未成年の相続人に対して選任する特別代理人とは?必要なケースや選任方法を解説

公開日:2024年6月11日

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特別代理人とは、未成年者や成年被後見人が相続人となった場合に、代わりに遺産分割協議を行って当人の利益を守るための代理人です。しかし、相続人が未成年者や成年被後見人だからといって、必ずしも特別代理人が必要とは限りません。本記事では、特別代理人の概要や必要なケース、選任方法について詳しく解説します。

特別代理人とは

特別代理人とは、相続人のなかに未成年者や成年後見制度を利用している方がいる場合、代わりに遺産分割協議に参加する代理人のことです。特別代理人は、家庭裁判所によって特別に選任されます。

18歳未満の未成年者には法律行為に制限が設けられており、一人暮らしの部屋を契約する行為やローンを組む行為をするには、法定代理人の同意が必要不可欠です。一般的に、このような行為をする際には親権者が法定代理人となります。

しかし、親子で同じ相続における当事者となった場合、親権者は法定代理人になれません。そのため、特別代理人の選任をする必要があります。

同様に、成年後見制度を利用している方の成年後見人が同じ相続における当事者だった場合にも、特別代理人の選任が必要です。

さらに詳しく特別代理人についての理解を深めるため、以下の2つについて確認しましょう。

  • 特別代理人になれる人の条件
  • 特別代理人が担う役割や権限

順番に解説します。

特別代理人になれる人の条件

特別代理人になる人の資格は設けられておらず、遺産分割を行うにあたって利害関係のない人であれば、未成年者の親族でも問題ありません。そのため、祖父母や叔父・叔母などの親族が選ばれるケースも多くあります。

ただし、家庭裁判所に届け出た特別代理人の候補者が適任でないと判断されてしまうと、家庭裁判所が司法書士や弁護士などの適当な特別代理人を選任します。

また、特別代理人になってもらえそうな人や適任者がいない場合、申立人自身が司法書士や弁護士などを特別代理人の候補者として選任することも可能です。

特別代理人が担う役割や権限

特別代理人が担う役割は、未成年者の代わりに遺産分割会議に参加して法定相続分が相続できるように当人の利益を守ることです。たとえば、選任されると、以下のような業務を行います。

  • 遺産分割協議への参加
  • 遺産分割協議書への署名・捺印
  • 相続した不動産や銀行の名義変更への関与

基本的に代理権の行使は家庭裁判所によって決められた行為に限られます。あらかじめ決められた手続き以外の代理はできず、決められた手続きが終了すると任務も終わります。

親権者や後見人が遺産分割協議・相続手続きを行えない理由

通常、未成年者が法的手続きを行う際、代理人は親権者や未成年後見人がなります。しかし、未成年者と親権者が同じ相続における相続人となる場合、親権者は未成年者の代理人になれません。

なぜなら、互いに利益相反が生じてしまうからです。たとえば、父親が亡くなって母親と未成年者の子どもが相続人になるケースにおいて、母親が未成年者の子どもの代理人として遺産分割を行ってしまうと利益相反が生じます。

同様に、知的障害や精神障害、認知症などによって判断能力が十分でない方の代理人を務める成年後見人も、被後見人との間で利益相反が生じる際に特別代理人の選任が必要です。

利益相反とは

利益相反とは、一方が利益を得ることで一方が不利益を被る関係のことです。

もし、母親が遺産の取り分を多くすると子どもの遺産の取り分は当然減ってしまいます。幼い子どもが相続人だったとき、相続について理解できない状態であることを利用して、母親が遺産を独り占めしてしまうかもしれません。

このような理由から、代理人と本人の間で利益が相反する行為を行う相続において、特別代理人を選任する必要があります。

特別代理人の選任が必要なケース

未成年者が相続人だからといって、かならずしも特別代理人の選任が必要であるとは限りません。特別代理人の選任が必要なケースは、以下の3つです。

  • 未成年者とその親が相続人になっているケース
  • 未成年被後見人と未成年後見人が相続人になっているケース
  • 成年被後見人と成年後見人が相続人になっているケース

順番に確認しましょう。

未成年者とその親が相続人になっているケース

同じ相続において、未成年者とその親が同時に相続人になっているケースでは、未成年者に対して特別代理人を選任する必要があります。

たとえば、父親・母親・子どもの3人家族において父親が亡くなったとき、母親と子どもが相続人となります。しかし母親1人で遺産分割の内容を決めると、子どもが本来得られるはずの取り分を得られないかもしれません。

このような事態を防ぐために、未成年者に対して特別代理人を選任して、正当な利益を得られるように遺産分割を行います。

未成年者と未成年後見人が相続人になっているケース

両親が死亡している子どもに未成年後見人がいる場合においても、未成年被後見人と未成年後見人との間に利益相反が生じるのであれば、特別代理人の選任をしなければなりません。

たとえば両親が死亡しているときに祖母が子どもの未成年後見人となっていたとしましょう。祖父が死亡すると祖母と子ども(祖父からみた孫)が相続人となり、利益相反の関係です。このとき、未成年者である子どもに対して特別代理人を選任する必要があります。

成年被後見人と成年後見人が相続人になっているケース

同じ相続において、成年被後見人と成年後見人が同時に相続人になっているケースにおいても、成年被後見人に対して特別代理人を選任する必要があります。

たとえば、父親・母親・長男の3人家族において母親が認知症を患っており、長男が成年後見人となっているケースが該当します。父親が死亡すると、母親と長男が相続人となりますが、母親は認知症を患っているため正常な判断ができません。

長男だけで遺産分割の内容を決定すると母親が不利益を被る可能性があるため、成年被後見人である母親に対して特別代理人を選任する必要があります。

「成年後見制度」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

特別代理人が必要?不要?迷っている方向け具体例

特別代理人が必要?不要?迷っている方向け具体例のイメージ

特別代理人が必要かどうか、上記の解説だけでは判断できない方もいらっしゃるかもしれません。より具体的な例を挙げて、特別代理人の選任が必要かどうかについてご紹介します。

  • 未成年者が複数いるとき
  • 認知された非嫡出子が複数いるとき
  • 未成年者だけが相続放棄するとき
  • 未成年者と親権者が相続放棄するとき
  • 遺言書があるとき
  • 法定相続分で相続するとき

それぞれのケースにおいて特別代理人の選任が必要か不要か、その理由についても解説します。

未成年者が複数いるとき

相続人に未成年者が複数いる場合、未成年者ごとに特別代理人を選任しなければなりません。もし、母親と未成年の子ども3人が相続人となっている場合、子ども3人に対して異なる特別代理人を選任する必要があります。

なぜなら1人の特別代理人が3人の代理を務めて遺産分割をすると、利益相反にあたるからです。正当な取り分を主張するために、未成年の相続人に対して1人ずつ特別代理人を選任しなければなりません。

認知された非嫡出子が複数いるとき

婚姻関係のない男女の間に生まれた子どもを非嫡出子と呼びます。たとえば、非嫡出子を認知している男性が亡くなったとき、非嫡出子は法定相続人です。

母親は被相続人と婚姻関係にないため、未成年者の非嫡出子の代理人になれます。しかし、2人以上非嫡出子がいる場合には、どちらかに特別代理人を選任しなければなりません。

なぜなら、子ども同士には利益相反の関係が生じるため、母親はどちらか一方の代理人にしかなれないからです。1人の未成年者に対して1人の代理人をつけなければならないため、同じ親の非嫡出子が複数いるときには特別代理人を選任する必要があります。

未成年者だけが相続放棄するとき

未成年者だけが相続放棄する場合、特別代理人が必要です。なぜなら、未成年者だけを相続放棄させることで、親権者が遺産を独り占めする可能性があるからです。

配偶者が被相続人の事業を継承したい場合や、配偶者だけが借金の肩代わりをする場合など、事情があって未成年者の相続人だけを相続放棄させたい場合には特別代理人を選任しなければなりません。

未成年者と親権者が相続放棄するとき

未成年者と親権者の両者が相続放棄をする場合、特別代理人の選任は不要です。なぜなら、親権者自身も相続放棄を行うため、自分の利益を得るために子どもの相続権を放棄するわけではないと考えられるからです。

相続放棄の手続き方法は、以下の2つがあります。

  • 未成年者と親権者をまとめて相続放棄する
  • 親権者が相続放棄をしたあと、未成年者の相続放棄をする

未成年者を先に相続放棄させることはできないため、注意しましょう。

遺言書があるとき

相続人のなかに未成年者や認知症の方がいた場合でも、遺言書で遺産の分け方が指定されていれば遺産分割協議を行う必要がなく、特別代理人の選任は原則として不要です。

ただし、分け方の指定がされていない財産がある場合、分け方について具体的に書かれていない場合、遺言書通りに遺産分割を行わない場合などにおいては、遺産分割協議が必要です。

このとき、未成年者と親権者、成年被後見人と成年後見人が相続人となっていれば利益相反が生じるため、代理人の選任をしなければなりません。

法定相続分で相続するとき

民法で定められている法定相続分で相続する場合、遺産分割協議を行う必要がないため特別代理人の選任は不要です。

特別代理人の役割は、未成年者や成年被後見人の利益を保護することです。未成年者の法定相続分を確保する目的で遺産分割協議に参加するため、遺産分割協議をせずに法定相続分で相続する際には特別代理人に役割はありません。

特別代理人の選任方法や必要書類

実際に特別代理人を選任する場合に、どのような手続きを行うべきかについて解説します。

特別代理人の選任の流れは、以下の通りです。

  1. 家庭裁判所で特別代理人選任の申し立てを行う
  2. 裁判官による審理・書面照会・参与員の聴き取り・審問が行われる
  3. 審判が下される
  4. 審判結果の通知を受け取る

特別代理人選任の申し立ては、被後見人となる人の住所地を管轄する家庭裁判所で手続きを行います。

誰でも申し立てができるわけでなく、申し立てができる人は以下のいずれかの人に限られます。

  • 親権者
  • 後見人
  • 利害関係がある人

また、申し立ての際には、以下の必要書類と費用を準備しましょう。

必要書類・特別代理人選任の申立書
・未成年者の戸籍謄本
・親権者または未成年後見人の戸籍謄本
・特別代理人の候補者の住民票または戸籍附票
・利益相反に関する資料(遺産分割協議書案や契約書案など)
・利害関係者からの申し立ての場合、利害関係を証明するための資料
など
費用・収入印紙800円(子ども1人につき)
・連絡用の郵便切手※裁判所によって異なる

審理にあたって、追加書類の提出を求められる場合があります。裁判所の指示に従いましょう。

参照:特別代理人選任(親権者とその子との利益相反の場合)|裁判所

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特別代理人に選任されたあとの手続き

特別代理人が選任されたら、特別代理人を交えて相続人全員で遺産分割協議を行います。特別代理人が子どもの代理人として署名捺印をすると、有効な遺産分割協議書として相続手続きに活用できます。

基本的に、特別代理人は遺産分割協議のために選任されているため、遺産分割協議書を作成できたら任務は終了です。利害が対立しない限り、未成年者の親権者が代理人としてさまざまな手続きを進めることができます。

ただし、不動産や銀行口座の名義変更を行う場合は、特別代理人が手続きに関与します。

不動産の登記申請や銀行口座の解約手続きの際には、通常相続手続きに必要とされる書類に加えて、以下の書類の提出が求められるため注意しましょう。

  • 特別代理人選任審判書謄本
  • 特別代理人の印鑑証明書

審判書謄本は他の人が請求することが可能ですが、印鑑証明書は本人に取得してもらわなければなりません。同時に複数の手続きを進行する際は、複数枚準備してもらうとスピーディーに手続きを進められます。

特別代理人を選任するときの注意点

最後に、特別代理人を選任するときの注意点について解説します。

  • 準備から特別代理人選任決定には2~4か月程度の時間がかかる
  • 申し立てには遺産分割協議書案を添付する必要がある
  • 特別代理人がいない状態で作成した遺産分割協議書は無効になる
  • 未成年者が受け取った遺産は親権者が管理できる
  • 成人を待って遺産分割するとリスクがある

しっかりと注意点を理解し、効率よく相続手続きを進めましょう。

準備から特別代理人選任決定には2~4か月程度の時間がかかる

特別代理人の申し立ての準備から選任決定までには2〜4か月程度かかると考えておきましょう。申し立てから選任までの目安は1か月程度と考えられていますが、あくまでも目安に過ぎません。

また、申し立てには数多くの必要書類があり、申し立てを行うまでにも時間がかかってしまいます。

そのため、相続が発生後、すぐに準備を始めなければ相続税の申告期限に間に合わない可能性があります。相続税の申告期限は、相続開始から10か月です。遺産分割協議が終わらないと相続税の申告ができないため、延滞税や無申告課税などのペナルティが発生するかもしれません。

スピーディーに特別代理人を選定するために、専門家のサポートを受けることも視野に入れましょう。

申し立てには遺産分割協議書案を添付する必要がある

特別代理人の申し立ての際、遺産分割協議書案を添付しなければなりません。この協議書案の内容が未成年者や認知症の方にとって不利となる遺産分割となっている場合、再考が求められたり、特別代理人が却下されたりする恐れがあります。

分割内容が不利な内容かどうかは家庭裁判所が判断します。判断基準は法定相続分の遺産を取得できる内容になっているかどうかです。

ただし、経済状況や遺産の内容によっては親権者の取り分を多くした方がよい場合もあるでしょう。たとえば、遺産のほとんどが不動産であったり、預貯金が少なかったりすると、子どもを育てていくために親権者が多くの遺産を取得することは妥当だと考えられます。

このような場合、申立書の申し立て理由の欄や上申書に事情を詳しく説明しましょう。遺産分割内容は子どもにとって不利に思えても、そうすべき事情や理由があることを具体的に記載しておくと家庭裁判所に認めてもらえる可能性があります。

基本は法定相続分通りの遺産分割内容にし、法定相続分より少ない取り分となる場合には事情を説明するように注意しましょう。

特別代理人がいない状態で作成した遺産分割協議書は無効になる

特別代理人が必要なケースにもかかわらず、特別代理人を選任せずに遺産分割協議書を作成した場合、遺産分割協議書は無効になるため注意しましょう。

相続手続きができないため、遺産分割協議をやり直さなければなりません。

未成年者が受け取った遺産は親権者が管理できる

未成年者が受け取った遺産は、親権者が管理できるようになります。もちろん、子どものために使用することが前提です。

原則、特別代理人は遺産分割協議を行うために選任されるため、遺産分割協議書の作成や不動産や銀行口座の名義変更手続きが終われば役割も終わります。

成人を待って遺産分割するとリスクがある

未成年者が成人する18歳の年齢に近いと、成人してから遺産分割しようと考える方もいるかもしれません。たしかに、相続手続きに期限が設けられていない財産もあるため、成人してから遺産分割をしてもよいでしょう。

ただし、遺産の総額が基礎控除を超える場合、相続税が発生する点に注意が必要です。

相続税の申告期限は相続開始から10か月と定められており、期限を過ぎるとペナルティが課されます。期限を過ぎると使えなくなる特例や控除もあるため、高額な相続税を納めなければなりません。

成人したあとに遺産分割協議を行えば本人の意思が反映された遺産分割ができます。しかし、相続税の申告期限に間に合うかどうかを確認し、誕生日を待つか特別代理人を選任するか慎重に判断しましょう。

特別代理人が必要なら速やかに手続きを進めよう

特別代理人とは、未成年者や成年被後見人が相続人にいる際、親権者や成年後見人との間に利益相反が生じてしまう際に選任される代理人のことです。特別代理人は遺産分割協議への参加や財産の名義変更に関与し、未成年者や成年被後見人の利益を守る役割を担っています。

特別代理人の申し立ての準備から選任完了までの期間は、およそ2〜4か月です。相続税申告期限が相続開始から10か月以内のため、速やかに手続きを行う必要があります。

もし、どのように手続きをすべきか不安を抱えているのであれば、司法書士や弁護士などの専門家に相談することを検討しましょう。特別代理人の選任の手続きはもちろん、選任後の遺産分割協議や協議書の作成のサポートも依頼できます。

無料相談を設けている事務所も多数あるため、気軽に活用してくださいね。

記事の著者紹介

安持まい(ライター)

【プロフィール】

執筆から校正、編集を行うライター・ディレクター。IT関連企業での営業職を経て平成30年にライターとして独立。以来、相続・法律・会計・キャリア・ビジネス・IT関連の記事を中心に1000記事以上を執筆。

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本記事の内容は、記事執筆日(2024年6月11日)時点の法令・制度等をもとに作成しております。最新の法令等につきましては、専門家へご確認をお願いいたします。万が一記事により損害が発生することがあっても、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。

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