持分移転登記とは?共有持分の相続や手続き方法、注意点を理解しよう

公開日:2023年12月13日

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2人以上の人と共有している不動産の名義を変更するための手続きを持分移転登記と呼びます。

しかし、どのように手続きすべきか悩んでいる方も多いのではないでしょうか。

本記事では、持分移転登記の手続き方法や費用について解説します。注意点についても説明するため、共有名義の不動産を相続する方や、売買取引する方は参考にしてください。

持分移転登記とは?

持分移転登記とは、不動産の共有持分の名義変更をするために行う登記手続きです。1つの不動産の一部だけを名義変更する場合に行います。

持分移転登記をするときのパターン例を見てみましょう。

  • A・Bの共有不動産のAの持分をC名義に変更する
  • A・Bの共有不動産を100%A名義に変更する
  • A・Bの共有不動産をA・B・Cの共有不動産に変更する

このように、100%の所有権を移転させるのではなく、不動産の一部である共有持分の名義を変更する際に持分移転登記を行います。

持分移転登記をすると正式に所有者として登記されるため、第三者に対して権利の主張が可能となります。もし、持分を相続・売買などで取得したとしても、持分移転登記をしなければ持分を主張することはできません。

不動産の一部や、共有名義の不動産を取得する際には、すみやかに持分移転登記の手続きを進めましょう。

所有権移転登記との違い

持分移転登記と所有権移転登記の違いは、移転する権利の割合です。

手続きの種類移転する権利の割合
持分移転登記共有持分(100%未満)
所有権移転登記100%

「不動産の所有者情報を変更する」といった大きな枠組みは同じですが、移転する権利の割合によって手続きの種類が異なると覚えておきましょう。

手続き方法や必要書類などに大きな違いはありません。

持分移転登記が必要になるケース

持分移転登記が必要となるケースの例は、以下の通りです。

  • 共有持分を相続した場合
  • 離婚の財産分与によって共有持分を取得した場合
  • 共有持分を売買した場合
  • 共有持分を放棄した場合
  • 共有物分割請求により代償分割を選択した場合

順番に確認しましょう。

共有持分を相続した場合

被相続人が遺した相続財産のなかに共有持分が含まれている場合に、持分移転登記が必要です。具体的には、以下のようなケースが当てはまります。

  • 被相続人の持分である30%の部分を長男が相続する
  • 被相続人の持分である50%の部分を配偶者・長男の2人が相続する

このように、被相続人100%所有の不動産でない場合に持分移転登記を行います。

離婚の財産分与によって共有持分を取得した場合

離婚の財産分与によって持分移転登記が必要となる場合があります。たとえば、「夫婦でペアローンを組んでいたが、離婚によって夫の名義部分を妻名義に変更する」といったケースです。

登記手続きは、離婚成立後に行います。2人で共同申請する必要があるため、約束したことを証明できるよう離婚協議書を作成しておきましょう。

共有持分を売買した場合

共有持分の売買によって持分の所有者が変わった場合には、持分移転登記の手続きが必要です。持分を売却する人を義務者、持分を購入した人を権利者と呼び、共同申請を行います。

共有持分を放棄した場合

共有持分を放棄したときにも、持分移転登記の手続きを行います。不動産の共有者が持分を放棄して、その持分が他の共有者に分配されることを持分放棄と呼びます。

たとえば、兄弟3人で以下のように1つの不動産を共有していたとしましょう。

  • 長男:50%
  • 次男:30%
  • 三男:20%

このとき、長男が持分放棄すると、持分割合に応じて以下のように分配されます。

  • 長男:持分放棄によって0%
  • 次男:60%
  • 三男:40%

持分放棄による手続きの場合、放棄する人と分配される人との共同申請が必要です。

共有物分割請求により代償分割を選択した場合

共有分割請求によって代償分割を選択したときにも、持分移転登記をしなければなりません。

共有分割請求とは、複数人で所有しているものの共有関係の解消を求めることです。また、代償分割は、共有分割請求を行った人の持分を買い取って共有関係を解消することを指します。

一部の持分を他の共有者の名義に変更する必要があるため、持分移転登記の手続きを行います。

持分移転登記の手続き方法と費用

ここからは、持分移転登記の手続き方法と費用について解説します。

  • 必要書類
  • 費用
  • 手続きの流れ

順番に確認し、実際に持分移転登記を行うときのイメージを具体化させましょう。

必要書類

手続きに必要な書類は、相続か、それ以外かで異なります。それぞれ確認しましょう。

相続の場合

相続によって持分移転が発生した場合には、以下のような書類が必要です。

<必要書類>

  • 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本一式
  • 被相続人の住民票除票
  • 相続人全員の戸籍謄本
  • 土地・不動産を相続する人の住民票
  • 不動産の評価証明書(固定資産評価証明書)
  • 遺言書※遺されていた場合のみ
  • 遺産分割協議書+相続人全員の印鑑証明書※遺言書がない場合のみ
  • 相続関係説明図※戸籍謄本の原本を返却してもらいたいとき

遺産分割協議を行った場合、不動産の相続人となった人が単独で申請できます。

一方、遺産分割協議を行わなかった場合には、相続人全員で共同申請をします。ただし、公平性があるため、相続人のなかから代表者を決めて単独で申請することも可能です。

相続以外の場合

売買や財産分与など、相続以外の原因によって持分移転を行う場合、以下のような書類が必要です。

  • 登記原因証明書情報(売買契約書や領収書、離婚協議書など)
  • 登記済権利証または登記識別情報
  • 権利者の住民票
  • 義務者の印鑑証明書
  • 固定資産評価証明書

相続以外では、権利者と義務者の両名義で申請を行います。協力して書類を集めましょう。

費用

持分移転登記にかかる費用は、主に以下の3つです。

  • 書類発行の実費
  • 登録免許税
  • 専門家への報酬(依頼した場合)

対象の不動産の評価額や持分によって変動するため、費用総額の目安を一概に言い切ることはできません。また、専門家へ依頼するかどうかによっても発生する費用総額は変わります。

それぞれの費用相場について確認しましょう。

書類発行の実費

上記で説明した必要書類の取得には、実費で発行費用がかかります。目安は1000〜3000円程度ですが、手続きで求められる書類の数はケースごとに異なります。

市区町村役場で住民票や印鑑証明書を発行する際の実費は、以下の通りです。

書類名取得費用
戸籍謄本450〜750円/1通あたり
住民票・住民票除票200〜300円/1通あたり
印鑑証明書200〜300円/1通あたり
固定資産評価証明書300〜400円

相続が原因で手続きをする場合、相続人の数だけ必要書類の数も増えます。そのため、実費でかかる費用も増えてしまいます。

登録免許税

登録免許税は、登記手続きをする際に納めなければならない税金です。登録免許税の額は、以下の計算式にて算出します。

登録免許税額=不動産の評価額×持分の割合×税率

共有持分移転の税率は、原則2.0%です。ただし、相続による場合の税率は0.4%です。

また、不動産の種類や登記を行う理由によって、以下のように軽減措置が受けられます。

本則軽減措置
土地の売買による所有権移転登記2.0%1.5%(令和8年3月31日まで)
住宅用家屋の売買・競売による所有権移転登記2.0%0.3%(令和6年3月31日まで)
相続登記0.4%評価額100万円以下の土地であれば免税措置が受けられる(令和7年3月31日まで)
その他の所有権移転登記2.0%

ほかにも、一定の条件を満たせば軽減措置が受けられる不動産があります。国税庁や法務局、専門家に詳細を確認しましょう。

参照:No.7191 登録免許税の税額表|国税庁相続登記の登録免許税の免税措置について|法務局土地の売買や住宅用家屋の所有権の保存登記等に係る登録免許税の税率の軽減措置に関するお知らせ|税務署

専門家への報酬(依頼した場合)

手続きを司法書士に依頼した場合、報酬が発生します。持分移転登記を依頼した場合の報酬の相場は、2〜6万円程度です。

ただし、共有名義人や相続人の数が多いと複雑な手続きとなるため、追加費用が発生する場合もあります。必ず事前に見積もりを提示してもらい、納得のうえ依頼しましょう。

手続きの流れ

持分移転登記の手続きの流れは、以下の通りです。

  1. 必要書類を揃える
  2. 登記申請書を作成する
  3. 法務局に提出する
  4. 持分移転登記完了の書類を受け取って完了

申請できる法務局は、不動産を管轄している法務局です。直接窓口に持ち込まなくても、郵送やオンラインでも提出できます。

不備や漏れがある場合、法務局から連絡が入ります。すみやかに対応し、申請を却下されないよう注意しましょう。

申請後、問題なければ1〜2週間程度で登記が完了します。登記完了後、登記識別情報が発行されるため、法務局に直接行くか、郵送で受け取りましょう。

持分移転登記を行わないリスク

持分移転登記を行わないリスクのイメージ

持分移転登記の必要が出てきたら、早めに手続きを完了させましょう。所有権が移動しているにもかかわらず、そのまま手続きをせずにいると以下のようなリスクが発生します。

  • 固定資産税の請求が前の共有者に届く
  • 相続の場合新たな相続人が増え複雑になる

順番に確認しましょう。

固定資産税の請求が前の共有者に届く

持分移転登記を行わないままだと、移転前の共有者に固定資産税の納税通知が届いてします。なぜなら、1月1日時点で所有している人に固定資産税の納税義務が発生するからです。

いつまでも放置していると、毎年固定資産税の納税通知が移転前の共有者に届くため注意しましょう。

相続の場合新たな相続人が増え複雑になる

相続によって取得した共有持分を放置していると、新たに相続が発生して複雑になる可能性があります。

たとえば、兄弟2人共有名義の不動産があったと仮定しましょう。

  • 兄Aの持分50%
  • 弟Bの持分50%

兄Aが死亡し、その配偶者Cと娘Dが相続するとします。しかし、手続きもしないまま娘Dが死亡すると、新たな相続人である娘Dの配偶者や子どもが相続することとなります。

このように、新たに相続人が増えてしまうと相続が複雑化し、その分手続きも煩雑になりかねません。さらに弟Bも死亡すると、Bの配偶者や子どもが相続することとなります。

相続が繰り返されるうちに誰と共有している不動産なのかがわからなくなり、不動産の扱いについての意思決定が遅れてしまいます。このような事態を引き起こさないためにも、不動産を相続したらすみやかに手続きを完了させましょう。

持分移転登記を行う際の注意点

持分移転登記を行う際には、以下の3つの注意点があると理解しておきましょう。

  • 相続・持分放棄・それ以外で申請者が異なる
  • 「登記の目的」の書き方が場合によって異なる
  • 安易な共有持分の移転登記にはリスクが伴う

あらかじめ確認し、スムーズに手続きを進めてくださいね。

相続・持分放棄・それ以外で申請者が異なる

相続・持分放棄・それ以外で申請者が異なる点に注意しましょう。以下の表で、申請者が誰になるのかをまとめました。

持分移転登記の発生原因申請者
相続新たに持分を取得した人(相続人)のみ
持分放棄放棄する人と他の共有者全員
譲渡(売買・贈与)・財産分与など持分を譲渡する人(権利者)と新たに持分を取得する人(義務者)

申請者全員の必要書類を提出しなければならないため、申請には自分以外の人の協力が欠かせません。相続が繰り返されて共有者が増えると連絡が取りづらくなるため、注意しましょう。

「登記の目的」の書き方が場合によって異なる

申請書の「登録の目的」の書き方が、単有の不動産とは異なります。

共有の場合、「誰からどれほど移転したか」を「登記の目的」の欄に明記しなければなりません。具体的には、以下のように記載します。

  • Aの持分の一部をBに移転する場合:A持分一部移転
  • Aのすべての持分をBに移転する場合:A持分全部移転

所有権移転登記とは記載方法が異なるため、注意しましょう。

安易な共有持分の移転登記にはリスクが伴う

安易な共有持分の移転登記にはリスクが伴うため、目的と効果をよく検討しましょう。なぜなら、売却や大規模リフォームをする際には共有者全員の同意が必要となるからです。

たとえば、2人で共有している不動産で家賃収入を得ていたと仮定します。それぞれの息子に家賃収入を分けるために、共有持分の一部を移転する手続きをしました。

今までは売却や大規模リフォームをする際には2人で決めて実行できていたものの、それぞれの息子にも持分が発生したため、合計4人の合意が必要となります。

1人でも合意しなければ実行できないため、意思決定スピードの低下は避けられません。このように共有者の人数が増えると、トラブルを招く原因になります。

不動産の処分行為にあたっては、意見が合わないと訴訟問題にまで発展するケースもあります。そのため、安易な共有持分の移転登記は控えましょう。

持分移転登記は早めに手続きを済ませよう

不動産の共有持分を移転するのであれば、忘れないうちに手続きを済ませましょう。相続によって持分移転登記が発生した場合、放置したままにしておくと次の相続が発生して手続きが複雑化する恐れもあります。

時間的な余裕のない方や、手続きに不安のある方は、登記の専門家である司法書士に依頼することをおすすめします。迅速に正確な対応をしてくれます。

作業の一部分だけを依頼することも可能です。積極的に司法書士を頼って、煩わしさから解放されましょう。

著者紹介

安持まい(ライター)

執筆から校正、編集を行うライター・ディレクター。IT関連企業での営業職を経て2018年にライターとして独立。以来、相続・法律・会計・キャリア・ビジネス・IT関連の記事を中心に1000記事以上を執筆。

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本記事の内容は、記事執筆日(2023年12月13日)時点の法令・制度等をもとに作成しております。最新の法令等につきましては、専門家へご確認をお願いいたします。万が一記事により損害が発生することがあっても、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。

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