遺産の分け方には、遺産分割協議をして遺産分割協議書を作成するという方法があります。遺産分割協議であれば、遺言書の有無にかかわらず相続人の話し合いで、遺産分割ができます。しかし、協議や協議書の作成に不備があれば協議内容が無効になることがあるので注意しなければなりません。本記事では、遺産分割協議から遺産分割協議書の作成までを分かりやすく解説します。
遺産分割協議・遺産分割協議書とは

遺産分割協議とは、相続人全員で遺産の分け方について話し合うことです。「だれが・どの遺産を・どれくらい」相続するのかを話し合い全員の合意のうえ決定します。この話し合いの内容をまとめた書類が、遺産分割協議書です。
遺産分割協議書が必要なケース
遺産分割協議書は、次の2つのケースで必要になります。
- 遺言書があるが、その内容とは異なる遺産分割する場合
- 遺言書はないが、法定相続とは異なる遺産分割する場合
遺産の分け方には、「遺言による分け方」「法定相続分での分け方」と言う方法があります。遺言がある場合は、基本的に遺言の内容に従った遺産を分けることが多いでしょう。しかし、遺言書がある場合でも「異なる分け方をしたい」「遺言書が法律上無効」といった状況では遺産分割協議が必要です。遺言書の内容に「仲良く分けるように」と言うような曖昧な記載がある場合や、遺産の内容が記載されていない場合、現実的ではない場合などでは、遺産分割協議で分割について話し合われます。
また、遺言書がない場合は、法定相続分を目安に分割するのが一般的です。法定相続分とは、民法によって定められた遺産の分割割合のことをいいます。法定相続分とは異なる割合で分割する場合は、遺産分割協議が必要です。ただし、法定相続分で遺産を分割する場合や遺産相続人が1人の場合は、遺産分割協議の必要はありません。
遺産相続分割協議書を作成するメリット

遺産分割協議書を作成するメリットには次のようなことがあります。
- 相続トラブルを防げる
- 相続手続きに利用できる
相続トラブルを防げる
遺産分割協議書があるということは、遺産分割について相続人全員の合意を得たということの証明となります。もし、誰かが「やっぱりあの財産も欲しい」と後から言いだしても、すでに決定したことと証明できるのです。
また、遺産分割協議だけして遺産分割協議書を作成しなければ、たとえ全員の合意があるとしても内容を証明できません。分割内容を正確な情報として残すためにも遺産分割協議書まで作成することが大切です。
相続手続きに利用できる
不動産の名義変更や預貯金の払い戻しのような財産を受け取る際には、そのための手続きが必要になります。特に、法務局や銀行では名義人本人以外での対応に慎重なため、手続きが難しい場合があるのです。貴金属を売買する場合でも、本当の相続人かを疑われてしまう可能性もあるでしょう。遺産分割協議書を手続きの際に貼付することで、相続人の証明になり手続きをスムーズに進められます。
遺産分割協議書完成までのロードマップ

遺産分割協議書完成までのロードマップを追って紹介していきます。
- 相続人を確定させる
- 相続財産を確定させる
- 相続人全員で遺産分割協議
- 遺産分割協議書の作成
相続人を確定させる
遺産分割協議は相続人全員でしなければ無効となるため、相続人を確定させる必要があります。遺産分割協議後にあらたな相続人がいることが判明した場合、遺産分割協議をやり直さなければなりません。
次のようなケースで、新たな相続人が判明することがあるので注意が必要です。
- 被相続者の離婚や再婚
- 隠し子や養子縁組
- 行方不明者
相続人を確定させる場合、被相続人の出生から死亡までの戸籍関係の書類を入手して念入りに調査するようにしましょう。
相続財産を確定させる
遺産分割の対象となる相続財産も相続人確定と同時に進めておくとよいでしょう。相続財産は、現金や有価証券・不動産といったプラスの財産だけではなく、借金などのマイナスの財産も対象となります。マイナスの財産としては、次のようなものがあります。
- 借金
- 住宅ローンや車のローン
- 借金の保証人になっている場合の債務
- 未払いの家賃や税金など
契約書やパソコンなども調べて、遺産の総額を算出する必要があります。全ての遺産を調査したら、財産目録を作成しておくとその後の話し合いがスムーズに進められるでしょう。
ただし、遺産の調査は、預貯金にしても複数口座を持っている場合や借金も複数借入れている場合など調査が難しくなる場合があります。不動産も相続する際の評価額の算出が難しい場合もあるでしょう。
遺産の調査が難しい場合は、専門家に依頼することもできるので検討することをおすすめします。
相続人全員で遺産分割協議
準備が整ったら相続人全員で遺産分割協議に入ります。協議前には、遺言書の有無を確認しておく必要があります。遺言がある場合は、基本的に遺言に沿って遺産分割するのが一般的です。そのうえで、遺言とは異なる形で遺産分割したい場合に相続人全員で話し合いをします。遺産分割協議は相続人全員が一堂に会せれば理想的ですが、遠方にいて参加できないこともあるでしょう。
遺産分割協議に参加できない人がいる場合は、メールや電話などを利用して協議することも可能です。また、相続人の中に未成年者や認知症の人がいる場合は、法定代理人の参加が必要になるので注意しましょう。
遺産分割協議で全員の合意が得られない場合、合意が得られるまで何回も協議が必要になります。協議では合意が得られない場合は、家庭裁判に介入してもらい遺産分割調停となります。その場でも協議内容に合意が得られなければ、遺産分割審判となるのです。
遺産分割協議書の作成
遺産分割に全員の合意が得られたら、協議の内容をまとめた遺産分割協議書を作成します。
遺産分割協議書作成時の注意点

遺産分割協議書には、決まった書式はありません。しかし、記載内容に不備があると後々相続トラブルに発展する可能性があるので、作成には注意が必要です。遺産分割協議書を作成するうえでの注意点としては、次のようなことがあります。
- 相続人全員分の実印押印
- 財産分割の内容は正確に記載する
- 相続人全員分作成する
- 新しい財産が見つかった場合の対応を定めておく
- 作成期限
相続人全員分の実印押印
遺産分割内容に相続人全員の合意を得たという証明のため、以下の事柄を明記する必要があります。
- 相続人全員の住民票に記載された住所
- 相続人全員の印鑑証明済みの実印押印
また、遺産分割協議書が複数枚に渡る場合は、ページのつなぎ目に相続人全員の押印が必要です。遺産分割協議書の印鑑は、相続手続きの際の本人確認としても利用されるので必ず実印を押印するようにしましょう。
財産分割の内容は正確に記載する
「だれが・どの遺産・どの割合」相続するのかは具体的に記載しておく必要があります。預金の場合は金額だけでなく、銀行名や支店名・口座番号、不動産の場合は登記簿に登録されている住所を調べて記載します。仮に、登記簿の住所と認識している住所が異なっている場合は、遺産分割協議書の作成し直しとなるので注意しましょう。
相続人全員分作成する
遺産分割協議書は、相続人全員分作成して全員が1通ずつ保管するのが一般的です。相続人それぞれで相続手続きの際に必要になります。また、もし後になって相続トラブルが発生した場合でも、相続人がそれぞれ遺産分割協議書を保有しているためトラブル解決しやすくなるでしょう。
新しい財産が見つかった場合の対応を定めておく
遺産協議書作成後の新しい相続財産が見つかった場合、再度遺産分割協議のやり直しが必要になります。やり直すとなると相続人全員をまた呼び出して協議するため大きな負担となるものです。そのため、新しい財産が見つかった場合を想定した文言を遺産分割協議書に記載しておくことをおすすめします。
「新たな財産が見つかった場合は○○がすべて相続」と言うような文言を記載しておくことで、再度遺産分割協議し直す必要がなくなります。
作成期限
遺産分割協議書はいつまでに作成するという期限はありません。ただし、相続税の納付期限が相続開始から10ヵ月以内と決まっているため、それまでには遺産分割協議を終えておくとよいでしょう。
また、相続放棄する場合は相続開始から3ヵ月以内とより期限が短いので注意が必要です。遺産分割協議後すぐに相続税を納める準備を整えるのは難しい場合もあるので、一般的には相続開始から6ヵ月以内で作成し終えるのが目安となります。
遺産分割協議書の作成が終わったら…
遺産分割協議書の作成を終えたら最後の仕上げとして次のようなことがあります。
- 専門家に見てもらう
- 相続手続きで遺産分割協議書を利用する
専門家に見てもらう
遺産分割協議書は決まった書式はありませんが、記載内容によっては後々トラブルになることや、協議し直しということもあります。このようなことを避けるためにも、作成後は一度専門家に協議書を確認してもらうことをおすすめします。弁護士であれば、財産目録の作成から財産分割後の手続きでもスムーズに活用できる書式での遺産分割協議書の作成まで可能なので、検討するとよいでしょう。
相続手続きで遺産分割協議書を利用する
遺産分割協議書は、主に次のような手続きの際に必要になります。
手続き | 提出先 |
---|---|
預金の払い戻しや名義変更 | 金融機関 |
不動産の名義変更 | 法務局 |
自動車の名義変更 | 運輸支局 |
相続税の申告 | 税務署 |
証券口座や株式の名義変更 | 証券会社 |
名義変更の期限は決まっていませんが、いつまでも変更せずにおくと相続人が亡くなってさらに相続が発生する場合に手続きが煩雑になってしまうものです。また、不動産を売却する場合も名義変更出来ていなければ売却できません。遺産分割協議後は、なるべく早く名義変更手続きをするようにしましょう。
おわりに
遺産分割協議と遺産分割協議書の基本や作成までの流れ・注意点についてお伝えしました。遺言書のない場合、遺産分割協議で相続トラブルに発展するケースも多く、円満に遺産分割協議を進めにくくなる可能性があります。遺産分割協議やその後の相続トラブルを避けるためにも、協議書作成では弁護士のサポートを得ることを検討することをおすすめします。
弁護士であれば、相続人確定や相続財産調査などから遺産分割協議書の作成まで任せられるので、スムーズに遺産分割協議を進められるでしょう。