税」では、不動産を含めた遺産総額を把握するために、土地評価額を相続人が自分で計算しておくことが求められるのです。

借地を含めた土地には、一般的に「一物五価(いちぶつごか)といわれる、土地の評価額の算出根拠となる「公的価格」というものが存在しています。これは1つの土地に対して、「実勢価格」「公示地価」「基準地価(基準値標準価格)」「相続税評価額」、そして「固定資産税評価額」という5つの評価額(公的価格)があることを意味しています。

5つの公的価格は目的・調査主体・基準日・公表時期が異なり、さらに、目的別に適用される評価方法が異なります。「相続税評価額」はこうした公的価格のあくまでも1つであり、その土地(借地)の絶対的な評価ではありません。したがって、相続人は「目的などにより、土地の評価額は変わる」ということを覚えておきましょう。

普通借地権:契約更新が可能

「普通借地権」とは、契約期限が決まっているが更新ができる借地権。存続期間は構造にかかわらず30年以上です。更新後の期間は、1回目は20年以上で、2回目以降は10年以上が設定可能。契約更新では、貸主に正当事由がない限り拒否できないため、賃借人は半永久的に土地を借りられます。

普通借地権の評価方法は、借りている土地の「自用地評価額」に「借地権割合」を乗じるだけで済み、次のような計算式になります。

普通借地権の相続税評価額=自用地評価額 × 借地権割合

一般的には、借地に自分の家(建物)が建っていることがほとんどです。したがって、自分の家の相続税評価額と「普通借地権の相続税評価額」を合算したものが、賃借人が考慮すべき不動産全体の相続税評価額になります。

上記の計算方法の「自用地評価額」と「借地権割合」について解説していきます。

<自用地評価額の求め方>

「自用地評価額」とは、土地を借りていない更地状態での評価額を指し、時価よりも安くなります。自用地評価額の計算方法は次の2種類があります。

  1. 路線価方式:路線価 × 各種補正率 × 土地面積
  2. 倍率方式:土地の固定資産税評価額 × 倍率

(1)の計算方法は、路線価方式と呼ばれています。路線価とは、道路に面する標準的な宅地1㎡当たりの価額。住宅地・市街地・オフィス街などが路線価方式の対象地域です。

一方で、(2)の倍率方式とは、路線価が定められていない地域のこと。宅地が立ち並ばない農地や山林などの郊外地域だと倍率方式が適用されます。固定資産税評価額は、各市区町村役場から届く固定資産税納税通知書に添付されている課税明細書で確認できます。

路線価方式と倍率方式はともに国税庁が定めており、国税庁ホームページにて公表されています。自用地評価額を算出するときは、借地が路線価方式か倍率方式のどちらに該当するか確かめてから計算するとよいでしょう。

<借地権割合の求め方>

「借地権割合」とは、土地の価格のうち、借地が何%を占めるかを示す数字。借地は1つの土地に利害が対立する2つの権利が混在している状態です。1つが地主側が土地を所有する「底地権」、もう1つが貸借人が土地を借りる「借地権」。国税庁が決定した「借地権割合」を用いることで、その両方に考慮した土地の相続税評価額が導き出せます。

借地権割合は、10%刻みに20%から90%までの8段階で規定されており、利用価値が高い地域ほど高く設定されます。たとえば、住宅地だと60~70%程度、商業地だと80~90%程度。借地権を取引する慣行がない地域では、例外的に20%と設定されています。

国税庁が公表している「財産評価基準書」では、借地権割合は地域ごとに「A(90%)からG(30%)までのアルファベットの記号、もしくは記号なし(20%)」が割り振られています。つまり、自分が借りた土地の借地権割合を確認したいときは、記号を見れば判明します。

なお、借地権の相続でも、「小規模宅地等の特例」が適用されることがあります。節税効果が期待できるため、要件を満たしているのか確認もあわせて行いましょう。

定期借地権:契約更新が不可

定期借地権とは、契約期間の更新、つまり契約期間の延長がない借地権。更新がない代わりに、存続期間が50年以上と長期になります。契約期間が満了後は、土地を更地にして地主に返還します。

定期借地権にも種類があり、「一般定期借地権」「事業用定期借地権」「建物譲渡特約付借地権」の3つがあります。通常の場合、単に「定期借地権」といえば、「一般定期借地権」を指すことが多いです。

一般定期借地権の計算方法は、前述した普通借地権よりも複雑です。しかし、定期借地権の設定時(契約した時)と課税時期で先の条件に変化がなく、かつ課税上弊害がないとみなされた場合に限り、次のような簡便的な計算式で評価できます。

定期借地権の相続税評価額=自用地評価額 × 設定時の定期借地権割合 × 逓減率

普通借地権と同様に、自分の家の相続税評価額と「定期借地権の相続税評価額」を合算して不動産全体の相続税評価額を導き出します。

「自用地評価額」は、普通借地権と同様に、課税時期における路線価方式または倍率方式で計算方法で求めれば問題ありません。「設定時の借地権割合」は課税時期の「借りた人に帰属する経済的利益」を、「逓減率(ていげんりつ)」は「残りの契約期間(残存期間)」を考慮したものです。

それでは、難所ともいえる「設定時の借地権割合」と「逓減率」の計算方法について掘り下げて見ていきましょう。

<設定時の定期借地権割合の求め方>

「設定時の借地権割合」とは、「設定時における更地価格(宅地の通常取引価額)」に対する「定期借地権の割合(定期借地権等の設定時に受ける経済的利益の総額)」です。次のような計算式になります。

設定時の借地権割合=定期借地権の割合 ÷ 宅地の通常取引価額

また、「定期借地権の割合」における「経済的利益」とは、以下の3つ項目をすべて合算したものです。

  1. 契約終了の際に支払われる権利金、協力金、礼金など
  2. 利息がつく、または無利息の保証金、敷金など
  3. 贈与を受けたと認められる差額地代の金額

参考:国税庁「第2節 宅地及び宅地の上に存する権利

1つ目は、契約終了時になっても借りた人に返還されない金銭などのこと。2つ目の契約終了時に返還される保証金や敷金は、利息がつく、または利息がつかない場合両方が考慮されます。3つ目の「差額地代」とは、適正な地代と実際の支払地代の差額のことです。これらの3つの項目の総額を、更地価格で除することで「借地権割合」を導き出します。

<逓減率の求め方>

「逓減率」とは、「契約時に設定した借地権の契約年数」のうち、その「残存年数」に対する複利年金現価率の割合を指します。「複利年金現価率」とは、一定金額を毎年積み立てて複利運用することが終了した場合の総額を、現在価値に割り戻すといくらになるかを求めるための係数。次のような計算式で「逓減率」を導き出します。

逓減率=残存期間年数の複利年金現価率 ÷ 設定期間年数の複利年金現価率

上記の計算式では、逓減率をより正確に算出するために、相続税の計算で財産を評価される際に使用される「基準年利率」を考慮します。

このように定期借地権の計算方法は、さまざまな条件を考慮した上で計算しなければなりません。相続経験がないと、正確に計算するのは難しいでしょう。借地権の計算に強みを持つ専門家に相談・依頼することをオススメします。

参考:国税庁「No.4611 借地権の評価

旧借地法:賃借人の保護を重視

前述した「借地借家法」は、1992年(平成4年)に制定された借地権に関する新しい法律です。それ以前にも、1921年(大正10年)に施行された「借地法(通称:旧借地法)」が存在しており、現在は「借地借家法」と「旧借地法」が混在している状況です。

「旧借地法」はどのような内容だったのでしょうか? 旧借地法は、土地を借りた賃借人の権利を保護するという側面が強く、「いったん土地を貸すと返ってこない」といわれるぐらい、土地所有者である地主側にとって不利なものだったようです。そうした背景から借地権の取引が徐々に減少してしまい、双方の権利を平等に調整した結果、新たに「借地借家法」が制定されました。

しかし、普通借地権や定期借地権などを新たに規定した「借地借家法」が制定されても、その施行以前に土地を借りている場合は「旧借地法」がそのまま有効となります。こうした背景があり、現在も借地権の法律が2種類が混在している状況というわけです。

なお、旧借地権の評価方法は「普通借地権」に分類され、普通借地権と同様の評価方法で求められます。

借地借家法と旧借地法の違いを、項目ごとにまとめると以下の通りです。

借地借家法と旧借地法の違い

(※1)旧借地法は建物の種類により区別されていました。堅固とは鉄骨造・鉄筋コンクリート造など、非堅固とは木造建物などを指します。

借地を相続した際は、借地借家法と旧借地法のどちらか契約内容に基づいているものかを確認しておきましょう。

土地に関する権利。土地所有権と借地権の違い

土地に関する権利は、大別すると2種類存在しています。すでに登場している「土地所有権」と「借地権」が土地に関する権利の代表であり、それぞれについて解説していきます。

<土地所有権とは?>

そもそも、所有権とは「自分が所有している物を自由に使用、収益または処分できる」権利と、民法206条にて規定されています。つまり、所有権という概念自体は土地などの不動産に限らず、物であればすべてが該当するということです。

そのことを踏まえた上で、「土地所有権の範囲」について見ていきます。民法では「土地所有権の範囲」を次のように定義しています。

土地の所有権は、法令の制限内において、その土地の上下に及ぶ。

引用:民法 第二編 物権 第三章 所有権(土地所有権の範囲) 第二百七条

上記の通り「土地の所有権」は、地下や地上問わず、その敷地に限り所有者の自由に利用できます。土地所有者は「地主」とも呼ばれており、土地を購入した際に法務局にて所有権登記を行います。「地主」は、土地にかかる固定資産税や都市計画税を毎年納税します。

<借地権とは?>

借地権については、前述した借地借家法の定義にもあるように「地上権」と「土地賃貸権」の2つで構成されていると考えられます。一般的に借地権といわれているのは、後者の「土地賃貸権」を指します。

地上権は「物権(物に対する権利)」の一種です。物権とは、土地や建物といった物を直接的に支配、所有できる権利。地上権の場合は、借りた人(賃借人)は土地の所有者の許可なしに、建物の建設や土地の賃貸ができます。また、地上権は法務局にて登記が可能なので、第三者への主張も可能なのが特徴。

これに対して、土地賃借権は「債権(人に対する権利)」の一種。債権とは、特定の人に一定行為や金銭の支払いを請求できる権利。土地賃借権では、賃貸借契約に基づき、借りた人(賃借人)は地主側に賃料を支払えば、土地を使用(間接的に支配)できる権利になります。また、地主の承諾を得た上で、賃借人は第三者への売却や賃貸を行えます。

土地賃借権は債権の一種であるため、物権に含まれる地上権と比較すると法的効力が弱いとされています。地上権と土地賃借権の違いについてまとめると以下の通りです。

地上権土地賃借権
地代への支払い支払わない
こともある
あり
譲渡する際の
地主の許可
不要必要
地主の登記への
協力義務
ありなし

「借地権」を有していても、賃借人は土地を所有していることにはならないため、土地に対する税金は発生しません。したがって、借地人(借地権者)は建物のみにかかる「固定資産税」や「都市計画税」の支払い義務だけを負うことになります。

土地を購入するとき、一般的に「借地権」は「所有権」の価格の70%程度の評価で割安に見えます。しかし、その後の地主側への支払いが継続的に発生するため、長い目で見たときに費用がかさむと心積もりをしておきましょう。

借地権の相続手続き・必要書類・費用・評価方法について

地主と借主のやり取りのイメージ

ここまで、借地の相続とは借地権という権利を相続することであり、その権利や概要について説明してきました。それでは、借地を相続した後、相続人は実際にどのように対応すればよいのでしょうか?

こちらの段落では、借地の相続で発生する可能性がある手続きや、それに伴って必要となる書類や費用について解説していきます。

借地権の相続手続きは原則不要。費用・必要書類もなし

相続人が借地権を相続したときに行う「借地権に関する直接的な相続手続き」は、基本的に「ありません」です。というのも、死亡した人がその土地を所有していたわけではないので、不動産相続で発生する「相続登記(名義変更)」を相続人がする必要がないためです。

したがって、相続人が相続手続きの実務上は、「建物の登記簿の名義変更」をするだけで、借地権の名義変更が完了したことになります。ただし、借地権を担保に金融機関から融資を受けていた場合などでは、建物だけでなく借地権も登記されていることがあります。こうしたケースでは、その借地を相続する相続人に名義変更しておく必要があります。

借地権は賃借人の財産であるため、相続による名義変更は、譲渡や売却とは異なり、法律上地主側の許可は不要です。しかし、借地人が地主側と良好な関係を維持することは大切なことです。借地権の相続では地主へ相続が発生したこと、次に誰が相続するのかという報告をしておくとよいでしょう。

借地権の相続手続きをする場合:相続登記や登録免許税など

仮に、「借地権」が登記されていた場合は、相続人は借地権の名義変更手続きを行う必要があります。

法務局で行う不動産の相続登記として括れるため、「建物の名義変更」と「借地権の名義変更手続き」の際に必要な書類は、原則として同一です。以下の通りの書類をそろえましょう。

  • 登記申請書
  • 相続関係説明図
  • 死亡した人の出生から死亡までの戸籍謄本一式
  • 死亡した人の住民票除票(または戸籍除附票)
  • 相続人に関する戸籍謄本
  • 相続人に関する住民票(または戸籍除附票)
  • 遺言書または、遺産分割協議書
  • 相続人全員分の印鑑登録証明書
  • 固定資産評価証明書
  • 委任状(代理権限証書)

上記の「書類の取得費用」は合計3000円程度です。ただし、相続方法や相続人の人数によって取得費用は変動します。

さらに、「建物の名義変更」と「借地権の名義変更」で共通する費用が「登録免許税」。それぞれの税率が異なっており、以下の通りです。

  • 建物所有権の場合:固定資産税評価額 × 0.4%
  • 借地権の場合:固定資産税評価額 × 0.2%

上記の書類の「委任状」は、司法書士といった専門家に代行依頼する際に必要です。「専門家への依頼費用」は正式な統計があるわけではありませんが、建物の名義変更だと5万~10万円程度、借地権の名義変更だと3万~5万円程度が相場といわれています。

「不動産相続の手続き」について、さらに詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

「相続した不動産の評価」について、さらに詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

借地権でよく発生するトラブル

借地権に関するトラブルは、利害関係者である地主側と借地権者との間で発生することが多いです。以下のようなトラブルが考えられます。

  • 地主からの立ち退き要求(借地契約の更新を拒否)
  • 地主からの地代の値上げを要求
  • 地主からの借地権の返還の要求
  • 地主からの名義変更料や更新料の要求
  • 借地権を共有名義にして相続人同士で争いに発展
  • 借地権の契約書の紛失

借地権を相続したタイミングで、「地主側からの立ち退き・地代の値上げ・借地権の返還・名義変更料や更新料の支払い」を要求されることがあります。これらは4つすべて、相続人は応じる必要がありません。借地権の相続は今までと同じ条件で継承するのが原則。更新拒否や立ち退きは「正当な事由」がないと成立しないためです。

兄弟姉妹など相続人が複数いる場合、単独名義ではなく借地権を共有名義にすると相続トラブルになってしまうことも。借地に関する税金を誰が払うのかでトラブルに発展する可能性があります。

さらに、共有名義にすると借地権を売却したいときは、相続人全員の同意が必要になることも注意点だといえます。土地活用などについて相続人で相続トラブルになりそうなら、共有相続ではなく単独名義で相続する、または早めに遺産分割協議などで対処すべきでしょう。

借地権の契約書(土地賃貸借契約書)を紛失してしまうケースも考えられます。借地権を売却したいとき、契約書がないと売却できないと考える人もいるかもしれません。しかし、契約書を紛失しても、自分が借地権者であることを証明できれば売却は可能です。

証明するためには、「地代を払っていること」「借地上の建物名義が借地権者で登記されていること」の2つの条件をクリアすれば問題ありません。法務局で建物の登記を確認する、または毎年届く「固定資産税納税通知書」で確認できます。

借地権を相続したときの2つの注意点

借地権を相続したとしても、借地に関する契約内容までも完全に相続人が理解してるとは限りません。契約内容は細かな条文が並んでいて難解に感じるでしょうし、ましてや相続人が地主と契約を直接結んだわけではありません。

したがって、借地権を相続するにあたり、相続人はその契約内容の注意点を知っておくべきだといえます。相続人が死亡した人の借地権を相続するときに、注意しておきたいポイントは主に2つあります。

  1. 建て替え・増改築・売却・遺贈は地主の承諾が必要なこと
  2. 朽廃・滅失などで借地権が消滅する可能性があること

土地を所有しているわけではないので、土地を自由に処分できないこと。もう1つが、契約上の規定で何らかの原因で借地権が消滅してしまい、それまでの生活が突然送れなくなること。

上記の2種類の注意点について解説していきます。

1. 建て替え・増改築・売却・遺贈は地主の承諾が必要なこと

「建て替え」や「増改築」は、契約書に地主の承諾を取得すべき旨の特約が定められている場合が多いです。こうした特約を「増改築禁止特約」と呼び、まずは、借地権者は賃貸借契約の内容を確認する必要があります。

このように、特約の規定があり、かつ地主からの承諾が得られない場合には、「増改築承諾料」または「条件変更承諾料」などについて地主側と交渉する必要があります。前者が更地価格の3〜5%、後者が更地価格の10%ぐらいが承諾料の目安です。

特約がない場合でも、地主側にあらかじめ増改築のことを話しておくと安心です。最悪のケースだと裁判に発展してしまうことがあるため、くれぐれも慎重に対応しましょう。

借地権の「売却」に関しては、「地上権」は地主の承諾が不要ですが「土地賃借権」は必要です。借地権といえば「土地賃借権」を指すことがほとんどなので、地主の承諾を得るために「譲渡承諾料(名義書き換え料)」を支払いましょう。譲渡承諾料の目安は、借地権価格の10%程度です。

「遺贈」により借地を相続した場合も、地主の承諾が必要なケースがあります。「遺贈」とは、遺言書により相続人以外の第三者に遺産を譲渡する行為。遺贈の場合は、相続とは異なり、「賃借権の譲渡」としてみなされるため、地主の承諾と承諾料が必要になるので注意してください。

なお、遺贈だけでなく、遺贈と同じ効果を持つ「死因贈与」も注意点として挙げられます。死因贈与とは、死亡により効力を持つ、生前に交わした贈与契約のことであり、地主の承諾が必要となりますので覚えておきましょう。

「遺贈」について、さらに詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

2. 朽廃・滅失などで借地権が消滅する可能性があること

基本的に借地権が途中で消滅することはありませんが、条件によっては借地借家法と旧借地法ともに、借地権が消滅してしまう場合があります。

両法に共通する借地権が消滅する条件として、存続期間の満了時に建物が存在しない場合です。旧借地法第4条と借地借家法第5条の規定により、借地権者からの更新請求による更新は認められないため、借地権が消滅してしまうので注意しましょう。あくまでも、両法ともに契約満了時が基準となるので、存続期間内に(満了時以外に)建物を取り壊すだけでは、原則として借地権が消滅することはありません(※2)

次に、個別の法律について見ていきますと、旧借地法では契約期間が定められていない内容だと、「建物の朽廃(きゅうはい)」で借地権が消滅することがあります。「朽廃」とは、わかりやすく言うと、建物が経年劣化などでボロボロの状態になり、人が住めなくなること。契約内容に記載がありますが、実際に解除するときは、地主と借地権者の間で交渉が行われるのが一般的です。

最後に、借地借家法で借地権が消滅する可能性を見ていきます。借地借家法では、借地権の存続期間を更新した後で建物が「滅失」し、かつ賃借人が地主の承諾を得ずに建物を再築した場合には、地主は借地権を解約できると規定されています。「滅失」とは、地震や風水害などの自然災害や、火災のような人為的要因で建物が消滅すること。火事などに巻き込まれた場合は、必ず地主の承諾を得るようにしましょう。

(※2)普通借地権では、当初設定した借地権の存続期間である30年を経過して、契約更新した後は、地主による借地権の解約が認められています

参考:日本地主家主協会「底地・借地権」「ご相談事例

借地で相続するのは、モノではなく“権利”

借地を相続することは、他の不動産とは異なり土地という形のある財産ではなく、借地権という権利を継承することになります。そのため、一般的な遺産相続とは異なるものだと理解しておくとよいでしょう。

また、地主側とのトラブルにならないように、関係性に配慮して置くのは大前提でしょう。さらに、複数の相続人との共有名義にするならば、相続人同士で相続トラブルにならないように、土地活用など意見を交わしておく必要もあるといえます。

借地権の相続税評価額については、相続した借地が定期借地権だった場合、その計算方法は複雑であるため一般人が正しく算出するのは難しいでしょう。税理士などの専門家はこうした相続財産の算出に長けたプロです。借地の相続手続きをスムーズに進めるためにも、専門家への相談や依頼を検討してみてはいかがでしょうか。

著者紹介

相続プラス編集部

相続に関するあらゆる情報を分かりやすくお届けするポータルサイト「相続プラス」の編集部です。相続の基礎知識を身につけた相続診断士が監修をしております。相続に悩むみなさまの不安を少しでも取り除き、明るい未来を描いていただけるように、本サイトを通じて情報配信を行っております。

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本記事の内容は、記事執筆日(2023年4月21日)時点の法令・制度等をもとに作成しております。最新の法令等につきましては、専門家へご確認をお願いいたします。万が一記事により損害が発生することがあっても、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。

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