特別受益証明書とは特別受益によって相続分がなくなったことの証明【雛形付】

公開日:2025年1月17日

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特別受益証明書とは、特別受益があったことで相続の取り分がゼロとなったことを証明する書類です。相続登記において、遺産分割協議書の代わりに提出できます。本記事では、特別受益証明書の作成目的や注意点について詳しく解説します。作成の際に参考にできる記載例も掲載しているので、最後まで読んで特別受益者がいる場合の相続手続きに役立てましょう。

特別受益証明書とは

特別受益証明書とは、被相続人から特別受益があったことで相続の取り分がゼロとなることを証明するための書類です。

相続分がゼロとなった相続人が自ら「相続分は不要だ」と書面に記すことが原則ですが、「特別受益により〇〇の相続分はない」と他の相続人らが書面を作成する場合もあります。

特別受益証明書について、以下のポイントごとに詳しく確認しましょう。

  • そもそも特別受益とは
  • 特別受益証明書は「相続分が無いこと」を証明する書類
  • 特別受益証明書を活用した具体例

順番に解説します。

そもそも特別受益とは

そもそも特別受益とは、複数の相続人がいるなかで一部の相続人だけが被相続人から生前に受けていた利益のことです。

たとえば、被相続人の生前に3人兄弟のなかで長男だけがマイホーム資金の援助として600万円受け取っていたとしましょう。相続発生後の遺産総額が3000万円だったとき、長男に生前贈与された600万円を無視して遺産分割をすると不公平です。

そこで、特別受益を考慮して特別受益の600万円を遺産に持ち戻して合計3600万円を3人で遺産分割すると、公平な遺産分割ができます。ただし、特別受益の定義は難しく、専門家でも意見が分かれる場合があります。

特別受益証明書は「相続分が無いこと」を証明する書類

上記のような特別受益があった場合、特別受益を持ち戻して遺産分割をすると相続の取り分がなくなる場合があります。このとき、「相続分がない」ことを証明する書類を特別受益証明書と呼びます。

特別受益証明書は「相続分不存在証明書」や「相続分のないことの証明書」と呼ばれることもありますが、いずれも同じ主旨が記載されている書類です。

本来であれば相続分がゼロになった相続人がいる場合であっても、相続人全員で遺産分割協議を行って誰がどの財産を引き継ぐかを決めて遺産分割協議書を作成しなければなりません。相続放棄の手続きをした場合にかぎって、遺産分割協議に参加しないという選択ができます。

しかし、不動産の相続登記においては、特別受益証明書を提出すれば特別受益者以外の相続人で遺産分割協議をしても手続きを受け付けてもらえます。もし、法定相続人が2人のとき、そのうち1人の特別受益証明書を提出すれば、遺産分割協議書の提出は必要ありません。

このように、遺産分割協議書作成の手間や時間を省くために、特別受益証明書を活用する場合があります。

特別受益証明書を活用した具体例

下記の条件で特別受益証明書を活用した具体例を見てみましょう。

  • 相続人:長男・次男の2人
  • 特別受益者:長男(生前贈与1000万円)
  • 遺産総額:1000万円
  • 遺産分割の対象となる総額:2000万円(遺産総額+特別受益)

このとき、本来であれば長男・次男の2人で遺産分割協議を行って「誰がどの財産を取得するか」を記した遺産分割協議書を作成しなければなりません。しかし、特別受益を持ち戻すと長男に相続の取り分がありません。そこで、特別受益証明書を活用することが可能です。

不動産の相続登記を行う際に、遺産分割協議書や相続放棄の証明書の代わりに長男の特別受益証明書を提出すれば、次男は手続きを完了させることができます。

特別受益証明書の記載例

特別受益証明書には決められたフォーマットはありません。しかし、記載する内容がある程度決まっているため、下記の記載例を参考に特別受益証明書を作成しましょう。

特別受益証明書

被相続人の氏名:相続太郎
被相続人の最後の住所:東京都世田谷区〇〇1-2-3
死亡年月日:令和○年○月○日

 

私は、被相続人の生前中にすでに相続分以上の財産の贈与を受けています。
そのため、上記被相続人の死亡による相続については、受ける相続分がないことを証明します。

 

令和○年○月○日

相続人の氏名:相続一郎 (印)
相続人の住所:東京都文京区〇〇1-2-3

一般的に記載する内容は、下記の通りです。

  • 被相続人の氏名・最後の住所・死亡年月日
  • 作成年月日
  • 特別受益を受けた相続人の氏名・住所
  • 特別受益を受けた相続人の実印

生前贈与された財産の内容を詳細に記載する必要はなく、あくまでも「特別受益によって相続分がないこと」を証明できれば問題ありません。

また、相続登記に特別受益証明書を提出する場合、特別受益を受けた相続人の印鑑証明書の添付が必要です。つまり、特別受益証明書は認印でなく、実印で押印する必要があるため注意しましょう。

特別受益証明書の注意点や知っておきたいこと

特別受益証明書の注意点や知っておきたいことのイメージ

特別受益証明書の注意点や知っておきたいことは、下記の通りです。

  • 特別受益証明書を作成しても相続放棄をしたことにはならない
  • 安易に特別受益証明書にサインをしない
  • 特別受益証明書の有効性が疑われることも
  • 特別受益証明書を作成した人も申告が必要なケースがある

4つのポイントについて、詳しく確認しましょう。

特別受益証明書を作成しても相続放棄をしたことにはならない

特別受益証明書を作成したとしても、相続放棄をしたことにはならない点に注意しましょう。

たしかに、特別受益証明書があれば遺産分割協議を行わずに相続登記の手続きを進めることができます。「遺産を受け取らない」「遺産分割協議に参加しない」という点は相続放棄をしたときと同じです。

しかし、実際には相続放棄の手続きをしなければ相続人という立場は継続します。以下のような場合には、相続放棄の手続きを行いましょう。

  • 相続トラブルに巻き込まれたくない
  • 被相続人の借入金の返済義務を負いたくない
  • 特定の相続人に財産を相続させたい

なお、相続放棄は、相続開始を知った日から3か月以内の熟慮期間に手続きを完了させなければなりません。すでに相続が発生している場合は、相続に詳しい専門家に相談して確実に相続放棄できるよう準備を進めましょう。

安易に特別受益証明書にサインをしない

他の相続人や親戚らから特別受益証明書へのサインや押印を求められても、安易に対応しないよう注意しましょう。

従来、特別受益証明書は特別受益を受けた本人が作成するものです。しかし、なかには他の相続人から特別受益証明書にサインや押印を求められる場合があります。

あらかじめ話し合いが行われ、本人から書面を作成してほしいと依頼したのであれば問題ありません。しかし、なんの話し合いもなくサインや押印を求められる場合、特別受益者を遺産分割協議に参加させたくない意図がある可能性を疑いましょう。

そもそも被相続人から多くの生前贈与を受けていたとしても、すべてが特別受益に該当するとは限りません。たとえば、生活のサポートや結婚式費用などは特別受益にみなされないケースもあります。特別受益に該当するかどうかは、被相続人の社会的地位や資産状況などの多方面から判断されるものです。

特別受益証明書には特別受益の内容を詳しく記す必要がないため、他の相続人も簡単に作成することができます。自分が受けた生前贈与が特別受益に該当し、相続分がないことが明らかでない限りは、他の相続人から特別受益証明書へのサインや押印を求められても対応しないようにしましょう。

特別受益証明書の有効性が疑われることも

なかには生前贈与を受けていないにもかかわらず、特別受益証明書を活用して相続登記を行うケースがあります。一度は登記が完了したとしても、あとから特別受益証明書の有効性が疑われる場合があるため注意しましょう。

もし、特別受益証明書が無効だと判断されれば相続登記も無効となり、抹消登記をしなければなりません。

実は、特別受益がなかったとしても本人が了承しているのであれば特別受益証明書は有効であるという見解がある一方、記載事実が虚偽であることから特別受益証明書は無効であるという見解が専門家によっても分かれます。

当然、他の相続人が特別受益証明書を本人の許可なく作成した場合にも、無効になります。このように、特別受益証明書の有効性については議論が尽くされておらず、どのような結果になるかがわかりません。

実際に特別受益がなかったのであれば相続登記の手続きのために特別受益証明書を作成するようなことはせず、協議を行ったうえで遺産分割協議書を作成する通常の手順で相続登記の手続きをするようにしましょう。

特別受益証明書を作成した人も申告が必要なケースがある

特別受益証明書を作成した相続人に遺産の取り分はないものの、贈与税や相続税の申告が必要となる場合がある点に注意しましょう。

生前贈与の内容が非課税となる場合を除き、最長7年まで遡って贈与税の申告が必要となる場合があります。贈与税の申告では、贈与を受けた時点における時価で評価額を計算します。

また、相続開始前の一定期間内に生前贈与された財産は、相続税の計算において遺産に持ち戻して計算しなければなりません。そのため、相続分がゼロになる場合であっても、相続税の申告が必要となるケースがあります。なお、特別受益の額は、相続発生時の時価で相続税を計算します。

生前贈与があった場合の相続税の計算はとても複雑になるため、相続税に強い税理士に相談するようにしましょう。

たとえ無自覚であっても申告義務があるにもかかわらず、申告を怠るとペナルティが課される可能性があります。相続税や贈与税の申告の必要性があるかどうかだけでも税理士に確認することをおすすめします。

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特別受益証明書を作成する前に専門家に相談しよう

特別受益証明書とは、被相続人から特別受益があったことで相続の取り分がゼロとなることを証明するための書類です。特別受益証明書があれば、相続登記の際に遺産分割協議に参加する必要がなくなり、他の相続人が行う相続登記手続きでも活用できます。

しかし、自分が納得していない状態で特別受益証明書にサインや押印を求められた場合は、安易に対応しないようにしましょう。あなたを遺産分割協議に参加させたくない意図が隠れているかもしれません。

また、手続きを簡易に行うために、特別受益証明書を作成するケースがありますが、有効性が疑われると手続きに時間やお金がかかってしまいます。ただ簡素化したい目的で作成せずに、原則通りに遺産分割協議を行うことを推奨します。

遺産分割協議や相続手続きが面倒だと感じる場合には、相続に強い弁護士や司法書士の力を借りることも検討しましょう。スムーズに相続手続きが終えられるよう、協議に参加したり必要書類を準備してくれたりと面倒なことをお任せできます。

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記事の著者紹介

安持まい(ライター)

【プロフィール】

執筆から校正、編集を行うライター・ディレクター。IT関連企業での営業職を経て平成30年にライターとして独立。以来、相続・法律・会計・キャリア・ビジネス・IT関連の記事を中心に1000記事以上を執筆。

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