被相続人が連帯保証人だった場合や、自身が被相続人の連帯保証人だった場合、その義務が残る場合があります。相続放棄の手続きをしても連帯保証債務から逃れられないケースもあるため、注意が必要です。本記事では、連帯保証人と相続放棄の関係や相続放棄できるケース・できないケースについて詳しく解説します。
目次
連帯保証人と相続放棄の関係
そもそも、連帯保証人と相続には直接関係ありません。債務者が借入を完済するまで連帯保証人としての責任は続きます。
そのため、相続人が被相続人の連帯保証人だった場合、相続放棄をしたとしても被相続人の連帯保証人の立場を放棄することはできません。
より連帯保証人と相続放棄の関係の理解を深めるために、下記の順番にポイントを整理していきましょう。
- 連帯保証人とは?
- 相続に該当する連帯保証人は相続放棄できる
- 地位を相続することとなる連帯保証の種類
詳しく解説します。
連帯保証人とは?
連帯保証人とは、元の債務者の代わりに債務を返済すると債権者に約束する人のことです。
万が一、債務者が債務を返済できなくなった場合に、債務者に代わって返済する義務を追わなければなりません。また、契約内容によっては、借入金の元金だけでなく、利息や遅延損害金、違約金なども連帯保証人が支払う必要があります。
連帯保証人になるということは、自分自身が借金をするのと同等の責任が発生すると理解しておきましょう。
連帯保証人の仕組みは相続に直接的な関係はありません。そのため、父親の連帯保証人になっていた長男が、父親の死亡で発生した相続を相続放棄したとしても父親の連帯保証人という立場は継続します。
相続に該当する連帯保証人は相続放棄できる
被相続人が第三者の連帯保証人となっていた場合、連帯保証債務は相続の対象です。元の債権者が支払いできない状況になれば、債権者から請求を受けることとなります。連帯保証債務を引き継いだ相続人は、債権者による請求を拒むことができません。
複数人の相続人がいれば相続人全員に連帯保証債務が引き継がれ、連帯保証債務は他の相続財産と同様に法定相続分に応じて分割されます。たとえば、配偶者と子ども3人が相続人だった場合、配偶者は2分の1、子ども3人は6分の1ずつの債務に責任が生じます。
ただし、条件を満たすことができれば、相続放棄によって連帯保証債務の責任から逃れることが可能です。連帯保証人の相続放棄ができるケースとできないケースについて、次の章で詳しく解説します。
地位を相続することとなる連帯保証の種類
被相続人が第三者の連帯保証人となっていた場合、原則その地位は相続人が引き継がなければなりません。しかし、保証契約の内容によっては相続の対象外となるため、相続する連帯保証人なのかどうかを知っておく必要があります。
連帯保証人から逃れるために相続放棄をしたにもかかわらず、実際は相続されない種類の連帯保証だった場合、本末転倒です。相続放棄をすると連帯保証債務だけでなく、被相続人の預貯金や不動産を相続する権利も失います。
かならず被相続人がなっている連帯保証人の種類を確認したうえで、相続放棄すべきかどうかを判断しましょう。
地位を相続することとなる連帯保証の種類は、下記の通りです。
- 金融機関の借り入れに対する連帯保証人
- 賃貸契約の連帯保証人
一方、下記の連帯保証であれば、相続の対象外です。
- 根保証
- 身元保証人
根保証とは、継続的に取引を行う際に将来発生すると予測される債権を担保するための補償契約です。保証人に大きな負担がかかることから、基本的に根保証は相続の対象から外されています。
しかし、金額や期間に制約が定められている場合、相続の対象となる場合があるため注意しましょう。
また、身元保証人とは、会社の従業員が損害を発生させた場合に雇用主が損害賠償責任を負う契約です。保証人と保証される側の個人的な関係に基づいて結ばれる契約であることから、身元保証人の地位は相続の対象外です。
しかし、相続発生前に損害が生じて保証人が損害賠償責任を負った状態で亡くなった場合には、相続の対象となる場合があるため注意しましょう。
連帯保証人の相続放棄ができるケースとできないケース
連帯保証人の相続放棄ができるかできないかは、状況によって異なります。
下記の4つのケースについて、相続放棄できるかできないかを詳しく解説します。
- 被相続人が連帯保証人だったとき
- 被相続人が連帯保証人だと知らずに相続したとき
- 相続放棄する前に遺産を使い込んだとき
- 相続人が被相続人の連帯保証人だったとき
順番に確認しましょう。
被相続人が連帯保証人だったとき
被相続人が第三者の連帯保証人だった場合、相続人は相続放棄をすることで債務責任から逃れられます。しかし、相続放棄をすると、預貯金や不動産などの他の遺産も相続できなくなるため、十分に検討しましょう。
もし、連帯保証人の立場を相続したとしても、もともとの債務者が大方の返済を終わらせていたり、完済していたりする場合もあります。どれほどの借入金が残っているのかを確認し、少額であれば相続したほうが結果的に手元に残る財産が多くなるかもしれません。
被相続人が連帯保証人だと知らずに相続したとき
被相続人が第三者の連帯保証人になっていると知らないまま遺産相続した場合、連帯保証債務を放棄できる可能性があります。
連帯保証は、もともとの債務者が返済できなくなって初めて債権者から請求されます。そのため、相続してから数年経過して、連帯保証人の立場を相続していたことが発覚する場合もあるでしょう。
弁護士に相談すれば、相続放棄できる可能性はゼロではありません。しかし、相続放棄の手続きの期限は、原則自身に相続が発生したことを知ってから3か月以内です。3か月の熟慮期間が過ぎると、家庭裁判所に相続放棄を認めてもらうことが難しくなります。
もし、熟慮期間を過ぎてから連帯保証人の立場を相続放棄したいと考えるのであれば、早めに相続に詳しい弁護士などの専門家に相談しましょう。
相続放棄する前に遺産を使い込んだとき
相続放棄をする前に遺産を使った場合、原則相続放棄はできないと考えておきましょう。
一般的に、相続発生後に遺産を使ったり処分したりすると、相続放棄は認められません。たとえば、預貯金の引き出しや不動産の売却・解体、賃貸の解約などをすると相続の意思があるとみなされます。
しかし、葬式代や火葬代を遺産のなかから支払う行為や経済的に価値のない遺産の形見分けなどであれば、例外的に相続放棄が認められる可能性があります。
このようなケースでは相続放棄の手続きが難しくなるため、相続に詳しい弁護士などの専門家に相談しましょう。
相続人が被相続人の連帯保証人だったとき
相続人が被相続人の連帯保証人だったとき、相続放棄をしたとしても連帯保証人としての義務は引き継がれます。相続と連帯保証の制度には関わりがないためです。
被相続人が借り入れしていた債務は相続人に相続されます。万が一、相続人が相続放棄をしたり、返済できる状況でなかったりする場合、連帯保証人が返済の義務を負わなければなりません。
相続放棄をすれば被相続人の債務は放棄できますが、自らの連帯保証の責任は残ります。
連帯保証や借り入れなどの調査は単純承認前によく行う
被相続人が亡くなったら、単純承認を行うまえに連帯保証や借り入れなどの調査を徹底的に行いましょう。
相続放棄は、自身に相続があったことを知ってから3か月間の熟慮期間中に手続きをしなければなりません。早急な判断をするためにも、被相続人にマイナスの遺産がないか調査する必要があります。
ここでは、被相続人の連帯保証の調査について下記の順番にポイントを解説します。
- 連帯保証の有無を調査する方法
- 事業を行っていた場合などはより慎重に調査する
- 連帯保証の債務を分からずに単純承認してしまったら
詳しく確認しましょう。
連帯保証の有無を調査する方法
通常の借金のように請求書や支払催促状が届かないため、被相続人が連帯保証人になっていたかどうかを知ることが難しいでしょう。
生前に被相続人が第三者の連帯保証人になっていたかどうか聞いていなかった場合、相続人が調査する必要があります。連帯保証の有無を調査する方法は、主に4つあります。
- 信用情報機関に情報開示請求する
- 自宅や会社に契約書類がないか捜索する
- 被相続人宛の郵便物を調べる
- パソコンやスマートフォンの履歴を確認する
金融機関からの借入の連帯保証人になっている場合、CICやJICC、全銀協などの信用情報機関への開示請求で確認ができます。
しかし、賃貸契約や知人からの借り入れなどの連帯保証人になっているかどうかは、自宅や被相続人の郵便物、パソコン・スマートフォンなどから契約書を探すしかありません。
また、メールやLINEなどのやりとりから、だれかの連帯保証人になっていないかを確認することも可能です。
事業を行っていた場合などはより慎重に調査する
会社の事業資金で借り入れをするケースや、経営者個人が連帯保証人になっているケースは珍しくありません。事業で借り入れをおこなっていた場合や事業の連帯保証人になっていた場合にも、相続人が借入や連帯保証債務を引き継ぐ必要があります。
事業に関するマイナスの遺産に気付きにくいため、十分に調査を行いましょう。
連帯保証の債務を分からずに単純承認してしまったら
連帯保証債務があることを知らないまま単純承認してしまった場合、原則相続放棄はできません。
相続放棄できる期限は、自身に相続があったことを知ってから3か月間です。3か月が経過したあとは、単純承認したとみなされてしまい、特別な理由がない限り相続放棄は認められません。
また、相続放棄できる期間内であっても、遺産を使ったり処分したりすると単純承認の意思があるとみなされてしまいます。
単純承認をすると原則相続放棄ができなくなりますが、例外的に連帯保証債務があると知らないまま単純承認してしまったときに相続放棄が認められる場合があります。
実際に債務の存在を知らなかったことに合理的な理由があるとして相続放棄の期限の開始日がずらされ、相続放棄が家庭裁判所に認められた判例が過去にありました。
ただし、原則から外れる対応となるため、家庭裁判所でどのように主張するかによって相続放棄が認められるかが決まります。また、事情によって最適な対応が異なるため、弁護士へ相談するようにしましょう。
連帯保証人を相続放棄する上での注意点・知っておきたいこと
連帯保証人の立場を相続放棄する場合、下記の注意点を理解しておきましょう。
- 続放棄すると連帯保証人の義務は次順位の法定相続人に繰り上がる
- 限定承認という方法もある
- 相続放棄しなくても遺産の範囲で完済できる可能性もある
- 連帯保証が無効・時効の可能性もある
- 相続放棄の期限を伸長してもらえるケースもある
相続放棄をすると、撤回することはできません。相続放棄の手続きを行うまえに、5つの注意点を確認しましょう。
相続放棄すると連帯保証人の義務は次順位の法定相続人に繰り上がる
相続人には順位がつけられており、相続放棄すると相続の権利は次順位の法定相続人に移行します。
被相続人の配偶者はかならず相続人となり、下記の順番に相続人になると定められています。
- 第一順位:子ども・孫など
- 第二順位:両親・祖父母など
- 第三順位:兄弟姉妹・甥姪など
もし、連帯保証人になっていた父親が亡くなると、配偶者と子どもに連帯保証人の立場が引き継がれます。しかし、子どもが全員相続放棄すると、連帯保証人の立場は第二順位である両親に移動します。
相続人が相続放棄をしたとしても、第二順位・第三順位の方々へ「相続人になりました」といった通知はされません。相続放棄をして相続人が変わる場合は、早めに次順位の相続人へ連絡するようにしましょう。
「相続順位」について、さらに詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
限定承認という方法もある
相続の方法には、単純承認と相続放棄以外にも限定承認という方法があります。
限定承認とは、プラスの財産の範囲でマイナスの財産を相続する方法です。たとえば、300万円のプラスの財産と500万円のマイナスの財産がある場合、300万円までの返済で問題ありません。
一般的に、相続放棄の手続きの期限は、自身に相続があると知ってから3か月以内です。しかし、相続財産の確認の確認が期限に間に合わないことも十分に考えられるでしょう。
このような場合に限定承認の手続きをすれば、遺産の範囲内で債務の義務を負うことができます。
ただし、限定承認の手続きの期限も、自身に相続があると知ってから3か月以内です。また、手続きが複雑なため、必ず相続に詳しい弁護士などの専門家のサポートが欠かせません。
自分だけで判断するのではなく、どのような相続方法がベストか相談にのってもらいましょう。
相続放棄しなくても遺産の範囲で完済できる可能性もある
もとの債務者が借金のほとんどを返済していた場合、相続放棄をしなくても引き継いだ遺産で完済できる場合があります。なかには、すでに債務者が完済しているケースもあるでしょう。
相続放棄をすると、預貯金や不動産などのプラスの財産も相続できなくなります。慌てて相続放棄の手続きをせずに、かならずもとの債務者に返済状況を確認して返済額と遺産額を比べましょう。
連帯保証が無効・時効の可能性もある
被相続人の連帯保証債務が無効や時効である可能性があります。
そもそも、連帯保証人の義務は契約書がなければ発生しません。被相続人の自宅や貸金庫を見ても契約書が見つからない場合や、債務者が契約書を持っていなかった場合には、連帯保証人としての義務が無効となります。
ただし、平成16年以前は契約書なしでも連帯保証人の義務が法的に認められていました。そのため、平成16年以前に契約した場合、契約書なしでも連帯保証人の義務が発生し、相続人にも引き継がれます。
また、令和2年4月1日以降に成立した債権には5年の時効が設けられました。令和2年4月1日以前の債権の時効は10年です。もしかすると、債務自体が時効を迎えているかもしれません。もちろん、債務の時効が成立していると、連帯保証債権を引き継ぐ必要がありません。
ただし、時効の成立にはさまざまな条件が設けられています。自己判断せず、弁護士などの専門家に相談し、調査してもらいましょう。
相続放棄の期限を伸長してもらえるケースもある
相続放棄の手続きができる期間は、原則、自身に相続があったことを知ってから3か月間の熟慮期間に限られます。しかし、特別な事情があるときに限って、熟慮期間を3か月間伸長してもらえます。
たとえば、被相続人と疎遠だったことで連帯保証人だったかどうか十分に調査できないでしょう。止むを得ない事情があった場合には、家庭裁判所に熟慮期間の伸長を申し立てることができます。
家庭裁判所に認められれば、熟慮期間が伸びるため相続放棄をする・しないの判断をするための材料集めができるようになるでしょう。
ただし、当初の熟慮期間である3か月の間に伸長の申し立てをしなければならず、かならずしも伸長が認められるかは分かりません。早めに弁護士に相談し、適切な対応を取ってもらいましょう。
連帯保証人を相続した場合の対応
連帯保証人の立場を相続したときの対応は、下記の5つが考えられます。
- 完済する
- 債務減額・返済計画の見直しを交渉する
- 任意整理の交渉をする
- 個人再生を申し立てる
- 自己破産手続きをする
順番に確認しましょう。
完済する
連帯保証人として、自己資金や遺産を使って全額を返済することで、利息支払いの分、負担額が減る可能性があります。ほかの相続人が負担すべき債務を肩代わりして完済することも可能です。
完済すると、もとの債務者や他の連帯債務者に対して支払いを求めることができます。これを求償請求と呼びます。
しかし、求償請求がトラブルを招く場合があるため、完済する前にもとの債務者やほかの連帯債務者へ通知するようにしましょう。
債務減額・返済計画の見直しを交渉する
全額返済が難しい場合、債権者に対して債務減額や返済計画の見直しを交渉することができます。交渉をすることで、金利の見直しや返済期間の延長に応じてもらえるかもしれません。
しかし、完済するにあたって十分な資産や収入があるにもかかわらず、債務減額や返済計画の見直しを主張すると、交渉は決裂してしまいます。
また、債権者との交渉は難しいため、弁護士に間に入ってもらうようにしましょう。
任意整理の交渉をする
毎月の返済負担を軽くするよう債権者に直接交渉することを任意整理と呼びます。大幅な減額は期待できないものの、裁判所を通さずに手続きできるため短期間で交渉がまとまる可能性があります。
任意整理をすると、利息分がカットされ、元金だけを原則3年、または5年で返済することとなるため、負担が減少するでしょう。
ただし、債権者が任意整理をしてくれるとは限りません。任意整理できたとしても、信用情報機関に事故情報として登録されて将来的に借り入れがしづらくなります。
交渉力に自信のない方や、そもそも任意整理で解決できるか不安な方は、弁護士に相談することをおすすめします。
個人再生を申し立てる
裁判所を通じて債務減額を行う手続きを個人再生と呼びます。再生計画案が裁判所に認められると、債務が最大5分の1まで減額されるため負担が大きく軽減されるでしょう。
また、原則3年、または5年で返済することとなります。そのため、継続的に収入のある場合にのみ活用できます。
個人再生は裁判所での手続きが必須なため、弁護士に相談するようにしましょう。
自己破産手続きをする
裁判所を通じて原則すべての返済義務を免除する手続きを自己破産と呼びます。収入や資産状況をみて、返済能力がないと裁判所が認めると、すべて借入金を返済する必要がなくなります。
連帯保証債務によって高額な請求をされた場合には、自己破産を検討してもよいでしょう。
しかし、自己破産をすると一定の財産を手放さなければなりません。家族や友人から借りたお金も返さなくなるため、人間関係が悪化する場合があります。
当然信用情報機関に事故情報として登録され、免責決定になるまで職業にも制限がかけられます。
自己破産しかないと決めつけず、任意整理や個人再生をおこなった場合と比較しながら、慎重に対処しましょう。詳しい状況から適切な判断をするために、弁護士に相談することをおすすめします。
連帯保証人を相続放棄できるかはケースバイケース
相続人が被相続人の連帯保証人になっていた場合、相続放棄をしたとしても連帯保証人としての立場は継続されます。相続と連帯保証の制度は関係ないからです。
しかし、被相続人が第三者の連帯保証人になっていた場合であれば、相続人は相続放棄をすると連帯保証債務から免れることができます。
連帯保証人は自らが借金をするときと同等の責任を負わなければならないため、できるだけ連帯保証人の立場を相続したくないでしょう。しかし、被相続人が連帯保証人だったかどうかの調査は難しく、時間がかかる可能性があるため早めに対応しましょう。
連帯保証人だったことが分かった場合は、まず弁護士に相談することをおすすめします。相続放棄をするべきかどうか、相続したときにどのように対処すべきか、適切なアドバイスがもらえます。
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