「生前贈与のやり方が知りたい」とお悩みではありませんか。生前贈与は単純に金銭や不動産を他人に渡すだけでなく、贈与計画書を作成したうえで財産を移動させなければなりません。また、注意点をおさえておかなければ、余分な税金が発生することも十分に考えられます。本記事では生前贈与のやり方や注意点を徹底解説します。
生前贈与とは
生前贈与とは、生きているうちに財産を他者に無償で譲り渡すことです。財産には、現金・預金に限らず、不動産や有価証券、特許権・著作権など金銭に見積もれる経済的価値のあるものが含まれます。
財産を渡す側(贈与者)と受け取る側(受贈者)の双方が合意の意思を表明することで、生前贈与は成立します。もし、贈与者が一方的に「孫に生前贈与する」と言っても、受贈者である孫が「受け取りたくない」と言えば、生前贈与は成立しません。
また、いつでも・誰にでも・何度でも生前贈与することが可能です。そのため、生前贈与は節税目的で行われるケースも少なくありません。生前贈与しておけば、相続が発生したときの財産が減っているため、相続税を節税できるからです。
ただし、税金対策のためだけに生前贈与を考えているのであれば相続税には基礎控除があるため生前贈与しなくても良いかもしれません。次の章で相続税の基礎控除について確認しましょう。
「生前贈与」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
遺産額が基礎控除以下なら相続税はかからない
税金対策のためだけに生前贈与をしようと考えているのであれば、面倒な生前贈与をしなくても良いかもしれません。
なぜなら、生前贈与をしなくても相続税が発生しないケースもあるためです。そもそも、遺産の総額が基礎控除額を上回っていない場合、相続税の申告・納税の義務はありません。
基礎控除額は法定相続人の人数によって異なり、以下のように計算します。
基礎控除額=「3000万円+(600万円×法定相続人の人数)」
たとえば、法定相続人が妻・息子2人だった場合、基礎控除額の計算式は以下の通りです。
基礎控除額=3000万円+(600万円×3人)=4800万円
このとき、遺産総額が4800万円を超えていなければ、相続税の申告・納税の義務はありません。
また、以下のような控除や特例が設けられています。
- 配偶者控除:相続額1億6000万円、または法定相続分(遺産の50%)までは課税されない
- 小規模宅地等の特例:土地の評価額を最大80%減額できる
控除や特例を用いれば、あなたが思っているよりも相続税はかからないかもしれません。生前贈与か相続かどちらが節税になるのかはご家庭の事情によって変わります。税金対策のために生前贈与を考えているのであれば、先に専門家に相談してから判断しましょう。
「相続税」について、詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。
生前贈与の流れ・やり方
生前贈与のやり方について解説します。生前贈与の流れは、以下の通りです。
- 生前贈与の目的を決め、計画を立てる
- 内容を話し合い合意を得る
- 贈与税の課税方法を選ぶ
- 贈与契約書を作成する
- 贈与する財産を受贈者に移す
手順ごとに詳しく確認しましょう。
生前贈与の目的を決め、計画を立てる
まず、生前贈与の目的を決めて、計画を立てましょう。
生前贈与の大きなメリットは、相続税の税金対策ができることと自分で財産の譲り先を決められることです。
たとえば、相続であれば法定相続人に孫が含まれないため、遺言書を書いたとしても必ずしも孫に財産を引き継いでもらえるとは限りません。しかし、生前贈与であれば、法定相続人以外の人にも財産を譲り渡せます。また、「家を建てる」「留学をする」など、受贈者に支援が必要なタイミングで財産を渡すことも可能です。
このように、生前贈与をする目的を明確にしたうえで、本当に目的が果たせるのかを税理士に相談することをおすすめします。
多くのケースにおいて、生前贈与は相続税対策のために行われます。しかし、生前贈与以外の手段で財産を譲り渡した方が税金対策につながることも少なくありません。そのため、税金に精通した税理士と一緒に計画を立てましょう。
内容を話し合い合意を得る
生前贈与の内容を受贈者と一緒に話し合って、双方の合意を得ましょう。なぜなら、一方的に贈与しても贈与契約として成立しないためです。
このとき話し合うべき内容は、以下の通りです。
- 「誰から」
- 「誰に」
- 「いつ」
- 「何を」
- 「どうやって贈与するか」
「誰から」「誰に」はすでに決まっているはずのため、残りの「いつ」「何を」「どうやって贈与するか」を決めていきます。
贈与税の課税方法を選ぶ
生前贈与をする際、贈与税の課税方法を選びましょう。贈与税には、以下の2つの課税方法があります。
- 暦年贈与
- 相続時精算課税制度
違いは、以下の通りです。
課税方法 | 違い |
---|---|
暦年贈与 | 年間110万円までは非課税。110万円を超えた額には累進課税される |
相続時精算課税制度 | 累積された贈与額2500万円までは非課税。 2500万円を超えた額に一律20%の贈与税が課税されるが、相続税額から差し引かれる。 |
相続時精算課税制度を活用するには、原則「60歳以上の両親(もしくは祖父母)」から「18歳以上の子供(もしくは孫)」への贈与が対象です。
また、令和5年度の税制改正によって相続時精算課税制度にも基礎控除年間110万円が創設されています。令和6年1月1日以降の贈与から適用されるため、制度を活用するかどうかや、贈与の時期についても検討しましょう。
参照:令和5年度相続税及び贈与税の税制改正のあらまし|国税庁
贈与契約書を作成する
つづいて、贈与契約書を作成しましょう。書類に残すことで、生前贈与について合意した内容を明確化し、トラブルを防止します。
贈与契約書に雛形はありませんが、以下の内容を記載しましょう。
- 誰があげるのか(贈与者の氏名・住所)
- 誰にあげるのか(受贈者の氏名・住所)
- いつあげるのか(贈与した日)
- 何をあげるのか(贈与財産の種目・内容・金額)
- どうやってあげるのか(贈与の方法)
- 贈与者・受贈者の署名と実印による捺印
手書きでもパソコンでも、どちらで作成しても問題ありません。また、不動産の贈与を行う際には200円の収入印紙が必要です。
贈与契約書を作成する理由・メリット
贈与契約書を作成する目的は、生前贈与の内容について合意した証拠を残すことです。
贈与契約書があれば、双方で合意した贈与の内容の撤回が不可能となります。逆に、書面を交わしていないと、撤回が可能です。たとえば、100万円の贈与をする約束だったにも関わらず、先に30万円を振り込んだあと「やっぱり70万円は渡さない」「やっぱり70万円は受け取りたくない」と主張できてしまいます。
また、税務調査があった場合にも贈与内容の証明として使えます。年110万円までの贈与には贈与税の申告・納税の義務はありません。そのため、毎年110万円までの額であれば相続税対策に有効です。
しかし、相続が発生したときに「被相続者の所得にしては遺産総額が少ない」と指摘を受けることがあります。過去10年ほどの金融機関の口座履歴が確認されたときに毎年100万円程度の預金の移動がある場合、「名義は孫だが、実際には被相続人が管理していて、節税のために贈与に見せかけていただけではないか」と疑われるケースは少なくありません。
このとき、贈与契約書を提示すれば生前贈与であったことを証明できます。疑いが晴れなければ余分な税金を支払う羽目になりかねないため、しっかり贈与契約書を作成し、保管しておくことが大切です。
贈与する財産を受贈者に移す
最後に、贈与契約書で定めた目的の財産を受贈者に移しましょう。贈与契約書を交わしただけでは、生前贈与は完了していません。
金銭の場合、贈与した日や金額の履歴が残るため振り込みをおすすめします。不動産の場合、所有権の移転登記を法務局で行います。
いずれにしろ、贈与契約書に記載した日付・方法に従って財産を受贈者に移しましょう。
「不動産の贈与」について、詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。
また、財産を受贈者に移したあと、年間110万円を超える生前贈与であった場合には、贈与税を申告・納付の手続きが必要です。
「生前贈与や贈与税」について、詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。
生前贈与をやるときの注意点
生前贈与をやるときには、以下の3つのポイントに注意しましょう。
- 現金手渡しや名義預金をしない
- 毎年同じ額の贈与はやめておく
- 生前贈与は早めに始めたほうがお得
順番に確認し、生前贈与におけるトラブルを防ぎましょう。
現金手渡しや名義預金をしない
生前贈与では、現金の手渡しや名義預金を控えましょう。なぜなら、実際に生前贈与が行われたかどうかの証明ができなくなるからです。
とくに名義預金は要注意です。名義預金とは、口座の名義人と実際にお金を管理している人が異なる預金を指します。たとえば、親が管理していて子が自由に使えない場合、名義預金とみなされます。
名義預金は、他人の名義を借りただけで実質的には被相続人の財産だと判断され、相続税の対象です。相続発生後、税務調査の対象となりやすいため注意しなければなりません。
銀行振り込みであれば口座の履歴が税務調査のときにも、暦年贈与の証明になります。実際に受贈者が利用している口座に振り込むようにしましょう。
毎年同じ額の贈与はやめておく
毎年同じ額を贈与し続ける行為は控えましょう。
たしかに、暦年贈与だと毎年110万円までなら非課税ですので、税金対策のために110万円ずつ贈与したいと考える方は少なくないでしょう。しかし、毎年同じ額を贈与していると、定期贈与と判断され贈与税が課税される可能性があります。
定期贈与とは、「10年間110万円贈与する」といったように一定期間に一定の財産を贈与する行為です。一見問題がないように感じますが、定期贈与は総額1100万円を贈与する契約を交わして毎年分割して財産を移していることとなります。
つまり、契約をした総額1100万円に対して贈与税が発生するため、110万円の基礎控除には収まりません。ちなみに暦年贈与における贈与税は、累進課税です。あとから税務署から指摘されると、高額な贈与税を支払わなければなりません。
定期贈与とみなされないためには、以下の対策が有効です。
- 毎年贈与契約書を作成する
- 毎年違う時期に贈与する
- 毎年違う額を贈与する
贈与者と受贈者の双方で計画を立て、定期贈与とみなされないように対策しましょう。
生前贈与は早めに始めたほうがお得
相続税対策のために生前贈与をするのであれば、早めに開始するほうがお得です。なぜなら、相続開始前3年以内の贈与財産は贈与財産ではなく、遺産であると判断されるからです。つまり、相続税の対象として、贈与された財産が遺産に加算されます。
ちなみに、この「3年」は令和5年度の税制改正で7年に延長されることが決定しました。令和6年1月1日以降の相続開始年度によって加算対象となる贈与年数が徐々に増えていき、令和13年1月1日以降の相続税申告から加算対象は7年間となります。
せっかく相続税対策のために生前贈与したにもかかわらず、遺産に加算されてしまえば節税はできません。元気なうちから長期的に計画を立て、税金対策を実施しましょう。
参照:令和5年度相続税及び贈与税の税制改正のあらまし|国税庁
生前贈与のやり方や税金の仕組みを理解しておこう
生前贈与は相続税対策のために実施されることが多いですが、もし基礎控除を下回る財産であれば相続税の心配はありません。しっかり生前贈与について理解を深めておかなければ、かえって税金がかかる場合もあります。
また、生前贈与をする際には贈与契約書を交わしておかなければ、のちの税務調査によって余分な税金が発生するかもしれません。しっかりと生前贈与をする目的を明確にし、効果を理解したうえで実施しましょう。
そのためには税金の専門家である税理士の力が必要です。税金対策は人によってふさわしい方法が異なるため、あなたにとって最適な節税方法をアドバイスしてもらいましょう。