相続放棄をしようかどうか悩んでいたり、相続放棄の手続き方法にお困りだったりしませんか。相続放棄は一度手続きすると撤回できないため、慎重な判断をしなければなりません。本記事では、相続放棄を検討している方に向けて最適な相談先をご紹介します。6つの相談先の特徴や相談前に準備しておきたいことも解説しているため、ぜひ参考にしてください。
相続放棄とその相談先
そもそも相続放棄とは、相続の一切を放棄して法定相続人の立場ではなかったことにするための手続きです。たとえば、以下のような場合に相続放棄を検討する方が多いです。
- 相続財産のなかに多くのマイナスの財産(借金・ローンなど)が含まれている
- 1人の相続人に財産を集中させたい
- 相続人同士の争いに巻き込まれたくない
- 亡くなった方や他の相続人と疎遠になっていて関わりを持ちたくない
原則、相続放棄の手続きをすると撤回することはできません。また、「不動産は引き継ぎたいけど他の財産の相続を放棄する」といったことも不可能です。
相続放棄をするとすべての遺産に対する相続権を失うため注意しましょう。
また、相続放棄の手続きの期限は、自分に相続があったことを知ったときから3か月以内です。この期間は熟慮期間と呼ばれており、熟慮期間に相続の方法を決めなければなりません。
相続放棄をすると決めたら、被相続人(亡くなった方)の最後の住所地を管轄する家庭裁判所にて相続の放棄の申述を行って手続きを進めましょう。
しかし、相続放棄をするかどうかは判断が難しく、自分1人では決められないという方は少なくありません。手続きをすると決めた場合でも相続放棄の手続き方法がわからず、誰かに相談したいと考える方もいるでしょう。
相続放棄についての主な相談先には、弁護士や市区町村役場、法テラス、家庭裁判所などが挙げられます。それぞれにメリット・デメリットがあり解決できる内容が異なります。
相談先ごとの特徴について、次の章で詳しく確認しましょう。
「相続放棄」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
相続放棄の相談先は主に6つ
相続放棄についての相談先は、主に6つあります。
- 弁護士事務所
- 司法書士事務所
- 税理士事務所
- 法テラス
- 市区町村役場の無料法律相談窓口
- 家庭裁判所
ただし、それぞれの相談先ごとにメリット・デメリットがあります。あらかじめ理解したうえで、最適な相談先を選びましょう。
弁護士事務所
相続放棄について相談するなら、弁護士が適任です。なぜなら、代理権を使って相続放棄のすべての手続きを任せられる専門家は弁護士に限られるからです。そのため、相続放棄をすると決めたら、書類作成から申請手続き、完了までの一切を任せられます。
また、基本的に相続放棄は熟慮期間が過ぎてからの手続きはできません。しかし、期限を過ぎても弁護士であれば相続放棄できるよう工夫して手続きをしてくれます。もちろん、必ず相続放棄できるとは限りませんが、専門知識を使って最大限の努力をしてもらえます。
弁護士と聞くと高いイメージがありますが、事務所によって無料相談を設けている場合もあるため安心してください。有料の場合、30分〜1時間程度の相談で5000円が相場です。さらに、手続きを依頼すると5〜10万円程度の費用が発生します。
司法書士事務所
司法書士も法律の専門家であるため、相談を受け付けてくれます。司法書士は法務局・裁判所・検察庁などに提出する書類の作成を依頼できるため、相続放棄の手続きで必要な書類の作成や収集をおまかせできます。
ただし、対応してもらえる範囲は弁護士と比べて制限があり、照会書の回答・返送は本人が手続きをしなければなりません。また、万が一訴訟に発展した場合、司法書士が代理人になることもできないため、相談できる範囲は限定的です。
しかし、相続放棄について司法書士に相談する方は多い傾向にあります。なぜなら、面倒な相続放棄に関する書類作成をしてくれるため、訴訟の心配がないケースであれば司法書士に十分対応してもらえるからです。
事務所によっては無料相談を設けている場合があります。有料の場合、1時間の相談で5000円が相場です。司法書士に申述書の作成代行や必要書類の取得を依頼した場合の相場は3〜5万円程度です。弁護士よりも比較的リーズナブルな価格で依頼できます。
税理士事務所
税理士は法律の専門家ではないものの、相続放棄をするかどうかの判断に悩む場合に相談できる専門家です。財産状況や相続税の観点から適切なアドバイスをしてもらえます。
しかし、あくまでも税理士は相続にかかわる税金についての専門家として認識しましょう。相続放棄の手続きや書類作成には対応していない点に留意してください。状況を簡潔に説明し、必要であれば状況に応じて司法書士や弁護士を紹介してくれます。
事務所によっては無料相談を設けており、初回に限り30分〜1時間程度であれば無料で相談できます。有料の場合、1時間の相談で5000円が相場です。
法テラス
法テラスとは日本司法支援センターと言って、国が運営する法的トラブルを解決するための総合案内所です。電話やメールで相談する場合、誰でも何度でも匿名で利用することが可能です。
また、直接法律相談を受けることもできます。経済的な余裕のない方には無料法律相談を実施しており、相続放棄の相談に乗ってもらえます。同じ問題について3度まで相談ができ、解決できない場合は弁護士や司法書士に依頼することも可能です。
ただし無料法律相談をするには一定の収入・資産額の条件を満たさなければなりません。もし、条件を満たす方は全国に100ヶ所以上設置されている法テラスのなかから最寄りの法テラスを活用しましょう。
参照:相続・遺言|日本司法支援センター法テラス/無料の法律相談を受けたい|日本司法支援センター法テラス
市区町村役場の無料法律相談窓口
法律相談の窓口を設置している市区町村役場は多く、弁護士や司法書士などに無料で相談できます。定期的に相続に関する説明会・相談会が実施されている市区町村役場もあり、相続の準備をしたい場合におすすめです。
しかし、事前に予約をしなければならないケースが多く、すぐに相談できるとは限りません。相続放棄の熟慮期間が始まっている場合すぐにでも判断をしなければならないため、スピーディーに相談・解決できるとは限らない点に注意しましょう。
家庭裁判所
相続放棄の手続きを行う家庭裁判所では、手続きにおいて不明な点について相談にのってもらえます。基本的には手続きの流れや必要書類についての相談しか受け付けておらず、相続人同士での問題や相続放棄すべきかどうかといった個別の相談には乗ってもらえません。
また、家庭裁判所の窓口は平日の日中しか開いていないため、相談できる時間に限りがある点に注意しましょう。
パターン別にみる相続放棄の相談先
ここでは、パターン別に相続放棄の相談先としてふさわしい専門家や機関についてご紹介します。以下の4つのパターンごとに確認しましょう。
- 相続放棄するかどうかを悩んでいる場合
- 相続放棄の手続きを任せたい場合
- 相続放棄の手続きを自分で進めたい場合
- 相続放棄以外の手続きも依頼したい場合
当てはまる状況に合わせて相談先を選びましょう。
相続放棄するかどうかを悩んでいる場合
そもそも相続放棄をするかどうかを悩んでおり、適切な判断をしたい場合は個別に対応してくれる専門家へ相談しましょう。
具体的には、弁護士・司法書士・税理士事務所、法テラス、市区町村役場の無料法律相談窓口での個別相談がおすすめです。30分〜1時間程度であれば無料で相談を受け付けてくれるケースが多いため、簡潔に状況を説明すれば答えが出るでしょう。
ただし、法テラスや無料法律相談窓口では一般的な解決方法の提示をされるにとどまるケースは珍しくありません。この場合、改めて相続に強い司法書士や弁護士に相談する必要があります。
税理士は法の専門家ではないものの、財産状況や相続税の観点から相続放棄をすべきかどうかのアドバイスを受けられるでしょう。
また、相続人同士でトラブルに発展している場合や相続放棄の期限が迫っている場合は、初めから弁護士事務所に相談するほうがスムーズに解決できます。
相続放棄の手続きを任せたい場合
相続放棄の手続きを任せたいと考えている場合、弁護士か司法書士に相談しましょう。弁護士と司法書士であれば、申述書の作成代理や必要書類の収集を任せられます。
ただし、弁護士は家事事件の代理権があるため、すべての手続きを委任することが可能です。その分費用は高い傾向にあります。
一方、司法書士には家事事件の代理件がないため、書類作成のみの依頼しかできません。照会書は相続人本人に届くため、弁護士に依頼するときと比べて手間がかかります。その分、費用が抑えられるという特徴があります。
万が一、相続手続きにおいて訴訟が起きた場合、弁護士が代理人になれます。相続人の間でトラブルが起きている場合には、弁護士に依頼した方が賢明でしょう。
相続放棄の手続きを自分で進めたい場合
相続放棄の手続きを自分で進めたいと考えている場合、家庭裁判所や法テラス、市区町村役場の無料相談窓口を活用しましょう。
申述書の書き方や必要書類については、家庭裁判所があなたの状況にあわせて一通り教えてくれます。ただし、細かな書き方については指導してもらえないため、注意しましょう。一度、自分で申述書を作成してみてから家庭裁判所や法テラス、市区町村役場の無料相談窓口で不備がないかチェックしてもらうこととなります。抜け漏れや簡単な不備があれば指摘してもらえます。
相続放棄以外の手続きも依頼したい場合
相続放棄以外の相続手続きをしたい場合、司法書士や税理士に相談しましょう。相続財産に不動産が入っているときは司法書士に、相続によって発生した税金については税理士に相談することとなります。
自分の状況や相続放棄したい理由を伝えれば、一般的な意見がもらえるでしょう。ただし、相続放棄をしようかどうか悩んでいるときに適切な判断をしてくれる専門家は、弁護士です。深い専門知識を持っている弁護士ならではの視点で、個別に対応してもらえます。
ただし、あくまでも税理士は税金の専門家であり、法律の専門家ではありません。税金関係において税理士に相談がある場合にのみ相続放棄についての相談も一緒にしてみましょう。必要だと判断されれば、知り合いの弁護士を紹介してもらえます。
相談前に準備しておくべきもの
どこに相談する場合にも、以下の2つを準備しておくとスムーズに話を進められ、的確なアドバイスがもらえます。
- 相続財産一覧表
- 自分や相続人の状況を簡潔に話すためのメモ
相談の際に慌てず正しい情報を伝えるためにも、準備しておくべきものを確認しておきましょう。
相続財産一覧表
相続放棄をするかどうかの判断をするために、相続財産の一覧表があると便利です。具体的に、以下のように記載していくと的確なアドバイスがもらえます。
- 預貯金:〇〇円
- 不動産(土地):評価額〇〇円
- 不動産(家屋):評価額〇〇円
- 借金(カードローン):〇〇円
- 借金(住宅ローン):〇〇円
不動産の評価額は、固定資産税の納税通知書や固定資産評価証明で確認できます。わからない場合は、書類ごと持っていくと確認してもらえます。
もし、相続放棄をすると決めて手続きを進める場合、手続きで必要な相続放棄申述書に財産の内訳を記入しなければなりません。どのような財産がどれほどあるのか、財産状況を知っておく必要があります。あらかじめ準備しておくと、手続きがスムーズに進みます。
自分や相続人の状況を簡潔に話すためのメモ
相談へ行く前に、自分や他の相続人の状況を簡潔にまとめておきましょう。具体的に、以下のような項目をまとめておくとスムーズに話が進められます。
- 被相続人と自分との関係
- 相続が開始した時期と自分が相続人だと知った時期
- 相続放棄を考えている理由
- 他の相続人の人数
- 他の相続人の相続の意思
- 遺言書の有無・内容
このとき、嘘や誤魔化しをしようとせず、正確に状況を話しましょう。
相談で話した内容は守秘義務で守られるため、他人に知られることはありません。専門家に嘘をつくとトラブルに発展したり、相続放棄するかどうかの判断が最適でなかったりする可能性があります。
自分や相続人の状況は、かならず正確に伝えましょう。
相談前に知っておくべきことと注意点
相続放棄の相談をお考えの方に、あらかじめ知っておくべきことと注意点について解説します。
- 相続放棄をするなら財産の処分行為をしてはいけない
- 原則相続放棄の撤回はできない
- 期限を過ぎると相続放棄の手続きがしづらくなる
- 遺言書の内容に反して相続放棄することは可能
- 相続放棄をしても財産管理義務が残る
上記5つについて、詳しく確認しましょう。
相続放棄をするなら財産の処分行為をしてはいけない
相続放棄を検討しているのであれば、相続財産の処分行為をしないよう注意しましょう。たとえば、以下のような行為があると相続する意思があると判断されて、相続放棄が認められない可能性があります。
- 被相続人の預貯金の引き出しや名義変更
- 実家の売却・解体
- 賃貸契約の解約
- 遺品整理
- 借金や税金の支払い
このように、被相続人の相続財産を使ったり処分したりすると、相続する意志があるとみなされます。処分行為にあたるかどうかの判断は専門家でも意見がわかれるほど難しいため、不用意に行動せずに弁護士に相談しながら作業を進めましょう。
原則相続放棄の撤回はできない
原則、相続放棄の撤回はできません。つまり、一度手続きをしてしまうと「やっぱり実家の土地と家屋を相続したい」と主張しても、相続する権利を取り戻すことは不可能です。
そのため、相続放棄をするかどうかは慎重に判断する必要があります。明らかに返済できない借金がある場合でも、他の相続財産の内容や状況によっては、相続したほうがよいケースもあります。
自己判断せずに、一度専門家に相談して適切なアドバイスをもらいましょう。
期限を過ぎると相続放棄の手続きがしづらくなる
原則として、相続放棄の期限である自分に相続があったことを知ったときから3か月を過ぎると、相続放棄の申述をしても認められません。
ただし、事情によっては相続放棄が認められる場合があります。たとえば、海外にいて被相続人が亡くなった事実を知らなかった場合や、熟慮期間が過ぎてから多大な負債が明らかになった場合などです。
このような特殊な事情を正しく説明することで裁判所に相続放棄が認められるケースは実際にあります。
しかし、期限を過ぎている時点で相続放棄が認められないケースは多いため、自分で手続きをするとほとんど認められないでしょう。丁寧に事情を説明するには、弁護士の力が必要です。相続に強い弁護士に相談し、特殊な事情でも相続放棄を認めてもらいましょう。
遺言書の内容に反して相続放棄することは可能
遺言書は被相続人の意思であるため、「かならず従わなければならない」と思っている方は多いです。しかし、自分に相続させたいといった遺言書がある場合でも、民法で遺言者からの遺贈を放棄できると定められています。
遺言書の内容にかかわらず相続放棄の手続きができるため、安心してください。
出典:民法(明治二十九年法律第八十九号)|e-Gov 法令検索
相続放棄をしても財産管理義務が残る
相続放棄をしたとしても、相続するはずだった遺産の管理義務は残るため注意しましょう。たとえば、空き家は誰かが管理しなければ、腐敗や劣化によって近隣住民に迷惑をかけることとなり、損害を与えるリスクがあります。
そのため、相続放棄をした相続人にも遺産の管理義務を負わされます。管理責任から解放されたい場合は、他の相続人と話し合いや、相続財産管理人を選任するなどが必要です。
相続放棄を決める前に必ず専門家に相談しよう
相続放棄は一度手続きをしてしまうと、撤回できません。そのため、相続放棄をするときは自己判断せずに、専門家に相談しながら慎重に決めることをおすすめします。
また、相続放棄の手続きは熟慮期間である自分に相続があったことを知ったときから3か月以内に完了させなければなりません。スピーディーに問題を解決して手続きを終えるためには専門家の力が必要です。
悩んでいる内容に合わせて相続放棄の相談先を見極め、納得のいく形で相続関連の手続きを進めましょう。