デジタル遺産とは?放置するリスクや相続時の注意点をわかりやすく解説

公開日:2024年12月25日

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デジタル遺産は発見しにくく、発見できてもアクセスできないなどトラブルに発展しやすい遺産です。かといってデジタル遺産を放置していると、損失が発生するなどのリスクもあるので適切に対処する必要があります。この記事では、デジタル遺産の基本や通常の相続財産との違い・注意点などをわかりやすく解説します。

デジタル遺産とは

デジタル遺産とは、デジタル形式で保管されている遺産です。パソコンやスマホ・タブレットなどの端末に保管されている財産を指します。

デジタル遺産については明確な定義はありませんが、デジタル形式で保管されているもののうち、財産価値のあるものだけを指しているケースが一般的です。また、財産価値のあるデジタル遺産は相続の対象となります。

近年はデジタル化が進んでおり、デジタル遺産で相続が発生するケースも少なくありません。しかし、デジタル遺産は発見が難しい・発見してもアクセスできないなど相続でトラブルに発展しやすい遺産でもあります。今後、デジタル遺産の相続はより増加することが予測されるため、デジタル遺産について理解しておくことが大切です。

デジタル遺産の例

デジタル遺産にもいくつか種類がありますが、代表的なデジタル遺産は以下のとおりです。

  • ネット銀行・ネット証券の口座
  • 電子マネーの残高
  • 暗号資産(仮想通貨)
  • FX口座
  • 各種ポイントサービスのポイントやマイレージ
  • NFTアートやデジタル著作物

ネット銀行などの口座や電子マネーは金銭的価値がわかりやすいでしょう。近年は、仮想通貨やFX取引をする人も増えており、なかには高額な資産を保有しているケースも少なくありません。

見落としがちなのがポイントや著作物などです。デジタル端末で画像や音楽などを作成した場合、著作物に著作権が認められ金銭的価値を生み出すケースがあります。なかにはデジタルアートの唯一性を証明できるようにしたNFTアートを保有しているケースも増えています。

なお、ネット銀行・ネット証券の残高や保有証券は、デジタル遺産ではなくそのまま「現預金」「有価証券」としてあえて区分しない場合もあります。

デジタル遺産とデジタル遺品の違い

デジタル形式で保管されているもののうち金銭的価値のある財産をデジタル遺産、金銭的な価値のないものがデジタル遺品です。

デジタル遺品としては、以下のようなものが挙げられます。

  • 動画や写真・ダウンロードした音楽データ
  • 作成した文章や投稿
  • SNSなどのアカウント

デジタル端末やインターネット上に保管されている画像などのデータ、SNSなどのアカウントや投稿データなどデジタル形式の中でも金銭的な価値のないものがデジタル遺品です。ただし、デジタル遺品まで含めてデジタル遺産とするケースもあります。

デジタル遺産と通常の相続財産の違い

デジタル遺産は通常の相続財産と異なる点もいくつかあります。

相続における扱いの違いは無い

相続の仕方としては、デジタル遺産と通常の相続財産の違いはありません。デジタル遺産であっても通常の相続財産と同じ流れで相続することになります。

デジタル遺産を含めた財産の大まかな相続の流れは、以下のとおりです。

  • 遺言書の確認
  • 相続財産・相続人の確定
  • 遺産分割協議
  • 相続手続き
  • 相続税の申告

相続財産・相続人を明確にしたら、遺言書または遺産分割協議に従って相続人で遺産を分配しそれぞれ相続手続きを進めます。デジタル遺産の場合も、相続人が各種サービスに応じた相続手続きを進めることになります。

また、デジタル遺産も相続税の対象です。デジタル遺産と通常の相続財産を合わせて基礎控除を超えると、相続税が課税されるので相続税の申告・納税をします。

デジタル遺産が含まれているからといって、相続の流れが変わるわけではありません。しかし、デジタル遺産が含まれると相続の手続きが複雑になり、トラブルも発生しやすくなるので注意しましょう。

「相続手続き」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

相続人に認識されない、認識できてもアクセスできない場合がある

デジタル遺産は現預金や通帳・不動産のように実体がないため、発見されにくいという特徴があります。パソコンやスマホ・インターネット上に保管されており、本人でなければログインどころか、どのサービスを利用しているかわからないケースも少なくありません。

仮に、デジタル遺産がどこにあるのかがわかっても、パスワードがわからずにアクセスできないケースも多いものです。なかには、故人のスマホやパソコンを早々に処分してしまい、著作物のデータが処分された・スマホの二段階認証ができずにアクセスできないケースもあります。特に、ネット銀行やネット証券などの金融資産はログインのハードルが高いので、パスワードやサービスの情報が遺されていないとアクセスできない可能性が高くなります。

相続手続きが大変な場合も多い

現預金などの通常の相続財産は、利用している会社などによって多少の手続きの違いはありますが、おおむね手続きは確立されています。また、対面や電話相談などで相続手続きのサポートを受けられるケースも多いでしょう。

一方、デジタル遺産は、ネット上にあるため相続手続きが煩雑になりがちです。デジタル遺産は遺産の種類が幅広くサービスも豊富にあるため、各サービスに応じて個別に相続手続きを進める必要があります。

金融資産1つにしても複数のサービスを利用しているケースも多く、利用するサービスが多いほど手続きの手間と時間も必要です。相続手続きもネットで行う必要があるケースが多いので、ITリテラシーも必要でしょう。パソコン操作やネットに詳しくないという人は、手続きにかなり苦戦する恐れがあります。

また、デジタル遺産によっては海外のサービスを利用しているケースもあります。特に、暗号資産・FXは海外事業者が運営するサービスも多く、日本のサービスよりも手続きが煩雑になる恐れがあります。利用しているサービスによっては、名義変更などの相続手続きを認めていない場合もあるので注意が必要です。

デジタル遺産の有無を調べる方法

被相続人がデジタル遺産の有無を明らかにしていない場合、デジタル遺産があるかの調査が必要です。デジタル遺産も相続財産に含まれるため、後から発見されると相続でトラブルになりかねません。また、デジタル遺産の種類によっては発見が遅れると損失が出る恐れもあるので、できるだけ早く発見する必要があります。

デジタル遺産の有無を調べる大まかな流れは、以下のとおりです。

  • デジタル端末のロック解除
  • 通帳や郵送物・クレジットカード履歴の確認
  • アプリやデータ・メールなどのチェック
  • 専門業者に依頼

それぞれ見ていきましょう。

デジタル端末のロック解除

まずは、パソコンやスマホのロックの解除が必要です。被相続人からパスワードを生前に聞いていた・パスワードのメモがあるならすぐに解除できるでしょう。パスワードがわからない場合は誕生日などで試してみる方法もあります。

ただし、複数回パスワードを間違えるとログインできなくなるサービスもあるので注意が必要です。どうしてもパスワードがわからず解除できない場合は、専門の業者に依頼して解除してもらうとよいでしょう。

通帳や郵送物・クレジットカード履歴の確認

利用しているサービスの見当が付かない場合、通帳や郵送物・クレジットカードの履歴にそれらしいサービスの利用例がないかチェックすることでも有無を確認できます。履歴で取引の形跡がある場合、サービスの運営会社に死亡の事実を伝えるとデジタル遺産があるかがわかるでしょう。

アプリやデータ・メールなどのチェック

デジタル端末に保存されているアプリやメールの履歴・ブックマークされているサイトなどをチェックして確認できます。

専門業者に依頼

データが削除された形跡があるパスワードがわからないなど、自分の調査ではデジタル遺産にアクセスできない場合、データを取り出す専門業者へ依頼する方法もあります。専門業者であれば削除したデータの復元やロックの解除などが可能です。

ただし、専門業者は費用が高額になるケースもあり、悪質業者による不正利用の恐れもあるので依頼するか・どの業者に依頼するかは慎重に検討しましょう。

デジタル遺産を相続する上での注意点・知っておきたいこと

デジタル遺産を相続する上での注意点・知っておきたいことのイメージ

デジタル遺産の相続は見つからない以外にもトラブルに発展しやすいため、スムーズな相続のための注意点や押さえておきたいポイントがいくつかあります。以下で注意点や知っておきたいことを紹介します。

遺産分割協議のやり直しや修正申告になる場合もある

遺産分割協議の合意後にデジタル遺産がある事が判明した場合、遺産分割協議のやり直しが必要です。実際にはデジタル遺産の分のみ遺産分割協議を行うことになりますが、決まったはずの遺産の分割に異論が出てしまう恐れもあるでしょう。遺産分割協議のやり直しは手間や時間もかかるため、遺産分割協議前にデジタル遺産を明らかにしておくことが大切です。

また、デジタル遺産も相続税の対象となるため、相続税申告後にデジタル遺産が発見されると相続税の確定申告の修正が必要になります。さらに、相続税の納付期限を超えていると延滞税などのペナルティが課される恐れがあるので注意しましょう。

相続税評価額と受取り時の額に差額が発生することがある

相続税を計算する際の評価額は、被相続人の死亡時点の価格です。一方、実際に相続人がデジタル遺産を受け取るのはそれよりも後のタイミングになるため、タイミングによっては評価額と受取額に差が出ます。

たとえば、FXなら被相続人の死亡時の時価は高くても、そこから暴落し受取時にはマイナスになっているケースも少なくありません。とくに、FX・仮想通貨は価格の変動が大きいので注意が必要です。

評価時よりも受取時の価格が下がってしまうと、高い評価で算出した相続税を支払うのに手元に入るお金はその時より少ないと損する恐れがあります。

マイナスの財産が多い場合は相続放棄も検討する

デジタル遺産にFXが含まれている場合は、マイナスの財産になるケースもあるので注意が必要です。FXにはレバレッジ取引と呼ばれる自己資金以上の金額で取引できる制度があります。たとえば、10万円の自己資金でレバレッジが10倍なら100万円までの取引が可能です。

高レバレッジの取引は利益を大きくできる反面、損失も大きくなります。相場によっては追加証拠金として100万円以上請求される恐れもあるので、注意が必要です。

デジタル遺産でマイナスとなった場合も相続人がマイナス分を引き継ぐことになります。マイナスが明らかに多い場合は、相続放棄を検討するとよいでしょう。ただし、相続放棄すると他の財産を相続できないため、慎重な判断が必要です。相続放棄について検討する場合は、専門家に相談のうえ適切な方法を検討するようにしましょう。

放置する事で費用が掛かり続けることもある

故人がサブスクなどの月額利用料や管理費といった定期的なコストのかかるサービスを利用していると、解約するまで費用がかかり続けてしまいます。基本的にほとんどのサービスが自動更新で、利用者側から申し出ないと解約できません。解約せずに放置していると、いつまでも無駄な出費が続いてしまうので注意しましょう。

定期的にバックアップや保護をする

パソコンやスマホなどの端末を長期間放置していると、故障などで使用できなくなる恐れがあります。万が一の故障やデータ破損に備えて定期的にバックアップをとっておくようにしましょう。

また、端末やサービスに誰でもアクセスできるようにしておくと、不正利用などのリスクも高くなります。使用できる人を限定するなど保護しておくことも大切です。

ポイントや電子マネーなど相続出来ない場合もある

サービスによっては本人以外の利用を認めず相続できないケースもあります。とくに、ポイントサービスや小売系の電子マネーでは相続を認めないケースも多いので注意が必要です。

相続できるかどうかは、会員規約の確認や運営会社に問い合わせするなどして確認しましょう。

生前に対策してもらう

デジタル遺産は本人でなければ発見やアクセスが難しいものです。そのため、できるだけ本人の生前に対策してもらうことをおすすめします。

生前中にできる対策としては、以下のようなことが挙げられます。

  • エンディングノートにデジタル遺産の情報をまとめてもらう
  • 遺言書にデジタル遺産についても指定してもらう
  • 不要なアプリやサービスは定期的に解約してもらう
  • 管理する端末を限定してもらう
  • 死後事務委任契約を結んでもらう

エンディングノートや遺言書などを活用し、デジタル遺産について相続人でも確認できるようにしてもらうことが大切です。また、死後事務委任契約とは、役所への届出や遺品整理に関する事務・SNSの告知など死亡後に発生する事務手続きを専門家に委任することをいいます。死後事務委任契約することで、相続人の事務手続きの負担を大きく軽減可能です。

死後事務委任契約は弁護士や司法書士などに依頼できるので、生前対策の一環として相談するとよいでしょう。

生前対策についてお困りの方へ_専門家をさがす

デジタル遺産の相続については専門家に相談を

電子マネーや仮想通貨・ネット銀行の口座といったデジタル遺産も相続の対象です。しかし、デジタル遺産は相続人では発見やアクセスが難しく、放置することで相続税の追加や損失が発生するなどのリスクもあります。

また、デジタル遺産はアクセスできてもサービスごとに相続手続きする必要があるので、相続の手間や時間もかかります。スムーズにデジタル遺産を相続するためには、専門家への相談を検討するとよいでしょう。

記事の著者紹介

逆瀬川勇造(ライター)

【プロフィール】

金融機関・不動産会社での勤務経験を経て平成30年よりライターとして独立。令和2年に合同会社7pockets設立。前職時代には不動産取引の経験から、相続関連の課題にも数多く直面し、それらの経験から得た知識などわかりやすく解説。

【資格】

宅建士/AFP/FP2級技能士/相続管理士

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本記事の内容は、記事執筆日(2024年12月25日)時点の法令・制度等をもとに作成しております。最新の法令等につきましては、専門家へご確認をお願いいたします。万が一記事により損害が発生することがあっても、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。

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