遺言書の効力を知ろう!効力の範囲と有効・無効のケース

公開日:2022年7月1日|更新日:2023年6月22日

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自分の財産を希望通りに相続させたい場合、遺言書が有効と一般的に言われています。しかし、「親の遺言書を開けてしまったんだけどこれって無効になるの?」など被相続人・相続人共に遺言書の効力に関しての疑問は多いようです。この記事では、遺言書の効力や無効になるケース・作成時の注意点について分かりやすく解説します。

遺言書とは

そもそも遺言書とは、自分が死んだ後に財産を「誰に」「どれだけ」分けるのかの意志を示した書面のことをいいます。遺言書は法的な効力を有しており、その内容は法定相続分よりも優先されるのです。そのため、特定の人に多く財産を譲ることや、特定の人に財産を譲らないという選択もできます。

遺言書に何を記載するかは自由です。しかし、遺言書で法的な効力を持つ項目には決まりがあり、それ以外のことを記載しても法的な効力はありません。反対に、法律に沿った形式で作成できていない場合、遺言書の内容が無効になる可能性があるので注意が必要です。

遺言書を作成する場合は、遺言書の効力の範囲や無効になる条件などを理解したうえで、慎重に作成しなければなりません。

遺書と遺言書の違いは?

遺言書と混同されやすいのが「遺書」ですが、これらは全く異なるので気を付けましょう。

  • 遺言書:遺産の分割方法を示した法的な書類
  • 遺書:自分の気持ちを記した書類

遺書とは、基本的に亡くなる直前に自分の気持ちを残した手紙のようなものを指します。対して、遺言書は遺産の分割方法を示した書類であり、法的な効力を有しています。

遺書の場合、法的な効力がないため遺産の分け方を記載していても無効となるので注意しましょう。ただし、遺書であっても遺言書としての要件を満たすことで、法的な効力を持たせることも可能です。

「遺言」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

遺言書の効力・有効性

遺言書が有する効力

遺言書では、「遺産の分け方」を決めるだけでなく、他にもさまざまな事柄を決められます。遺言書を作成するうえでは、「遺言書で何ができるのか」という遺言書が有する効力について理解しておくことが重要です。効力の範囲以外のことを記載しても、法的な効力がないため無効となるので注意しなければなりません。

遺言書の効力について、以下で確認していきましょう。

どの相続人に何を相続させるかを決められる

遺言書では、「誰が」「どの財産を」「どれくらい」といった、相続分や分割方法を指定できます。法定相続人が、相続できる遺産の割合は法定相続分と言い、民法によってその割合は決められています。遺言書であれば、この法定相続分に関わらず自由な割合で相続分を指定することが可能です。そのため、「特定の人に多く相続させる」ことや「一人にすべて相続させる」といったことも指定できます。また、財産ごとに相続人を指定できるため「長男には家、長女には預金を相続させる」といった指定も可能です。

反対に、5年以内であれば遺産分割を禁止することもできます。相続トラブルが予想される場合の冷却期間としてや、「代襲相続者である孫が成人するまで」といったケースで遺産分割を禁止することも有効でしょう。

特定の相続人の「相続する権利」をなくす

遺言で相続人の地位をなくすことも可能です。生前に自分を虐待していた相続人や、トラブルのあった相続人など、特定人物の相続人としての地位を奪うことで、その人は遺産を相続できなくなります。相続人の地位を奪うことを「相続廃除」といい、生前中に相続廃除する場合は家庭裁判所への申し立が必要です。遺言書でもこの相続廃除が可能であり、この場合は遺言執行人が家庭裁判所に申し立てて手続きします。

また、反対に遺言書で相続廃除されていた人の相続人としての地位を復活させることも可能です。

隠し子の認知

隠し子など婚姻していない女性との間に子どもがいる場合の認知も可能です。遺言書で認知することで、その子どもは被相続人との親子関係が認められ法定相続人になることができます。

生前に非嫡子(婚外子)を認知する場合、役所に届け出が必要ですが、家庭内トラブルに発展する可能性があります。生前に認知すると問題になる場合などは、遺言によって認知することが有効でしょう。

また、未成年の相続人で親権者がいない場合、遺言で未成年後見人を指定することも可能です。未成年後見人は、未成年者の法定代理人として、監護養育や財産管理などの法的行為を行う人のことをいいます。自分が死亡したことで親権者がいなくなる場合などで、後見人を指定することで遺産を適切に管理してもらうことが可能です。

遺言書どおりに必要な手続きを行う人を指定できる

遺言書に沿って内容を実行する人のことを「遺言執行者」といい、遺言で指定することが可能です。遺言執行者を指定しておくことで、相続をスムーズに進められるでしょう。

保険金の受取人を指定できる

遺言書では保険金の受取人の変更も可能です。ただし、保険金の受取人を変更すると、保険会社や本来の受取人との間でトラブルに発展する可能性があるので、注意しましょう。

遺留分まで効力が及ぶことは無い

遺言書で効力を発揮できる事柄は多いですが、相続人の権利である遺留分を侵害することはできません。「●●に財産の全てを相続させる」といった遺留分を侵害する内容の遺言書も有効とはなりますが、遺留分の権利が認められている相続人は遺留分侵害額請求で遺留分を主張することができます。相続人同士のトラブルにもつながる内容ですので、遺言書に記載する際は遺留分も十分考慮することが望ましいでしょう。

3種類の遺言書とそれぞれの効力

遺言書には①自筆証書遺言➁公正証書遺言③秘密証書遺言の3種類がありますが、それぞれの効力(できること)に違いはあるのでしょうか?

結論、各遺言書で効力に違いはありません。しかし、各遺言書で効力を持たせるためのルールがあり、法律で定められた方式を守らないと無効になってしまうこともあります。

①自筆証書遺言

自筆証書遺言は遺言者がいつでも自由に作成できるため、作成に取り掛かるハードルは他の遺言方法と比べて低いです。

しかし、遺言内容や形式に対して法律の専門家のチェックを行いませんので、遺言を法的に有効にするためには、相続財産に関する複雑な内容を厳格な書式に則って作成する必要があります。遺言内容や書式や要件に不備がある場合、その遺言は無効となってしまう恐れがあるうえに、遺言者の死後は家庭裁判所による検認手続きが必要です。

➁公正証書遺言

公正証書遺言は証人立ち合いのもと公証人が遺言書を作成し、公証役場に保管されます。ルールに則って書かれた公正証書であり、改ざんや紛失のリスクもありませんので有効性が大変高い遺言書になります。そのため家庭裁判所の検認手続きも必要ありません。

③秘密証書遺言

秘密証書遺言は①➁の2つの遺言の中間にあたる遺言方法です。自筆証書遺言と同様に遺言者が作成しますが、公証人と証人が封を閉じた遺言書に一筆加えた上に押印し、その存在を証明します。公証人による内容のチェックは行われていませんので、自筆証書遺言と同様に書式や要件に不備がある場合、遺言が無効になってしまう可能性があります。こちらも家庭裁判所による検認手続きが必要です。

「無効」と判断されないための遺言書の注意点

遺言書を作成するうえでの注意点としては、次の3つが挙げられます。

  • 遺留分には気を付ける
  • 確実に有効にしたいなら公正証書遺言書
  • 専門家に相談して作成する

遺留分には気を付ける

遺留分とは、相続人の最低限の生活を守るために、最低限保証される相続財産のことです。遺言書によって特定の人がすべての財産を相続してしまうと、他の相続人は本来得られるはずの財産を得られず生活が苦しくなる可能性があります。そのため、遺留分によって相続人が生活できるように最低限の財産を確保できるようにしているのです。遺留分の割合は、被相続人との間柄や相続人によって異なりますが、遺留分を侵害された相続人は、侵害した相続人に対してその分を請求できます(遺留分減殺請求)。

遺留分は遺言書があっても優先されるものです。遺言書を作成する場合は、法定相続人と遺留分を把握したうえで、遺留分を考慮して遺産の分割を検討するとよいでしょう。

「遺留分」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

確実に有効にしたいなら公正証書遺言書

自筆証書遺言は気軽に作成できる反面、作成に不備があり無効になるケースが珍しくありません。公正証書遺言書なら法の専門家がチェックしたうえで作成するため、法的に無効になることはほとんどないものです。確実に自分の意志を反映させたいなら、公正証書遺言書を作成することをおすすめします。

ただし、公正証書遺言書であっても以下のような場合は無効になるので注意が必要です。

  • 証人になれない人が立ち会った場合
  • 遺言能力のない人が作成した場合

公正証書遺言書は2名以上の証人が必要です。
証人は誰でもなれるわけではなく、以下のような人は証人にはなれません。

  • 未成年
  • 推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族
  • 公証人の配偶者、四親等内の親族、書記及び使用人

また、認知症など遺言能力がない状態で作成した場合も無効になるので注意しましょう。

専門家に相談して作成する

遺言書を作成する場合、どの種類の遺言書であっても弁護士などの専門家に相談して作成することをおすすめします。専門家であれば、有効な遺言書作成のサポートが可能です。また、遺言書の保管や遺言執行人としての選定・相続時のトラブル対応など幅広く相続対応してもらえるため、スムーズに相続を進められるでしょう。

「遺言の種類」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

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こういう場合どうなる?遺言書の有効・無効ケース

検認する前に遺言書を開けてしまったら無効?

公正証書遺言以外の遺言書は、遺言者の死後に封をした状態で家庭裁判所での検認手続きが必要ですが、その前に開封してしまうケースは意外と多いようです。その場合も遺言書自体が正しく作成されていれば効力に影響はありませんが、相続人が勝手に開封する事自体は法律に違反しているため5万円以下の過料が課される可能性があるので十分気を付けましょう。
開封してしまった場合、検認時に正直に申告するようにしてください。

認知症の親が作成した遺言書は有効?

遺言書は法的な行為のため遺言者に正常な判断能力(遺言能力)がなければなりません。
遺言者が認知症の疑いがある場合や不安定な精神状態に置かれていた可能性がある場合、遺言の有効性をめぐって裁判に発展することもあります。
そのようなことを避けるために、事前に医師から診断書を書いてもらうなどの対策が有効です。

遺言書が複数ある場合は最新のものが有効

遺言書が複数ある場合は記載の日付が新しいものが有効となります。では、全ての遺言書に日付が無かった場合はどうなるのか?遺言書が法的効力を持つためには日付の記載が必須になりますので、その場合は全ての遺言書が法的効力をもちません。
遺言書の作成・発見の際は必ず日付を記載・確認するようにしましょう。

遺言書の内容に従いたくない

いくら故人の意志を尊重したいと思っていても、どうしても内容に納得できない場合や、遺言書の作成時と現在の状況が変わっていて明らかに現状にマッチしない内容の場合などもあるでしょう。そのような時は、相続人全員と受遺者の合意があり遺言執行者の同意が取れれば遺言書と違う分割内容で分割を進めることが可能です。

ただし、関係者全員の合意を取ることの難易度は大変高く、あくまで遺言書が最優先になることは変わりないのでご留意ください。

遺言書に期限は無い。どれだけ古いものでも有効になる

遺言書は遺言者が15歳以上であれば効力を持ちますので、90歳で亡くなった方が20歳の時に作成した遺言であっても有効になります。

ただし、前述の通り相続人全員が合意した場合は遺言と違う内容で遺産分割をすることができますので、遺言書があまりに古い場合などは無理して遺言書通りに執行せず、新たな分割を検討してみるのが良いかもしれません。

また、遺言書で受遺者に指定されている方が既に亡くなっている場合は、その方が受遺者に指定されている資産に関わる遺言は無効になります。(遺言書自体は無効になりません。)

遺言内容が不明瞭や実際の遺産と全くことなる

自分の思いを残したい気持ちが強すぎて、客観的にみて何が言いたいのか、相続割合がよく分からないといった場合は、無効になります。遺言書を作成する場合、遺産分割について分かりやすく明確に記載しておくことが重要です。自分の思いは「付言事項」として、遺言書の最後のほうで語るようにするとよいでしょう。

また、遺言書の内容と実際の相続財産の内容が異なる場合も無効となります。遺言書を作成した時点と実際の相続が発生した時点で、財産が異なってくるケースはあるものです。財産の内容が変わったら適宜状況に合わせて遺言内容を書き直すようにしましょう。

まとめ

遺言書の効力の範囲や無効となるケース・書き方についてお伝えしました。亡くなった後に自分の意志を反映するために遺言書が有効ですが、書き方によっては無効となってしまう可能性があります。正しい書き方や注意点を理解したうえで、無効にならない遺言書を作成することが大切です。遺言書は自分の意志を反映するだけでなく、遺された家族や親族も納得できる内容であることが大切です。

法的に有効かどうかを含めて、財産の配分や遺留分・相続時の手続きについてなど細かい配慮も必要になるので、専門家への相談を検討するとよいでしょう。

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相続プラス編集部

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相続に関するあらゆる情報をわかりやすくお届けするポータルサイト「相続プラス」の編集部です。相続の基礎知識を身につけた相続診断士が監修をしております。相続に悩むみなさまの不安を少しでも取り除き、明るい未来を描いていただけるように、本サイトを通じて情報配信を行っております。

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本記事の内容は、記事執筆日(2022年7月1日)時点の法令・制度等をもとに作成しております。最新の法令等につきましては、専門家へご確認をお願いいたします。万が一記事により損害が発生することがあっても、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。

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