生前贈与を受けた場合でも相続放棄は可能!注意点や相続税について解説

公開日:2024年3月29日

生前贈与を受けた場合でも相続放棄は可能!注意点や相続税について解説

「生前贈与を受けたけど相続放棄したい」生前贈与を受けたのに都合よく相続放棄できないのでは、と考える人は少なくありません。しかし、生前贈与を受けていても相続放棄できます。ただし、相続税が課せられる・詐害行為に当たるなどトラブルになるケースもあるので注意が必要です。この記事では、生前贈与を受けた場合の相続放棄について詳しく解説します。

生前贈与を受けていても相続放棄は可能

結論を言えば、生前贈与を受けていても相続放棄は可能です。

被相続人の生前中に援助など贈与を受けているけど借金は相続したくない、とそんな都合の良いことはできないのではと考える人もいるでしょう。しかし、原則として相続放棄の手順を正しく踏めば、生前贈与を受けていても相続放棄は可能です。

また、相続放棄したからと言って生前贈与でもらった財産が没収されることはありません。そもそも相続放棄と生前贈与とは、何なのかをみていきましょう。相続放棄とは、相続財産を一切相続しないという相続の方法です。相続放棄することで、はじめから相続人ではなかったことになるのでマイナスの財産を相続することもなくなります。

相続財産が借金しかないなどで選択されるのが一般的でしょう。ただし、実家などのプラスの財産も相続できない点には注意が必要です。一方、生前贈与とは、その名前の通り被相続人の生前中に行われる贈与のことです。

相続が被相続人の死亡により財産を引き継ぐのに対して、生前贈与は生前中に行われる財産の譲渡になります。生前贈与であれば、相続人以外であっても贈与でき、被相続人の希望に沿って確実に財産を譲渡できるという特徴があります。

また、相続財産を減らして相続税を軽減する方法としても、生前贈与が行われるケースも少なくありません。相続放棄と生前贈与は、全く別の制度です。

どちらかを選択したら、もう片方は利用できないといった関係性はありません。相続放棄をする際に相続財産に手を付けてないことという条件もありますが、生前贈与を受けたからといってこの条件に触れることもありません。そのため、生前贈与を受けていても相続放棄の適切な手順を踏めば相続放棄できるのです。

たとえば、親が借金を背負っているから相続放棄したいけど、子どもは今住んでいる実家にはそのまま住みたいというケースもあるでしょう。この場合、親から子どもに実家を生前贈与し、親の死後子どもが相続放棄することで子どもは家に住み続けながら借金を避けられるのです。

ただし、相続放棄を生前に行うことはできません。生前贈与してもらったから生前中に相続放棄しておく・借金が多いから先に相続放棄しておくということはできません。

相続させたくないからその分生前贈与しておくという方法は有効ですが、被相続人の死後に相続放棄するかは相続人の意志で決めることです。仮に、生前の相続放棄を念書として作成しても、法的には無効となります。

相続放棄する場合は、被相続人の死後に家庭裁判所で手続きする必要がある事は注意しておきましょう。

「生前贈与」や「相続放棄・生前の相続放棄」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

生前贈与の内容次第では相続放棄後に相続税がかかる

生前贈与を受けても相続放棄できますが、生前贈与の内容によっては相続放棄しても贈与分が相続税の対象となる可能性があります。

通常、相続放棄すれば相続財産がないので相続税は発生しません。しかし、生前贈与を受けていると、一定の生前贈与の財産が相続税の対象となります。その場合、財産額によっては相続税が発生する可能性があるのです。

生前贈与で相続税の対象となるケースには、下記のようなものがあります。

  • 相続開始前3~7年以内に行われた生前贈与
  • 相続時精算課税制度の適用を受けた場合

相続開始前3年(または7年)以内に行われた生前贈与

相続税には生前贈与加算という仕組みがあります。これは、被相続人の死亡日の直前3年前に行われた生前贈与が、相続財産に加算されるという制度です。

たとえば、相続財産が2000万円あり、直前3年間の生前贈与額が1000万円ある場合は、合計した3000万円が相続財産となります。この合算した額が相続税の基礎控除を超えると相続税が発生します。

相続税が発生すると、相続放棄している場合でも、受けた生前贈与の分に対して相続税が発生するので納税が必要です。ただし、生前贈与を受けた際に贈与税を納めている場合は、納めた贈与税を相続税から控除できます。そのため、贈与税も払って相続税も払うという二重納税にはなりません。

生前贈与加算は、令和6年1月1日以降の生前贈与については、それまでの3年間から7年に延長されています。令和5年12月31日までに生前贈与した分は従来の3年間が適用されますが、令和6年1月1日以降に生前贈与した分は7年間が適用されるので適用期間には注意しましょう。

なお、生前贈与加算の対象となるのは、相続人への生前贈与です。生前贈与は相続人に限らず誰にでも贈与できます。家族以外への贈与や相続人ではない孫への贈与などは、生前贈与加算の対象とはなりません。

相続時精算課税制度の適用を受けた場合

相続時精算課税制度とは、親・祖父母から子や孫への贈与の場合、贈与額2500万円までを非課税にできる制度です。

通常の贈与税は、年間110万円の基礎控除を超えた分に課税されます。しかし、相続時精算課税制度を適用することで2500万円まで非課税にできるので、まとまった額を贈与する際などに利用されます。

ただし、この制度を利用すると2500万円までの贈与は、贈与税ではなく相続税の対象となるのです。制度を利用して贈与した場合、将来相続が発生した際に贈与額を相続財産にプラスした額が相続税の対象となります。

その結果相続税が発生すれば、相続放棄していても相続税を払う義務があるのです。なお、上記どちらのケースであっても、相続財産の総額が基礎控除を超えていなければ相続税は発生しません。

相続税の基礎控除は、下記の通りです。

基礎控除額=3000万円+600万円×法定相続人の人数

また、課税対象となる相続財産はプラスだけでなく借金や葬祭費などのマイナス分を加味した後の総額です。

このように生前贈与を検討している場合、贈与税だけでなく相続税まで考慮して贈与額や方法を選ぶ必要があります。

「生前贈与と贈与税・相続税」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

生前贈与を受けた後でも相続放棄できる事例

生前贈与を受けた後でも相続放棄できる事例のイメージ

生前贈与を受けていても相続放棄は可能です。

とはいえ、どのようなパターンで生前贈与を受けているのに相続放棄するのか気になるところですね。ここでは、生前贈与を受けながら相続放棄した事例をみていきましょう。

土地を生前贈与してもらった場合でも相続放棄可能

生前贈与できる財産は、現金だけでなく有価証券や不動産も対象です。そのため、生前贈与で土地を貰うケースは珍しくありません。

子どもたちに土地を贈与する、配偶者に土地と家屋を贈与するというケースは多いでしょう。仮に、生前贈与で土地を貰っていたケースであっても、相続放棄は可能です。

ただし、後述する「詐害行為取消権」に該当すると生前贈与が取り消される恐れがあるので注意しましょう。

相続時精算課税制度による生前贈与を受けていても相続放棄可能

相続時精算課税制度では、2500万円までが非課税となるのでまとまった額の贈与が可能です。

高額な生前贈与を受け贈与税も支払っていないため、相続放棄することに問題があるのではないかと感じる方もいるでしょう。しかし、このケースであっても相続放棄に問題はありません。

ただし、相続時精算課税制度で生前贈与を受けると、相続税が発生する可能性がある点には注意しましょう。

「不動産の生前贈与」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

生前贈与を受け取って相続放棄をおこなう際の注意点・知っておきたいこと

生前贈与を受けて相続放棄する際には、気を付けておかないとトラブルに発展するケースもあるので注意が必要です。

ここでは、注意点として下記の2つを解説します。

  • 詐害行為取消権に注意
  • 相続放棄は取り消せない

詐害行為取消権に注意

詐害行為取消権とは、債務者が財産隠しのために財産の移転・処分した場合、債権者がその行為を取り消すことのできる権利のことです。

法律上、債権者は債務者以外の財産の差し押さえなどはできません。そのため、債務者が第三者に財産を譲渡してしまうと、債権者は手が出せなくなってしまうのです。

そのことを防ぐために、債務者が不当に財産を隠した場合、債権者が詐害行為取消権を行使して財産を取り戻すことができるようになっています。

生前贈与の場合、被相続人が差押え対象の財産を減少させるために行った贈与や、受け取る側が被相続人が借金を負っていることを知っている場合などが、該当する恐れがあります。詐害行為取消権が行使されると、生前贈与は取り消され財産の返還が必要になる可能性があります。

ただし、詐害行為取消権でも相続放棄を取り消すことはできません。お金を貸した側からすると、被相続人の借金の相続を放棄されると借金が回収できないことから詐害行為で取り消したいところでしょう。

しかし、相続放棄は相続人が多額の負債を負うことを避けるための制度でもあります。よって、詐害行為取消権でも相続放棄は取り消せないのです。

そのため、相続人は生前贈与の財産と借金の両方を放棄するか、生前贈与の財産を失わないかわりに借金を相続するかの選択となるでしょう。被相続人に借金がある場合の生前贈与には、十分な注意が必要です。

相続放棄は取り消せない

相続放棄が受理されると、原則として撤回できません。

生前贈与を受けて相続放棄は可能ですが、相続放棄後に「やっぱり相続したくなった」など安易な理由で相続放棄を撤回できないので注意が必要です。詐欺や脅迫など例外的なケースで相続放棄を取り消せるケースもありますが、ごく稀なケースです。

基本的には取り消せないということは覚えておき、相続放棄するかは慎重に判断しましょう。

また、相続放棄する場合は「相続開始があったことを知った日から3か月以内」という期限があります。この期限を超えててしまうと、相続放棄できないので期限内に手続きできるようにしましょう。

相続放棄を検討している場合は、相続放棄の選択が適切なのかも含めて専門家に相談することをおすすめします。

「相続放棄の手続き」や「相続放棄の費用」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

生前贈与後の相続放棄は相続税や詐害行為取消権に注意

生前贈与を受けていても、相続放棄は可能です。

しかし、相続放棄しても相続税が発生するケースもあるので生前贈与の内容には注意しましょう。また、詐害行為取消権に該当すると、生前贈与が取り消される恐れもあります。

生前贈与を検討している場合や生前贈与を受けた後に相続放棄を検討している場合は、専門家に相談して適切なアドバイスを受けながら希望の相続ができるように進めていくとよいでしょう。

記事の著者紹介

逆瀬川勇造(ライター)

【プロフィール】

金融機関・不動産会社での勤務経験を経て2018年よりライターとして独立。2020年に合同会社7pockets設立。前職時代には不動産取引の経験から、相続関連の課題にも数多く直面し、それらの経験から得た知識など分かりやすく解説。

【資格】

宅建士/AFP/FP2級技能士/相続管理士

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本記事の内容は、記事執筆日(2024年3月29日)時点の法令・制度等をもとに作成しております。最新の法令等につきましては、専門家へご確認をお願いいたします。万が一記事により損害が発生することがあっても、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。

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