任意後見人のトラブル事例と後悔しないための解決策・回避方法を紹介

公開日:2025年4月7日

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任意後見制度は認知症対策に効果的な制度ですが、その一方で任意後見人には預貯金の管理や不動産の管理・売却などの大きな権限が集まるため、トラブルに発展するケースも少なくありません。本記事では、任意後見人によるトラブル事例やトラブル発生時の解決策について詳しく解説します。事前に対策できるトラブル回避方法もご紹介していますので、これから任意後見制度を利用したいと考えている方はぜひ参考にしてください。

任意後見制度とは

任意後見制度とは、将来の認知症や障がいに備えて判断能力が十分あるうちに、自らが選んだ人に代わりにしてもらいたいことを契約で定めておく制度です。「自らが選んだ人」のことを任意後見人と呼びます。

ここでは、任意後見制度について理解を深めるために、下記のポイントについて詳しく解説します。

  • 任意後見人の役割
  • 任意後見制度を利用する流れ

順番に確認しましょう。

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任意後見人の役割

任意後見人の役割は、意思能力が不十分な本人に代わって財産管理や身上看護の手続きを行うことです。具体的には、下記のようなことを任されます。

  • 預貯金の管理
  • 公共料金の支払い
  • 不動産の管理・売却
  • 施設入所・入院の手続きなど

任意後見人には弁護士や司法書士などの専門家だけでなく、本人の親族や知人がなることも可能です。下記のような欠格事由に当てはまらない方であれば、誰でも任意後見人になれます。

  • 未成年者
  • 破産者
  • 行方不明者
  • 本人に対して訴訟を起こしている人やその配偶者、直系血族など

任意後見人は、本人の通帳やキャッシュカード、印鑑などの大切なものを預かり、日々の収支を細かく記録しておく必要があります。また、任意後見人は自由に財産管理をできるようになるわけではなく、任意後見監督人に対して報告しなければなりません。

任意後見制度を利用する流れ

任意後見制度を利用する流れは、下記の通りです。

  1. 本人が判断能力のあるうちに任意後見人を選ぶ
  2. 任意後見人に代理してもらう内容を決める
  3. 公正証書で任意後見契約を締結する
  4. 被後見人の判断能力が低下したら家庭裁判所に任意後見監督人選任の申し立て
  5. 家庭裁判所が任意後見監督人を選任する
  6. 任意後見契約で任せた手続きなどの代理が始まる

なお、専門家に依頼したときの任意後見人への報酬の相場は、月3〜5万円程度です。親族や知人が任意後見人である場合は、報酬なしとするケースも少なくありません。

また、任意後見監督人への報酬は、被後見人が保有する財産の額や監督事務内容などを総合的に考慮して家庭裁判所が判断します。管理財産額が5000万円以下であれば月額1〜2万円、5000万円を超えると月額2万5000〜3万円が目安です。

任意後見に関するよくあるトラブル

任意後見制度は、判断能力があるうちに認知症や障害に備えて自分の資産や生活を適切に管理する方法を決めることができる便利な制度です。しかし、任意後見制度を利用したときにトラブルが発生する事案があることも事実です。

ここでは、任意後見に関するよくあるトラブルについてご紹介します。

  • 任意後見人が任意後見監督人の選任申し立てをしない
  • 契約内容が不十分で希望する財産管理を実現できない
  • 任意後見人が任意後見監督人への報告義務を果たさない
  • 任意後見人が財産を私的に使ってしまう
  • 一方的に任意後見契約を解除される
  • 任意後見人と親族との間で揉めごとになる
  • 任意後見人と任意後見監督人の人間関係が原因で業務遂行できない

詳しく確認しましょう。

任意後見人が任意後見監督人の選任申し立てをしない

まず、任意後見人が任意後見監督人の選任の申し立てを行わないというトラブルがあります。

任意後見契約の効力が発生するタイミングは、下記の2つの要件を満たしたときです。

  • 被後見人の判断能力が低下する
  • 任意後見監督人の選任申し立てをする

被後見人の判断能力が低下したときに被後見人自身が任意後見監督人の選任申し立てをすることはできないため、任意後見人が行うことが一般的です。

しかし、任意後見人には申し立ての義務がありません。家庭裁判所へ申し立てがされない限り任意後見契約効力が発生しないため、契約を交わした意味をなさないままです。

事実、任意後見契約の件数に対して、実際に任意後見監督人が選任された数は5%程度という数字も出ています。任意後見の必要性があるにもかかわらず、契約の効力が発生していないケースがたくさんあることが分かります。

契約内容が不十分で希望する財産管理を実現できない

任意後見人は、事前に交わした契約の範囲でしか代理を務めることができません。

なぜなら、任意後見制度は、判断能力の低下に備えて任意後見人の指名や代理でお願いしたいことを「自分で決められる」制度だからです。そのため、任意後見人が本人に代わってできることは、契約で定められた内容に限られます。

契約で代理権が与えられている内容が不十分・曖昧だと希望を実現できない可能性があります。たとえば、不動産の管理・処分に関する定めが契約書に書かれていない場合、自宅のリフォームや売却を任意後見監督人が認めてくれません。結果的に、適切なタイミングで自宅のリフォームや売却ができず、適した住環境が整えられない場合や、老人ホームへの入居費用が捻出できない場合もあります。

このように、契約内容が十分でなければ、任意後見人と任意後見監督人との間にトラブルが生じてしまうケースがあります。

任意後見人が任意後見監督人への報告義務を果たさない

任意後見人が任意後見監督人への報告義務を怠ることでトラブルに発展する場合があります。とくに、本人の子どもや兄弟姉妹などの家族が任意後見人となっている場合、「他人の財産である」という認識が甘くなり、報告を怠りやすい傾向にあるようです。

そもそも、任意後見監督人は、財産管理を適切に行っていることを確認するために存在しています。任意後見契約において任意後見監督人の同意が求められている行為について精査・同意する役割も持っています。

調査・確認した内容は家庭裁判所へ報告されますが、任意後見人から任意後見監督人への報告がないと家庭裁判所への報告もできません。その結果、「任意後見人として不適切」だと判断される場合もあります。

任意後見監督人は不適切だと判断した場合、「任意後見契約に関する法律8条」に即して任意後見人を解任することも可能です。当然、解任されると財産管理ができなくなり、本来の目的が果たせなくなってしまいます。

任意後見人が財産を私的に使ってしまう

任意後見人が被後見人の財産を私的に使ってしまうことでトラブルに発展するケースも珍しくありません。

任意後見人になったら、たとえ親の財産であっても「他人の財産管理を任されている」といった意識を持つ必要があります。しかし、家族の財産管理となると、「同じ生計で生活しているから」「これも一緒に支払いをしよう」などと軽い気持ちで財産を使い込んでしまう事案が少なくありません。

弁護士や司法書士などの専門家による使い込みが発生するケースもありますが、最高裁判所事務総局家庭局実情調査の「後見人等による不正事例(平成23年から令和5年まで)」では、専門家以外による不正事例件数が多くなっています。

年度専門家による不正事例件数専門家以外による不正事例件数
平成31年・令和元年32件169件
令和2年30件155件
令和3年9件160件
令和4年20件171件
令和5年29件155件

上記のように、専門家以外の後見人などによる不正が大部分を占めています。

一方的に任意後見契約を解除される

任意後見契約の締結後、一方的に契約解除をされることでトラブルに発展するケースもあります。

任意後見契約は締結後すぐに効力を発揮するわけではなく、任意後見監督人が選任されてから効力が発生します。つまり、任意後見監督人が選任されるまでの期間であれば、当事者のどちらかが一方的に契約を解除することが可能です。

また、任意後見が開始したあとであっても、家庭裁判所の許可を得られれば解除ができます。ただし、病気や大怪我によって後見業務ができなくなるなどの正当な事由が必要です。

家庭裁判所では正当な事由と判断されたとしても、被後見人の家族や知人が納得できなくてトラブルになることもあります。

任意後見人と親族との間で揉めごとになる

被後見人が任意後見人を指名したとはいえ、任意後見人が財産管理をしていることに不満をもたれる可能性があります。

たとえば、かねてから同居をしている長男を任意後見人として選ぶことは適切のように思えます。実際に適切な財産管理を行っていたとしても、他の兄弟から「財産を使い込まれているのではないか」と疑念を抱かれる可能性もあるでしょう。

長男にとっては親のお世話をしているにもかかわらず疑われると快く感じることはなく、他の兄弟との関係が悪化する可能性があります。

また、親族以外の弁護士や司法書士などの専門家が任意後見人になる場合もあります。専門家が任意後見人となった場合、財産管理や法的手続きはスムーズに行えますが、医療行為に関しては同意ができません。

親族の同意が得られないままだと、被後見人は望む医療行為を受けられない可能性があります。

任意後見人と任意後見監督人の人間関係が原因で業務遂行できない

任意後見人と任意後見監督人の人間関係によるトラブルが起きるケースもあります。

任意後見制度を利用すると、任意後見人の業務を開始する前に任意後見監督人が家庭裁判所によって選任されます。任意後見監督人の業務は、任意後見人が適切に業務を行っているかどうかを監督することです。

任意後見監督人の候補者を推薦することは可能ですが、最終的な判断は家庭裁判所に委ねられます。任意後見監督人には弁護士や司法書士などの第三者が選任されることが一般的です。

そのため、任意後見人と任意後見監督人の折り合いが悪いと、スムーズに任意後見人が業務を遂行できない場合があります。また、任意後見監督人からの指摘が多く、業務を怠る任意後見人もいるようです。

相性が悪いといった理由では任意後見監督人を解任・変更することは認められず、トラブルを引き起こす可能性があります。

任意後見でトラブルになった際の解決策

任意後見でトラブルになった際の解決策のイメージ

任意後見でトラブルになった場合、下記のような解決策があります。

  • 任意後見人の解任
  • 任意後見人への訴訟
  • 任意後見契約の解除

万が一、任意後見に関するトラブルが発生したときのための解決策を知っておきましょう。

任意後見人の解任

任意後見人が財産の使い込みをしている場合や、任意後見監督人への報告をしないなどの場合、任意後見人を解任できます。

法律では、下記の場合に任意後見監督人や本人からの請求によって家庭裁判所が任意後見人を解任することが可能です。

  • 不正行為
  • 著しい不行跡
  • その他、任意後見人にふさわしくない事由があるとき

上記に該当する場合、解任に該当する事由があるとして家庭裁判所に任意後見人の解任申し立てを行い、認められれば解任することができます。

任意後見人への訴訟

任意後見人による財産の使い込みがあった場合、解任とあわせて訴訟を起こして返還を求めることも可能です。

法律では、任意後見人が被後見人の財産を使い込んだ場合、被後見人は任意後見人に対して不当利得返還請求権や不法行為にもとづく損害賠償請求権を根拠に、使い込まれた金額を返還する請求ができます。

任意に返還されない場合、訴訟することも検討すべきでしょう。ただし、裁判で勝訴判決を勝ち取るには、法律的に明確な主張や立証が必要です。法律に関する十分な知識や過去の判例を知っていなければ難しいでしょう。

任意後見契約の解除

任意後見監督人が選任される前であれば、どちらか一方からの意思によって任意後見契約を解除することが可能です。たとえば、契約締結時から生活状況や資産状況、体調が代わり、任意後見人にふさわしいと思える方が変わる場合もあるでしょう。

このような場合、一度任意後見契約を解除し、新たな任意後見人の指名や、契約内容の変更が可能です。

お互いが納得して契約を解除する合意解除の場合、合意解除公正証書を作成するか、解除の合意書に公証人の認証を受けることで解除の効力が発生します。

一方、当事者の一方によって解除する場合、解除の意思表示がされた解除通知書に公証人の認証を受け、これを相手へ配達証明付き内容証明郵便を使った通知が必要です。解除通知書が相手に届くと、いつ書留郵便が相手へ届いたのかを証明するための配達証明が戻ってきます。

この配達証明が戻ってきたあと法務局で後見終了の登記を申請すれば、任意後見契約を解除できます。

ただし、任意後見監督人が選任されたあとは、正当な事由がない限り解除が認められません。さらに家庭裁判所の許可が必要となるため、解除は容易でないでしょう。

任意後見でトラブルにならないための対策

任意後見でトラブルにならないためにしておきたい対策をご紹介します。

  • 専門家に依頼する
  • 任意後見監督人の候補者を立てる
  • 任意後見以外の方法を活用する

詳しく確認し、任意後見契約を締結する前に対策を講じるようにしましょう。

専門家に依頼する

任意後見契約を検討している段階で、専門家に相談することをおすすめします。

専門家に頼らず家族や知人などと一緒に契約内容を決めると不備や抜け漏れが起きやすく、希望通りの財産管理や身上監護をお願いできない可能性があります。そのため、専門家に契約書の内容が適切かどうかをしっかりチェックしてもらうと、安心して老後に備えられるでしょう。

また、任意後見人に選任したいと考えている相手が適切かどうかも確認してもらえます。家族や親戚との関係性を考慮して適切なアドバイスを受けられます。

もし、心から信頼できる人が身の回りにいない場合や財産管理・身上監護に不安がある場合には、任意後見人に専門家を選任することも選択肢の1つです。使い込みなどの不正行為が絶対にないとは言い切れませんが、リスク軽減につながります。

任意後見監督人の候補者を立てる

任意後見監督人の候補者を立てておくことをおすすめします。

任意後見監督人は最終的に家庭裁判所の選任によって決まりますが、候補者を立てることが可能です。家族で懇意にしている専門家がいる場合、任意後見監督人になってもらえると円滑に業務を遂行してもらいやすいでしょう。

かならずしも希望する人が家庭裁判所から選任されるわけではありませんが、任意後見人との相性に不安がある場合には有効な対策といえます。

任意後見以外の方法を活用する

任意後見制度以外にも、認知症や障がいに備える選択肢を知っておきましょう。

しっかりと制度のメリット・デメリットを比較検討し、制度内容を理解したうえで自分の状況にふさわしい制度を選び抜くことが大切です。ここでは、下記の3つの方法について解説します。

  • 家族信託
  • 財産管理委任契約
  • 見守り契約

それぞれ詳しく見ていきましょう。

家族信託

家族信託とは、信頼する方と信託契約を結んで財産管理を委任する制度です。判断能力が低下する前から利用できるため、積極的な財産管理ができます。また、財産の承継先を次の世代やその次の世代まで決めることも可能です。

ただし、財産管理の柔軟性が高い一方で、身上監護ができません。そのため、任意後見との併用が効果的です。

財産管理委任契約

財産管理委任契約とは、判断能力が十分なうちから財産管理を委員できる制度です。実務的には任意後見契約と一緒に締結されることが多く、移行型とも呼ばれます。

移行する場合、判断能力がある間は財産管理委任契約に沿って財産管理を委託し、判断能力が低下してきたときに委任契約の効力を失効させて任意後見契約に移行させることが可能です。

見守り契約

見守り契約とは、専門家などと定期的に面談をしたり、連絡を取ったりすることで、健康状態や生活状況の変化に気づけるように見守るための契約です。判断能力の低下前から利用できる制度ですが、財産管理や身上監護をお願いすることができません。

このような家族信託や財産管理委任契約、見守り契約など判断能力があるうちから制度を利用することが可能なものと、判断能力の低下時に備えて任意後見制度を併用することで効果的な対策が実現します。

また、見守り契約・財産管理委任契約に任意後見監督人の選任請求義務を加えることで、任意後見監督人の選任申し立てもれを防ぐ対策にもつながります。

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任意後見でトラブルになる前に専門家へ相談しよう

任意後見制度では任意後見人の権限が大きいため、トラブルに発展する可能性を否定できません。信頼している相手を任意後見人に選任したとしても、他の家族の同意が得られなかったり、使い込みを疑われたりするケースもあります。

しかし、任意後見制度は、将来の認知症や障がいに備えられる有効な対策の1つです。上手に活用し、トラブルを回避するためには専門家に相談してから契約を交わすことが重要です。

相続プラスでは、任意後見制度に詳しい弁護士や司法書士を気軽に検索できます。エリア別に検索することも可能です。積極的に専門家を頼って、あなたの状況に合わせた任意後見契約を交わしましょう。

記事の著者紹介

安持まい(ライター)

【プロフィール】

執筆から校正、編集を行うライター・ディレクター。IT関連企業での営業職を経て平成30年にライターとして独立。以来、相続・法律・会計・キャリア・ビジネス・IT関連の記事を中心に1000記事以上を執筆。

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本記事の内容は、記事執筆日(2025年4月7日)時点の法令・制度等をもとに作成しております。最新の法令等につきましては、専門家へご確認をお願いいたします。万が一記事により損害が発生することがあっても、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。

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