「遺言書に相続させると書いてあるけれど放棄したい」遺言書で相続を指定されている場合でも、相続したくないという人もいらっしゃるでしょう。遺言書があっても相続放棄は可能です。しかし、遺言の内容によって放棄手続きは異なるので注意しなければなりません。この記事では、遺言で遺産を残す「相続」と「遺贈」の違いやそれぞれの放棄の仕方・注意点を解説します。
遺言で遺産を残す場合の「相続」と「遺贈」
遺言書で財産を継承させる場合「相続」と「遺贈」の2つの方法に分かれます。
それぞれの方法によって放棄する手続きが違ってくるため、まずは相続か遺贈なのかを判断する必要があるのです。
相続
相続とは、死亡に伴いその人の財産を別の人が継承することを言います。
継承させる財産の所有者を被相続人、継承する人を相続人と呼びます。ただし、家族であればだれでも相続人となれるわけではありません。
相続人となれる人は民法によって、配偶者と相続順位の高い人と定められているのです。相続順位は第1順位が子、第2順位が親や祖父母・第3順位が兄弟姉妹となり、高位の人が相続人になればそれより下位の人は相続人になれません。
相続について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
遺贈
遺贈とは、遺言によって財産を贈与することです。遺贈を受ける人は「受遺者」と呼ばれ、相続人以外を受遺者にすることが可能です。
相続人でない孫や前妻・内縁者・お世話になった人などに財産を遺言で残す場合が遺贈となります。一般的には、相続人に財産を渡すと相続・相続人以外に渡すと遺贈となります。
また、遺贈の場合、財産の譲り方によって次の2種類に分かれます。
- 特定遺贈
- 包括遺贈
特定の財産を指定して譲ることを特定遺贈と言います。例えば「A銀行の○○口座」「○○の不動産」というように、財産が具体的に指定されていると特定遺贈になります。
ただし、特定遺贈は債務についてのみを指定して引き継がせることはできません。
一方、財産全体の割合などで譲る方法が包括遺贈です。「財産の3分の1を譲る」「財産全てを譲る」というような方法が包括遺贈になります。
包括遺贈の場合は、財産に借金などが含まれる場合は指定された割合に応じた借金も引き継ぐことになるので注意しましょう。
遺贈について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
遺言で遺産を残された場合、放棄するには「相続」か「遺贈」、さらに遺贈の場合は「特定遺贈」か「包括遺贈」かを判断する必要があります。しかし、遺言の内容が判断しにくい場合もあるでしょう。
法の知識がない被相続人の場合、相続人以外にも「相続させる」と記載したり、相続ではなく「譲る」「贈る」といった言葉を使用するケースは珍しくありません。
遺言書で判断が難しい場合は、一度専門家に判断を仰いでみることをおすすめします。
遺言を相続放棄する方法と必要書類・費用
相続・遺贈どちらであっても放棄は可能です。
しかし、放棄する方法は、「相続」「遺贈(包括遺贈)」「遺贈(特定遺贈)」によって手続きが異なります。ここでは、それぞれの手続きの方法・必要書類・費用について解説します。
相続の場合
相続に該当する場合、遺言の相続を放棄するには「相続放棄」するしかありません。
相続放棄する場合は、「相続の開始があることを知った日から3か月以内」に家庭裁判所に相続放棄の申立てをすることになります。相続の開始があることを知った日とは、基本的に被相続人の死亡日となるでしょう。
3か月を超えてしまうと相続放棄が認められなくなるため、早めに手続きを進める必要があります。
相続放棄の手続きについては、後ほど詳しく説明するのでご覧ください。
包括遺贈の場合
包括遺贈に該当する場合、放棄するには家庭裁判所で「包括遺贈の放棄の申述」手続きが必要です。
被相続人の最後の住所を管轄する家庭裁判所に、必要書類を添えて手続きしましょう。
必要書類と費用は次の通りです。
<必要書類>
- 包括遺贈放棄申述書
- 申述する人の住民票または戸籍附票
- 被相続人の死亡の記載のある戸籍謄本
- 被相続人の住民票除票または戸籍附票
- 遺言書の写し
- 収入印紙
<費用>
- 800円(収入印紙)
- 連絡用切手(裁判所により異なる)
包括遺贈の放棄には手続き期限があります。
「相続の開始があったことを知った日から3か月以内」に裁判所に申立てが必要なので、期限内に手続きできるように準備を進めましょう。
包括遺贈の放棄は家庭裁判所で申述が受理されて有効になります。受理されるまでの間は遺贈を受けなければならない状況の為、相続人などから不満を抱かれる恐れもあるでしょう。
放棄する場合は、受理までの間に相続人に対して放棄手続きを進めている旨や遺産を受け取らない旨を伝えておくと不要なトラブルを避けられます。
ただし、他の相続人に対して「遺産を受け取らない」と書面で伝えても、放棄とはならないのでしっかりと家庭裁判所での手続きをするようにしましょう。
特定遺贈の場合
特定遺贈の場合、放棄するのに特別な手続きは不要です。
相続人や遺言執行人に対して「遺産を受け取らない」旨を伝えることで放棄が可能です。
相続人が複数いる場合でも、誰か1人に伝えておけば放棄となります。ただし、放棄自体は口頭でも問題ありませんが、トラブルを避けるために書面に残すことをおすすめします。
また、手続きが不要な放棄なので期限もありません。
なお、相続人が受遺者に対して遺贈を受けるか放棄するかの判断を催告することは可能です。この場合は、一定の期間を決めて催告し、期間内に返答しなければ遺贈を受けたとみなされるので注意しましょう。
遺言を相続放棄する際の注意点
遺言の相続放棄には、デメリットも伴います。注意点をしっかりと理解したうえで、慎重に判断するようにしましょう。
注意点としては、次のようなことが挙げられます。
- 相続放棄はすべての遺産を放棄することになる
- 相続放棄・包括放棄は期限がある
- 放棄後に撤回できない
- 生前に放棄できない
相続放棄はすべての遺産を放棄することになる
相続放棄はすべての財産を放棄することになります。「借金は放棄して家は相続する」というように特定の財産のみ放棄できない点には注意しましょう。
遺言によって他の相続人よりも遺産が多く、他の相続人とのトラブルを避けたいという理由で放棄した場合、財産を一切受け取れなくなります。
相続財産がマイナスであれば有効ですが、プラスの場合相続放棄することで、自身が一切財産を受けられない状況になるという点には注意しましょう。
相続放棄・包括遺贈放棄は期限がある
相続放棄と包括遺贈放棄は、それぞれ「相続開始があったことを知った日から3か月以内」という手続きの期限があります。
この期限を超えると放棄できなくなるので注意しましょう。財産の特定に時間がかかったなど、事情によっては事前に家庭裁判所に申請することで期限の延長が認められる可能性もあります。
とはいえ、期限内に手続きするほうが確実なので早めに手続きを進めることが大切です。
また、手続きできるのは「被相続人の最後の住所を管轄する家庭裁判所」のみです。
自分の家の最寄りの家庭裁判所では手続きできないので、被相続人が遠方に住んでいたという場合などは注意しましょう。
放棄後に撤回できない
相続放棄も遺贈の放棄も、一度放棄が受理されると基本的に撤回できません。
脅迫などを理由に撤回が認められるケースもありますが、ほとんどの場合では認められないでしょう。
「放棄後にやっぱり相続したくなった」は通用しないので、放棄の判断は慎重にすることが大切です。
生前に放棄できない
相続放棄も遺贈の放棄も、被相続人が生前中に手続きすることはできません。事前に被相続人から相続・遺贈について伝えられていても、生前中に放棄手続きができないので、被相続人と十分に話し合って遺言の内容を再検討してもらうなどしましょう。
それでも相続・遺贈された場合は、死亡後に放棄の手続きを行って放棄する必要があります。
相続放棄をする流れ
ここでは、相続放棄の流れを詳しくみていきましょう。
相続放棄は「自分で手続きする」「専門家に依頼する」の2つの方法があります。
自分で手続きする場合の相続放棄の大まかな流れは次の通りです。
- 必要書類の準備
- 申述書の作成
- 家庭裁判所への申立て
- 家庭裁判所からの照会書への回答
- 相続放棄申述受理通知書の受領
必要書類を集めて申述書を作成し、家庭裁判所に申述することで相続放棄が可能です。
申述後には、家庭裁判所から照会書が届くので内容に従って回答・返送するようにしましょう。照会書の返送後、相続放棄が認められれば、相続放棄申述受理通知書が届き放棄手続きが完了します。
また、相続放棄の必要書類と費用は次の通りです。
<必要書類>
- 相続放棄申述書
- 被相続人の住民票除票または戸籍附票
- 手続きする人の戸籍謄本
<費用>
- 800円(収入印紙)
- 連絡用切手(裁判所により異なる)
相続放棄手続きを専門家に依頼する場合は、必要書類の収集から依頼可能です。依頼費用は専門家によって異なりますが、5~10万円程が目安でしょう。
専門家に依頼すれば、書類の徴収や作成などの手間を省けスムーズな手続きが可能です。また、遠方に住んでいるなどで家庭裁判所に行くのが難しいといった場合も、専門家へ代行してもらう方が良いでしょう。
相続放棄の手続きについて、詳しくはこちらの記事をご覧ください。
遺言による相続・遺贈の放棄は遺産の受け取り方を確認する!
遺言による相続でも、相続人の意志で放棄が可能です。
ただし、遺産の受け取り方が「相続」か「包括遺贈」「特定遺贈」かによって手続きが異なるので、自分のケースがどれにあたるのかを判断し適切な方法を選ぶようにしましょう。相続と遺贈は一度放棄すると基本的に撤回できません。
放棄が妥当かは慎重に判断し、必要に応じて判断のアドバイスや手続きサポートを専門家に相談することをおすすめします。