「相続放棄したけどやっぱり取り消したい」原則として相続放棄を一度行うと撤回はできません。しかし、ケースによっては撤回できる可能性があります。とはいえ、相続放棄の撤回は容易ではないので、どのようなケースで認められるのかを理解しておくことが大切ですこの記事では、相続放棄が撤回できるケースや手続きについて解説していきます。
目次
相続放棄を撤回することはできる?
原則として相続放棄を申し立てた後、受理されるとその後の撤回はできません。
相続放棄を容易に撤回できてしまえば、他の相続人に迷惑がかかってしまいます。たとえ、相続放棄期限である3か月よりも前に受理されている場合でも、撤回はできないのです。
ただし、受理前であれば相続放棄の申し立てを取り下げることは可能です。
また、受理後であっても例外的に取り消しできるケースもあります。とはいえ、受理後に取り消しが認められるケースはきわめてまれです。
「相続したい財産が見つかったから取り消したい」「手続きが面倒だからやめたい」といった安易な理由で取り消すことは、基本的にできません。取り消しが認められるケースは以下で詳しく解説しますが、重大な勘違いや脅迫など相当な理由があり、それを裁判所に認めてもらった場合です。
基本的に撤回できないということは頭に入れて、相続放棄するかは慎重に判断しなければなりません。
相続放棄には相続開始を知った日から3か月以内という期限があります。この期限内に財産が判明しなくて相続放棄を判断できない・相続放棄するか迷っているという場合は、安易に判断せずに期間の延長を申し立てることをおすすめします。
「相続放棄の期限」や「相続放棄が認められない事例」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
相続放棄における「取り消し」「取り下げ」「撤回」の違い
相続放棄の効果を消す手段として取り消しや撤回がありますが、取り消し・取り下げ・撤回は法律的に意味が異なります。
ここでは、それぞれの意味を確認していきましょう。
取り消し
取り消しとは、いったん効力が発生した法的行為を問題が発生した時点にさかのぼって消滅させることをいいます。相続放棄を取り消す場合、受理された時点にもどって相続放棄が無効となります。
取り消しは受理された時点で問題があり本来は受理されるべきではなかった場合で、認められます。
ちなみに、無効というとはじめから効果がない・もともと何もないという意味になります。取り消しが、一度有効と判断されたものを取り消してなかったことにするのに対して、無効ははじめから何もないので取り消すこともできないのです。
取り下げ
取り下げとは、申請した本人が手続きを自分で止めることをいいます。相続放棄を取り下げることで、相続放棄の手続きがはじめからなかったことにされます。
相続放棄の場合、申請が受理される前であれば取り下げが可能です。
相続放棄は申し立ててすぐに受理されるわけではなく、受理されるまでの間に1か月ほど時間がかかります。その期間であれば、「取下書」を家庭裁判所に提出することで取下げが可能です。
ただし、受理されてしまうと取下げはできないので、受理までに取下げできるように早めに手続きを進めましょう。
撤回
撤回とは、成立時点では問題の無かった行為を、その後発生した問題により、将来に向かって効力を失わせることをいいます。効力を失わせるという意味では取り消しも撤回も同じですが、撤回は将来に向かって効力を消滅させるのに対し、取り消しは過去にさかのぼって効力を失わせるという点が異なります。
相続放棄を撤回するという場合、相続放棄の受理後に何か問題が発生したために相続放棄の効果をなくしたいという場合が該当します。しかし、相続放棄では法律上撤回は認められていないので注意しましょう。
相続放棄の受理後に取り消しできる具体事例
相続放棄は撤回はできませんが、例外的に取り消しが認められるケースがあります。ここでは、どのようなケースで認められる可能性が高いのか確認していきましょう。
取り消しが認められる可能性があるケースとしては、大まかに「判断能力が十分でない人が勝手に手続きした」と「相続放棄が本人の本意ではない」の2つのパターンがあります。
それぞれの具体例としては、次のようなケースが挙げられます。
- 未成年者が勝手に相続放棄
- 認知症など判断能力のない人が相続放棄
- 裁判所の同意なく後見人・被後見人が相続放棄
- 勝手に相続放棄の手続きが行われていた
- 脅迫や嘘の情報により相続放棄
- 錯誤による相続放棄
未成年者が勝手に相続放棄
法律行為を行うには十分な判断能力を有している必要があります。判断能力が不十分など法律行為に制限がある人が、勝手に相続放棄を行った場合は、相続放棄を取り消せる可能性があります。
法律行為に制限がある人としては、下記のような人が挙げられます。
- 未成年者
- 被後見人・被保佐人・被補助人
未成年者が相続放棄する場合、法定代理人である親権者が相続放棄を申し立てる必要があります。そのため、未成年者が親権者の同意なく相続放棄を勝手に行った場合は、取り消しできる場合があるのです。
なお、未成年者が財産を承継するなどの法律行為を行う場合、法定代理人による同意が必要となります。ただし、未成年者の親なども相続人の場合、利益相反関係にあたってしまいます。
例えば、母と未成年の子が相続人になった場合、母が法定代理人になると、自分が全ての財産を承継するといった意思決定を簡単にできてしまうのです。このため、親子が相続になった場合、親は未成年者の子の法定代理人になれないこととなっています。
こうしたケースでは、弁護士などを特別代理人として立てることになります。
認知症など判断能力のない人が相続放棄
認知症や精神障害・知的障害などで判断能力が十分でない方が相続放棄した場合も、取り消しできる可能性があります。認知症など判断能力が十分でない方が相続放棄するには、後見制度を利用して法定代理人が申し立てる必要があるので注意しましょう。
裁判所の同意なく後見人・被後見人が相続放棄
後見人が相続放棄手続きする必要があるとお伝えしましたが、後見人が勝手に手続きできるわけではありません。
後見人が相続放棄する場合は、裁判所や後見監督人の同意が必要です。同意なしで勝手に手続きした場合は、相続放棄を取り消せる可能性があります。
また、被後見人本人であっても後見人の同意なしに相続放棄することはできません。被保佐人・被補助人に関しても、同意が必要な行為の内容として定められている内容によっては、保佐人・補助人の同意が必要になるので注意しましょう。
これらの同意が必要な人が同意なしで勝手に相続放棄した場合は、取り消せる可能性があります。
勝手に相続放棄の手続きが行われていた
本人に相続放棄の意志がないのに勝手に手続きされていた場合にも、相続放棄を取り消せる可能性があります。たとえば、未成年の子どもは相続するつもりだったのに親が勝手に子の相続放棄手続きを進めていた場合などが該当します。
脅迫や嘘の情報により相続放棄
本人の意思によらない相続放棄では、次のようなケースも取り消しできる可能性があります。
- 脅迫
- 詐欺や嘘の情報を伝えられていた
第三者から危険を感じるような脅迫を受けて、本人の意思とは異なる相続放棄をした場合や、嘘の情報などで騙されて相続放棄した場合は、取り消せる可能性があるでしょう。
親族から借金しかないと嘘の資料を見せられた、相続放棄しないと家族や自分に危害を加えると脅されたなど、相続人の1人が財産を独り占めするために行うケースが該当します。このような場合は、相続放棄せざるを得なかった事や自分の本意でないことを証明することで取り消せる可能性があります。
錯誤による相続放棄
相続財産について重要な誤解や勝手な勘違い(錯誤)による相続放棄も取り消せる可能性があります。借金しかないと思い込んで相続放棄した後に現金が見つかったというケースです。
ただし、その場合でも財産調査を十分してもなお借金しか見つからなかったなど、取り消しが認められるには判断に重大な過失がないことなどを証明する必要があります。錯誤による、相続放棄の取り消しはよりハードルが高くなる点に注意が必要です。
錯誤で取り消したい場合は、専門家に相談することをおすすめします。
相続放棄の取り消しの手続き方法と期限
ここでは、相続放棄の取り消しの手続き方法や期限について解説します。
相続放棄の取り消しの期限
相続放棄の取り消しができる期限は、下記の通りです。
- 追認できる時から6か月以内
- 相続放棄が受理された日から10年以内
追認できる時とは、取り消しできる原因が消滅して、かつ取り消しできることを知った時とされています。たとえば、脅迫を受けていた場合は脅迫状況から抜け出して取り消せることを知った時、詐欺の場合は詐欺であることを知り取り消せることを知った時などです。
上記の期間を超えてしまうと、取り消しできる権利が消滅してしまい、相続放棄を取り消せなくなってしまうので注意しましょう。
相続放棄の取り消しの手続き方法
相続放棄の取り消し手続きの方法は下記の通りです。
- 必要書類を揃える
- 相続放棄を申述した家庭裁判所に書類を提出
相続放棄を取り消せる期限内に「相続放棄取り消し申述書」と戸籍謄本などの必要書類を揃えて、家庭裁判所に提出します。
必要書類については、取り消す理由や被相続人との間柄などにより異なるので事前に家庭裁判所に確認するようにしましょう。また、取り消し原因の証拠がある場合は提出することで、相続放棄を取り消せる可能性を少しでも高くできます。
とはいえ、相続放棄取り消しの申し立てをしたからと言って、必ず取り消せるわけではありません。取り消し申し立て後の審査段階では、裁判所から質問書が届いたり呼び出しを受けるケースもあり、それらにも適切に回答する必要があります。
相続放棄の取り消しが認められるケースはごく稀で、ハードルの高い手続きでもあります。
仮に、取り消せたとしてもすでに進んでいる遺産分割協議や財産の処分まで取り消せるわけではなく、財産を受け取るには遺産分割調停が必要になるケースもあります。
相続放棄の取り消しを検討しているなら、手続きやその後の対応を含めて早めに専門家に相談するようにしましょう。
相続放棄の取り消しは容易にできないため、相続放棄するかどうかの判断の時点で専門家に相談して、アドバイスをもらいながら慎重に選択することが大切です。
相続放棄を取り消したい場合は専門家に相談を
相続放棄は一度受理されると、原則として撤回はできません。ただし、状況によっては受理後でも取り消しできるケースもあります。
しかし、取り消しできるケースは稀で容易に取り消しできない点は覚えておきましょう。
取り消したい場合は早い段階で専門家に相談する必要があります。また、そもそも取り消ししたいとならないように、相続放棄は綿密な財産調査などを重ねて慎重に判断することが大切です。
相続放棄するか判断に悩む・期限まで残り僅かでどうすればいいのか分からないという場合は、専門家に相談するとよいでしょう。