相続放棄の熟慮期間は延長できる?ケース別に解説

公開日:2024年6月17日

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「相続放棄の手続きが間に合いそうにない…」相続放棄は、相続開始があったことを知った日から3か月間の「熟慮期間」を超えると原則受け付けてもらえません。しかし、熟慮期間を伸長することで、3か月経過しても手続きが可能になるケースもあります。この記事では、相続放棄の熟慮期間が伸長できるケース・伸長手続きについて解説します。

相続放棄の熟慮期間とは

熟慮期間とは、相続の仕方を熟慮・検討する期間のことです。相続は必ずしもプラスの財産の相続になるわけではなく、マイナスの財産を相続するケースも少なくありません。

もし、マイナスの財産を相続してしまうと、額によっては相続人に大きな負担となりかねません。このように、相続は相続人のその後の人生を大きく左右するため、簡単に判断を下すわけにはいかないのです。

そのため、どのような財産や相続人がいるのかなど、しっかり調査し相続の仕方を判断するための期間として熟慮期間が設けられています。

相続の開始から3か月以内に相続方法を選択する

熟慮期間は、自己のために相続開始があったことを知ったときから3か月以内の期間です。

相続人は、熟慮期間の3か月以内に相続方法として、以下のいずれかから1つを選択する必要があります。

  • 単純承認:すべての財産を相続する方法
  • 限定承認:プラスの範囲内でマイナスの財産を相続する方法
  • 相続放棄:一切相続しない方法

熟慮期間を過ぎてしまうと、相続放棄・限定承認は原則受理されず単純承認になります。

「自己のために相続開始があったことを知ったとき」とは、シンプルな相続の場合は被相続人の死亡した日です。たとえば、被相続人が父親の場合、相続人である配偶者や子どもは父親の死亡日と、死亡による相続の開始を把握しているのが一般的でしょう。この場合は、相続開始があったことを知った日=被相続人が死亡した日となるのです。

しかし、相続開始があったことを知った日が必ずしも死亡日と同じという訳ではありません。

  • 被相続人と疎遠で死亡したことを知らなかった
  • 疎遠で自分が相続人であることを知らなかった
  • 他の相続人が相続放棄したことで自分が相続人になった

上記のようなケースでは、「死亡したことを知ったとき」かつ「自分が相続人であることを知ったとき」が熟慮期間の起算日となります。そのため、同じ被相続人の相続人であっても、相続人の事情によって熟慮期間のスタートが異なる可能性がある点は覚えておきましょう。

なお、民法の規定で期間を計算する際、初日はカウントされず翌日からのカウントになります。仮に、死亡日が5月1日であれば、熟慮期間は翌日の5月2日からスタートし3か月後の8月1日までとなるのです。

「相続放棄」や「限定承認」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

熟慮期間は伸長(延長)ができる場合もある

3か月という期間は、それほど長い訳ではありません。その間に、財産の詳細を調査し相続放棄するかどうかの判断が難しいケースも少なくないでしょう。そのような場合、家庭裁判所に申し立てることで熟慮期間の伸長(延長)が認められる可能性があります。ケースによって延長期間は異なりますが、一般的には1~3か月ほど延長されることが多いでしょう。

相続放棄は、熟慮期間を超えてしまうと認められる可能性はかなり低くなります。反対に、熟慮期間中にしっかり手続きすれば、ほとんどのケースで相続放棄が可能です。

熟慮期間中であれば相続放棄できるのに、熟慮期間を超えたばかりに相続放棄が難しくなる恐れもあるので、期限を超えそうな場合は早めに熟慮期間の伸長を申し立てることをお勧めします。

熟慮期間の伸長が認められる3つのケース

熟慮期間の伸長は、申し立てれば必ず認められるわけではありません。申し立て後に、家庭裁判所が事情や必要性などを考慮して延長の可否や期間が決められます。単純に忙しくて間に合わない場合や判断を迷っているという理由では、認められない可能性も高いので注意しましょう。

伸長を認めるかどうかは家庭裁判所の裁量によって異なりますが、以下のようなケースは認められる可能性が高くなります。

  1. 被相続人の借金の総額が不明な場合
  2. 相続財産の調査に時間がかかる場合
  3. 相続人の調査に時間がかかる場合
  4. 他の相続人によって相続財産が隠された場合等

それぞれ詳しくみていきましょう。

①被相続人の借金の総額が不明な場合

相続放棄するかは、プラスの財産だけでなく借金などのマイナスの財産まで把握したうえで判断する必要があります。

マイナスが少ないと思って相続放棄せずに後から多額の借金が判明した、マイナスがあると思って相続放棄したけど実際はプラスの財産が上回っていた、となると相続人に大きな不利益になります。そのため、マイナスの財産の詳細が分からなければ、適切な判断を下せません。

しかし、被相続人が借金の存在を隠していたようなケースでは、マイナスの財産の存在を把握するのに時間がかかる場合があります。そのような場合は、伸長を申し立ててマイナス財産を詳細に把握してから相続放棄するかを判断するとよいでしょう。

②相続財産の調査に時間がかかる場合

被相続人の財産が多岐にわたる場合、財産調査だけでもかなりの時間がかかります。

  • 被相続人と疎遠
  • 被相続人が遠方に住んでいた
  • 海外にも財産を所有している
  • 被相続人が事業を営んでいた

上記のようなケースでは、熟慮期間中に財産調査が終わらない可能性があります。財産調査をスタートしてみると時間がかかりそうという場合は、早めに伸長を申し立てておくようにしましょう。

③相続人の調査に時間がかかる場合

財産だけでなく他の相続人が多く所在の把握に時間がかかる場合も、認めてもらえる可能性が高くなります。

相続人の所在が分からない・被相続人が遠方に住んでいるといったケースでは、財産調査や相続放棄などの手続きに必要な書類の収集に時間がかかってしまい、期間を超えてしまうケースもあります。仮に、伸長申し立て前に必要書類を入手できない場合でも、事情を説明して申し立て後に追加提出することが可能なので、まずは延長を申し立てることを検討するとよいでしょう。

④他の相続人によって相続財産が隠された場合等

他の相続人によって相続財産を隠されていると、相続財産の詳細を把握できません。そもそも、本当に隠されているのか、ただ単に財産が分からないのかの判断もしなければならないでしょう。

相続人によって隠されている場合、法的な手段を講じて財産詳細を明らかにすることも可能ですが、時間がかかってしまいます。財産の存在が分からない場合でも、自分もしくは専門家に依頼して財産を調査する必要があるので、やはり時間がかかるでしょう。

このような場合、3か月で財産調査まで終える可能性が低くなるので、伸長手続きを検討することをおすすめします。

熟慮期間の伸長に必要な手続き・費用・書類

ここでは、熟慮期間の伸長手続きの流れと必要な費用・書類について解説します。

手続きの流れ

伸長するための申し立て手続きの大まかな流れは、以下の通りです。

  1. 必要書類の収集
  2. 申立書の作成
  3. 家庭裁判所への申し立て
  4. 家庭裁判所による調査・照会
  5. 熟慮期間伸長の審判

申立書と必要書類を揃えて、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てます。また、申し立てできる期限は当初の熟慮期間中に限られます。

熟慮期間を超えてから延長を申し立てることはできないので、注意しましょう。なお、熟慮期間中に申し立てればよく、家庭裁判所の審判の結果が熟慮期間を超えても問題ありません。

ただし、熟慮期間終了後に伸長が認められないという事態になると、相続放棄ができなくなります。伸長の審判は1~2週間ほど時間がかかるため、早めに申し立てしておくことが大切です。

必要な費用

申し立てに必要な費用は、以下の通りです。

相続人1人につき:収入印紙800円・連絡用の郵便切手等

家庭裁判所からの連絡用の切手にかかる費用は、家庭裁判所によって異なるため事前に確認するようにしましょう。

必要な書類

申し立てに必要な書類は、被相続人との関係性によって異なります。

共通で必要な書類は、以下の通りです。

  • 申立書
  • 被相続人の住民票除票または戸籍附票
  • 伸長を求める相続人の戸籍謄本
  • 利害関係人からの申し立ての場合は利害関係を証する資料(親族の場合、戸籍謄本等)

申立書は、裁判所のWebサイトからダウンロードできます。

また、被相続人との関係性ごとに追加で必要な書類には、下記のようなものがあります。

<配偶者>

  • 被相続人の死亡の記載がある戸籍謄本

<子・孫>

  • 被相続人の死亡の記載がある戸籍謄本
  • 代襲相続の場合は、被代襲者の死亡の記載がある戸籍謄本

<父母・祖父母>

  • 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本
  • 子や孫が死亡している場合は、子・孫の出生から死亡までの戸籍謄本
  • 直系尊属に死亡している人がいる場合は、その人の出生から死亡までの戸籍謄本

<兄弟姉妹・甥姪>

  • 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本
  • 子・孫・父母・祖父母で死亡している人がいる場合は、その人の出生から死亡までの戸籍謄本
  • 代襲相続の場合は、被代襲者の死亡の記載がある戸籍謄本

配偶者の場合は、必要な書類は多くはありません。相続順位が下がるほど必要書類も多くなるので、注意しましょう。なお、家庭裁判所によって異なるケースもあるので、事前に確認することをおすすめします。

相続放棄の期間の伸長手続きに関するよくある質問

相続放棄の期間の伸長手続きに関するよくある質問のイメージ

最後に、相続放棄の期間伸長手続きに関するよくある質問を、見ていきましょう。

何もせず熟慮期間が経過するとどうなる?

熟慮期間が経過すると、単純承認したとみなされます。期間終了後は相続放棄は原則認められず、借金などのマイナス財産もすべて相続する必要があります。

ただし、熟慮期間中に借金の存在が明らかになったなど、事情によっては熟慮期間経過後でも相続放棄が認められる可能性もあります。熟慮期間終了間際・経過後に相続放棄を検討している場合は、速やかに弁護士に相談するとよいでしょう。

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どのようなケースで期間の延長が認められない?

「仕事が忙しく財産調査できてない」など個人の仕事やプライベートな理由での期間延長は認められない可能性が高くなります。また、熟慮期間を超えてしまった場合も、伸長が認められないので注意しましょう。

延長が認められた場合、期間はどれくらい延長される?

事情や家庭裁判所の裁量によって異なりますが、一般的には1~3か月ほど延長されるケースが多いでしょう。仮に、3か月の延長が認められれば、熟慮期間と併せて6か月の調査・判断期間があるので、適切な判断を下しやすくなります。

申し立てを行えば熟慮期間は何度でも延長できる?

伸長期間や回数の明確な規定はありません。延長できる可能性もありますが、家庭裁判所の裁量次第になるでしょう。

延長を希望する場合は、その理由などを詳しく説明して家庭裁判所に認めてもらう必要があります。再度の伸長申し立てはハードルが高くなるので、弁護士に相談することをおすすめします。基本的には熟慮期間か最初の伸長期間までで相続方法を決めることが、望ましいといえます。

ほかの相続人が延長手続きをしたら自分も延長される?

熟慮期間の伸長は、相続人単独で行うものです。また、伸長を申し立てた相続人以外の相続人に期間の影響はありません。そのため、他の相続人が伸長を申し立てても自分の熟慮期間は伸長されない点は覚えておきましょう。

自分も伸長が必要な場合は、自分で手続きする必要があります。

熟慮期間の伸長手続きは弁護士に相談を

相続放棄は、相続開始があったことを知ったときから3か月という熟慮期間中に手続きする必要があります。熟慮期間を超えてしまうと、相続放棄手続きが認められなくなります。

ただし、熟慮期間中に財産調査が間に合わないなど事情によっては熟慮期間の伸長が認められます。熟慮期間伸長の手続きも熟慮期間中に行う必要があるので、間に合わなさそうだと判断したら早めに手続きすることが大切です。伸長手続きが必要と感じたら、早めに弁護士に相談することでスムーズな手続きができるでしょう。

また、弁護士に相談することで相続放棄を含めた最適な相続方法のアドバイスや各種手続きのサポートを受けられます。まずは、弁護士に相談してスムーズな相続ができるようにしましょう。

記事の著者紹介

逆瀬川勇造(ライター)

【プロフィール】

金融機関・不動産会社での勤務経験を経て2018年よりライターとして独立。2020年に合同会社7pockets設立。前職時代には不動産取引の経験から、相続関連の課題にも数多く直面し、それらの経験から得た知識など分かりやすく解説。

【資格】

宅建士/AFP/FP2級技能士/相続管理士

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本記事の内容は、記事執筆日(2024年6月17日)時点の法令・制度等をもとに作成しております。最新の法令等につきましては、専門家へご確認をお願いいたします。万が一記事により損害が発生することがあっても、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。

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