相続は「争族」と言われるほど、トラブルに発展するケースが多いものです。それまでどんなに仲の良い親族でも、相続が関わると険悪になることも珍しくありません。相続トラブルというと資産家だけの話のようですが、実は遺産額に関わらず誰にでも起こりうることなのです。相続トラブルを避けるには、どのようなトラブルがあるのかを理解しておくことが大切です。この記事では、よくある相続問題や対処法・予防策について分かりやすく解説します。
相続問題・トラブルは年々増加の傾向にある
相続トラブルは資産家や名家の話でうちには関係ない、と思っている人も多いかもしれませんが、相続の問題は実はとても身近な問題なのです。
令和4年司法統計(家事編)によると、令和4年に家庭裁判所に申し立てられた遺産分割に関する事案は、1万2981件に上ります。これは、家庭裁判所に持ち込まれた総件数12万3760件の11.6%にあたります。
さらに、そのうち半数近くの5728件は調停にまで発展しているのです。
遺産額が少なくてもトラブルは起こる
上記の報告によると、一部を除いた遺産分割協議成立案件などの6857件のうち、2296件は遺産額1000万円以下という結果が出ています。
ちなみに、1億円以上では1375件と1000万円以下よりも件数が多いことも分かります。このように遺産額が少ないから相続トラブルが発生しないとは限りません。むしろ、遺産額が少ないほどトラブルになる可能性が高くなる傾向があります。
遺産額が高額になる場合、事前にある程度相続対策を立てているケースが多くなります。しかし、遺産が少額といった場合は、相続について何も対策がないことでトラブルに発展しやすいのです。
よくある相続問題・トラブル例
相続の問題は身近な問題でもあります。
自分は相続問題には関係ないと思っていても、実際に相続が発生しお金が絡むとどうなるかは分かりません。一度、問題が発生すると簡単には解決できずに、場合によっては調停や訴訟にまで発展、人間関係も悪化するなど良いことはないものです。
相続問題を起こさないためには、どのような原因が問題になる可能性があるのかを理解して対策しておく必要があります。
相続トラブルはさまざまな事情で発生しますが、共通する原因も多いものです。ここでは、相続でよくあるトラブルの原因として次の10個のパターンを見ていきましょう。
- 相続人間の仲が悪い
- 不動産の相続がある
- 介護の寄与分
- 生前贈与があった
- 財産管理を一部の人がしている
- 不公平な遺言書
- 被相続人に前婚者と前婚の子がいる
- 被相続人に内縁者がいる
- 被相続人が事業をしている
- 被相続人に借金がある
相続人間の仲が悪い
相続人間の仲が悪いことは代表的なトラブルの要因のひとつです。
相続割合などを巡って意見が対立したり、仲が悪く話し合いにならないケースもあります。また、どんなに仲の良い親族であっても相続が絡むと、仲違いしてしまうこともあるのです。
<相続人間の仲が悪いことでのトラブル例>
- 相続割合について揉める
- 相続について一方的な主張をされる
- 話し合いができない
相続人間の仲が悪いことだけでなく、疎遠が理由で相続が進められないケースもあります。
遺産分割協議になる場合、相続人全員の合意が必要です。しかし、疎遠などの理由で相続人が参加しない、連絡しても無視される状態では遺産分割協議を進められなくなってしまいます。
不動産の相続がある
相続財産が現金であれば、相続人が複数いてもきっちりと分割できます。しかし、相続財産に不動産が含まれると遺産分割でトラブルになりやすいのです。
<不動産が含まれる場合のトラブル例>
- 不動産を売却するか所有するかで揉める
- 不動産の評価額で意見が割れる
- すでに住んでいた相続人が追い出されてしまう
- 共有名義にしたことで活用ができない
- 分割方法が決まらずに放置されている
- 遺産が不動産しかなく相続税に対応できない
不動産は現金のようにきっちりと分けられないため、どのように分配するかで揉めるケースが多いものです。仮に、相続人の誰か1人が不動産を相続するなら、他の相続人には不動産評価額と相続割合に応じて現金を渡すことになります。
不動産評価額は、調べ方によって価格が異なるので、用いた評価額によっては不満を抱く相続人も出てくるでしょう。分割せずに全員で共有名義にする方法もありますが、名義が共有された不動産は売却などが難しく後々トラブルに発展する可能性があります。
また、相続財産に課せられる相続税は現金で納めなければなりませんが、遺産が不動産しかない場合は相続税を自己資金で支払う必要がある点にも注意しましょう。
介護の寄与分
寄与分とは、長年の介護や親の事業を無償で手伝っていたなど被相続人への貢献を理由に、法定相続分を超えた相続ができる制度です。また、息子の嫁といった相続人以外でも、特別寄与料の請求ができます。
誰か1人の介護の負担が大きいと、寄与分を巡ってトラブルに発展する可能性があります。例えば、兄弟間で誰か1人が介護のほとんどを担っていたことを理由に、相続を多めにすることを主張することは珍しくありません。
しかし、それに対して別の兄弟が「介護に関わる金銭の負担をしていた」などを理由に寄与分を否定すると意見の対立からトラブルに発展するのです。
生前贈与があった
生前贈与とは、被相続人が存命中に行う贈与のことです。
高額な生前贈与が特定の相続人のみに行われると、相続財産が減ることで他の相続人に対して不公平になります。ただし、生前贈与の場合、贈与が行われた期間など一定の条件を満たすと、生前贈与の額を遺留分に含められる可能性があります。
遺留分に含めることで、生前贈与を受けていない相続人は生前贈与を含めた額で遺留分を計算して、請求できるのです。ただし、生前贈与を遺留分に含められるかは、贈与を受けた人と他の相続人で意見が対立しやすいものです。
生前贈与を受けた人が「贈与ではなく買い取った」などと主張することでトラブルにつながります。
財産管理を一部の人がしている
被相続人の存命中の同居家族など一部の人が財産を管理している場合、使い込みを疑われてトラブルに発展する可能性があります。相続開始後に財産を調べてみると想定よりも少ない場合で、他の相続人から「使い込んだのでは」と疑いの目を向けられてしまうのです。
管理している人が財産内容の開示を拒否した場合もトラブルになりやすいでしょう。
また、実際の使い込みとして次のようなケースもトラブルに発展しやすくなります。
- 遺産分割協議前に勝手に遺産を処分(売却)された
- 被相続人が認知症などを患った際に勝手に通帳を使われていた
- 被相続人の生活費ではなく管理人の遊興費などに使われていた
不公平な遺言書
相続は遺言書が優先されます。例えば、「相続人の誰か1人に全財産を譲る」「内縁の妻にすべて相続させる」といった他の相続人にとって不公平な内容でも、遺言書があるとその通りに相続されてしまう可能性があるのです。
ただし、兄弟姉妹以外の法定相続人には遺留分が認められているため一定の相続財産を取得できます。
しかし、この遺留分侵害額請求もトラブルの原因となるのです。また、兄弟姉妹には遺留分がないため、遺言内容によっては一切相続ができずに、トラブルに発展しやすくなります。
<不公平な遺言書でのトラブル例>
- 特定の誰かがすべての財産を相続することになる
- 遺留分侵害額請求に応じてくれない
- 遺留分が請求できないことを知らなかった
- 遺言書の無効を主張し訴訟に発展する
被相続人に前婚者と前婚の子がいる
被相続人の離婚により前婚者とその子がいる場合、相続でトラブルになりやすくなります。
前婚者との子であっても、死亡時点の被相続人の子と同様の相続権を有します。しかし、前婚者との関係性が悪い・考え方が違うなどで相続がスムーズにいかなくなる場合があるのです。
また、遺産分割協議を行う場合、相続権のある前婚者の子供の合意も必要になります。遺産分割協議への参加を促しても無視されて協議が進められないというケースもあるのです。
被相続人に内縁者がいる
内縁者には相続権がありません。そのため、内縁者への相続を遺言に残していないと内縁者は相続できません。
法定相続人での遺産分割協議で内縁者への配慮が得られない場合、家から追い出されることや遺産がなく生活に困る恐れがあるのです。反対に、内縁者に多めに相続させる旨の遺言書がある場合、他の相続人から不満がでてトラブルに発展する可能性もあります。
被相続人が事業をしている
被相続者が事業を営んでいる場合、個人の遺産の相続だけでなく事業の相続(継承)問題も発生する恐れがあります。
<事業継承でのトラブル例>
- 事業継承者と他の相続人の遺産分割割合でもめる
- 遺産分割でもめ後継者が必要な株式を取得できない
- 事業継承がスムーズにいかず会社が倒産に追い込まれる
被相続人に借金がある
相続財産はプラスの財産ばかりとは限りません。
借金や未払金・税金の滞納などマイナスの財産がある場合、相続人はマイナス財産を相続することになるのです。遺産を調べた結果、プラスの財産よりもマイナスの財産が多ければ、相続しても相続人の負担にしかなりません。
相続の財産にマイナスが多い場合は、相続放棄か限定承認を選択することで相続を避けられます。しかし、相続放棄・限定承認をするには相続開始から3か月以内という期限があるので、早めに手続きを進めることが大切です。
ただし、相続放棄した場合、相続権は別人に移ってしまいその人が借金を背負う可能性があり、トラブルに発展する可能性もあります。
相続問題の対処法
ここでは、相続問題が起きた場合の対処法について解説します。
遺言書に関するトラブル
遺言書の内容が不公平を理由にしたトラブルの解決方法としては、以下のような方法があります。
- 遺言無効を主張する
- 遺留分侵害額請求する
遺言書の内容に納得できない・偽造が疑われるという場合は、家庭裁判所に遺言書無効を申し立てましょう。ただし、無効が認められるにはかなりの時間と費用がかかり、そのうえで認められないケースもあるので無効を主張する場合は事前に弁護士に相談することをおすすめします。
遺言によって遺留分を侵害される相続が発生した場合は、相続人は侵害された分を請求することが可能です。
遺留分侵害額請求をすることで、一定額の遺産を取り戻すことができるでしょう。しかし、請求は侵害した人に対して行うので、無視されたり無効や減額を主張される可能性もあります。
侵害額の計算も難しいため、専門家に相談してみるとよいでしょう。
不動産に関するトラブル
相続財産に不動産が含まれると分割が難しくなりトラブルに発展しやすくなります。不動産の分割方法を理解しておくことで、トラブルを避けやすくなるでしょう。
分割方法としては、次の4つがあります。
- 現物分割:不動産をそのまま分割する
- 換価分割:売却してその金額を分割する
- 代償分割:誰か1人が相続して、その分を他の相続人に対して代償金を支払う
- 共有分割:分割せずに相続人全員の名義にする
不動産と別の遺産がある場合は、誰かが不動産を取得し他の遺産を別の人が相続する現物分割が可能です。別の遺産がない場合は、換価分割か代償分割で対処することをおすすめします。
共有分割の場合、将来売却時や新たに相続が発生した場合などでトラブルに発展しやすいので注意しましょう。
また、不動産相続後は速やかに名義変更することをおすすめします。名義変更については、司法書士に相談してみるとよいでしょう。
相続人間のトラブル
相続人間の仲違いや連絡が取れない・前妻の子がいるなど相続人間でトラブルになるケースは多いものです。
相続人間でトラブルになっている場合は、早めに弁護士に相談することをおすすめします。
相続人間のトラブルは、話し合いで解決できる可能性もありますが、お互い感情的になりやすく相続人だけでは解決が難しいことも多いものです。また、遺留分が本来はないのにあると思っているなど一方的な思い込みで主張している場合もあります。
相続のプロで第三者である弁護士を間に挟むことで、お互い冷静に話し合いを進められ解決を目指しやすくなるでしょう。
生前贈与に関するトラブル
不公平な生前贈与が行われると、相続割合が少なくなりトラブルに発展しやすくなります。生前贈与に関するトラブルの解決方法としては、次の様な方法があります。
- 遺留分侵害額請求をする
- 特別受益の持ち戻しをする
生前贈与は条件を満たした贈与の場合、遺留分に含めて計算することが可能です。
生前贈与を含めた額で遺留分を計算することで、請求できる額が大きくなり不公平感をなくせるでしょう。また、特別受益と認められる生前贈与は、遺産分割の際に贈与分を含めた額で分割できます。
このことを「特別受益の持ち戻し」と言います。ただし、請求する相手が「生前贈与ではない」「遺留分額の計算がおかしい」など主張してくる可能性は高いでしょう。
生前贈与に関するトラブルの場合、弁護士に相談することをおすすめします。
寄与分に関するトラブル
誰か1人が寄与分を主張する場合、話し合いで解決することをおすすめします。相続分に上乗せして支払うことでスムーズなトラブル解決が目指せるでしょう。
話し合いで解決できない場合は、調停や訴訟になる恐れがあります。ただし、単に介護していただけでは寄与分が認められる可能性が低い点に注意が必要です。
加えて、調停や訴訟に発展すると時間も費用も掛かり、相続人間の関係性もより悪化してしまいかねません。介護の実績がありその負担に偏りがあるなら、他の相続人も事実を認めて話し合いで円満に解決を目指すとよいでしょう。
弁護士に相談する
相続トラブルは話し合いで解決も目指せますが、トラブルが発生しているなら基本的には弁護士に相談することをおすすめします。
関係性が悪化した状態では話し合いでの解決も難しくなります。弁護士であれば、問題内容や相続人の状況に合わせてベストな解決方法を提案してくれ、手続きのサポートなども受けられます。
相続問題・トラブルに発展しないための対策・予防
相続の問題が発生してしまうと解決が難しく、相続人間の関係性も悪化する恐れがあります。
スムーズに相続するには、相続トラブルに発展しないように対策しておくことが大切です。
トラブルに発展しないための対策・予防法としては、次のような方法があります。
- 遺言書を作成する
- 事前に話し合いを行う
- 財産目録を作成しておく
遺言書を作成する
遺産分割協議になると、それぞれの主張が対立してトラブルに発展しやすくなります。
遺言書を作成しておくことで、相続トラブルを回避しやすくなるでしょう。ただし、遺言書の内容が不公平だとトラブルのもとです。
事前に、「相続人が誰か」「遺留分はどれくらいあるか」「生前贈与の額」を把握したうえで、公平な遺言内容にするようにしましょう。また、遺言書の効力についても理解しておく必要があります。
公平な遺言書を作成しても、見つけてもらえない・要件を満たしておらず無効を主張されてしまうとせっかくの遺言書も意味がありません。公正証書遺言を利用することで、遺言書の紛失や無効を避けやすくなるので、活用することをおすすめします。
事前に話し合いを行う
相続について、生前のうちから話し合っておくことで相続人も納得しやすくなります。家族が集まった際に、被相続人の相続に希望や遺産の内容などを共有しておくとよいでしょう。
生前に相続の話をするのは、最初は気まずいかもしれません。しかし、話し合いを避けたことで相続トラブルに発展するのは、親も子も望まないものです。
できる限り普段から親子のコミュニケーションをとり、少しずつ相続の形を話し合っておくとよいでしょう。
財産目録を作成しておく
相続が発生した時に、財産の内容が不明確ではトラブルに発展しやすくなります。
予想より財産が少なくて誰かが使い込みを疑われる、調べると借金が出てくるといった場合もあります。また、財産を調査するにも時間や費用がかかってしまい、相続人の負担となります。
財産を明確にしておくだけでも、トラブルを防ぎやすくなるものです。
相続問題の事例を事前に確認しておこう!
相続問題のトラブル例や対処法・予防策をお伝えしました。
遺産が少額でも相続トラブルに発展するケースは珍しくなく、相続問題は誰の身にも降りかかりかねない問題です。どのようなトラブルがあるのかを理解しておくと、ある程度対策しやすくなるので、この記事を参考に相続トラブルについて理解しておきましょう。
また、事前の話し合いや財産目録の作成などの対策も重要です。すでに相続トラブルに発展している、また、発展しない対策を検討しているなら弁護士に相談することで円満な相続を目指せるでしょう。