兄弟全員が相続放棄したら遺産はどうなる?相続放棄後の相続権をわかりやすく解説

公開日:2023年3月27日

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監修
石井もも(司法書士・社会保険労務士)

石井もも(司法書士・社会保険労務士)

司法書士・社会保険労務士 いしい法務事務所

兄弟全員が相続放棄したら遺産はどうなる?相続放棄後の相続権をわかりやすく解説_サムネイル

遺産相続時に、相続したくない財産や多額の借金が発覚すると、多くの相続人が検討するのが「相続放棄」。その際に気になるのが、相続放棄で必要となる「費用相場」ではないでしょうか?

こちらの記事では、相続放棄を自分で行う時と、専門家に依頼する時の具体的な費用相場と、それぞれのメリットとデメリットを解説します。

相続放棄と法定相続人について

相続放棄をすると、どのような影響があるのでしょうか? 大きく影響するのが「法定相続人」と呼ばれる、自分と同じく遺産相続する権利を持つ人たちでしょう。こちらの段落では相続放棄の定義や目的、そして「法定相続人」について簡潔に解説します。

相続放棄とは?

「亡くなった親に多額の借金があった」「故人や他の家族と不仲で関わりたくない」

このような理由で遺産を相続したくない場合に、相続の選択肢の1つとして挙げられるのが「相続放棄」です。相続放棄とは、相続人は亡くなった人の相続財産を一切承継せずに放棄できる行為。相続放棄の申述手続きは、故人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所にて行う必要があります。

「相続放棄」について詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

法定相続人とは?

「法定相続人」とは、民法で定められた遺産相続できる人のことをいいます。法定相続人になれる親族の範囲を図で表すと下記の通りです。

上記の図から分かるように、法定相続人に含まれる人を簡潔に解説します。法定相続人に含まれる親族の範囲は、死亡した人の妻や夫といった「配偶者」、子どもなどの「直系卑属」、両親(父母)などの上の世代である「直系尊属」、そして兄弟姉妹などの「傍系血族」です。

法定相続人は、親など親族が死亡すると、遺産相続する権利を有すると民法で定められています。「相続放棄」は遺産相続する権利を与えられていることが前提であるため、法定相続人は「相続放棄」と深い関わりを持つ人であるといえます。

「法定相続人」について詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

相続放棄をした方がよいケースとは?

相続放棄をした方がよいかどうかは、どのようなケースで見分ければよいでしょうか? こちらの段落では、相続放棄をした方がよい一般的なケースと具体的なケースについて解説します。

相続放棄をした方がよい一般的なケース

住宅ローン・借金などの「マイナスの財産」と、預貯金・実家の不動産などの「プラスの財産」の総額を調査し、両者のバランスを見て遺産相続するかどうか判断することが多いです。

「マイナスの財産」が「プラスの財産」のよりも多いケースでは、相続放棄をした方がよいケースだといえます。遺産相続では、「相続放棄」の他にも相続の選択肢があります。プラスの財産の範囲内でマイナスの財産も相続する「限定承認」や、マイナスの財産とプラスの財産のすべてを相続する「単純承認」です。

こうした「限定承認」や「単純承認」といった選択肢も含めて、「相続放棄」をするかどうか判断すべきでしょう。

「相続放棄」について詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

【4選】相続放棄をした方がよい具体的なケース

相続放棄をした方がよいケースについて具体的に解説します。次の4つのケースに当てはまる時は、相続放棄を検討してもよいでしょう。

1. 多額の借金がある

故人が多額の借金を遺していたケースであれば、相続放棄をしても検討してもよいでしょう。相続人には、プラスの財産の範囲内でマイナスの財産も相続する「限定承認」や、マイナスの財産とプラスの財産「単純承認」という選択肢が与えられています。

故人が多額の借金を抱えていた場合、限定承認と単純承認のどちらを選んだとしても相続人にとって経済的にプラスにはなりません。したがって、多額の借金を抱えてしまわぬように、相続放棄をする検討してもよいといえます。

2. 保証人になっている

相続人が相続で継承するのは、預貯金や実家の土地などの有形財産だけとは限りません。故人の権利や義務といった法律上の地位も相続の対象となります。

たとえば、故人が誰かの借金の保証人(連帯保証人)になっていた場合に遺産相続をしてしまうと、相続人は保証人としての債務も継承してしまいます

経済的な負担になるような借金トラブルに巻き込まれたくない場合は、相続放棄を検討した方がよいでしょう。

3. 裁判に巻き込まれている

前述の通り、相続人が遺産相続すると、故人の法律上の地位も継承してしまいます。さらに、法律上の地位に限らず遺産相続で継承されるのは、裁判における原告や被告といった「訴訟上の地位」

たとえば、借金のトラブルに関する訴訟や、実家にある土地の明け渡しに関する訴訟などの訴訟中に死亡してしまった場合、相続人が故人の訴訟上の地位もそのまま引き継ぐことがあります。ただし、すべての訴訟が対象というわけではなく、離婚訴訟といった権利の性質上、継承されるのが妥当ではないと判断された場合などは継承されません。

また、訴訟上の地位を相続人が継承しても、裁判を振り出し戻すことはできません。裁判で死亡した人が不利な状態であったとしても、そのまま裁判は継続されてしまいます。このように裁判中に死亡した場合は、面倒に巻き込まれないように相続放棄をした方がよいケースがあります

4. 負債があるが、生命保険に加入している

相続放棄をするかどうか判断する基準となるのは、故人が死亡時に所有していた財産だけではありません。相続人に直接継承される「固有財産」も考慮する必要があり、その代表的なものが生命保険金(死亡保険金)でしょう。

遺産相続時では、生命保険金は相続財産ではなく、相続人の「固有財産」として扱われます。相続放棄の対象となるのは、民法上の「相続財産」のみです。つまり、相続放棄をしても、相続人は生命保険金を受け取れるということです。

たとえば、遺産相続時にマイナスの財産がプラスの財産よりも多い場合、そのまま相続してしまうと、相続人が受け取る生命保険金は借金などの返済に充てられるため少なくなってしまいます。一方で、すべての遺産を相続しない相続放棄を選択すれば、生命保険金はマイナスの財産と相殺されずに済むため、そのまま生命保険金全額を受け取れるということです。

このように死亡時に借金が多く、生命保険に加入していた場合も相続放棄を検討してもよいでしょう。

ケース別の相続放棄:相続権はどのように移るのか?

家系図のイメージ画像

自分が「相続放棄」したら、その遺産を相続する権利は誰に移るのでしょうか? 配偶者以外の相続権は、民法で定められた相続順位に従って、先順位の相続人から順番に移ってきます

そのため、異なる相続順位の法定相続人がまとめて相続放棄をすることはできません。相続権が自分に移ってきたタイミングで、家庭裁判所に申述書を提出して、相続放棄をしなければなりません。

それでは、相続放棄をした後の相続権が、法定相続人における範囲の中でどのように移っていくのかをケース別に解説します。

配偶者が相続放棄をしたケース

配偶者は、相続権について「常に法定相続人になる」と民法で定められています。配偶者の相続権には相続順位がありません。そのため、配偶者が相続放棄をしても、配偶者の相続権が新たな相続人に移るということはありません

仮に、法定相続人に配偶者と子ども2人がおり、配偶者が相続放棄をしたケースを見てみましょう。配偶者が相続放棄をすると、配偶者の相続権は誰にも継承されず消滅し、相続権を持つものは子ども2人になります。したがって、配偶者の遺産はゼロで、子ども2人が遺産全体を半分ずつ分割して相続します。

子どもが相続放棄をしたケース

子どもは、法定相続人で相続順位が第1順位に民法で定められています。なお、相続が発生した時点で、子どもがすでに死亡している場合は、子どもが有していた相続権は後の世代に順番に継承されていきます。

たとえば、子どもが死亡している場合は「子どもの子(故人の孫)」に、さらにその子どもの子も死亡している場合は「子どもの孫(故人のひ孫)」にという具合です。これを「代襲相続」と呼びます。

故人に子どもが複数おり、そのうち1人が相続放棄するパターンと、子ども全員が相続放棄するパターンを解説します。

故人に子どもが複数おり、そのうち1人が相続放棄をした場合、残りの子どもが遺産を受け取ります。子どもの内1人が相続放棄をしたからといって、他の子どもも同様に相続権を失うことはありません。

子どもが相続放棄をしたケース1

他方で、故人の子ども全員がそろって相続放棄をすると、法定相続人において第1順位である子どもの相続権は、第2順位である故人の親などの上の世代である「直系尊属」に相続権が移ります。たとえば、配偶者と子ども2人が相続放棄をした際に両親が存命であれば、下記のように両親2人が遺産を半分ずつ相続します。

子どもが相続放棄をしたケース2

このとき、子どもは初めから相続人にならなかったものとして扱われます。そのため、子どもの子(故人の孫)がいても、後の世代が代わりに相続する「代襲相続」は発生しません。つまり、相続放棄をしてしまうと、相続放棄をした相続人の子どもに相続権は移らないということです。

故人の親などの上の世代である直系尊属がいない場合は、その次の第3順位である故人の兄弟姉妹などが新たな相続人になります。

故人の親(父母)が相続放棄をしたケース

故人の両親(父母)などの上の世代である「直系尊属」は、法定相続人で第2順位に民法で定められており、両親がいない場合は故人の祖父母が相続権を有するようになります。

故人の両親がいるケースと、親が1人になっているケースで、それぞれ相続放棄するとどのように相続権が移っていくのかを解説します。

まず、故人の両親がおりどちらかが相続放棄をした場合、残りの親が引き続き相続権を有するため、新たに相続人となる人はいません。相続権を有する人が1人しかいないため、遺産は、残りの親がすべての遺産を相続します。

故人の親(父母)が相続放棄をしたケース1

次に、親が1人しかおらず、その親が相続放棄をする時に、もし故人の祖父母が存命であれば、その祖父母が親の相続権を継承します。故人の祖父母がすでに他界している場合は、次の相続順位にあたる兄弟姉妹などが新たな相続人となります。

故人の親(父母)が相続放棄をしたケース2

このように、故人の親が相続放棄するケースでは、同じ第2順位に属する直系尊属の人がいなければ、次の第3順位である兄弟姉妹などに相続権が移るということです。

兄弟姉妹が相続放棄をしたケース

故人の兄弟姉妹などは、法定相続人として第3順位に民法で定められています。故人の兄弟姉妹が死亡している場合は、兄弟姉妹の子どもである甥姪(おいめい)が代襲相続をして法定相続人になります。

ちなみに、第1順位である「子ども」とは異なり、故人の兄弟姉妹における「代襲相続」は甥姪までの一代限り。つまり、甥姪までが相続放棄の範囲です。

故人に兄弟姉妹が複数おり、そのうち1人が相続放棄するパターンと、兄弟姉妹全員が相続放棄するパターンを解説します。

故人に兄弟姉妹が複数おり、兄弟姉妹の内1人が相続放棄をした場合、残りの兄弟姉妹には相続権が残るため、遺産を受け取れます。相続放棄をした兄弟姉妹の影響を受けて、他の兄弟姉妹までもが一緒に相続権を失うことはありません。

兄弟姉妹が相続放棄をしたケース

兄弟姉妹全員が放棄した場合、兄弟姉妹は初めから相続人として扱われません。そうなると、兄弟姉妹の子どもである甥姪に代襲相続されることがないため、甥姪は相続人になりません。法定相続人で第3順位までしか民法で定められていないため、法定相続人に従った相続権の移動は兄弟姉妹で終わりを迎えます。

甥姪(法定相続人全員)が相続放棄をしたケース

甥姪が相続放棄をすると、故人の相続権を持つ相続人が誰もいなくなります。法定相続人の第3順位の次にあたる相続人はいませんが、特別縁故者がいれば家庭裁判所に申述することで特別縁故者が遺産を引き継ぐことができます。

「特別縁故者」とは、故人と特別に親しい間柄にあった人のことで、内縁関係者などが該当します。特別縁故者が現れなければ、故人の遺産は最終的に国庫に帰属されます。

この際に、相続放棄の注意点として挙げられるのが、相続人は遺産を相続しなくても、遺産の管理保存義務は残ることがあるということ。相続放棄をした人が、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有していた場合、その遺産の管理保存義務が、相続放棄をした相続人に残ります。相続人は、遺産を管理清算する「相続財産清算人」を家庭裁判所に申述して選任しなければなりません。

実家の付近に山林を保有していたり、家や土地などの不動産を所有したりしていた場合で、その財産を占有していたときは、管理保存義務が発生するため相続財産清算人の選任が必要です。

もう一つの注意点として挙げられるのが、相続放棄が行われたという通知が他の法定相続人に届かないということ。故人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所で相続放棄の申述手続きが完了しても、他の相続人にその通知が届くことはありません。したがって、死亡した人の兄弟姉妹間のトラブルを避けるためにも、相続放棄をしたという連絡をいれるようにしましょう。

相続放棄をしたら、他の家族への連絡を忘れずに

相続放棄をすると、その人の相続権は他の法定相続人に順番に移動していきます。ざっくりといえば、配偶者、子ども、両親、兄弟姉妹という具合です。そのため、相続放棄は自分1人だけではなく、他の家族や親族も巻き込む行為であるといえます。

まずは、こうした相続放棄の仕組みや範囲を理解し、相続放棄をすべきかどうか慎重に判断しなければなりません。もし、相続放棄をするのであれば、他の相続人への連絡を忘れずに行いましょう。また、自分が相続放棄したとしても、故人の両親などの上の世代が相続すると、年齢的にすぐに相続が発生し、自分に再び回ってくるかもしれませんし、何らかの管理保存義務が残る可能性があります。

また、相続放棄をするには、家庭裁判所への申述書提出をはじめ、債権者へ相続放棄の通知をする必要があります。こうした手続きが面倒で難しいと感じる場合は、弁護士や司法書士といった専門家に相談することも検討しましょう。

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記事の監修者紹介

石井もも(司法書士・社会保険労務士)

司法書士・社会保険労務士 いしい法務事務所

【プロフィール】

令和元年社会保険労務士登録。令和5年司法書士登録。いしい法務事務所を開業。ダブルライセンスを取得する過程で培った粘り強さで相続や中小企業のお困りごとに対して、ご相談者様が安心して次のステップへ進めるよう困難な問題にも柔軟に対応。問題解決に向けて尽力している。

【所属】

兵庫県司法書士会:第2338号
簡裁訴訟代理等認定番号:第2101286号
兵庫県社会保険労務士会:第28190043号

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本記事の内容は、記事執筆日(2023年3月27日)時点の法令・制度等をもとに作成しております。最新の法令等につきましては、専門家へご確認をお願いいたします。万が一記事により損害が発生することがあっても、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。

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