「親が税金を滞納して亡くなったけど、滞納分はどうなる?」被相続人が税金を滞納していた場合、支払い義務は相続人が引き継ぐことになります。滞納税金を放置していると差し押さえのリスクもあるので、早急な対応が必要です。この記事では、亡くなった人が滞納した税金の支払い義務や放置するリスク・支払わない方法などを解説します。
亡くなった人が滞納した税金を払う義務はあるか?
結論を言えば、亡くなった人が税金を滞納している場合、滞納分は相続財産となり相続した人は納税義務を引き継ぎます。
相続財産は、現預金や不動産・有価証券などのプラスのものばかりではありません。借金や未払金といったマイナスの財産も相続対象となり、税金の滞納分もマイナスの財産に含まれるのです。そのため、被相続人が税金を滞納していた場合、相続人は滞納税金も相続することになります。
相続する滞納税金は法定相続分のみ
相続人が複数人いる場合、それぞれの相続人が引き継ぐ滞納税金は法定相続分のみです。たとえば、相続人が配偶者と子ども2人の3人で、滞納税金が40万円の場合を見てみましょう。
法定相続分は配偶者が2分の1、子どもが2分の1となり、さらに子ども2人で2分の1を2等分するので、子どもの相続分はそれぞれ4分の1です。滞納税金が40万円ある場合、配偶者が20万円・子どもがそれぞれ10万円ずつ納税義務を負います。
なお、滞納相続分は遺産分割協議の対象外という点にも注意しましょう。相続割合を相続人の話し合いで決める遺産分割協議で、滞納分の負担割合を決めることは可能です。しかし、その負担割合を債権者(自治体など)に主張することはできません。仮に、相続人のうち1人がすべて負担すると決めていても、債権者はそれを無視して相続人それぞれに法定相続分請求することが可能です。
主な滞納税金の種類
税金にもさまざまな種類があり、支払い先も異なります。とはいえ、個人の場合、相続する滞納税金の種類はそう多くはありません。
主な滞納税金の種類と支払い先は、以下の通りです。
- 住民税:住所地の市区町村
- 所得税:住所地を管轄する税務署
- 国民健康保険料:住所地の都道府県・市区町村
- 固定資産税・都市計画税:所有する不動産の住所地の市区町村
どのような税金を負担していたかは、被相続人の状況によって異なります。納税通知書や通帳の履歴などから支払うべき税金や滞納額などを確認するようにしましょう。
滞納額や種類が分からない場合は、自治体の窓口で確認することをおすすめします。
納税義務継承通知書で通知される
被相続人の滞納分を相続した場合、自治体などから相続人に対して「納税義務継承通知書」が送付されます。
納税義務継承通知書には、以下のような内容が記載されています。
- 納税義務が通知書の受領者に継承された旨
- 滞納額
- 納税義務の割合
- 請求期限など
この通知が送付されたということは、受領者に納税義務が継承されたことを意味します。そのため、通知を受け取ったら早急な対応が必要です。
滞納税金を放置するリスク
「納税義務継承通知」が送付された状態で、何も対策せずに被相続人の滞納税金を放置していると、滞納処分を受けるリスクがあります。
滞納処分とは
滞納処分とは、滞納税金を徴収するための強制的な処分のことです。
滞納を放置している人の意志に関わらず、財産の差し押さえ・売却手続きが行われ滞納税金が回収されます。また、差し押さえの対象は相続財産のみではありません。
親の滞納税金を相続した場合、差し押さえに合えば相続した子どもの財産も差し押さえの対象になります。子どもの不動産や預貯金・給与なども差し押さえの対象となるため、給与の差し押さえでは会社に被相続人の税金の滞納が分かってしまう恐れもあるのです。
滞納処分の流れ
滞納処分は、大まかに以下のような流れで手続きが進みます。
- 納税期限を過ぎると自治体などから督促状が届く
- 督促状を無視していると、電話や文章で催告される
- 催告を無視していると、相続財産や相続人の財産の調査が行われる
- 財産調査で差し押さえ財産が決定され差し押さえが執行
- 差し押さえた財産の売却
滞納税金の納付期限までに納付がない場合、自治体などから督促状が送付されます。督促状は一般的には納付期限から20日以内に送付されます。
督促状をさらに放置していると、電話や文章での催告が行われ、催告にも応じないと差し押さえ手続きが進んでいくのです。財産調査により差し押さえする財産を決め、その後財産が差し押さえられます。差し押さえ後は、強制的に財産が売却され滞納税金の徴収に充てられるのです。
滞納税金が支払えない場合は?
滞納税金が支払えない場合、次のどちらかの対応をとることで滞納税金の支払いを回避することが可能です。
- 相続放棄
- 限定承認
相続放棄
相続放棄とは、相続財産を相続しない方法です。借金などマイナスの財産が多い場合に選択されるのが一般的です。相続放棄することでマイナスの財産を相続しなくてすむので、滞納税金の支払い義務も相続しません。
滞納税金は、被相続人が長期間滞納していると延滞損害金が膨らんでしまい数百万円を超えるケースも珍しくありません。
また、被相続人が必ずしも親などの近しい間柄という訳でもありません。全く交流のない叔父や叔母、存在も知らない遠縁の親戚の相続人にいつの間にかなり、滞納税金の通知が来たというケースもあります。
そのように対応する税金が支払えない・支払いたくないという場合は、相続放棄を選択するとよいでしょう。
相続放棄後に発行される「相続放棄申述受理通知書」を提出することで、それ以上催促されることはありません。なお、自治体への手続きは自治体によって異なるので、通知が来たら早めに相続放棄する旨を伝えて確認するようにしましょう。
相続放棄の注意点
相続放棄は、マイナスの財産だけでなくプラスの財産も引き継げなくなります。滞納税金は相続したくないけど実家は相続したいという場合、相続放棄を選択すると実家も相続できなくなるので相続放棄は慎重に判断することが大切です。
また、相続放棄は「相続開始があったことを知った日から3か月以内」という手続きの期限があります。この期限内に家庭裁判所に相続放棄の申し立てを行わなければ、相続放棄できなくなるのです。
相続放棄を選択する場合は財産を明らかにしたうえで、早い段階で手続きを進めるようにしましょう。
「相続放棄」「相続放棄の手続き」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
限定承認
限定承認とは、プラスの範囲でマイナスの財産を相続する方法です。相続放棄がすべての財産を相続しないのに対して、限定承認は一定の範囲内で財産を相続することができます。
仮に、プラスの財産が500万円であれば、マイナスの財産を500万円以上相続することはありません。もし滞納税金が600万円であっても、500万円までしか納税義務はありません。
反対に、滞納税金が300万円であれば、プラスの財産との差額の200万円は相続することが可能です。滞納税金を含むマイナスの財産がいくらか分からない・プラスの財産もあるという場合は、限定承認が適しているでしょう。
限定承認の注意点
限定承認も、相続放棄同様手続きできる期限が「相続の開始があったことを知った日から3か月以内」です。限定承認の手続きは相続人単独ではできず、相続人全員で行う必要がある点にも注意しましょう。
また、限定承認を行うと、税制上遺産は被相続人から相続人に売却(譲渡)したとみなされます。そのため、相続財産に不動産や株式などがあると、値上がりにより利益が発生し譲渡所得税が課せられる恐れがある点にも注意が必要です。
限定承認を検討している場合は、早い段階で弁護士に相談するようにしましょう。
「限定承認」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
相続放棄と限定承認のどちらがいい?
滞納税金を支払わないで済む方法である、「相続放棄」と「限定承認」ですが、どちらを選べばいいのか分からないという方も多いでしょう。ここでは、相続放棄と限定承認の違いやどちらにすべきかについて解説します。
相続放棄と限定承認の違い
相続放棄は「相続しないための選択肢」であり、限定承認は「相続するための選択肢」であることが大きな違いです。相続放棄が、マイナスの財産だけでなくプラスの財産もすべて相続できないのに対し、限定承認はプラスの範囲でマイナスも相続します。
滞納税金の額が大きくても、プラスの範囲以上に相続することはないので負債の負担を負う必要はありません。反対に、プラスが大きければプラスの財産を手元に残すことも可能です。実家といった相続したい財産を相続することもできます。
また、相続放棄と限定承認は手続きできる期限が「相続開始があったことを知った日から3か月」という点は同じですが、申し立て方法が以下のように異なります。
- 相続放棄:相続人単独で申し立てできる
- 限定承認:相続人全員での申し立てが必要
相続放棄と限定承認のメリット・デメリット
相続放棄と限定承認のメリット・デメリットは以下の通りです。
<相続放棄>
- メリット:負債を一切背負わずに済む、相続人単独で申し立てできる
- デメリット:プラスの財産を相続できない、相続放棄することで他の相続人に影響が出る
<限定承認>
- メリット:プラスの範囲でマイナスを弁済すればいい、実家などを残せる
- デメリット:相続人全員で申し立てが必要、みなし譲渡所得税が発生するケースがある
相続放棄は相続人単独で申請できるので、限定承認よりも申し立てのハードルは低くなります。ただし、自分が相続放棄すると相続するはずの負債を別の相続人が負うことになる点には注意しましょう。滞納税金を相続放棄すれば、自分は納税の義務を免れます。しかし、他の相続人が支払う義務は残るため、滞納税金の支払いを完全になくすなら相続人全員が相続放棄する必要があります。事前に、別の相続人にも相続放棄の了承を得ておくことで、相続人間のトラブルを防ぎやすくなります。
一方、限定承認はマイナスの財産を背負わずに済むだけでなく、プラスを手元に残すことや実家などを相続できる可能性があるというメリットがあります。しかし、相続人全員で申し立てが必要になるので申し立てが相続放棄よりも手間がかかる点には注意しましょう。
相続放棄と限定承認、どちらがいい?
相続放棄は、明らかにマイナスの財産が多い場合に適しています。一方、限定承認はマイナスの財産がいくらあるか分からない、一部の財産は相続したいというケースで適しているでしょう。
いずれの方法を選ぶにしても、事前にしっかりとした財産調査や相続人の調査は必要です。また、どちらも手続きできる期限が決められているので、早めに手続きを進める必要があります。相続放棄か限定承認かで悩んでいる、手続きが不安という方は、早い段階で弁護士に相談するとよいでしょう。
被相続人の滞納税金は放置せずに専門家に相談を
被相続人に税金の滞納があれば、相続人は滞納税金を相続することになり支払い義務が生じます。
滞納税金を放置していると、滞納処分で財産が差し押さえられる可能性もあるので、通知が来たら早急に対応することが大切です。
滞納税金を支払えない・支払いたくないという場合は、相続放棄か限定承認という選択になります。どちらを選択するにしても、手続きの期限は3か月しかないので早めに行動することが大切です。
弁護士に相談することで、滞納税金への最適な対応の提案や相続放棄・限定承認のスムーズな手続きのサポートを受けられるので、早い段階で相談するとよいでしょう。