遺産分割協議書とは?作成のメリットや注意点、相続手続きの流れを解説

公開日:2022年6月27日|更新日:2023年6月27日

遺産分割協議書とは?手続きの流れや作成のメリット、注意点を解説_サムネイル

「遺産分割協議」という言葉を耳にしたことはあっても、実際にやるとなると何から手をつけるべきか戸惑う方は多いのではないでしょうか。

そもそも、遺産分割協議とは誰がどの遺産を相続するかを決めるための話し合いのことです。話し合いで決まった内容をまとめた書類を遺産分割協議書と呼びます。相続人や遺産がすべて確定していれば難しくはありませんが、気をつけるべき点がたくさんあります。

この記事では、遺産分割協議(書)の基礎知識や手続きの流れについて詳しく解説。メリットや注意点も解説しているため、参考にしてください。

遺産分割協議(書)について詳しく理解し、これから行う相続に備えましょう。

遺産分割協議とは

遺産分割協議とは、亡くなった方が残した遺産を相続人同士でどのように分け合うか話し合うことです。遺産分割協議について詳しく知るには、相続や遺産分割について詳しく知る必要があります。順番に確認しましょう。

相続とは

そもそも相続とは、亡くなった方が残した遺産を引き継ぐことです。財産を残して亡くなった人を被相続人、被相続人が残した財産や権利を引き継ぐ人を相続人と呼びます。現金や預貯金に限らず、所有していた不動産や有価証券、貸付金など金銭に換えられる経済的価値のあるものも相続財産です。

相続財産を引き継ぐ相続人は民法によって定められており、民法で決まっている相続人を法定相続人と呼びます。被相続人に配偶者がいる場合、配偶者は必ず法定相続人です。それ以外の親族には相続順位が決められています。

第一順位子ども・孫などの直系卑属
第二順位父・母などの直系尊属
第三順位兄弟姉妹・甥姪

先順位の法定相続人に相続権があります。たとえば、子どもがいれば第一順位の子どもが法定相続人ですが、子どもがいなければ両親が法定相続人です。

「遺産相続」について、詳詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

参照:No.4132 相続人の範囲と法定相続分|国税庁

遺産分割とは

遺産分割とは、相続人全員で遺産の引き継ぎ方を話し合って決めることです。被相続人が遺言書を残していなければ、遺産は相続人全員で引き継ぐことになります。そのため、誰が何をどれだけ取得するかを決めなければなりません。

遺産分割協議(書)とは

遺産分割協議とは、相続人全員による遺産の引き継ぎ方についての話し合いを指します。民法で定められた法定相続人全員の参加が必須です。

遺産分割協議を行わないまま放置すると、被相続人が残した財産が相続人全員で共有した状態を保持することとなります。家屋や土地などが共同名義になったり、相続税の特例が受けられなくなったりするため、注意しましょう。

また、遺産分割協議書は、遺産の分割方法について決まった内容をまとめた書類です。相続人全員の合意をもって、作成されます。

遺産分割と相続の違い

なかには「相続」と「遺産分割」の意味を混同してしまう方もいるようです。「相続」は被相続人から遺産を引き継ぐ行為を指します。一方、「遺産分割」は、誰がどのように遺産を引き継ぐかを決める行為です。

つまり、だれがどの遺産を「相続」するか決めるために相続人全員で「遺産分割協議」を行って、「遺産分割」します。遺産分割ができたら、正式に相続手続きを進めましょう。

相続の手続きの流れは、以下の通りです。

  1. 法定相続人の調査
  2. 遺言書の確認
  3. 遺産分割協議の実施
  4. 遺産分割協議書の作成
  5. 相続税の申告・納税
  6. 不動産の相続登記・自動車の名義変更・金融機関の手続きなど

相続税の申告・納税や、不動産の相続登記には期限があります。遺産分割協議を早めに済ませ、円滑に手続きを進めましょう。

「相続の期限」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

遺産分割協議が必要なケース、不要なケース

遺産分割協議は、全てのケースにおいて必要だとは限りません。ここでは、どのような場合に遺産分割協議が必要・不要であるかを見ていきましょう。

必要なケース

遺産分割協議は、以下のようなときに必要です。

  • 法定相続人が複数人いる
  • 遺言書がない
  • 現金・預金以外の遺産がある

遺言書がある場合でも、以下のような場合には遺産分割協議をしなければなりません。

  • 法的に有効な遺言書でない
  • 法定相続人で話し合って遺言書通りに遺産を分けないと合意した
  • 遺言書に書かれていない遺産がある

遺言書が見つかったら、法的に有効であるかどうかを確認するために家庭裁判所で検認を請求しましょう。

不要なケース

一方、以下のような場合なら、遺産分割協議は不要です。

  • 相続人が1名しかいない
  • 遺産が現金しかない
  • 法定相続分の割合で分割する
  • 法的に有効な遺言書の内容に合わせて全て遺産を分ける

法定相続分とは、民法によって定められている遺産相続の割合です。たとえば、配偶者と子ども2人が法定相続人のとき、法定相続分は以下のように定められています。

  • 配偶者:1/2
  • 子どもA:1/4
  • 子どもB:1/4

法定相続人の順位や人数によって割合は変動します。

ただし、法定相続分通りに遺産分割をする場合でも、「法定相続分どおりに分割することが相続人全員の総意である」として遺産分割協議書を作っておくと、トラブル回避に役立つでしょう。

参照:No.4132 相続人の範囲と法定相続分|国税庁

遺産分割協議の手続き流れ

手続きのイメージ

遺産分割協議の手続きは、以下の流れに従って進めていきます。

  1. 遺言書の有無を確認する
  2. 法定相続人を確認する
  3. 全ての遺産を調査する
  4. 法定相続人全員で話し合う
  5. 遺産分割協議書を作成する

順番に確認し、スムーズに相続手続きを行いましょう。

遺産分割の流れ1:遺言書の有無を確認する

まず、被相続人の遺言書が残されていないか確認しましょう。

遺言書によって遺産の分け方が指定されている財産に関しては、遺産分割協議で対象となりません。つまり、遺言書に全ての遺産の分け方が記載されていれば、遺産分割協議は不要です。

遺言書は、以下の方法で探しましょう。

  • 亡くなった方の自宅に保管されていないか探す
  • 公証役場で遺言検索をする

もし、自筆証書遺言や秘密証書遺言が見つかったら、開封せずに家庭裁判所に提出して検認の請求をしなければなりません。ちなみに、公正証書遺言であれば家庭裁判所での検認は不要です。有効であれば遺言書に従って遺産を分け合い、無効であれば全ての遺産について相続人同士で遺産分割協議を行いましょう。

遺産分割の流れ2:法定相続人を確認する

遺産分割協議を行うにあたって、法定相続人を確認しましょう。なぜなら、法定相続人全員が遺産分割協議に参加しなければならないからです。

相続人が誰であるかは、戸籍全部事項証明書を使って確認できます。

遺産分割の流れ3:全ての遺産を調査する

法定相続人を確認すると同時に、被相続人が残した全ての遺産を把握するために調査しましょう。

調査方法は、以下の通りです。

遺産の種類調査方法
現金自宅の金庫やタンスを捜索
預貯金金融機関の特定、
残高証明書の発行依頼
不動産固定資産税課税明細書の確認、
固定資産評価証明書を取得
有価証券自宅に株券や残高取引報告書がないか捜索
負の遺産信用情報機関に対する開示請求、
自宅に請求書や督促状がないか捜索

確認できた相続財産は、遺産目録にまとめておきましょう。万が一、財産に漏れがあると遺産分割をやり直さなければなりません。自宅の金庫やタンス、郵便受けを一通り確認しましょう。

遺産分割の流れ4:法定相続人全員で話し合う

法定相続人や相続財産が確定したら、遺産分割協議を行いましょう。ここでは、遺産目録にリスト化した遺産1つ1つを誰が相続するか決めていきます。注意点は、以下の2つです。

  • 法定相続人全員が参加する
  • 協議で決定した内容を書類に残す

遺産分割協議は、必ず法定相続人全員が参加しなければなりません。未成年がいる場合は、法定代理人の参加が求められます。1人でも欠けていると、話し合いの内容は無効となるため注意しましょう。

また、トラブル防止のために話し合いをした結果は書類に残しておくべきです。

仲の良い家族であっても、遺産分割協議で意見が対立するケースは珍しくありません。冷静に話し合いを進めるために、弁護士の立ち会いも検討しましょう。

遺産分割の流れ5:遺産分割協議書を作成する

最後に、遺産分割協議で決定したことを遺産分割協議書にまとめましょう。遺産分割協議書は、以下の手続きにおいて提出を求められます。

  • 相続税の申告
  • 不動産の相続登記
  • 金融機関の手続き

遺産分割協議書に決まった形式はありませんが、以下の内容を盛り込む必要があります。

  • 作成年月日
  • 被相続人の氏名・生年月日
  • 被相続人の死亡日
  • 被相続人の本籍地
  • 被相続人の最終の住所
  • 誰がどの遺産を相続するか
  • 法定相続人全員の続柄・住所・署名・捺印(実印)

遺産分割協議書において「誰がどの遺産を相続するか」は、とても重要な情報です。第三者が見ても、財産を特定できるように以下に注意して記載しましょう。

遺産の種類記載する内容
預貯金金融機関名・支店名・口座番号・名義人の名前
不動産(土地)所在地・地番・土地の種類・地積
不動産(建物)所在地・家屋番号・建物の構造・面積
有価証券所在地・家屋番号・建物の構造・面積
負債・債務債権者・契約内容・債務残高

遺産分割協議書は、同じ書面を各相続人に1部ずつわたるよう人数分作成します。全てに署名と実印の捺印が必要です。

遺産分割協議書が複数ページにわたる場合、ページの間に契印を忘れないようにしましょう。契印は法定相続人全員分の実印で行います。

遺産分割協議書を作成するメリット

遺産分割協議の必要がなくても、遺産分割協議を実施して遺産分割協議書を作成するケースは珍しくありません。なぜなら、以下のようなメリットがあるからです。

  • トラブルを未然に防げる
  • 分割内容を明確にして保存できる

順番に確認し、スムーズに相続手続きを進めましょう。

メリット1:トラブルを未然に防げる

遺産分割協議書を作成すれば、法定相続人同士のトラブルを未然に防げます。

遺産分割協議書は、法定相続人全員が遺産をどのように分けるか合意したと証明できる書類です。あとになってから「やっぱり納得がいかない」「あの財産が欲しい」と主張されると、決定した内容を覆されかねません。

署名や実印の押印までしている遺産分割協議書を作っておけば、正式に「法定相続人全員が合意した」と証明できます。法定相続人同士のトラブル発生を抑止してくれるでしょう。

メリット2:分割内容を明確にして保存できる

遺産分割の内容を明確にし、保存できることも遺産分割協議書作成のメリットです。遺産分割協議書には、「誰がどの遺産をどれだけ相続するか」をはっきりと記載します。

たとえば土地を複数持っていた場合、「自分が相続する土地は、A町でなくB町の方だと思っていた」といった勘違いやすれ違いが起きやすいです。しかし、所在地や地番などを明確にしておけば、誰が見てもどの土地かがわかります。

また、有価証券や貴金属を売却しようとしたときに、買い手側から本当に相続したのか疑われる心配もありません。遺産分割協議書があれば、自分自身がその財産の持ち主であると証明できます。

遺産分割協議における注意点

遺産分割協議をする際は、以下の3つの注意点に気をつけましょう。

  • 二次相続についても検討しながら協議を行う
  • 未成年の法定相続人には代理人が必要
  • 意思能力の不十分な法定相続人には成年後見人が必要

遺産分割協議を始める前に理解しておきましょう。

注意点1:二次相続についても検討しながら協議を行う

将来起きる二次相続についても検討しながら協議を行いましょう。二次相続とは、一次相続で相続人だった配偶者が亡くなったときに発生する相続です。

たとえば、父が亡くなって母と子どもに相続されることを一次相続、次に母が亡くなって子どもにだけ相続されることを二次相続と呼びます。

二次相続では、以下の点に留意しなければなりません。

  • 二次相続では配偶者控除が使えない
  • 二次相続では法定相続人の数が減るため基礎控除額が減る
  • 異母・異父兄弟姉妹がいる場合、法定相続人が変わる

このような事情に配慮し、誰がどの財産を相続するか決定しましょう。

注意点2:未成年の法定相続人には代理人が必要

法定相続人に未成年がいる場合、代理人が必要です。親がいれば代理人として、遺産分割協議に参加できます。しかし、親自身も相続人である場合、利益相反の関係のため特別代理人になれません。

このような場合、親の代わりに家庭裁判所で特別代理人を選任します。利益相反関係となる未成年者が複数人いるときは、それぞれに特別代理人を選任しなければなりません。

特別代理人が未成年者の代わりに遺産分割協議に参加し、不利益を被らないよう意見を述べてくれます。

注意点3:意思能力の不十分な法定相続人には成年後見人が必要

意思能力が不十分な法定相続人には、成年後見人が必要です。成年後見人とは、認知症や知的障碍などによって判断能力が低下した方の利益を保護するために支援する人のことです。

成年後見人は、家庭裁判所によって以下のような方が選任されます。

  • 本人の親戚
  • 福祉・法律の専門家
  • 市民後見人
  • 社会福祉協議会

成年後見人が選任されたら、本人に代わって遺産分割協議に参加します。

遺産分割協議書の作成が終わったら…

自分で遺産分割協議書の作成は可能ですが、専門家に最終チェックしてもらいましょう。なぜなら、正しい方法で作成しなければ無効となってしまい、相続手続きが進まなくなる可能性があるからです。

相続手続きにおいて、遺産分割協議書を利用するシーンはたくさんあります。滞りなく相続税の申告や不動産の相続登記を終えるためにも、専門家へ相談しましょう。

まとめ

遺産分割協議とは、相続が発生したときに被相続人の残した遺産を法定相続人でどのように分けるかを決めるための話し合いです。その話し合いの結果をまとめた書類を遺産分割協議書と呼びます。

遺産分割協議書は、相続手続きで必要となる場合があります。法定相続人全員の合意を取らなければならないため、早めに遺産分割協議の場を設けましょう。

著者紹介

安持まい(ライター)

執筆から校正、編集を行うライター・ディレクター。IT関連企業での営業職を経て2018年にライターとして独立。以来、相続・法律・会計・キャリア・ビジネス・IT関連の記事を中心に1000記事以上を執筆。

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本記事の内容は、記事執筆日(2022年6月27日)時点の法令・制度等をもとに作成しております。最新の法令等につきましては、専門家へご確認をお願いいたします。万が一記事により損害が発生することがあっても、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。

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