遺留分放棄のやり方や注意点とは?具体的な手続き方法と併せて解説

公開日:2023年11月2日

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相続争いを回避する方法の1つとして遺留分放棄があります。遺留分放棄は被相続人の生前から手続きできるため、将来の相続を見越して遺留分放棄を検討する人もいるでしょう。しかし、遺留分放棄には大きな影響もあるので慎重に判断する必要があります。この記事では、遺留分放棄の基本や相続放棄との違い・手続き方法などを分かりやすく解説していきます。

遺留分放棄とは?

遺留分放棄とは、その名の通り遺留分を放棄することを言います。

以下で、そもそも遺留分とはどういったものなのかや、遺留分放棄の基本を見ていきましょう。

そもそも遺留分とは

遺留分とは、相続人に認められる最低限の相続割合のことです。

例えば、遺言で特定の一人にすべて相続させると遺されると、他の人は相続できません。しかし、それでは高齢の配偶者など生活できなくなってしまう恐れもあるでしょう。

このような事態から、相続人の生活を守るために認められているのが遺留分なのです。遺留分を持つ相続人は、遺留分を超えた相続放棄がある場合、「遺留分侵害額請求」をすることで遺留分に相当するお金を支払ってもらうことができます。

ただし、遺留分を持つのは兄弟姉妹以外の法定相続人となり、相続人によって遺留分の割合も異なる点には注意しましょう。

相続で特定の人に多く相続させたいという場合、この遺留分には注意が必要です。

相続後に遺留分侵害額請求があると相続人間のトラブルに発展しかねないため、十分に対策しておくことが必要になります。

その対策の一つとしてあるのが「遺留分放棄」なのです。

遺留分について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

遺留分放棄とは

遺留分放棄とは、遺留分を持つ相続人が遺留分の権利を放棄することを言います。

遺留分を放棄すると、自分の遺留分を侵害する相続があった場合でも遺留分侵害額請求は出来ません。

一見すると相続人に不利なように思えますが、遺言書の通りの相続を実現させ、相続トラブルを回避させるためには必要な手段でもあるのです。

遺留分放棄と相続放棄の違い

相続に関する放棄には「相続放棄」もあります。

同じ放棄となるので遺留分放棄と相続放棄を混同している人もいるでしょう。しかし、両者は全く異なる放棄であるため違いを理解しておくことが重要です。

遺留分放棄と相続放棄の違いを一覧で確認しましょう。

遺留分放棄相続放棄
放棄するもの遺留分相続権
相続人の身分相続人のまま相続人ではなくなる
遺産分割協議への参加可能不可
遺産の取得可能不可
被相続人の債務負担義務有負担義務無
他の人の遺留分の変化しないする
被相続人の生前中の手続き可能家庭裁判所の許可不可
相続開始後の手続き手続きなしで放棄可能家庭裁判所で手続き

相続放棄とは、被相続人からの相続を一切放棄することを言います。

相続放棄すると、相続財産はプラスもマイナスも引き継ぐことはできません。一般的には、被相続人の財産が借金のみと言ったケースで選択されます。

相続放棄すると、はじめから相続人でなかったこととなります。そのため、遺産分割協議への参加もできない・他の相続人の遺留分の割合が変化するといったことも起きるのです。

一方、遺留分放棄はあくまで遺留分のみの放棄です。遺留分を放棄しても相続放棄しない限り相続人であることには変わりありません。

遺言や遺産分割協議などで、相続があれば遺留分を放棄しても相続することになるのです。

例えば、遺留分の割合が500万円のときに遺留分放棄したとしましょう。この時、300万円の相続があれば300万円を受け取れます。しかし、差額の200万円を請求できないのです。

ちなみに、相続放棄していると、この300万円も受け取れません。遺留分放棄した後でも、マイナスの財産の相続があれば借金を背負う可能性があるため、遺留分放棄だけでなく相続放棄の手続きも必要な点には注意しましょう。

相続放棄について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

遺留分放棄を申立てるかどうかの判断基準・理由

遺留分放棄は相続を円満に進めるための有効な手段とはいえ、相続人にとっては不利益になるものです。

遺留分放棄を申し立てるかどうかは慎重に判断する必要があります。また、遺留分放棄を無制限で認めてしまうと相続人が他の相続人に強制されて放棄するという事態も起こりかねません。

そのようなことが無いように、家庭裁判所では生前中の遺留分放棄の申立ては正当性を審査しています。

ここでは、家庭裁判所の審査基準を踏まえて、遺留分放棄の申立ての判断基準・理由として次の4つを解説します。

  • 本人の自由意思
  • 放棄理由の必要性や合理性
  • 放棄の代償
  • こんな理由は認められない

本人の自由意志

遺留分の放棄は、相続人が自らの意志で手続きするものです。

被相続人が遺留分放棄を望んでも、被相続人が手続きはできません相続人にそもそも遺留分放棄の意志がなければ、手続きができないのです。

仮に、強制的に手続きさせても手続き途中には本人の意思確認が入るため、そこで意思がないことが分かると放棄は認められないのです。遺留分放棄に納得していないのであれば、十分な話し合いが必要になります。

ただし、相続人が手続きしたからと言ってもそれが本人の意思によるものか、強制されているものかの判断は難しいものです。

そこで、次に挙げる「放棄の理由の必要性や合理性」「放棄の代償」も重要になってきます。

放棄理由の必要性や合理性

遺留分放棄する理由に、十分な必要性や合理性があるかどうかも重要になってきます。

必要性や合理性の明確な基準はありませんが、放棄するのも当然と思われるような事情があれば認められる可能性は高くなるでしょう。

認められやすい理由には、次のようなものがあります。

  • 被相続人の事業継承のために特定の子に事業に関する財産をすべて相続させたい
  • 被相続人の前妻やその子が相続トラブルに巻き込まれないようにしたい
  • 献身的な介護をした相続人に多く相続させたい
  • 不動産を分散させたくない

一方、特定の子が可愛いからすべて相続させたいといった個人の好き・嫌いなどの感情的な理由では認められないので注意しましょう。

放棄の代償

放棄をすることで十分な代償を受け取れる場合でも、放棄が認められやすくなります。

  • すでに遺留分に見合うだけの十分な援助を受けている
  • 放棄することで金銭の見返りを受ける

放棄の代償とは、遺留分に見合うだけの経済的な価値があるものである必要があります。仮に、遺留分の割合が1000万円なら1000万円に相当する金銭などの代償が必要になるのです。

こんな理由は認められない

以下のような理由では認められないので注意しましょう。

  • 遺留分の代償が口約束のみ
  • 遺留分放棄する代わりに結婚を承諾する
  • 被相続人の資産が十分ある
  • 被相続人と仲が悪い

放棄の代償は、経済的な価値のあるものです。

金銭や不動産・有価証券などが代償にあたり、結婚を認めてもらう・これまでの世話といった経済的価値に換算できないものは代償とは認められません。また、代償の支払いが遠い将来や口約束のみと言ったケースでは、本当に代償が支払われるかが疑問となるので認められにくくなります。

代償を支払う場合は、放棄と同時かその直前が良いでしょう。

遺留分放棄の手続き

遺留分放棄は、被相続人の生前・死後どちらのタイミングでも可能です。しかし、生前と死後では手続きの仕方が異なるので注意しましょう。

相続開始前(生前)の遺留分放棄手続きの流れ

被相続人の生前中に遺留分放棄する場合は、家庭裁判所に許可を得る必要があります。

被相続人の住所を管轄する家庭裁判所に、相続人が必要書類を揃えて申し立てることで手続きが可能です。

<必要書類>

  • 家事審判申立書
  • 財産目録
  • 被相続人の戸籍謄本
  • 申立人の戸籍謄本
  • 収入印紙

<費用>

  • 800円(収入印紙)
  • 連絡用切手代(裁判所により異なる)

被相続人の生前中の遺留分放棄は、被相続人や他の相続人から強制されている可能性もあるため、家庭裁判所で十分な審査のうえ判断されます。

先述したように、どのようなケースでも認められるわけではない点には注意しましょう。

相続開始後(死後)の遺留分放棄手続きの流れ

被相続人の死後に行う遺留分放棄は特別な手続きは不要です。

「遺留分を放棄する(請求しない)」旨の意思表示があれば成立します。遺留分が侵害されたことに対する遺留分侵害額請求は、相続開始と遺留分の侵害を知ってから1年以内という期限があります。

その期限内に遺留分を行使しなければ放棄したと同じになるのです。

遺留分放棄のメリットと注意点

ここでは、遺留分放棄のメリットと注意点についてみていきましょう。

メリット

メリットとしては、次のようなことが挙げられます。

  • 遺産分割が円滑になる
  • 相続トラブル防止
  • 生前の遺留分放棄なら代償を受け取れる

遺言で特定の人に多く相続させたいと遺しても、遺留侵害額請求されるとその希望を実現できません。

遺留分放棄により望み通りの相続ができるだけでなく、遺留分をめぐって相続人間が争うというトラブルを避けることが可能です。相続人間でトラブルになることは、被相続人としても望まないことでしょう。

トラブルなく円満な相続ができるというのが遺留分放棄の大きなメリットと言えます。また、生前であれば放棄する相続人も代償を受け取れます。

相続まで待たずに一定の財産を受け取れるのは、相続人の事情によってはメリットになるでしょう。

注意点

注意点としては、次のようなことが挙げられます。

  • 基本的に撤回できない
  • 遺留分侵害額請求できなくなる
  • 生前の遺留分放棄は代償を渡す必要がある
  • 生前での遺留分放棄手続きは複雑
  • 相続財産に負債がある場合、負債は相続することになる

遺留分放棄は、一度放棄すると基本的に撤回できません。理由によっては取り消すことも可能ですが、容易にできることではありません。

安易に遺留分放棄の手続きをすると、状況が変わったなどで相続人に不利益になる恐れもあるので慎重に判断する必要があります。生前の遺留分放棄は十分な代償が必要です。

代償を支払うことで相続財産が減少する点には注意しましょう。手続きする側も、遺留分放棄手続きは煩雑になり手間や時間がかかります。

また、遺留分を放棄しても相続権が残る点にも注意しましょう。相続財産がプラスであれば問題ありませんが、借金しかないような場合は改めて相続放棄手続きをしなければ負債を相続することになります。

遺留分放棄は、慎重な判断が必要で手続きにも手間がかかります。

遺留分放棄を検討している場合、放棄が必要かの判断も含めて一度専門家に相談することをおすすめします。

遺留分放棄の判断は慎重にしよう!

遺留分放棄してもらうことで相続の希望を実現しやすく、相続トラブル回避にもつながります。しかし、生前に遺留分放棄手続きするには、相続人の意志や放棄の理由・代償の支払いなどが重要になり簡単に許可が得られるわけではありません。

遺留分放棄してしまうと、基本的に撤回が難しく放棄後に遺留分を請求できなくなるため相続人に不利益になる恐れもあります。

遺留分放棄を検討している場合は、放棄の影響をしっかりと理解し相続人と十分に話し合ったうえで判断するとよいでしょう。

記事の著者紹介

逆瀬川勇造(ライター)

【プロフィール】

金融機関・不動産会社での勤務経験を経て2018年よりライターとして独立。2020年に合同会社7pockets設立。前職時代には不動産取引の経験から、相続関連の課題にも数多く直面し、それらの経験から得た知識など分かりやすく解説。

【資格】

宅建士/AFP/FP2級技能士/相続管理士

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本記事の内容は、記事執筆日(2023年11月2日)時点の法令・制度等をもとに作成しております。最新の法令等につきましては、専門家へご確認をお願いいたします。万が一記事により損害が発生することがあっても、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。

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